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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
三章 札使いサラ
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3-5 ジェネレイトの解放軍

 やがて、ヌクリアに辿り着いた。

 思った以上の荒廃ぶりに、誰もが少しの間、声が出なかった。

 多く並んでいる建物のことごとくは、何か強い衝撃でも受けたのか、上から半分以上が崩れ落ちていた。そうなって久しいのか、崩れ落ちた建物の残骸はボロボロになってしなび、砂埃によってひどく汚れている。辛うじて形を残している家も外観は大いに汚れ、中に入ると入り口付近から瓦礫の山になっていて、とてもではないが奥には行けない。

 そんな光景が、そこかしこに広がっていた。

「……ひどい場所だね、ここは」

 何とか絞り出せたのが、そんな陳腐な言葉だった。

 ケイトの言葉に、ツクノが寂しそうな顔をした。

「少し前までは、ここもたくさんの人で賑わっていたんですよ。雷はたくさん鳴っていましたが、山の頂上にある避雷針のおかげで、この都市に落ちることはありませんでしたし。でも、守護獣がいなくなってしまってから避雷針が機能しなくなって、ここにたくさんの雷が落ちるようになったそうです。それで、暮らしていた人たちは都市を捨てました。今では、誰もここに近寄ろうとしません」

 確かに、瓦礫や建物には、焼け焦げたような跡がいくつも見られる。雷が普通に落ちてくるという危ない場所で暮らすなんて、無理な話だ。

 少し寂しい気持ちになりながら周りを見渡していると、目に映る光景に何故だか違和感を覚えた。

 神経を尖らせ、辺りを注意深く見る。ここら一帯は、瓦礫や廃墟でいっぱいだ。人が暮らせそうにないのも間違いはない。

 ――だけど、何か変だ。

 無造作に転がっているはずの瓦礫が、妙に人為的なものに見えた。あちこちにある瓦礫は、自然に積み上げられたにしては少し整って置かれているように思える。まるで、誰かが意図的に積んだかのようだ。

 少し不自然な状況に首を傾げ、辺りを隈なく探ろうとしたが、その前に声をかけられた。

「……あっ、北の方からモノの気配がしますね。山の方じゃないですけど、人がいるとしたらそっちの方ですよー」

「解放軍か、働かされている人たちかもしれない。行こうぜ、ケイト」

 二人に促されては、勝手なことをするわけにもいかない。頷き、ヌクリアから北の方角へと進んで行った。

 北に向かってとは言うものの、山の麓に沿って歩いていくという感じだ。麓であるとはいえ、足元はごつごつした岩ばかりで、なかなか歩きにくい。思うように歩けず、あまり早く進めない。

 だが、それ以上に気掛かりなのは、少し見通しが良いことだ。遮蔽物はあまりなく、身を隠すのは難しい。雷雲のせいで常に薄暗いとはいえ、人影が紛れてしまうほどではないから、敵に見つからないか不安になる。

 それでも、のんびりとはしていられない。ケイトたちは時折ある数少ない遮蔽物に身を隠しながら、できるだけ素早く進んだ。

 北の方にしばらく進み、少し遠くで騒がしい音が聞こえてきて、ケイトたちは足を止めた。

 念のため、身を屈めてから、耳をそばだてる。人の声と、何かを掘る音だろうか。そんな感じの音が、やや遠くの前方から聞こえる。

「この先に、たくさんのモノの気配があります。そんなに遠くないですよ」

「じゃあ、間違いなくそこに、解放軍や捕らわれた人たちがいるな。もう少し近づいてみようぜ」

 ホムラが先行し、少し先にあるやや大きな岩山に走る。ケイトとツクノも、遅れず着いて行った。

 岩山に近づいたことで、遠かった音がさらに聞こえるようになった。岩肌を削るような激しい音と、怒声にも似た指示を出す声だ。どうやら、この岩山のちょっと先で、何かをしているらしい。おそらく、解放軍が人々を無理やり働かせているのに違いない。

 ケイトたちは互いに顔を見合わせ、人差し指を立てて口元に運んだ。ここからは、余計な無駄口は厳禁である。

 岩山から顔だけをそっと出し、状況を確認する。

 ――やっぱり……!

 案の定、多くの人たちが無理やり働かされていた。男女はもちろん、老いも若きも関係ない。たくさんの人がツルハシやスコップを絶えず地面に叩きつけ、硬い岩肌を砕くように削っていた。

