3-6 力の応用
「な、何だお前ら!」
「怪しい奴だ! ひっ捕らえろ!」
解放軍の兵士が、それぞれ覚えの得物を振り回しながら、殺到してくる。
その彼らに、ホムラが炎を放って攻撃した。迫り来る敵の動きが、一瞬止まる。
「ツクノ、着いて来て! 頼みたいことがあるんだ!」
「えっ、あっ、はいッ!」
隙を衝いて駆け出し、ケイトはまっしぐらに岩山に向かう。
一度光が灯り、すぐさま弾丸が放たれた。心臓。軌道が見えているのならば、防ぐのは訳ない。駆けながら弾き飛ばし、距離を詰めていく。
岩山の光が、慌ただしく何度も灯った。しかし、避けようとしなくても、飛来する弾丸は勝手に外れていく。どうやら、見えないはずの弾丸が何度も防がれて、動揺しているらしい。
――相手は、精神的に脆い。だったら!
咄嗟に槍を出し、次いで糸を出しては石突の穴に通す。それから左手で糸の下の方を、右手で槍に近いところの糸を持ち、丁度投げ縄を投げる時のような要領で、槍を勢いよく振り回す。
道具の加護のおかげで、力は大分増している。槍を片手でぶん回していても、何とかなっている。
岩山まで、もう少しの距離だ。これくらいならば、投げて届くはず。
「ケイトさま、何をしてるんです!?」
隣を飛ぶツクノが、あたふたしながら聞いてきた。
「槍をあの岩山まで飛ばして、糸を一気に引き寄せる! 空中のモノをうまく捉えられたら、きっとそこまですぐに行けるはず!」
「できるんですか!?」
「わからない。けれど、僕はやる! ツクノ、僕から離れないで!」
「は、はい!」
ツクノがケイトの背にしがみつく。それを確認してから、ケイトは意識をより集中させる。瞬間、視界に映る、モノの繋がり。ここがモノの世界ならば、この空間だってモノのはず。繋がりの糸や道具の加護が見えるはずだ。
見えないはずのものを見ようとして目に負担がかかったのか、双眸に一瞬激痛が走ったが、構わず見続ける。
――見えた!
空間を形成する、モノの光。はっきりと見えたそこ目掛けて、槍を勢いよく前へと投げ飛ばした。
槍が空を裂いてまっすぐ飛び、岩山のてっぺんを通り抜ける。槍が、光を貫き通した。同時に、糸が強く引っ張られ、ケイトの体が瞬く間に宙へと浮く。まるで針が布を通した時のように、糸が引かれている感じだ。
岩山のてっぺんが、すぐに眼下へと迫る。岩肌と同じ色の迷彩服を着た女性と、ふと目が合った。何か信じられないものを見たかのように、女性の顔には驚愕が張り付き、目は見開かれていた。
糸から手を離し、岩山に飛び降りる。着地と同時に二本の刀を出し、女性へと一気に距離を詰めた。
唖然としていた女性が、黒のグローブを纏った手を銃みたいにして放つ仕草を何度もする。さっきの弾丸が迫ってくるが、焦っているのか照準がぶれている。当たりそうなのだけをケイトは防ぎ、他は無視してさらに間合いを詰めた。
すぐに、刀の届く距離に入った。
それを見た女性が、冷や汗を流しながらも嫌な笑みを浮かべた。
「迂闊ね、ぼうや! 銃は、遠距離ばかりじゃないのよ!」
言い様に両手を閉じて前へと突き出し、女性が一気に開こうとする。
残念だが、それは読んでいる。近接でこそ威力を発揮する散弾銃の可能性を、ケイトは忘れてはいない。クロウズとの戦いで、様々な種類のモノを扱うことができるのを、自分は知っているのだ。
この人は、指の動きで弾丸を放てる。ならば、指そのものを動かさせなければいい。
「ツクノ、グローブを張りつかせて!」
「わ、わかりましたぁ!」
ケイトからパッと離れたツクノが、両手を前に突き出し、思い切り握る。
両手を開こうとした女性の顔に、再び驚愕の色が満ちた。
「ひ、開かない! どうして!?」
動揺する彼女が、ハッとしてケイトに目を向けた。
もう遅い。間合いに入り様に、ケイトは両の刀を振り抜いている。
「待っ……!」
紡がれかけた言葉を掻き消すように、刀が彼女に襲い掛かった。右の刃が彼女の両手に走る加護の光を断ち切り、左の刃が胴のそれを切り裂いた。
女性が吹き飛び、二度三度と地面に叩きつけられる。
ケイトは警戒しながら、女性に近寄った。仰向けになって転がる彼女は、白目を剥いたまま動かない。
今頃気づいたが、どうやら自分は、相手の道具の加護や繋がりだけを斬れるらしい。女性は傷だらけではあるが、出血している風はない。直接的に殺めるようなことがないみたいで、ケイトは安心した。世界を救うためとはいえ、誰かを殺してしまうのは嫌だったのだ。
「……よし」
初めてながらもうまくいって、ケイトは自分自身に頷いた。相当集中しなくてはならないが、イメージ通りになって良かった。
だが、今回はケイトだけ頑張ったわけではない。ツクノがいたからこそ、思い切った動きができた。
「ありがとう、ツクノ。君がいてくれたから、この人の攻撃を止められたよ」
「よくわからなかったですけど、お役に立てて良かったですぅ」
強張った笑みを浮かべながら言ったツクノは、少し震えていた。危険な戦いの場に参加させられたのだから、無理もないだろう。
本当だったらしっかり労ってあげたいところだが、今はそんな暇はない。
さっきいた場所では、ホムラが解放軍に囲まれながらも、孤軍奮闘している。今はまだ圧倒しているが、解放軍の数は見えるだけでも相当いる。このまま時が過ぎれば、じり貧になるのは間違いない。
「さあ、戻ろう。ホムラをこのままにしてはおけない」
「わ、わかってます!」
ツクノがすぐにケイトの背へとしがみつく。さっきと同じように移動するのはわかっているのだろう。
すぐに槍と糸を出し、思い切り振り回してからホムラの近くに投げ飛ばす。槍が再び光を貫き、ケイトの体は糸と共に思い切り引っ張られた。
地上が迫り、解放軍の兵士たちが間近に来る。いきなり現れたケイトに面食らって怯んだところを、すかさず刀で斬り倒した。
「な、何だ!? こいつ、どこから!?」
声を上げて驚いた兵士の一人を、ホムラが水を放って吹っ飛ばす。結構質量があるのか、水が当たった時に鈍い音が鳴った。
すぐさまホムラへと駆け寄り、互いに背中合わせになる。
「早いな。さすがだ、ケイト」
「褒めるのは、まだ早いよ。今は、この状況を切り抜けなきゃ」
解放軍の兵士は、湯水のごとく湧き出るように現れる。ホムラが結構倒しているはずなのに、減るどころか増える一方だ。
「そうだな。だが、どうする? この数、想像以上に厳しいぞ」
「だね。ある程度戦ったら、逃げるしかないかも。できれば、倒し切りたいけど」
「俺だってそうさ。だけど、そうもいかないだろ。ここでやられちゃ、元も子もない」
わかってる。苦笑交じりに、そう言葉を返そうとした。
「だったら、手を貸してあげるよ」
その前に、別の誰かの声が返された。




