3-11 Let’sポーカー
「ぐおっ……。ば、馬鹿な……!?」
あまりの衝撃に膝をついたフーズが、痛みのせいか片目を瞑りながらこちらを睨んでくる。しかし、その目は動揺に揺れていた。どうやら、思いの外ダメージがあったらしい。
辛そうな顔をしているフーズに、サラはいたずらっぽく笑んで見せる。
「強気で行き過ぎたね。あのまま退いておけば、力がバーストしないで済んだのに」
「バースト、だと……?」
「そうさ。君がボクの言うことを聞かないで欲張ったから、加護の力が暴発したんだよ」
まあ、と言って舌をちろりと出しながら、自分の手札を見せる。ハートの十とジャックだ。
「君が退いても、ボクの勝ちだったけどね」
「ぬう……!」
悔しさと困惑がないまぜになった顔で、フーズが睨んでくる。サラの言った意味が、よくわかっていないのだろう。
ブラックジャックは、手札のカードの合計が二十一に近い方が勝ちだ。二十一に近づけるべくカードを引き、もしも数を超えてしまったら、その時点で負けである。バーストとは、そのことを言う。
普通ならば、ただの負けで済む。しかし、ユーザー能力ではそうはいかない。バーストしてしまったら、文字通り爆発してしまう。サラと本気でゲームをする場合、互いの道具の加護が賭けの対象になるため、負けた方はその対価として加護にダメージが行くのだ。さらには、バーストの場合だと爆裂するから、おそらく相当のダメージがフーズに入ったはずだ。
――でも、ちょっと危なかったね。
最初から合計二十の札が配られたということは、フーズの精神は大分強いことを意味する。自分とゲームをする人に配られる札は、その人の心理状況が関係していて、乱れていれば弱い手札になる。逆に、全然揺らいでいなかったら、相当強い手札が揃うし、配られる札も強くなる。今回はブラックジャックだったから良かったが、最初が他のルールだったら、ちょっと面倒だったかもしれない。
――まあ、結果オーライかな。
どんなゲームを仕掛けても、負けない自信がサラにはある。それは自身が能力を行使するからではなく、共鳴道具であるトランプをサラが信じ切っているからである。この子たちは、自分を裏切らない。そう信じているからこそ、カードは応えてくれる。時々いじわるをされて、ハラハラさせられる時もあるが、大事な時には絶対に応えてくれる。
だから、ブラックジャックに限らず、カードが配られるゲームでは、サラは負けなしだ。心が多少乱れても、信じる気持ちがあれば大抵は乗り切れる。
少しわかりにくい力ではあるが、これがサラのハイ・ユーザー能力である。相手の心理にも左右されるという、実は諸刃の剣の能力だ。
――だからこそ、こんな軽口交じりのキャラなんだけどね。
自分自身に苦笑するが、今はそのことは置いておく。まだ、目の前の強敵は倒れていない。
とはいえ、フーズの動揺は、こちらにとって大分追い風だ。次に仕掛けるゲームで、もしかしたら決められるかもしれない。
「面妖な能力を使う。だが、このままでは済まさぬ……!」
フーズが懐から、徐に果実を出しては口にする。辛そうだった顔に余裕が戻り、ゆっくりとではあるが立ち上がる。
少し驚いたが、ちょっと納得もした。フーズは、自身のことを食物の思いが集合し、具現化したモノと言っていた。それはつまり、フーズ自身が食物の精霊だということを意味する。
――だったら、能力は食物に関すること、かな。
食物には血や肉を作ったり、調子を整えたりする栄養素がある。分身したり、今みたいに回復するのは、そういった要素の応用なのだろう。
だとすると、長期戦は面倒である。大富豪の革命で加護を逆転させて弱らせ、別のゲームを使って一撃で決める。
「さあ、次のゲームだ」
声に呼応するかのように四枚のカードが現れ、サラは手に取る。四種類の四だ。下準備は、これでいい。
