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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
三章 札使いサラ
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3-8 二人目の三将星

 ケイトは、サラとツクノと共に、北西へ向かって出発した。

 他にも捕まっているという人々を救いたい気持ちはあったが、それよりも先に、三将星のフーズに当たった方が良いというのが、共通した意見だった。下手に戦闘をして体力を減らすより、強敵と真っ先に当たった方が勝機がある。

 フーズと戦うべく、ケイトたちは北西にあるという山の中腹への道を目指した。

 麓を進んでいるのだが、相変わらず足元はごつごつしたままで、歩きづらい。尖った岩が多く、踏み所を間違って時折刺さってしまいそうになる。

 四苦八苦しながら中腹への道に辿り着き、警戒しながらさらに進んで行ったが、足元はでこぼこしたままだ。寧ろ、さっきよりひどい。嫌でも、歩くのはゆっくりになった。

「そういえば、君はどういう能力を持っているのかな?」

 少し余裕のある表情をしながら、サラが聞いてきた。

 見かけによらず、体力のある子だ。大分華奢なのに、息はあまり乱れていない。

「モノの繋がりや道具の加護を可視化する力と、裁縫道具の能力、かな」

「歯切れが悪いね。もしかして、自分の能力をちゃんと把握していないのかな?」

 図星を突かれ、言葉に詰まった。確かに、さっき答えたのは間違いなく自分の能力ではある。しかし、道具使いとしての能力がどういうものなのかは、よくわからない。自分の共鳴道具がどんな能力を隠し持っているのかは、まだしっかり把握し切っていないのだ。

 言い淀んでいることで、どうやらその胸の内は読み取られてしまったらしい。サラが、少し呆れたように息を吐いた。

「ふうん、やっぱりそうなんだ。君、腕は立ちそうだけど、あんまり頼りにならなそうだね」

「うっ……」

 はっきりと、しかも女の子にそう言われて、ちょっと傷ついた。しかし、言い返せない。能力で言えば、多分この子の方が実力は上だ。何と言ってもハイ・ユーザーなのだ。道具使いとしては、ケイトより有能だろう。

「大丈夫ですよ、ケイトさま! ケイトさまだって、誰よりも特別な力を持ってるんですから!」

 ツクノがフォローしてくれるが、何とも言えない気持ちになる。すました顔のままのサラを見ると、自分がちょっと惨めで何だか虚しい。

 ――年下っぽいんだけどなぁ……。

 それを思うと、余計に傷ついた気分になった。

 だが、いつまでも気にしているわけにもいかない。ケイトも、彼女の能力には興味がある。

「えーと、僕も聞いていいかな。君のユーザー能力って、何かな?」

「そうだね。一緒に戦うわけだし、答えておいてもいいかな」

 サラが一度言葉を切り、トランプを一枚出してから続ける。

「ボクの力は、トランプにまつわることを具現化するものさ。例えば、大富豪やブラックジャック、ポーカーとか、トランプを使うゲームのルールを、能力に変換して行使できるんだ」

「ルールを、能力に?」

「そう。一番わかりやすいのは、大富豪の革命かな。革命すれば、弱いカードも強くなるでしょ? それと同じさ。技として使えば、範囲内の人たちの強さを逆転させられるんだよ」

「へえ……」

 納得した。さっきの戦いで兵士が弱くなり、老人が異様な動きを見せたのは、そういうことだったのか。

 サラは何でもないことのように言っていたが、とんでもない能力だ。それが力の一端でしかないのだから、この子のポテンシャルは底が知れない。

「ねえねえ、サラさん。それってハイ・ユーザー能力ですよね? そんな凄い力を、何の制限もなしで使えるんですか?」

「サラでいいよ。質問の答えだけど、さすがにそうはいかないよ。一度全部の札を使い切らないと、リロードはできない。だから、一回使った札は、他のを使い切るまで使うことはできないんだ」

「ほえー。それはそれで不便ですねぇ」

「まあね。でも、強力な力には、相応の制限があるものだよ。そうじゃなかったら、この世界はハイ・ユーザーに支配されてるだろうし」

「うーん、確かにそうかも」

 ツクノが思案顔で言い、サラが口元に小さな笑みを浮かべる。

「そういえば、サラはどうして解放軍を倒しに来たんですかぁ?」

「この世界とボクの世界を繋ぐ撚糸を、解放軍が切ろうとしているって話を聞いたからだよ。糸が切れたら繋がりがなくなって、ボクは多分こっちに来られなくなっちゃう。それはちょっと困るんだ」

