2-2 異世界の王都
城門を潜った先では、西洋風の街並みが待っていた。
石造りの家が、一定の間隔を保ちながら厳かに並んでいる。足元はきれいに整った石畳で、一番奥に佇む城も西洋チックなものだ。ここまで見た二つの村が和風で古風だったために、王都も和風の城と城下町だろうと想像していたケイトは、あまりの違いに面食らってしまった。
すっかりお上りさんのように辺りを見渡していたら、あることに気づいた。
「王都という割には、あまり人がいないね」
家の数も開いているお店もそれなりにあるのに、人通りはあまりなかった。何人かがまばらに通り過ぎるばかりだ。
「仕方がありませんよ。みんな、城下町には興味ありませんもん」
「どういうこと?」
「それは、行ってからのお楽しみでーす」
ツクノが笑みを浮かべながら言ったのに対し、ケイトはホムラと顔を見合わせた。ホムラもよくわからなかったらしく、怪訝そうなものを顔に浮かべている。
そんなことをしている間に、ツクノが「早く早くー。こっちですよー」と言ってどんどん前へと進んで行く。宙を浮いているものだから、普通に走るよりも段違いに速い。
何が何だかわからないが、ここは彼女を追いかけるしかない。ケイトもホムラも、この王都の地理に暗いのだ。
すいすいと宙を飛んでいくツクノを、ケイトはホムラと共に必死に走って追いかけた。身体能力が上がっているから息こそ切れないが、思えば昼食はまだだ。空腹で一生懸命走るのは、結構辛い。
必死に着いて行く自分たちへと一度視線を送ったツクノが、いたずらっぽく笑んでから、さらに速度を上げた。
「……あいつ、絶対わざとだろ」
「……かもね」
二人で溜息を吐き、見失わないように走り続ける。
やがて、ツクノが小さな門がある所で止まり、ケイトとホムラは足を緩めた。
門の左右には、甲冑を纏った騎士が槍を片手に佇んでいた。
こちらに気づいた騎士が、槍で門を塞ぐようにしてくる。
「この先は王城へと繋がっている。入城券かそれに準ずるものを持っていない者は、ここを通すわけにはいかぬ」
「推薦状がありまーす」
ツクノが、ケイトを見ながら言った。
頷き、懐から推薦状を出す。ホムラもどこかでもらっていたらしく、同様に差し出している。
推薦状に気づいた騎士たちが、すぐに槍を引っ込めた。
「これは失礼を。陛下をお呼びするので、彼らを見ながら待っていてくれ」
騎士の一人が、駆け足でこの場を離れた。
残ったもう一人が門を通るように促してくるが、ケイトとホムラは騎士の言葉に首を傾げていた。
「彼らを見ながらって?」
「おや、ここに来るのは初めてなのか。まあ、この先に行って実際に見ればわかるぞ」
騎士が、再度通るように促してくる。
言っていることの意味がわからず、やはりホムラと顔を見合わせていたが、いつまでも立ち往生しているわけにもいかない。先を急ぐことにした。
門を潜り抜けると、途端に騒がしいほどの人の声が出迎えた。
さっきまでの城下町が嘘のように、この場所は人で溢れ返っている。別段お店があるようでもないのに、人々は何かを見て回りながら談笑している。
ケイトは、彼らの視線の先を追った。きっと、珍しいものでも飾られているのだろうと思いながら。
しかし、この目に映ったものは、想像とはまったく違っていた。
「……何、あれ」
一瞬、言葉が出なかった。
人々の視線の先にあるもの。それは、自身を見せびらかすようにしているたくさんの人だった。ある人は煌びやかなドレスを纏っては一回転して見せたり、またある人は刀を抜き払って構えを取って見せている。もっと凄い人では、ブーメランパンツ一丁でポーズを決め、自慢の筋肉を見せびらかしている。その彼らの場所は一定の区画で区切られ、まるで展示物でも並べているかのようだ。
そんな光景が、そこかしこで繰り広げられていた。
「あはは、どうですかー? 王都ミュゼムの名物、お飾り騎士団・飾らナイトの雄姿はー?」
くすくす笑いながら言ったツクノに、ケイトとホムラは思わず聞き返していた。
「お、お飾り騎士団……?」
「飾ら、ナイト?」
冗談みたいな名前に、首を傾げながらツクノを見た。つぶらな瞳を向けたツクノが、笑みを浮かべたまま首を傾げる。この反応は、冗談じゃない。
もう一度、飾らナイトと呼ばれた彼らを見る。大体がポージングを決めているだけで、どう見ても騎士には見えないし、戦えそうもない。
その一人と、ケイトはばっちり目が合ってしまった。筋肉隆々とした濃い顔の大男が、ポーズを決めながらウインクを飛ばしてくる。悪寒が走り、思わず一歩たじろいだ。
「おい、こんな戦えそうもない奴らを騎士団にするなんて、ここの王様は大丈夫なのか?」
ホムラが遠慮なく疑問を口にする。
「むー、大丈夫に決まってるじゃないですかぁ。鉄鬼や解放軍が暴れているのに、この王都がこんなに賑わっているのも、今の王様のおかげなんですよ?」
「そうは言うけどな、解放軍も鉄鬼も何とかできてないじゃないか。こんな奴らを見世物みたいにするより、もっと強い道具使いを雇い入れた方が良いと思うが」
「うむ。確かに、君の言うことは尤もだ」
不意に、やや低めの男の声が割って入ってきた。
ケイトたちが反応するよりも早く、その声の主はさらに言葉を続ける。
「だが、直接戦う力だけが全てではない。彼らのように、後ろで支えてくれる力も必要なのだ」
声が聞こえてから一拍遅れて振り返り、ケイトは声の主を見た。
灰色の外套を身に纏った長身の男が、ゆっくりとこちらに向かって来ていた。
男が歩む度に、背までもある白銀の髪が微かに揺れる。まるで本物の銀のようで、照り付ける陽光によってその髪が眩く煌めいて見えた。
「王様だ……!」
誰かの呟くような声が漏れ、この場の喧騒が一気に静まる。
ひしめき合うようにしていた人たちは我先に左右へと寄り、道の真ん中を開ける。
開いた道を悠然と歩き、やがて王様が、ケイトたちの目の前で立ち止まった。
「ようこそ、王都ミュゼムへ。私がこの国の王、アートだ」
向けられた静かな声音に、思わず体が強張る。
口元で微かに笑んでいるだけなのに、この国王からはとんでもない威厳を感じた。




