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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
二章 激突!三将星クロウズ
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2-3 王様登場

 緊張が邪魔をして、言葉が出ない。

 ケイトは、ただ黙って王様を見ていることしかできなかった。挨拶をしなければと思うのに、言葉は喉に張りついたかのように出てこない。

 ホムラも、似たような状態だった。気圧されたように半歩下がり、瞬きするのも忘れて王様の顔を見入っている。

「推薦状を持って、わざわざ訪ねてきたのだろう? 勇者の久しい到来だ。歓迎するよ、若き道具使い」

 こちらの緊張を見て取ったのか、王様が柔らかな笑みを浮かべながら言った。ほんの少しだが、気持ちが緩むような笑みだ。

 そこで、ようやく緊張の糸が切れた。けれど、まだ言葉はうまく出ない。ホムラも同じだ。

「王様ー、ご無沙汰してますぅ」

 そんなケイトたちにお構いなしと言った風で、ツクノが大きく手を振った。

 王様も手を振るツクノに気づいたのか、意外そうな顔を見せた。

「おや、ツクノ君ではないか。久しぶりだね。シルクは一緒ではないのかい?」

「シルクさまとは、今は別行動なんです。救世主となりそうな人を見つけてこいって、命じられていましてー」

「相変わらず無茶苦茶だね、あの人は。それで、見つかったのかな?」

「んーと、はっきりとはまだわからないんですけど、可能性なら……」

 ツクノが、ちらちらとケイトを見てくる。そういう話だっただろうか、と内心で首を捻る。

 というよりも、知らない名前が二人から出てきた。シルクとは、誰なのか。

「……なあ、シルクって誰だ? ツクノ、俺で言うマスターみたいな人か?」

 ホムラが疑問を口にした。こういう時は、その率直な口はとても頼りになる。

「んー、マスターとはちょっと違いますねぇ。盟友って感じでしょうか? 二人で、結構長く組んでるんですよ」

「ってことは、そいつも」

「ストップ!」

 ホムラのまた失言しそうな口を、ケイトは急いで塞ぐ。前言撤回だ。率直過ぎるその口は、何を言うかわからなくて胃が痛くなってくる。

 ツクノが、じとっとした目でホムラを見ている。ホムラが、苦笑しながら首を横に振った。

「シルクは、素晴らしい力を備えた上位の道具使い、ハイ・ユーザーだ。私の下に集ってくれた者の中でも、頭抜けた実力を持っている」

 ケイトたちのやり取りを見ていた王様が、助け舟を出すように微笑を浮かべながら答えた。

「ハイ・ユーザー?」

「ああ、そうだ。道具の力をさらに引き出した者のことを、そう呼ぶのだよ。ただ、ハイ・ユーザーはこの世界にも殆どいなくてね。希少な存在とされているのだよ」

「へえ……。凄いんですね、そのシルクって人は」

 感心するホムラに、ツクノと王様が揃って大きく頷いた。

「シルクさまは、とても強い道具使いなんですよー。わたしが知る限り、一番強いと思いますー」

「私も同感だよ。しかし、残念だな。シルクがいれば、解放軍とももう少し戦えるだろうに」

「……あー、そうだった。王様、さっきの話の続きなんですが」

 ホムラが、思い出したように続ける。

「なんで、あの人たちは騎士なんですか? 騎士団の名前も結構ふざけた感じですし、どう見ても戦えるように思えないのですが」

「そうだね。彼らに、自ら戦う力はないよ」

「だったら、なんで」

「良いのだよ、彼らにその力がなくても。あの子たちは皆、誰かに見られることこそ役目なのだから」

 王様の言葉に、ホムラが首を傾げる。ケイトも、その意味がよくわからなかった。

「私はね、美術館の具現化した存在なのだよ。そして彼らは、美術品だ。人の目に触れさせるには、ちょっとくらいふざけた名前の方が気を引きやすいだろう? そうやって人の目に触れ、その心に何かを残すことで彼らは存在という力を増し、私もまた自身の加護を高めることができる。彼らと私は、繋がっているのだからね」

「繋がっている?」

 思わず、ケイトは口を挟んだ。

「そうだ。私は美術館だからね、彼らがいてくれないとその名を冠することができないのだよ。彼らは彼らで、自身を見せる舞台がなければ、埋もれていくばかりの存在。互いがあってこその、美術館と美術品なのだ。だからこそ、私は騎士団の皆と、いつも繋がっている」

