11-14 応えてみせる!
「食らえっ、超電磁砲ッ!」
巨大な黒い球体、いや、光線だろうか。とにかく、オウリュウの口から吐き出され続ける黒の太い光線が、巨大な球体を先頭にして恐るべき速さで迫る。何とか避けられそうな大きさではあるのだが、気づいた時にはそれは、ケイトの目の前まで近づいて来ていた。
回避はもう、間に合わない。真っ向から打ち破るしか、残された術はない。
「ケイト!」
いつの間にか傍に戻っていた太刀鋏が、刀に手を添えている。
「ああ! 行くぞ、太刀鋏!」
叫ぶように言い、それから両の刀を思い切り薙ぐように振るう。
球体に刀がぶつかり、瞬間、激しい衝撃が体を包み込んだ。電磁力による電撃が容赦なく襲い掛かり、焼かれるような痛みが全身を駆け巡る。血も、皮膚が裂けて噴き出してきた。
瞬間、押し切られそうになって膝が下がりかける。
「ぐっ……!」
「ケイトさま、頑張って! わたしが、ついてますからっ! こんな悪意なんかに、負けるわけがないんですから!」
下がりそうになる膝を押し止めるように、ツクノの激励が飛んだ。それから、ケイトの刀へと彼女が能力を伝播させていく。
刀が妖しく光り、受け止めている攻撃から力を奪い取っていく。あの電磁砲という攻撃は、おそらくオウリュウの能力に加えて、悪意の負の力が加えられているのだろう。僅かに、ほんの僅かにだが、力を奪われたことで電磁砲の勢いと威力が弱まった。
しかし、押し返すには足りない。変換した力を足しても、硬直した状況を覆せない。
――どうすれば……!
諦める気はない。しかし、このままでは。内心で焦り始め、ケイトは下唇を強く噛んだ。
「無駄だ無駄だ! くたばれ、道具使い!」
オウリュウが、さらに攻撃を強めてくる。押していた刀が、徐々に下がり始めた。ばかりか、刀身が嫌な音を立てる。刃に入っていた亀裂が、さらに大きくなっていた。
このままでは折られる。いや、それよりも早く押し切られるだろう。かかる圧力は、どんどん強くなってくる。
「まだだ、ケイト! 俺は、まだやれる!」
萎えかける気持ちを奮い立たせるように、すかさず勇ましい声が発せられた。
刀身に亀裂が入ったことによってか、太刀鋏は額から血を流していた。苦痛で右目を閉じてはいるが、この相棒は怯むことなく必死の形相で刀を支えている。
だったら、ケイトだって怯んでいられない。
「僕だってやれるさ! 一緒に戦い抜こう、太刀鋏!」
「ああ!」
緩みかけた刀を握る手を、しっかり絞るように力を入れる。たとえまだまだ力が足りなかろうが、諦めることだけはしないで刀を押し続ける。
不意に、手から圧力が消えた。いや、違う。止まったと言うべきか。受け止めている電磁砲の動きも、唸るような放電の音も、ケイトの体さえも止まっている。
その中で、不思議と思考だけはしっかりと動いていた。
「こ、これは……!?」
ツクノが、驚きの声を上げた。感覚を共有しているケイトも、口には出さないが内心で驚く。
何が何だかわからない状況に戸惑っていると、暗い光が周囲に灯り始めた。それは数え切れないほどに多く、ケイトたちを取り囲むように増えていく。
「……お前たちは、不思議だ」
唐突に、くぐもった声が聞こえてきた。それは、薄暗く灯る光たちから発せられたように思える。
突然のことに言葉を返せないでいると、また声が聞こえてきた。
「お前たちは、どうしてそこまで信じ合える? 人とモノが、真に交わり合うことなど、考えられないのに」
その言葉を耳にした時、少しだけカッとした。喉の奥に張り付いていたようになっていた声が、自然と表に出てくる。
「そんなことはないよ。人とモノだって、気持ちを通わせられる。ずっと一緒にいれば、いつまでも大切にしたいって自然に思える」
「何故だ。物など、人からすれば消耗品に過ぎないだろう」
「それは、そうかもしれない。だけど、蔑ろにしたいわけじゃないよ。寧ろ、必要としているんだ。当たり前のように使うってことは、僕たちの日常に必要不可欠ってことだから」
「必要……」
声が、ハッとしたように呟いた。
