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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
十一章 決戦!混沌の暴龍
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11-11 もしも許されるのならば

 眩い光が、消えることなく迫り続ける。

 何度打ち払おうと攻撃しても、その光は諦めずに付き纏ってきた。こちらが鋭く斬り返し、鉄の棘を繰り出し、礫の雨を降らせても、光が消えることはない。

 その様を、オウリュウは信じられないものを見るような気持ちで見ていた。

 ただ、見ている場所は少し違う。今戦っている自分の目ではなく、肉体の奥底から外を眺めている。成長した今の姿は自身のものであるはずなのだが、不思議とそんな感じがしない。実際に動かしている感覚はあるのだが、自分を遠くから見ているという感じがしてならないのだ。

 それはもしかしなくても、自身に乗り移るモノの悪意が主導権を握っているからだろう。オウリュウ自身はそんなつもりはなかったのだが、どうやら自分が思った以上に、悪意は己を蝕んでいたらしい。己の意思は奥底に閉じ込められ、自身の全てを乗っ取られつつある。体はまだ動かせるが、徐々に徐々に自由が利かなくなっている。

 ――仕方がないことさ。

 元々、悪意につけ込まれるには十分過ぎる願いを抱いていた。全てを壊し尽くしてから、新しいものを作る。そんな危うさを持ち合わせていたのだから、悪意が同調し、徐々に増幅していくのも無理はない。オウリュウ自身も別に拒む気はなかったし、寧ろ望むところだった。全てを壊す力があれば、自分の望み通りの世界を築ける。そう信じて疑わなかったし、誰にも邪魔されないと思っていた。

 しかし、邪魔者は現れた。裁縫道具という名の二刀を操る道具使いと、その仲間たち、そして最強の道具使いに古の巫女。どれも、忌々しいほどに力をつけてきた。

 特に、今目の前にいる道具使いは、異様な力を備えて戦いを挑んできた。こちらの加護の光を確実に見切り、繋がりの糸を断ち切るという、伝説の道具使いと同じ芸当をしてきた。それだけでも驚くべきことなのだが、この道具使いには、もう一つ信じられないことがあった。

 それが、共鳴道具の具現化だ。

 共鳴道具は意思こそ持つが、その姿が人のようになることはない。共鳴道具は、あくまで扱うための道具だからだ。持ち主に使われてこそ真価を発揮するそれは、形状を若干変化させることはあっても、使い手を困らせるようなことはしない。

 それが、あの道具は自ら人の姿を持って、道具使いと共に戦っている。しかも、完璧な連携を取りながらだ。そんなこと、一朝一夕でできるものではない。

 何故、そこまで息を合わせられるのか。道具が、それほどまでに人を信じているとでも言うのか。オウリュウには、理解が及ばないところだ。

 人は、物にそれほど敬意を払っていない。使うことを当たり前とし、無駄に消費することを大して厭いもしない。そのことは常々感じていたし、この世界で過ごす多くのモノが、胸の奥底で思っている本音だ。その思いがある以上、モノは人に対して、最大限の力を与えることはない。少なくとも、オウリュウはそう思っている。

 だが、あの道具はどうだ。完璧な連携だけでは飽き足らず、持てる力の全てを捧げているように見える。どう考えても、信じられないことだ。

 道具使いが間合いに入ってきて、オウリュウは思考を打ち切った。突き出された刀をいなし、思い切り振り下ろす。ただ、いまいち速さが出ていない。体の自由を奪いつつある悪意が、動揺しているからかもしれない。

 見ていて少しもどかしいが、今の自分ではどうしようもない。いつの間にか、体の自由は利かなくなっている。こうしようと思って意思を伝えても、動かすべき体は自在に動かせない。

 オウリュウは、戦闘に割いていた思考を放棄した。いつの間にか、視界さえも暗くなってきている。見ることをやめ、そっと瞳を閉ざしてからまた思索に耽る。

 何故あの道具は、人のためにこれほど尽くそうとするのか。そのことを考える。

 ――いや、僕は答えを知っているはずだ。

 物は、使われることに意味がある。使い手がいてこそ、物は輝く。あの道具は、それを信じて疑っていない。だからこそ、全てを道具使いに委ねられるのだ。

 不思議ではあるが、そう考えるモノが多いのは、実はちゃんとわかっていた。元々、この世界を守っていた守護獣なのだ。理解はできなくても、そういった思いを抱くモノを、これまでしっかり見てきている。

 オウリュウだって、その気持ちが一切ないわけではなかった。もっと言えば、人の全てが物を蔑ろにしているわけではないのも、理解していた。人が皆、物を無駄遣いしているのならば、リサイクルという言葉は生まれていない。廃棄したものから、新たに生み出して活用しようとはしないだろう。

 知っているが、それでも全ての人がそういうわけではない。身勝手に無駄にする人だって多くいて、その理不尽はやはり我慢できなかった。身勝手を受け入れるモノが、憎らしかった。だからこそ、全てを破壊し、支配したかった。

 その思いも、今では揺らぎつつある。人のために全力を尽くす道具を、目の当たりにすることで。

 自分が抱いた思いに、間違いはない。今でもそう思ってはいるが、全てが正しかったとは、自信を持って言えなくなっていた。もしも正しかったならば、とっくにこの世界は自分のものだし、ここまで抗ってくるものはいなかっただろう。そうならなかったのは、自身の思いが間違っていたからということになる。

