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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
四章 奇襲急襲、そして
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4-6 作戦開始

 夜明け前の空に、喊声が響き渡っていく。

 屑鉄の墓場に踏み込んだ途端に、騎士団は声を上げて突っ込んでいった。

 解放軍の本拠というのは間違いないようで、あちこちには掘っ立て小屋が立てられ、中には兵士が何人もいた。騎士団の声に驚いて慌てて飛び出してきたが、いきなりの攻撃にすっかり動揺し、彼らは満足に反撃できないでいる。そこを、騎士団は容赦なく攻め立てる。

 そんな光景を、ケイトとホムラは一番後ろで駆けながら見ていた。

「凄い……」

 思わず、感嘆の声が漏れる。こんな光景は歴史物のドラマでしか見たことがなく、迫力も段違いだ。

 ただこれは、作り話ではない。ぶつかり合う武器も殺気も本物で、この場に張り詰める空気も決して紛い物ではない。一歩間違えば、大怪我では済まなくなる。感動はすぐに飲み込み、ケイトは立ち止まりながら状況を見極める。

 奇襲はどうやらうまくいったようで、解放軍はなす術もなくどんどん倒されているようだ。まだ少し暗いこともあってこちらの数を把握できず、まともに反撃もできていない。

 ただ、思った以上に解放軍の数はいるようだ。倒しても倒しても敵は全然減らず、寧ろ前へ行けば行くほど増えている気がする。もしもこちらが少数なのに気づかれたら、一気に反撃してくる可能性は大いにある。

「お、おい! こいつら、もしかしたら数が少ないかもしれないぞ!」

「ほ、本当か!? よしみんな、一か八かやっちまおうぜ!」

 ケイトが思った途端に、解放軍のあちこちから似たような声が上がってきた。逃げていた兵士がこちらに向き直り、半信半疑ながらも反撃に出ようとしてくる。

 騎士団はそれを容赦なく打ち砕いていくが、勢いが若干弱まった。

「思ったより、数が多いですね」

 いつの間にか近くに来ていたキュリオが、顔を険しくしながら続ける。

「個々の実力は大したことはありませんが、このまま戦うのはあまり得策ではないですね。やむを得ません。私がこの場を預かるので、ケイト殿は一気に先行し、敵の首魁を狙ってください」

「えっ、僕でいいんですか!?」

 いきなりの提案に声が少しひっくり返ってしまったが、キュリオは気にした風もなく大きく頷いた。

「三将星を打ち破れる実力者ならば、安心して任せられます。本当ならば私も同道したいところですが、この場を何とかしなければなりません。せめて、誰か掩護に向かわせたくはありますが」

「それなら、俺が行くよ。ケイトとの連携は、この中では一番取れるからさ」

 ホムラが自信たっぷりに言い、キュリオがすぐに頷く。

「わかった。では、頼む。私が敵の目を惹きつけたら、二人は一気に突破してくれ」

「敵の目を惹きつけるって、どうやってです?」

「それは、今からご覧に入れましょう。我がユーザー能力をね」

 キュリオが剣を横に構え、目を瞑る。瞬間、その全身を青白い光が包み込み始めた。とてつもない力が集まっていくのを、肌で感じる。

「……英霊剣」

 呟いたキュリオがカッと目を見開き、同時に光がその体を覆っては、眩い光を放った。

 何だ、と思うよりも早く、キュリオが駆け出していた。凄まじい勢いで前へと行き、右手の得物を振り回す。

 ――あれ?

