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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
四章 奇襲急襲、そして
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4-7 再戦

「……ホムラ」

「わかってる」

 互いにそれだけを言い、目で頷く。武器を手にし、左右に分かれて駆けていく。ホムラは左、ケイトはその逆だ。

 視線の先には、鉄鬼が低い呻き声を上げながら待ち構えていた。まだ薄暗いこともあって、ぼんやりと浮かび上がる赤の双眸が、どことなく不気味さを醸し出す。

「グオオオッ!」

 ケイトの接近に気づいた鉄鬼が、唸り声を上げながら突っ込んで来た。間合いを瞬く間に詰めてきた鉄鬼が、大きく後ろに引かれた右腕を勢いよく前へと突き出す。

 空を裂く鈍い音が、瞬時に迫って来る。勢いは強く、それでいて速い。

 ただ、それだけだ。

「はあっ!」

 禍々しいまでに伸びた五本の爪を寸でのところで左に動いてかわし、避け様に右の刀で切り上げる。刃が、鉄鬼の体に張り巡らされた糸を寸分違わず捉えた。まるで紙を切ったかのように、突き出された右腕が鉄鬼の体から離れ、無造作に地へと落ちた。

「グルアアアッ!」

 腕を落とされたことに逆上したのか、叫ぶような唸り声を上げた鉄鬼が、すかさず反撃してくる。残った左腕を振り上げ、一気に振り下ろす。

 咄嗟に後方へと跳んでかわし、着地と同時にまた前へと跳んだ。距離が瞬く間に詰まり、間合いに入ると同時に両の刀を横薙ぎに振るう。手応えありだ。鉄鬼の左肘から下が離れ、次いで胴から上が崩れるように前へと倒れた。

「行くぜ、塩水(えんすい)!」

 ホムラの声が聞こえ、そちらに目を向ける。丁度、鉄鬼がホムラの放った水を浴びたところだった。

「グオオオ……」

 鉄鬼が弱々しい声を上げ、膝をつく。ボロボロながらも頑丈そうなその装甲が、どこか錆びたようになっているのが薄暗くても何となくわかった。

 すかさずホムラが近づき、炎を纏わせた剣で斬りかかる。刃が装甲を捉えたが、途中で止まった。錆びてもまだ硬いらしく、ホムラが目一杯力を入れてもそれ以上は進まないようだ。

「くっ!」

「グルルルル……」

 焦れたホムラを、鉄鬼の赤い双眸がぎらりと睨む。弱々しい唸り声に、力強さが戻っている。

 ――まずい。

 鉄鬼は、何かをしようとしている。直感的にそれを感じ取り、すぐさま待ち針を二本、鉄鬼の足元に投げつけた。薄暗い中にも、影はできる。対象が大きいこともあって、待ち針は影をしっかりと捉えた。

「グルアッ!?」

 自身の動きが止まったことに気づいた鉄鬼が、動揺した声を上げた。その隙に間合いを詰め、刀を振るって両断する。真ん中から断ち割られた鉄鬼が、音を立てて左右に倒れた。

「助かったよ、ケイト」

「いいや、ホムラ。まだみたいだよ」

 気を一切緩めることなく、得物を構えたまま前方へと視線を向ける。ホムラも気づいたのか、剣を構え直した。

 前方から、ゆっくりとこちらに向かって来る人影がある。

 その人影が、感心したような声を上げた。

「成程な。ただの鉄鬼じゃ、もう相手にもならないってか」

 聞き覚えのある声に、嫌でも緊張が走る。

 空が薄明るくなり、人影の姿がはっきりしてきた。クロウズ。その姿を、見間違えることはない。

 ある程度の距離で立ち止まったクロウズが、獰猛な笑みをこちらに向けてきた。

「少し見ない間に、腕を上げたみたいじゃねえか。それでこそ、潰し甲斐があるってもんだぜ」

 ケイトたちは何も答えず、ただ得物を構えた。クロウズの実力が尋常ではないのは、この前の戦いでわかっている。それに、クロウズはあの時は本気ではなかった。今度は、間違いなく最初から全力で来る。

