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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
四章 奇襲急襲、そして
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4-4 ファクトへ

 ファクトに辿り着いたのは、ジェネレイト山岳を出発してから十日も過ぎた夕方のことだった。

 本当だったら、もう一日二日は早く来られるはずだったのだが、道中である装束をユーザー能力で作っていたら、その分到着が遅れてしまった。

 それは、解放軍の着ている装束である。これまで出会った解放軍の兵士たちの多くは、クロウズが来ていたような拳法着を身に纏っていた。中には、古めかしい鎧を着込んだ者もいたが、動き易さを考えると拳法着の方が良い。幸い布は裁縫道具に入っていたから、ケイトのユーザー能力を駆使すれば、衣装を早く作ることはそれほど難しくなかった。

 この装束を作ろうと思ったのは、ファクトが解放軍に近い街だからだ。街中では解放軍の兵士が堂々と歩いているだろうし、その数は多いかもしれない。よそ者が入り込めば、目立ってしまうのは否めないだろう。

 実際、予想が当たっていたから、この格好にしようと決めたのは間違いなかった。ファクトの街は、思った以上に解放軍の兵士が歩き回っていたのだ。

 ケイトたちは慣れた風を装いながら、宿と思しきところを目指して歩いて行った。

「……なかなか落ち着かないな。解放軍は多いし、何よりもじっと見てくる奴も多い気がする」

 ホムラが、あまり口を動かさずに小声で言った。

「確かに。あちこちから、視線を感じるよ。ただ、敵意も何も感じないのが、逆に不気味だ」

「それはしょうがないですよ。ここには、機械人形がたくさんいるんですから」

 ケイトが肩から掛けているバッグから小さく顔を出したツクノが、小声で言う。宙にふわふわと浮くツクノは目立つから、装束と一緒に作ったバッグの中に入ってもらった方が目立たずに済むと考えたのだ。

「機械人形って?」

「たくさんの部品の具現化した存在ですよ。ここって工場都市なんで、モノがたくさん生まれるんです。ただ、ちっちゃな部品って、あまり意思を持たなくて。命じられた一つのことしかできないんですよね」

「成程な。ということは、その機械人形は街の監視をしてるってわけか」

「多分。解放軍が不審な人を見つけるために、そういう命令をしてるんだと思います―」

 何気ない言葉だが、ケイトたちは嫌でも緊張した。確かに、よくよく見ればあちこちにいる人の表情は、あまりにも無機質なものだ。感情が何も感じ取れない顔をしたまま、ただ目だけを動かして周囲を見ている気がする。近くにはこの町の人や解放軍の兵士もいるようだが、既に認識されているのか、気に留めた風もない。

 今のところ、まだ見咎められた様子はない。解放軍として何とか認識されているようだが、下手な動きをすれば、すぐに見つかると思った方がいい。

「……慎重に行こう。だけど、自然体は崩さないように」

 ホムラが頷き、ツクノは頭を引っ込めた。

 宿を探して歩きながら、街の様子を観察する。解放軍の兵士とここの人々は、自然にやり取りをしていた。支配関係のようなものは一切なく、軽い口調での談笑や商品の売買などが見受けられた。ここの人は、本当に解放軍と同調しているという感じだ。

 ――どうして、解放軍を受け入れられるのだろう。

 モノの自由のためという目的は、確かに魅力的なものであるのはわかる。だが、それが本当に叶うかはわからない。解放軍がそう唱えているだけで、世界を切り離すことで本当に自由になれるかなど、誰にもわからないはずだ。なのに、どうしてその理想を信じられるのか。

 考えても、理解できなかった。それでも悪い癖が出て、ついつい考えようとしてしまう。

 だから、目の前で人が立ち止まっていることに、ケイトは気づくのが遅れてしまった。

「あっ……」

 気づいた時には、既に前の人へとぶつかってしまっていた。顔に強い衝撃が走り、後ろによろめく。

 倒れそうになったケイトを、その人がすぐに手を差し伸べ、支えてくれた。何とか倒れずに済んだが、ぶつかった上に助けられて、何だか居たたまれない気持ちになった。

「大丈夫か?」

「はい、何とか……」

 痛さと恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら、ケイトは苦笑交じりにその人の顔を見る。苦笑が、一気に凍りついた。