 ――いいや、最初からわかっていたさ。

 壊して作り直すという理想が、あまりにも自分勝手であることぐらい、とっくの昔に気づいていた。気づいていたが、引くに引けない状況になってしまっていた。守るべき世界に牙を剥き、大切な人と刃を交えた時から、もう後戻りはできなくなっていた。

 その結果、多くの命を弄び、数多の悲しみを生み、最愛の人をこの手にかけた。

 自分が、どうやってももう許されないことはわかっている。生みだした罪はあまりにも大きく、とてもではないが償い切れない。何があっても、救われるべきではない。

 それなのに。

「どうしてあいつらは、頑張るんだ」

 うっすらと目を開け、闇に染まりつつある視界を見る。ほとんどが黒で染め上げられているが、その中にうっすらと光が浮かんでいるのがわかる。あの道具使いと、古の巫女だ。

 道具使いは、真っ向からオウリュウにぶつかってきていた。共鳴道具と共に猛攻を仕掛け、こちらに反撃をさせていない。悪意が激しく動揺しているせいで、オウリュウの能力をうまく発現できていないからだろう。何をしようにも空回りで、防御するので手一杯になっている。

 そこに、追い打ちをかけるようなことが起きた。体の中から力が少し消えて、動かしていた体の動きが、ピタリと止まった。戸惑った悪意が動かそうにも、体はほんの一瞬だけ自由を失った。

 その理由を、オウリュウはすぐに察した。

 ――金剛龍鬼が、死んだのか。

 なくなった力は、金剛龍鬼に割いていたものだ。元々、あれはオウリュウの守護獣の力から生み出した存在で、自身の一部と言ってもいい。それが死んだのだから、こちらに影響が出ても何らおかしくはない。

 本来ならば、金剛龍鬼はこの場に留め置いておくはずだった。敵を前に、戦力を分散する意味はないし、モノの悪意は金剛龍鬼を操り、ここで敵を迎え撃つつもりだった。それでもそうしなかったのは、オウリュウ自身の意思だ。全てを好き勝手されるのが面白くなくて、敵を分散させるという目的で金剛龍鬼を解き放った。

 結果として、それは裏目に出た。金剛龍鬼が死んだことで力の一部が失われ、絶対の隙が生まれてしまった。

 そこを逃す、道具使いではない。

 体を、激しい衝撃が襲い掛かる。痛みこそもう伝わってこないが、重々しい一撃を受けたのは、すぐにわかった。

 自身の体を動かす悪意が逆上し、反撃に出る。その動きは理性を失った獣のようで、荒々しい。さすがにその攻撃は、道具使いたちにも厳しいものがあるようだ。斬撃を受け、棘に掠められ、柱で吹き飛ばされたりしている。

 それでも立ち上がり、奴らは立ち向かって来る。体が傷つき、血に塗れてもなお、闘志は一切萎えていない。ばかりか、攻撃を捌き切ろうと何度も試みている。

 どうしてそこまで頑張れるのか。そうまでして力を尽くす理由は、何なのか。うっすらと見える彼らの戦いを見ながら、そっと思いを馳せる。

 ――お前も、どうしてだ。

 道具使いからふと目を逸らし、別の方にある光を見る。

 力を尽くしているのは、彼らだけではない。巫女も巫女で、オウリュウを毒していく闇を取り除くべく、さっきからずっと悪意を吸い続けていた。

 モノの怨念の集合体なのだから、悪意が尽きることはほぼない。それくらい察しがつきそうなものなのに、あの女は顔を青くしながらも悪意を自身に吸収し続けている。

 無駄だ、やめろ。そんなことをし続けていたら、いくらお前でも壊れてしまう。

 そう声をかけようと思う自分に気づき、オウリュウは苦笑した。だが、悪い気はしない。

 元々あの女、ツクノのことは嫌いではない。最愛の人、シルクと一緒にオウリュウのことを常に気にかけてくれていたのを、はっきりと覚えている。お調子者で鬱陶しいくらいに元気で、それでいて優しい心の持ち主であることを、オウリュウはわかっていた。

 ――優しいから、か。

 ツクノはおそらく、自分を救おうとしているのだろう、とオウリュウは思った。でなければ、あれほど無理をして悪意を吸い寄せたりはしない。現に、彼女が力を尽くしていることで、オウリュウが完全に悪意の闇に呑まれることは避けられている。

 ならば、あの道具使いもまた、そうなのだろうか。シルクを殺したというのに、その怒りも恨みも押し殺して、自分を救おうと言うのか。

 ――だとしたら、とんだお人好しだ。

 少しおかしくなって、小さく笑う。あんなに甘い奴らに電磁砲が凌がれたのだと思うと、自分が情けなく思える。

 だけど、ほんの少しだけ嬉しかった。自責と諦念が渦巻き、これからの未来を生きることをオウリュウ自身が諦めたというのに、手を差し伸べてくれる彼らの心を、確かに感じた。

 その手を、つい取ってしまいたくなる。罪と返り血で汚れた手を、伸ばしたくなる。何をしても許されないと、わかっているのに。

 それでも、もしも許されるのならば。手を、差し伸べてもいいのならば。

「……僕は、救いを求めてもいいのだろうか」

 震える口から、ゆっくりと言葉が紡がれた。

 視界が、いつの間にか潤む。無意識のうちに大粒の涙を流しながら、オウリュウは闇の奥に見える光へと、確かに手を伸ばしていた。

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