「そう、必要なんだ。必要だからこそ、僕たち人間は物に手を伸ばすんだ。だから、物も応えてくれる。少なくとも僕は、そう信じている」
「お前はどうなのだ、裁縫道具。ただ使われてばかりで、不満に思わないのか」
「思わないな」
一切の迷いなく、太刀鋏が答える。
「俺は、誰かに使われてこそ輝く道具だ。自分一人じゃ、何にもできやしない。ケイトみたいに大切に使ってくれる人が相手なら、俺はどんなに下手に使われても、まったく苦にはならんさ」
「下手って、太刀鋏?」
思わず不満げに口にしたが、内心ではそうは思っていない。太刀鋏もそう思っているのか、声を上げて笑っている。
「……だから、俺はケイトを信じられる。何があっても、絶対に信じられる」
一頻り笑ってから、太刀鋏が言った。
光が沈黙する。だが、それも長くはない。
「……わかった。ならば、我らも信じてみよう。人の心を、モノの信頼を」
暗い光が一転して眩いものになり、辺りを照らし出してはケイトへと集まってくる。温かくて、力強い光だ。
同時に、声が聞こえてきた。信じてみよう。頭の中で、そんな言葉がたくさん響いている。
――もしかして、これは。
ツクノが吸い寄せていた、モノの悪意の声なのだろうか。
「ケイトさま、応えましょう。心を闇で閉ざしていた彼らの、信頼に」
疑問に答えるように、ツクノが言った。
ケイトは、大きく頷いた。悪意であった彼らが心を開いてくれたのならば、ケイトたちはその思いに応えなければならない。ここで負け、全てを滅ぼさせることだけは、絶対にしてはならない。
「当たり前だろ。僕は負けない。絶対に勝つ。勝って、人とモノの繋がりの可能性を、示してみせる。そのために、みんなの力を借りるぞ!」
言葉に答えるように、辺りの光が一斉に輝き出した。
瞬間、停止していた世界が、再び動き出す。手にかかる圧力も、耳を震わす音も、何もかもが元に戻った。状況は、さっきとほとんど同じだ。
そんな中で、確かに違うものがある。
ケイトの体を青白い光が包み込み、刀は燃え上がっているような光を身に纏っていた。凄まじい力である。まるで自分の体ではないと思ってしまいそうな力が出るのを、ケイトは確かに感じた。
「決めるぞ、ケイト!」
溢れる力を感じ取ったのか、太刀鋏が勇ましい声を上げた。頷き、押されていた刀を一気に押し返す。もう、電磁砲に押されることはない。
「……うおおおおっ!」
裂帛の気合と共に足を強く踏み出し、刀を目一杯振り抜く。黒と白の光を纏った刃の、何かを裂く重々しい音が鳴り、次いで空を断ち割る鋭い音が響いた。
電磁砲が横に真っ二つになり、あらぬ方向へと飛んでいった。天井や床へとぶつかったそれは、勢いそのままにその場所を抉り取っていく。
だが、その軌跡を見送ることはしない。攻撃を切り裂いたのと同時に、ケイトは高く跳躍し、両の刀を思い切り振り上げた。
「ば、馬鹿なッ!? 超電磁砲が、打ち破られるなど!」
喚くように叫んだオウリュウが、ケイトの姿に気づく。赤の不気味な双眸には、はっきりと動揺の色が浮かんでいる。
「おのれッ!」
それでも、オウリュウは反撃しようとしてくる。体中から、再び黒い腕のようなものをいくつも伸ばした。
だが、その手がこちらに向かって来ることはなかった。伸びた腕はすぐにオウリュウへと方向を変え、その体へと纏わりついていく。
ケイトは悟った。オウリュウに憑りついたモノの悪意が、一つ、また一つと心を取り戻していることに。それらがオウリュウに逆らって、攻撃しているのだ。
「な、何が起きている!? 離せ、離さぬかッ!」
全身を無数の手に引っ張られ、思い通りに動けなくなったオウリュウが、忌々しげにもがく。いくつもの手を振り解いてもまた別のが現れ、何度も何度も同じことを繰り返している。
もう、こちらに注意は向いていない。
「これで」
刀を握る手に力を目一杯籠め、一息に振り下ろしながら叫ぶ。
「終わりだぁぁッ!」
「待っ……!」
制止の声がかけられるが、聞き入れることはない。両の刀を、勢いそのまま振り抜く。
瞬間、断ち割る鈍い音が鳴り響く。
漆黒と純白の入り混じった刃が、巨大な光を放ちながらオウリュウを捉えていた。