「ということは、美術品である騎士たちの力が、そのまま王様の力になるってことですか?」

 ケイトの問いかけに、王様が満足そうに頷いた。

「彼らは、戦えないユーザーだ。それでも強い加護はあるし、馬鹿にできない力もある。ただ、誰かを攻撃するための力ではない。彼らのモノとしての本質は、どこまで行っても見られることなのだ。ゆえに、私が力を束ね、代わりに表へと出すのだよ」

「実際、凄いんですよ? たくさんの騎士さまを抱え、加護を束ねることで、この王都はとても強い力に守られているんです。解放軍はもちろん、鉄鬼も近寄ろうとしないほどなんですよ」

 王様の言葉を、ツクノが補足するように説明した。

「……それは凄いけどな」

 一度言葉を切ったホムラが、二人をキッと睨む。

「でもよ、結局はここを守ってるだけじゃないか。この王都の外では、今も解放軍や鉄鬼に怯えてる奴らがたくさんいるんだぜ? 自分たちだけが安全でいいのかよ」

 気持ちが昂っているのか、ホムラが荒々しい口調で言った。王様にそんなことを言って、周囲の人たちが非難の声を浴びせているようだが、ホムラが気にした素振りはない。

 当の王様は、少し困惑したような顔をしていた。

「そんなわけはないさ。この王都以外の民も、私の民であることに変わりはない」

「だったら」

「やれやれ。君は、もう少し落ち着いて口を開いた方が良いかもしれないね。誰も、ここにいる彼らだけが、騎士団の全てとは言っていないよ」

「えっ?」

 ホムラが少し間の抜けた声を出した。顔も、ハトが豆鉄砲を食らったようになっている。それは多分、自分もだろう。

「私にも、攻めるための騎士団はいるさ。今は任務のために、この場を外しているがね。いくらなんでも、防ぐだけで世界の脅威を何とかできるとは思っていないからね」

 尤も、と一度言葉を切った王様が、申し訳なさそうな顔をした。

「君の言う通り、思ったようにはなっていないのが現状だ。実際、王都から西の方は、解放軍に占領されつつある。それは、王として恥ずべきことだと考えているよ」

「あっ、いや、えーと、その……。失礼を申し上げました」

 途端に小さくなったホムラが、か細い声音で謝る。王様はまったく気にしていないようだが、周りからは罵声や怒号などのブーイングが嵐のように飛び交っている。

 ホムラが、ばつが悪そうにケイトの後ろへと隠れた。それでもかけられる、ブーイングの雨。ケイトが言ったわけでもないのに、まるで自分が罵倒されているようで、何だか居たたまれない。

「さて、そろそろ話を始めようか。君たちを受け入れるか否か、それを決めよう」

 一度咳払いをした王様が、表情を改めた。

「武器を構えてくれ。君たちが私の矛になり得るのかを、見せてもらおうか」

「えっ、まさか王様と戦うんですか……!?」

 いきなりの展開に、少し声が裏返ってしまった。

 この人がとんでもなく強いのは、傍にいるだけでもよくわかっている。常に余裕とも取れる態度を崩さない王様からは、何故か隙が一切見えない。ばかりか、構えているわけでもないのに、剣先を喉元に突き付けられているような錯覚さえ覚えてしまう。

 ――もしも戦うのならば、最初から全力で行くしかない。

 気持ちから身構えようとしたが、それを制するような声がかけられた。

「はは、そうではないよ。ただ、武器を構えるだけでいいのだ。それで、見えるものがある」

 王様の声に、ケイトはホムラと顔を見合わせた。何が何だか。互いに目でそう言い合ったが、ここは言われたとおりにするしかない。

「金髪の君、名は何と言う?」

「は、はい。ホムラと言います」

「ではホムラ君。まずは君から見せてもらおう。武器を、構えてくれ」

 頷いたホムラがケイトの後ろから出てきて、具現化した剣を構える。剣は、どこか庖丁を彷彿させるような形だ。

「ほう」

 王様が、感心したような声を上げてホムラをじっくりと眺めていく。ケイトも、少し離れてホムラに視線を送った。送ったが、ただホムラが普通に剣を構えているようにしか見えない。