「うーん? どうして?」

「ふふ。ヒミツ、だよ」

「えー! 教えてくださいよー!」

 片目を閉じてはぐらかすサラに、ツクノがせがむように問い続ける。女の子同士だからか、話が弾んでいるって感じだ。

 話に何となく入り辛くなってしまい、仕方なくケイトは周囲に注意を向けることにした。山道の左右は、まるで囲んでくるかのような垂直に切り立った岩壁で、道は少し狭い。岸壁の上に遠距離の武器を使う敵が現れたら、ちょっと厄介かもしれないが、見た感じ、あと少しでこの狭い場所を抜けられそうである。できるだけ、早く突破したいところだ。

「……ん」

 話に夢中になっていたツクノが、不意に動きを止めてあちこちを見回し始めた。

「どうかした?」

 ケイトの問いかけには一旦答えず、ツクノが目を瞑って前方を向く。何かを感じ取ったのか、一度体を強く震わせた。

「……この先に、とんでもなく大きい気配を感じます。この人、もしかしなくても強い人かも」

「だったら、三将星のフーズかもね。さっきの兵士が言ってたでしょ? ボクたちのことを耳にして、直々に出てきたのかもしれないよ」

 その可能性は大いにあり得る。ここは、敵地と言っても過言ではない。いつどこで襲い掛かってきてもおかしくはないだろう。

 ケイトは刀を手にし、警戒心を高める。サラはトランプを手で弄びながら悠然と構えているが、決して油断していないのは何となくだが感じられた。

「行こう」

 一声かけてから、ゆっくりと前へと進む。

 やがて、山道を抜けた。

 抜けた先は、少し開けた場所になっていた。圧迫してきそうだった岩壁はなくなり、足元はいくらか平らになっている。ここならば、多少は動き回れる。

 だからこそ、敵はここで待っていたのだろう。

 視線の先には、黒塗りの鎧を纏った筋骨逞しい大男を先頭に、たくさんの解放軍の兵士が待ち構えていた。咄嗟に数えられるだけでも、十五人は下らない。

「随分と、物々しいお出迎えだね」

 サラがトランプの札を一気に五枚出し、構える。ケイトはツクノに避難するよう目で合図してから、刀を構えた。

 解放軍の兵士がざわつき、敵意を剥き出しにして得物を構えようとする。

 それを、先頭の大男が手で制した。

「待っていたぞ、侵入者よ」

 低い声音で言った大男が、一歩前に出て続ける。

「我こそは解放軍三将星が一人、暴食のフーズ。この地を制すモノである」

 はっきりと言い切ったフーズと名乗った大男が、ケイトたちにまっすぐ視線を注いでくる。痛いほどに、鋭い視線だ。

 それとは別に、放つ圧が重い。クロウズと戦った時を、嫌でも思い出す。

 だが、何よりも気にかかるのは、フーズが纏う道具の加護の光だ。

 異様なほどに強い赤の光を、フーズは纏っている。全身を包むその光は、まるで装甲のように分厚い。

 そのフーズが、ケイトとサラを交互に見てくる。

「成程、なかなか腕が立つようだな。想像以上に早くここへ来たのも頷ける。ガンナには、荷が勝ち過ぎたらしい」

 ガンナとは、さっき倒した銃使いだろうか。フーズの口振りからすると、ケイトたちへの刺客だったらしい。

 ――それよりも。

 クロウズが言った通りということは、ケイトの力はフーズに知られている可能性が高い。情報共有はしてあると見るべきだろう。

 ケイトがさらに警戒を強めていると、フーズがさらに一歩前に出ては、背中に差していた大剣を引き抜いた。

「これ以上、我が配下をやらせるわけにもいかんな。自分が、貴殿らをここで仕留めるとしよう」

「ふうん。たくさんの味方を後ろに控えさせている人の言葉とは思えないね」

 サラが挑発気味に言ったが、フーズは意に介していないようだ。厳粛な表情を崩さず、言葉を返してくる。

「勘違いするな。この者達は、単なる見届け人だ。戦うのは、自分のみよ」

「へえ。そんなことをして、君にどんなメリットがあるのさ?」

「ないな」

 フーズが、一切迷うことなく言い切った。

「これは、自分の信念でしかない。戦いにおいて、他者の手は借りぬ。己が肉体と技のみを頼みとして、敵と向き合うことこそ、武人の誉れである」

「ふーん、バカみたい。それで負けたりしたら、どうするのさ」

「その時は、潔く敗北を認めるのみよ。縄目の恥辱を受けようが命を落とそうが、諦めはつく」

 ただ、とフーズが一度大剣を振り回してから続ける。

「そう簡単に敗れるつもりはない。伊達に三将星を名乗ってはいないことを、貴殿らに見せてやろう」

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