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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
十一章 決戦!混沌の暴龍
151/155

11-14 応えてみせる!

「食らえっ、超電磁砲ッ!」

 巨大な黒い球体、いや、光線だろうか。とにかく、オウリュウの口から吐き出され続ける黒の太い光線が、巨大な球体を先頭にして恐るべき速さで迫る。何とか避けられそうな大きさではあるのだが、気づいた時にはそれは、ケイトの目の前まで近づいて来ていた。

 回避はもう、間に合わない。真っ向から打ち破るしか、残された術はない。

「ケイト!」

 いつの間にか傍に戻っていた太刀鋏が、刀に手を添えている。

「ああ! 行くぞ、太刀鋏!」

 叫ぶように言い、それから両の刀を思い切り薙ぐように振るう。

 球体に刀がぶつかり、瞬間、激しい衝撃が体を包み込んだ。電磁力による電撃が容赦なく襲い掛かり、焼かれるような痛みが全身を駆け巡る。血も、皮膚が裂けて噴き出してきた。

 瞬間、押し切られそうになって膝が下がりかける。

「ぐっ……!」

「ケイトさま、頑張って! わたしが、ついてますからっ! こんな悪意なんかに、負けるわけがないんですから!」

 下がりそうになる膝を押し止めるように、ツクノの激励が飛んだ。それから、ケイトの刀へと彼女が能力を伝播させていく。

 刀が妖しく光り、受け止めている攻撃から力を奪い取っていく。あの電磁砲という攻撃は、おそらくオウリュウの能力に加えて、悪意の負の力が加えられているのだろう。僅かに、ほんの僅かにだが、力を奪われたことで電磁砲の勢いと威力が弱まった。

 しかし、押し返すには足りない。変換した力を足しても、硬直した状況を覆せない。

 ――どうすれば……!

 諦める気はない。しかし、このままでは。内心で焦り始め、ケイトは下唇を強く噛んだ。

「無駄だ無駄だ! くたばれ、道具使い!」

 オウリュウが、さらに攻撃を強めてくる。押していた刀が、徐々に下がり始めた。ばかりか、刀身が嫌な音を立てる。刃に入っていた亀裂が、さらに大きくなっていた。

 このままでは折られる。いや、それよりも早く押し切られるだろう。かかる圧力は、どんどん強くなってくる。

「まだだ、ケイト! 俺は、まだやれる!」

 萎えかける気持ちを奮い立たせるように、すかさず勇ましい声が発せられた。

 刀身に亀裂が入ったことによってか、太刀鋏は額から血を流していた。苦痛で右目を閉じてはいるが、この相棒は怯むことなく必死の形相で刀を支えている。

 だったら、ケイトだって怯んでいられない。

「僕だってやれるさ! 一緒に戦い抜こう、太刀鋏!」

「ああ!」

 緩みかけた刀を握る手を、しっかり絞るように力を入れる。たとえまだまだ力が足りなかろうが、諦めることだけはしないで刀を押し続ける。

 不意に、手から圧力が消えた。いや、違う。止まったと言うべきか。受け止めている電磁砲の動きも、唸るような放電の音も、ケイトの体さえも止まっている。

 その中で、不思議と思考だけはしっかりと動いていた。

「こ、これは……!?」

 ツクノが、驚きの声を上げた。感覚を共有しているケイトも、口には出さないが内心で驚く。

 何が何だかわからない状況に戸惑っていると、暗い光が周囲に灯り始めた。それは数え切れないほどに多く、ケイトたちを取り囲むように増えていく。

「……お前たちは、不思議だ」

 唐突に、くぐもった声が聞こえてきた。それは、薄暗く灯る光たちから発せられたように思える。

 突然のことに言葉を返せないでいると、また声が聞こえてきた。

「お前たちは、どうしてそこまで信じ合える? 人とモノが、真に交わり合うことなど、考えられないのに」

 その言葉を耳にした時、少しだけカッとした。喉の奥に張り付いていたようになっていた声が、自然と表に出てくる。

「そんなことはないよ。人とモノだって、気持ちを通わせられる。ずっと一緒にいれば、いつまでも大切にしたいって自然に思える」

「何故だ。物など、人からすれば消耗品に過ぎないだろう」

「それは、そうかもしれない。だけど、蔑ろにしたいわけじゃないよ。寧ろ、必要としているんだ。当たり前のように使うってことは、僕たちの日常に必要不可欠ってことだから」