 それでも、王様は何かを感じ取ったようだ。

「なかなかの手練れだね。私の騎士団にも、君ほどの力を持っているモノはなかなかいないよ」

「はあ、どうも」

「よろしい。では、もう一人の君も構えてくれるかな?」

「あっ、はい!」

 ホムラに気を取られていて、思わず上擦った声になってしまった。周りから笑われている気がするが、ケイトは気にせず意識を集中した。

 ――行こう、太刀鋏。

 呼びかけ、手元から微かな光と共に二振りの刀が姿を現す。その二本の刀を、縦と横に一度ずつ振ってから構えた。

 視界の風景が、一気に変わる。この目に、様々な繋がりが映り始める。飾らナイトから出ている無数の赤い色の光が、王様に伸びていることに気づいた。他にも、ホムラと道具の繋がりが見える。

 さっきまで見えなかったものを見るべく、身近にいるホムラをじっくりと見る。ホムラと剣の繋がりが、よく見えた。赤い色の強めの光が、ホムラと扱う道具を糸のように繋いでいる。

 目を惹いたのは、それだけではない。

 ホムラの体を、青白い光が包んでいた。それはまるで鎧のような厚さを持っていて、ちょっとやそっとではホムラの体にまでは届きそうもない。ただ、武器を構えた途端に見えるようになったから、これも力の一種なのだろうと思った。いや、もしかしたらこれが、道具の加護なのかもしれない。

「これは」

 王様が、言葉に詰まった。少しの間待ってみたが、なかなか続きの言葉は出てこない。

 思えば、周囲も相当ざわついているようだ。ちらと見える顔は、どれもが驚きに満ちている。

「……君、名は?」

 その言葉が出たのは、ケイトが構えていくらか時が経ってからだった。

「はい、ケイトと申します」

「ケイト君。はっきり言って、君の力は尋常なものではない。これほどの加護の持ち主を、私はシルク以外に知らないよ」

「そ、そうなんですか?」

 自分では、その力の凄さはわからない。確かに、太刀鋏は凄い力で引っ張ろうとしてくるのを感じるが、意識してしまえば抑えるのはあまり難しくない。

 それに、どちらかと言えば、凄さならばケイトよりも王様の方が上だろう。王様の体からは、どこまで広がっているかわからないくらいの青白い光が放たれているし、騎士たちと繋がる糸の数も異常だ。十本二十本では足りず、数えるのも億劫になる数の光の糸が纏わりついている。

 これがおそらく、王様の言う力を束ねるということだろう。

「でも、僕なんかより、王様の方が凄いと思いますけれど」

「どういう意味かな?」

「だって、物凄い数の糸を束ねてらっしゃいますから」

 王様の表情が、瞬く間に凍りついた。

「……ケイト君、まさか見えているのか?」

 王様の声に、驚きが混じる。見えているというのは、光の糸のことだろうか。

「糸のような光、ですよね? 見えてますけど」

「そうか……。まさかこんな若者が、繋がりを可視化できるとは」

「可視化?」

 ケイトは疑問を投げかけるように言ったが、王様はそれに答えてはくれなかった。

 王様が、ケイトの両肩を大きな手で力強くと抱いてくる。少し興奮しているのか、色白の肌が微かに紅潮していた。

「とんでもない逸材を連れて来てくれたな、ツクノ君。この若者は、本当にクロス・ワールドの救世主になるかもしれない」

 嬉しそうに口元で笑んだ王様がケイトを、次いでホムラを見た。

「二人とも、合格だ。是非とも、私に力を貸してくれ」

 その言葉に、ケイトはホムラと思わず顔を見合わせた。あまりにもあっさりしていて、ちょっとだけ不安になったのだ。

 しかし、嘘ではない。周囲からの祝福の声や王様の見つめてくるまっすぐな瞳には、冗談は一切感じられなかった。

「は、はい!」

 声を揃えて、ケイトたちは答えた。

 ホムラが嬉しそうな顔をし、ツクノが飛び跳ねるようにして喜んでいる。自分も、実力があると認められて一安心だ。

 ただ、気掛かりなことがある。

 ――繋がりの可視化って、あの光が見えること?

 王様の言葉が、頭の中を駆け巡る。

 認められた喜びよりも、ケイトはその疑問を噛み締めるように考え続けた。

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