 その近くに、武装した集団が何人もいた。解放軍である。解放軍の兵士は、捕らわれの人々を監視するように、武器を片手に指示を飛ばしている。

「休むな! 一刻も早く、この地の封を解くのだ! さもなくば、この苦しみがひたすら続くと思え!」

「そこのお前、さっさと働け! 寝ている暇などないぞ!」

 解放軍の兵士が倒れている男の人を蹴り上げ、無理やり立たせる。その男の人は苦しそうにしながらも立ち上がり、ツルハシで岩肌を掘り始めた。

 よく見れば、そんな光景はあちこちで繰り返されていた。女性だろうが老人だろうが、痛めつけて無理やり働かせている。

 ――ひどいな……。

 人々へのこんな仕打ちに、胸が痛んだ。それ以上に、激しい憤りを覚えた。人を傷つけて無理やり働かせるなど、やっていいことなわけがない。

 隣から、歯の擦れる強い音が聞こえた。ホムラが体を震わせ、歯軋りするくらいに怒っている。既に剣は抜かれ、今にも飛び出してしまいそうだ。

「……ケイト。俺は、我慢できそうもない」

 ホムラの口から、小さくも低い声音が漏れる。

 それは、こちらも同じ気持ちだ。こんな光景を見せられて、黙っていられるわけがない。現に、ケイトも刀を出してしまっている。

 だが、寸でのところで抑えている。今にも飛び出してしまいたいが、体に感じるものが、ケイトの理性を繋ぎ止めていた。

 この状況に、何か違和感を覚えている。それ以上に、どこからか視線のようなものを感じていた。

 片手を広げてホムラに突き出し、ケイトは首を横に振る。ホムラが不満そうな顔をしたが、意に介さず辺りを窺う。

 周りは岩の大地や岩山ばかりで、特段気になるものはない。監視の目に見つかったわけでもない。しかし、見られている。ケイトの感覚は、それを間違いなく告げていた。

 ――どこだ。

 感覚を研ぎ澄まし、必死に探る。それを遮るように空が一瞬眩く光り、大して間を置くこともなく激しい音が鳴った。雷が近い時に聞く、大きな音だ。

 普段ならばそれに気を取られるだろうが、今は別のものに目が向いた。雷の光った方角、即ち左の方にある、やや遠くの岩山のてっぺん。そこに、おぼろげな光が灯ったのを、ケイトは見逃さなかった。

 ――もしかして。

 あそこに、いるのかもしれない。

 そう思った、刹那。

「ケイトさま、危ないッ!」

 ツクノの叫ぶ声と、何かが飛来する音が重なった。

 青白い光が、凄まじい勢いで瞬く間にケイトへと迫る。咄嗟に、右の刀を顔の前で構えた。

 瞬間、鈍い音が鳴り響き、重い衝撃が手を震わせた。

 受け止めたものの姿は、ない。確かに防いだ感触はあったのに、どこにもなかった。

「ケイト!?」

「気を逸らさないで、ホムラ! 次が来る!」

 ホムラがケイトに意識を向けようとしたのを、咄嗟に制した。岩山の光が、今度は二回灯っている。

 風が唸り声を上げるほどの勢いで、光が迫って来る。標的は、ホムラだ。

 ホムラは見えていないのか、その光を目で追えていない。ただ、ケイトと同じ方を見てはいる。

 飛来物の勢いは凄まじく、次の声をかける暇がなかった。光は、あっという間にホムラの目と鼻の先まで迫っている。

 刀を出して防ごうにも、間に合わない。ケイトは、その光の軌跡を目で追うことしかできなかった。光が、ホムラの顔に襲い掛かる。

「来たか」

 ホムラの声が聞こえたのと同時に、突如として彼の目の前に炎が立ち上り始めた。分厚い壁のような炎はホムラを守るように立ち塞がり、飛来した何かはそれにぶつかっては、不思議と乾いた音を立てて弾け飛んだ。

 呆気に取られて見ていると、不意に目が合ったホムラが、不敵な笑みを浮かべた。

炎の鉄板(フレイム・シールド)。これが、俺が力と向き合った成果の一つさ」

 思いがけないことにやはり呆然としたが、聞こえてきたざわめきの声に、我に返らざるを得なかった。

「何だ、今の炎は!?」

「侵入者がいるのか!?」

 解放軍が気づいたらしく、ざわつきながら動き始めている。こちらに来るのは、時間の問題だろう。

 ただ、このまま解放軍を迎え撃つわけにはいかない。遠くから狙ってくる敵を放っておいたら、かなりまずいことになる。

 銃のユーザー。ケイトたちを狙っているのは、間違いなくそれだ。

「ホムラ、本当に出て来ちゃったみたいだよ」

 死角を補うようにホムラの背へと移動してから、ケイトは小声で言った。

「ああ、わかってる。で、どうする?」

「僕が仕留めてくる。悪いけど、ホムラはこの場をお願いするよ」

「行けるのか?」

「多分。僕には、弾丸が見えてるから」

 ユーザー能力で撃ち出された弾丸は、おそらく空気の弾だ。普通ならば視認できない代物なのだろうが、ケイトの能力の前では無意味である。ユーザーの道具の加護は、自分の視界にしっかりと映っている。

「よし、わかった。だけど、できるだけ早く頼むぜ。多勢に無勢じゃ、さすがに分が悪い」

 すぐにケイトは頷く。それとほぼ同時に、解放軍が左右から姿を現した。

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