「行くぜ」

 クロウズが拳を軽く上げ、身構える。その顔に、最早笑みは浮かんでいない。

 始まりの合図などなかった。クロウズが大地を強く蹴ったかと思えば、凄まじい速さでホムラに迫っていった。

 間合いが、瞬く間に詰まる。

炎の鉄板(フレイム・シールド)!」

 すぐさま反応したホムラが、炎の壁を前方に出す。クロウズが間合いに入るよりも、僅かに速かった。拳を振り上げたクロウズは、炎に突っ込む形になっている。

 しかしクロウズは、動きを止めようとはしていない。

 ――糸の色は。

 不審に思って確認した色を見て、ケイトは目を疑った。緑。耐火の赤ではない。

「ホムラ!」

 嫌な予感がして、咄嗟に声を張り上げた。

 瞬間、クロウズの拳が突き出される。

嵐の拳(ストーム・ナックル)

 風を切るような音が鳴り、何かがぶつかった時のような強い衝撃の音が響く。次いで漏れる、呻きにも似た声。

「がはっ……!?」

 ホムラが後方に吹っ飛び、二度三度と転がる。ホムラを守るように立ち塞がっていた炎の壁は、粉々に打ち砕かれて辺りに散らばっていた。

「なっ……!」

 あまりの速さに、驚きを隠せない。

 拳の動きが、ほとんど見えなかった。いや、問題はそこだけではない。異常な威力も、見落としてはいけない。炎と鉄板の盾を貫き、それでいて勢いを衰えさせずにホムラを撃ち抜いたその破壊力は、尋常ならざるものがある。

「まだだぜ、ケイト」

 クロウズの言葉に、ケイトはハッとした。

 ホムラに攻撃した勢いそのままに、クロウズがケイトの方へと突っ込んで来ていた。

「くっ!」

 虚を衝かれ、無意識の内に刀で防ぐ構えを取ってしまう。そうしてから、自分が過ちを犯したことに気づいた。

 迫り来るクロウズの糸は、黄色。防ぐのは、まずい。

 しかし、構えを解こうにも、クロウズの動きは早過ぎた。

閃光の拳撃(ライトニング・ブロウ)!」

 間合いを瞬く間に詰めたクロウズの拳が、驚くべき速さで迫る。さっきの嵐の拳のように、ほとんど見えないわけではないが、それでも今からかわすのは難しい。顔面目掛けて迫るそれを、嫌でも受けるしかない。

 迫り来る拳に合わせるように、刀で防ぐ。二つの得物がぶつかり、火花が激しく散った。

 瞬間、体に激しい衝撃と痛みが走った。

「ぐあっ……!」

 以前とは比べ物にならない衝撃に、思わず膝をつく。

 ――まずい。

 強い衝撃だが、すぐさま立ち上がって応戦しなければならない。頭ではわかっているのに、全身に走る激しい痺れがそれを邪魔していた。体がマヒし、全く言うことを聞かない。

 その隙を、クロウズが見逃すはずがない。

「おらぁ!」

「ぐっ……」

 顔面を強かに殴打され、ケイトもまた吹っ飛ぶ。ホムラと同様に二度三度転がり、止まったところで倒れたままになる。ただ、今の衝撃で痺れが飛んだ。勢いよく起き上がり、刀を構え直す。

 ホムラも何とか立ち上がり、クロウズに剣を向けていた。ただ、今の一撃が結構効いたのか、少し息が乱れている。

 ケイトとホムラが立ち上がったのを見たクロウズが、嬉しそうに口元に笑みを浮かべた。

「やっぱいいな、てめえらは。俺と戦う気があって、本当に戦い甲斐がある」

 一度言葉を切ったクロウズが、表情を真顔に引き締める。

「だが、長々と楽しむつもりはねえ。今回は、最初から全力で行かせてもらう」

 拳を上げて構えを取ったクロウズが、かかって来いと言わんばかりに右手を動かした。

 余裕とも取れる態度だが、その顔は一切笑ってはいない。寧ろ、鋭く引き締まり、痛々しいほどの殺気を放っている。

 ――これが、本気のクロウズ……。

 以前とは比べ物にならない強さの強敵を前に、ケイトの緊張は嫌でも最大限まで高まっていた。

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