 右手の武器が変わっていることに気づき、思わず首を捻った。キュリオは確かに剣を持っていたのだが、いつ変えたのか、戟のような武器を振り回していた。その武器にも、青白い光が宿っている。

 キュリオが、迫り来る解放軍に突っ込み、戟を振り払う。一度の攻撃で、五人が弾け飛ぶように吹っ飛ばされていた。敵はそれでも襲い掛かってきていたが、キュリオは意に介することなく得物を振り回し、薙ぎ倒す。彼の近くに迫った者は、一人として立っていなかった。

「何だ、あれは……!?」

 ホムラが、唖然としながら言った。ケイトも、驚きのあまり声が出ない。

「あれが、団長のユーザー能力、英霊剣ですよ」

 騎士団の一人がケイトたちへとそっと駆け寄り、説明する。

「かつての英雄たちが使った武器には、共に長く戦った記憶が残っています。その記憶を呼び起こし、宿っていた英霊の力を借り受けることで、自身の力以上のものを発揮する。ざっくりと説明すると、こんな感じですかね」

 まあ、とその騎士が困ったような笑みを浮かべる。

 その意図が始めはわからなかったが、答えはすぐにやってきた。

「失せろ、雑魚ども! 俺の邪魔立てをするなッ!」

 キュリオから、荒々しい言葉が聞こえてくる。心なしか、声も低い。

「えっ……?」

「何だあれ……」

 ケイトたちが唖然としていると、騎士が苦笑いしながら教えてくれた。

「呼び起こした英霊の人格までも、借り受けてしまうみたいなのですよね。とても強いのはいいのですが、手が付けられないこともあるのですよ」

 苦笑気味に言った騎士が、ほらとキュリオを見る。

 釣られてその方を見ると、こちらに顔を向けて今にも叫ぼうとしているキュリオの姿があった。

「来い、セキト!」

 少し低めの声で叫んだキュリオが、戟でケイトたちと話している騎士を指し示す。

 セキトと呼ばれた騎士が困ったように頷き、駆け出した。

 駆け出したセキトの体を、不意に光が包み込んだ。しかしそれは一瞬で、光は瞬く間に消えた。

 ただ、消えた先には、一頭の赤い馬が忽然と現れ、キュリオのもとへと駆けていた。さっきの騎士の姿は、どこにもない。

「あれ……?」

 呆気に取られているケイトをよそに、キュリオが赤い馬に跨ると、すぐさま走らせた。猛然と赤い馬が駆け、キュリオが得物を振り回しては、そこら中にいる解放軍に襲い掛かっていく。

「驚いたな。あの騎士、馬の具現体だったのか」

 ホムラも驚いているようだが、ケイトのそれとは少し違っている。

「馬のって、どういうこと?」

「そうか、知らないのか。この世界には、お前の世界の動物も具現化しているんだ。生き物だって、モノだからな。まあ、不思議と人間は具現化されないんだが」

「へえ……」

 教えられたことに、最早感嘆の声しか出てこない。動物まで具現化しているとは、やはりここでは何でもありだ。

 いつまでも呆けていられそうだったが、状況がそれを許してはくれないようだ。

「ケイト、雑魚どもは俺に任せろ! 貴様はさっさと先に行け!」

 荒々しい言葉にハッとし、ケイトはホムラと一度顔を見合わせた。どう聞いても別人だ。よくよく見れば、顔つきもいくらかごついものになったように思える。

 ただ、じっと見ているわけにもいかない。ケイトたちは頷いてから駆け出した。

 前へ前へと行くにつれて遮ってくる者はいたが、キュリオがそれらを蹴散らし、道を作る。乱戦となりつつあるこの場を、ケイトとホムラは何とか抜け出した。

 しばらく、駆け続けた。

「……寂しい場所だね」

 周囲の光景が変わっていき、ケイトはついぽつりと漏らした。

 いつしか辺りには、大量のガラクタが転がるようになっていた。道の左右には山積みになるほど積み上げられ、足元にもいくらか無造作に転がっている。

「ああ。俺も初めて来たが、ここは嫌な気持ちになるよ。背筋が、寒くなってくる」

 ホムラが顔を強張らせ、額に浮かんだ汗を拭う。

 嫌な気持ちになるのは、ケイトも同じだ。場の空気は異様に重く、息苦しい。加えて、嫌な気持ちが籠った視線を常に感じる。まるで、周囲からたくさんの恨みの視線を向けられているかのようだ。

 早く抜けてしまいたい。そう願っても、進む先はガラクタの山が続くばかりだ。視線は、常にこちらに向いている。

 その視線に、不意に凶暴なものが混じった。

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