 キュリオだ。以前会った時の鎧の姿ではなく、商人のような風体をしている。眼には分厚いレンズの眼鏡をかけていて、それだけでも少し別人に見えた。

 半ば唖然としていると、キュリオが一度咳払いをした。このままでは怪しまれる。そういうことだろう。

「すみません。少しよそ見をしていて」

「今度は気をつけるんだぞ」

 苦笑したキュリオが、ケイトとすれ違うように通り過ぎる。

 最中。

「明日の日の出前に、この街の北の平原にて」

 蚊の鳴くような声で、キュリオが囁いた。

 ハッとしたが、ケイトは振り返らずに前へと進んだ。ホムラが何か言いたそうにちらちらとこちらを見ているが、無視して先を急ぐ。

 宿屋を見つけ、部屋を借りてから、ホムラにキュリオの言葉を伝えた。

「日の出前に、ね。休む暇もないってわけか」

 声には呆れた響きがあるが、ホムラの表情はキッと引き締まっている。避けられない戦闘に、今から気を入れているといった感じだ。

 北の平原は、この街を出た少し先のところにあるというのは、宿屋にあった地図で確認済みだ。

「多分、激しい戦闘になるよ。今日は、早めに休まないと」

「そうだな。迂闊な真似をして、怪しまれたくもないしな」

「ですねー」

 三人して頷き合い、食事もそこそこに早々に休んだ。

 気が昂って寝付けないかと思ったが、案外すんなりと眠れた。意識は、すぐに溶けていく。

 その最中で、ケイトは夢を見ていた。自分が、誰かと向き合う夢。しかし、その顔だけ靄がかかっていてよく見えない。

 ――あなたは、誰だ?

 呼びかけた声に、答えはなかった。代わりに、その誰かが腰に差した二本の刀を抜く。

 そこで、目の前の光景が途切れた。夢が覚める。不思議と、ケイトはそれを感じた。

「……ん」

 何か物音が聞こえたような気がして、ケイトは重い瞼を開けた。ゆっくりと身を起こし、音の方へと顔を向ける。

 ぼんやりとした視界の中で、ツクノがそっと部屋を出ていくのが見えた。音を立てないよう、慎重に動いている。

「ツクノ……?」

 声をかけるも、寝起きだからか声量が全然足りない。ケイトの声に気づかず、ツクノはそのまま出て行ってしまった。

 不審に思って追いかけようとしたが、部屋の窓を見て思わずハッとした。遠くの空が、うっすらとだが白みかけている。約束の時間は、もうすぐだ。

「……仕方ないか」

 ツクノのことは一旦諦め、まだ寝ているとホムラを起こしてから、すぐに支度を整えた。

 あまり間を置かずに、ホムラと一緒に密やかに宿を出る。外は、まだ暗い。それでも人目を気にしながら、キュリオが指示した北の平原へと向かった。

 ホムラもツクノのことは気にしたが、今はどうしようもないと、結局諦めた。折角の作戦に、遅れる訳にはいかない。

 北の平原には、暗がりでもわかるほどの人が集っていた。その正確な数はわからないが、二、三十人、いやもっといるだろうか。

「お待ちしていましたよ、ケイト殿」

 その人集りに近づくと、キュリオが真っ先に出迎えた。誰も彼もが既に武装していて、いつでも戦えるといった感じだ。

「この先が、屑鉄の墓場です。これより一気に奇襲し、解放軍の本拠を叩きます。一息に押し込むつもりではいますが、もしも勢いが止まってしまったり、不測の事態が起きた際には、私がその都度指示を出します。それまでは、ひたすら勢いに任せて突っ込んでください」

「わかりました」

 ケイトが頷くと、キュリオが前方を向き、腰の剣を抜き払っては勢いよく振り下ろした。

 声もなく、集った騎士団が駆けていく。その動きは異様に速く、うかうかしていたら置いて行かれそうなほどだ。

「俺たちも行こう、ケイト」

「わかってる」

 ホムラと共に騎士団の後を追うべく、駆け出そうとする。

 刹那、背筋がぞくりと寒くなった。冷たい汗が、途端に吹き出しては背を流れる。

 唐突な感覚に、ケイトは嫌な予感を覚えた。ケイトが好んで読む軍記物では、こういう時は決まって作戦を逆手に取られる。一人が嫌な予感を感じるも、どうしようもなく罠に嵌るのだ。今の自分の状況は、まさしくそれである。

「ケイト、何をしているんだ。早く行くぞ」

 ホムラの声にハッとし、今行くと言って駆け出す。

「……気のせい、だよな」

 自分を納得させるように、一度口に出してみた。

 それでも、背中を流れる冷汗は、一向に止まろうとはしなかった。

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