「必要……」

 声が、ハッとしたように呟いた。

「そう、必要なんだ。必要だからこそ、僕たち人間は物に手を伸ばすんだ。だから、物も応えてくれる。少なくとも僕は、そう信じている」

「お前はどうなのだ、裁縫道具。ただ使われてばかりで、不満に思わないのか」

「思わないな」

 一切の迷いなく、太刀鋏が答える。

「俺は、誰かに使われてこそ輝く道具だ。自分一人じゃ、何にもできやしない。ケイトみたいに大切に使ってくれる人が相手なら、俺はどんなに下手に使われても、まったく苦にはならんさ」

「下手って、太刀鋏?」

 思わず不満げに口にしたが、内心ではそうは思っていない。太刀鋏もそう思っているのか、声を上げて笑っている。

「……だから、俺はケイトを信じられる。何があっても、絶対に信じられる」

 一頻り笑ってから、太刀鋏が言った。

 光が沈黙する。だが、それも長くはない。

「……わかった。ならば、我らも信じてみよう。人の心を、モノの信頼を」

 暗い光が一転して眩いものになり、辺りを照らし出してはケイトへと集まってくる。温かくて、力強い光だ。

 同時に、声が聞こえてきた。信じてみよう。頭の中で、そんな言葉がたくさん響いている。

 ――もしかして、これは。

 ツクノが吸い寄せていた、モノの悪意の声なのだろうか。

「ケイトさま、応えましょう。心を闇で閉ざしていた彼らの、信頼に」

 疑問に答えるように、ツクノが言った。

 ケイトは、大きく頷いた。悪意であった彼らが心を開いてくれたのならば、ケイトたちはその思いに応えなければならない。ここで負け、全てを滅ぼさせることだけは、絶対にしてはならない。

「当たり前だろ。僕は負けない。絶対に勝つ。勝って、人とモノの繋がりの可能性を、示してみせる。そのために、みんなの力を借りるぞ!」

 言葉に答えるように、辺りの光が一斉に輝き出した。

 瞬間、停止していた世界が、再び動き出す。手にかかる圧力も、耳を震わす音も、何もかもが元に戻った。状況は、さっきとほとんど同じだ。

 そんな中で、確かに違うものがある。

 ケイトの体を青白い光が包み込み、刀は燃え上がっているような光を身に纏っていた。凄まじい力である。まるで自分の体ではないと思ってしまいそうな力が出るのを、ケイトは確かに感じた。

「決めるぞ、ケイト!」

 溢れる力を感じ取ったのか、太刀鋏が勇ましい声を上げた。頷き、押されていた刀を一気に押し返す。もう、電磁砲に押されることはない。

「……うおおおおっ!」

 裂帛の気合と共に足を強く踏み出し、刀を目一杯振り抜く。黒と白の光を纏った刃の、何かを裂く重々しい音が鳴り、次いで空を断ち割る鋭い音が響いた。

 電磁砲が横に真っ二つになり、あらぬ方向へと飛んでいった。天井や床へとぶつかったそれは、勢いそのままにその場所を抉り取っていく。

 だが、その軌跡を見送ることはしない。攻撃を切り裂いたのと同時に、ケイトは高く跳躍し、両の刀を思い切り振り上げた。

「ば、馬鹿なッ!? 超電磁砲が、打ち破られるなど!」

 喚くように叫んだオウリュウが、ケイトの姿に気づく。赤の不気味な双眸には、はっきりと動揺の色が浮かんでいる。

「おのれッ!」

 それでも、オウリュウは反撃しようとしてくる。体中から、再び黒い腕のようなものをいくつも伸ばした。

 だが、その手がこちらに向かって来ることはなかった。伸びた腕はすぐにオウリュウへと方向を変え、その体へと纏わりついていく。

 ケイトは悟った。オウリュウに憑りついたモノの悪意が、一つ、また一つと心を取り戻していることに。それらがオウリュウに逆らって、攻撃しているのだ。

「な、何が起きている!? 離せ、離さぬかッ!」

 全身を無数の手に引っ張られ、思い通りに動けなくなったオウリュウが、忌々しげにもがく。いくつもの手を振り解いてもまた別のが現れ、何度も何度も同じことを繰り返している。

 もう、こちらに注意は向いていない。

「これで」

 刀を握る手に力を目一杯籠め、一息に振り下ろしながら叫ぶ。

「終わりだぁぁッ!」

「待っ……!」

 制止の声がかけられるが、聞き入れることはない。両の刀を、勢いそのまま振り抜く。

 瞬間、断ち割る鈍い音が鳴り響く。

 漆黒と純白の入り混じった刃が、巨大な光を放ちながらオウリュウを捉えていた。

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