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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
二章 激突!三将星クロウズ
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2-10 逆転の一手

 間合いが、瞬く間に縮まる。

 クロウズが尋常ではない速さで前へと跳び、あっという間に距離を詰めてきた。槍の間合いより内側に入り、既にクロウズが拳を振るえる位置にまで来ている。

「うらぁッ!」

 吼えるような声と共に、一撃が飛んでくる。糸の色は、黄色。防ぐことはせず、最小限の動きでかわす。

 一発を避けても、次々と攻撃が繰り出される。顔面に迫る右の一撃を左に動いてかわし、胴を狙う左の拳を後ろに跳んで避ける。ケイトが避けたのと同時に、クロウズが前に出て、また顔目掛けて攻撃を放つ。緑色。着地と同時に、槍を縦に振るった。

 乾いた金属音が鳴り響き、火花が散る。互いの武器を押し合い、睨み合う。

「どうやら、本当に見切ったらしいな。さすがに、リオネの糸を切ったのは伊達じゃねえらしい。……っと」

 クロウズが押し合っていた拳から力を抜き、後ろへと跳んだ。その僅か後に、クロウズがいた場所に火球が通り過ぎていく。

「まだまだ!」

 少し離れたところに着地したクロウズ目掛けて、火柱が立った。クロウズが平然と受け切るが、間髪入れずに今度は水が頭上へと落ちてきていた。直撃を嫌ったのか、クロウズが素早く移動する。そこを、ホムラがさらに追撃していく。

 さっきまではホムラの攻撃を難なく受け止めていたのに、今のクロウズは回避に専念している。糸の色は、赤だ。火球を避けた時から、その色は変わっていない。予想通りならば、赤色は火に強い特性を持つはずだ。

 ――やっぱりだ。

 クロウズは、衣服の特性を一つずつしか使えないのに違いない。そうでなければ、さっきみたいに水の攻撃を掻き消せるはずだ。

 だとしたら、ケイトの狙いは正しい。ただ、今の色ではダメだ。赤以外の色にしなければ、勝負は決められない。

 そのためには、クロウズの意識をこちらに向けるべきだ。

 一気に前へと駆け出し、クロウズの行く先に先回りする。気づいたクロウズが、こちらに向かいながら拳を振り抜いてきた。青。防水の特性だ。打ち合っても問題ない。

 ――できることなら、この色のままキープしておきたい。

 いや、黄色でも緑でも構わない。赤にさえならなければいいのだ。赤以外のままで、ケイトがクロウズと激しく切り結べば、きっと思い通りの展開になる。

 下から、切り上げるようにして槍を振るう。互いの得物が交わり合った時、いやに低く重い音が鳴った。

「ぐっ……!」

 思わず、声が漏れる。

 クロウズの手甲とぶつかった時、尋常ではない重さと衝撃が伝わってきた。ぎりぎりのところで支えたが、今の一撃で手が痺れてしまっている。感覚が、あまりない。

「もらったッ!」

 空いている方の拳を、クロウズが思い切り突き出す。胴に迫ったそれを、何とか槍をずらして防いだ。凄まじい衝撃に、相変わらず手の間隔はマヒしてしまっているが、構わず槍を素早く薙ぎ払い、二度三度と振り回した。

 手応えはない。クロウズは半歩下がって、難なく避けている。

重の殴打(ヘビー・フィスト)を受けて、反撃してくるとはな。やるじゃねえか」

 クロウズが、獰猛な笑みを閃かせながら言った。

「いやに重いね。どういう理屈なのかな?」

「さあな。そいつも見切ってみなッ!」

 叫んだような声と共に、クロウズが間合いに入って拳を繰り出してくる。右から大振りの一撃が迫り、左から突き上げるような拳が唸りを上げる。それらを何とかいなしながら、ケイトは針の槍を振り回していく。

 ただ、闇雲に振り回しているのではない。得物が空を泳ぐたびに、石突に通した糸が宙に浮かんでいった。それは、振り回せば回すほど、長さを増していく。

 今は、クロウズを取り囲むように伸びつつある。

「槍を振り回すだけじゃ、俺には勝てねえよ!」

 クロウズが、さらに拳を振るう。一度二度、三度四度と、絶え間ない攻撃が続いた。槍で何とか防ぐも、時折腕や胴に掠る。掠ったところは、じんわりと熱を持ち、鈍い痛みが走る。

 連撃を受けながら、あることに気づいた。クロウズには、この糸が見えていない。掩護を続けるホムラも、糸に気づいた風はない。

 この糸は多分、モノと人を繋いでいる光と一緒だ。普通の人には、見ることはできない。

 ――そろそろ、いけるかも。

 迫り来る攻撃に合わせ、槍を振るう。糸が、さらに長さを増した。そこそこ長くなっていて、縛り上げるには十分だろう。

 何を。決まっている。クロウズの道具の加護をだ。

 ちらと、ホムラを見る。炎を放とうとしているのに気づき、目で制した。ケイトの視線から何かを察したのか、ホムラが攻撃を中断した。

「取ったぜ」

 クロウズの声が聞こえて、ハッとした。拳が、胸元にまで迫っている。意識が一瞬ホムラに向いた隙を、逃さず衝かれた。

 防ごうにも、何もかもが間に合わない。できることは、色の確認だけだ。

 ――青。

 それがわかれば、十分である。

 低い唸り声を上げた一撃が、まっすぐケイトの胸元を撃ち抜く。瞬間、凄まじい衝撃が全身を駆け巡った。体は浮いていて、後ろに吹っ飛ばされつつある。

「かはっ……!」

 あまりの勢いに、息ができない。視界も、微かにぼやけている。それでも、意識も槍も手放さない。

 後ろに吹っ飛びながら、ケイトは槍を自分の方に向けて渾身の力で引き寄せた。クロウズを囲んでいた糸が急速に輪を縮め、奴が纏っている道具の加護をきつく縛り上げる。

「……何だ?」

 違和感に気づいたクロウズが、拳を構えながら左右を見渡し、自身を眺める。表面上は変わったことはなく、それでも違和感があるのがすっきりしないのか、クロウズが攻撃の手を緩めた。

 そこが、まさしく好機だ。

「ホムラ!」

 地面に叩きつけられて転がったが、そのままの体勢で今出せる精一杯の声で、ホムラの名を呼んだ。

「食らいやがれッ! 大着火!」

 真っ赤な炎がクロウズの足元で燃え盛り、一気に立ち昇ろうとする。

 小馬鹿にしたような笑みを浮かべたクロウズが、余裕そうな態度を取った。

「無駄だって言っただろ。俺に炎は」

 クロウズの言葉が、不意に止まる。表情に微かな困惑の色を浮かべたクロウズが、自身の体を何度も見返した。加護が糸によって縛られ、特性の色が変わらないことに気づいたのだろう。

 今度は、それがクロウズの命取りだ。

 炎の柱が爆発したような音を立て、一息に立ち昇る。

「しまっ……!」

 言いかけたクロウズを遮り、炎がその体を呑み込んでいく。

「ぐっ……。うおおおああっ……」

 炎の中から、低い唸り声にも似た断末魔の叫びが聞こえてくる。少しの間続き、やがてそれも途絶えた。

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