「させぬ!」
手にしたカードを構えた時、フーズが一気に間合いを詰めてきた。速い。こちらが距離を取ろうとするよりも早く間合いに入り、大剣を振り回してくる。
だけど、このまま対処できる。四枚のカードを小さく振り被り、一息に投げようとした。
刹那。
「何だと……!?」
フーズの動きが、ぴたりと止まった。振り回していた大剣諸共、動きが完全に静止している。
何がどうなっているのか。一瞬訳がわからなかったが、フーズの足元に何かが刺さっていることに気づいた。小型のナイフほどの大きさもある針だ。針が地面を、いや、フーズの影を刺している。
ハッとして、後ろの方へと顔を向ける。こちらに向かって何かを投げた後のケイトの姿が、そこにはあった。
その傍で、フーズの分身八人が、苦しそうに呻きながら横たわっている。既に倒された後なのか、今にも消えそうな感じがあった。
――本当に、倒し切っちゃうんだ。
偽物とはいえ、何度も分身し、回復できるフーズを、まさか倒し切ってしまうとは思っていなかった。せいぜい、こちらの戦いに介入できないように、足止めをするのが精一杯だとも思っていた。
それが、みんな倒してしまった。ばかりか、サラを掩護してくれた。
――ちょっと、かっこいいじゃん。
頼りにならなそうって言ったのは、あとで謝らないといけない。
「……まあ、ボクだけでも何とかできたけどね」
素直じゃない自分の言葉に苦笑しながら、未だ動きを止めているフーズへと、四枚のカードを投げつけた。
フーズの体に、四枚のカードが貼りつく。抵抗しようとしてか歯を食い縛っているが、やはりフーズは動かない。
「行くよ。大富豪、革命」
右手を前に突き出して広げ、遠慮もためらいもなく能力を発動する。
カードが青い光を放ち、勢いよくフーズの体を包み込んだ。その余波が強かったのか、足元の針が外れ、フーズが少し後ろに吹っ飛んだ。
「ぐっ、うおおっ……!」
苦しそうに呻いたフーズが、再び地面に片膝をつく。革命によって、フーズの道具の加護は圧倒的に弱くなったはずだ。それでも、サラを見上げるように見る双眸は、闘志を絶やさない。
「まだだ、まだ終わってはおらぬ……!」
顔を歪めながらもフーズがすぐに立ち上がり、大剣を構えて駆け出してくる。その動きは、意外なほどに速い。相手の力が大き過ぎると、革命をもってしても逆転し切れないことがある。フーズの動きを見るに、力が大幅に減少した程度で収まってしまったのだろう。
しかし、十分だ。
「さあ、これで終わりだよ。ゲームスタート、ポーカー」
五枚のカードが手元に来て、フーズの前にも現れる。
フーズは札を確認することもせず、雄叫びを上げながらただまっすぐ突っ込んできた。間合いは、すぐに詰まった。
ちらと、手札を見る。自身の手元には、最高の役が揃っている。
「ロイヤルストレートフラッシュ」
五枚の札を、勢いよく前に放った。五枚のカードが一つに重なり、赤い光を放ちながらフーズに迫る。
「くっ……!」
革命で弱ったフーズに、回避のしようはなかった。
細く鋭い光が、フーズを貫いた。雷を思わせるような音が鳴り響き、強い衝撃波がその体を襲う。
「ぬあっ……!」
衝撃波で全身をぼろぼろにし、小さく呻いたフーズが、ゆっくりと仰向けに倒れていく。
フーズが倒れたのを確認してからゆっくりと近づき、彼に配られたカードをそっと見る。スペードとクラブの六とハートのエース、ダイヤとハートの五だ。
「さすがに、三将星って呼ばれるだけあるね。あれだけ動揺して、革命まで食らったのに、役を揃えるなんてさ」
でも、と勝気な笑みを浮かべてから、サラは続ける。
「今の君じゃ、ツーペアが限界だったみたいだね」
少し嘲るように言ってみたが、フーズから言葉が返ってくることはなかった。




