8-16 見出した僕の答え
両の刀に、力が集まっていく。ケイトの内より出でた断ち切るための黒の光と、繋ぎ紡ぐための白い光が交わり合い、凄まじい圧を放つ道具の加護となって刀身を包み込んでいった。白と黒の交じり合った、眩くも暗い光を湛えた刀が、一度妖しく光る。
同時に、体中へと凄まじい力が満たされていくのを感じた。荒々しくも、どこか穏やかなものが、太刀鋏を通して伝わってくる。
――やれる。
確信に似た思いを抱きながら、ケイトは玄武へと真正面から突っ込んでいった。
「オオオオッ!」
激しい咆哮を上げた玄武が、無数の土塊を瞬時に地面から呼び起こし、宙に浮かせた。それらは瞬く間に膨れ上がり、火薬が炸裂したような音を立てながら破裂した。無数の土の破片が、四方八方へと散弾のように飛び散る。ケイトに対しては、特に多くの土塊が迫ってきていた。
異様な勢いで迫るそれらだが、ケイトの目にはその動きの軌道が、はっきりと映っていた。どこに行けば当たらずに済むのかが、確かに見える。
――右、右、左へ行って前に。
まるで呪文のように口の中で呟きながら、無駄のない動きで土塊をかわしていく。気づいた時には、ケイトは土の破片を全てやり過ごし、玄武の間合いに入ろうとしていた。
「グオオアァァッ!」
避けられたことに憤りでも感じたのだろうか。赤の双眸を怒りに燃やした玄武が、背のクレーンを叩きつけるように思い切り振り下ろしてくる。さらには、ケイトが左右に避けないように、土の棘を壁のようになるくらいに何本も突き出してきた。
確かにこれでは、後方に跳ぶか、さらに前へと進むかしかできない。
だが、下がるつもりなどない。ならば、答えは一つだ。前に出て、玄武との間合いに入る。
そのために、迫り来るあれは邪魔だ。
「斬る」
駆けながら刀を振り上げ、思いっ切り振り下ろした。切断音が、短く鳴る。刃が静かに、迫り来るクレーンを斬った。
勢いが唐突に死に、束の間ピタリと動きを止めたクレーンが、二拍の間を置いてから音を立てて真っ二つに割れた。まるでから竹を割ったようなきれいな断面を見せたクレーンだったものが、力なく地面へと落ちていく。
その軌跡を目の端に止めることもせずに、ケイトは玄武へと迫った。一歩、間合いに入る。今の攻撃に衝撃を受けたのか、僅かに動きを止めていた玄武が、俄かにこちらへと殺気を向けてきた。
「オオオオッ!」
再び咆哮を上げた玄武が、俄かにキャタピラの前面に大きな壁のようなものを出してきては、それを押し出すようにしてきた。形としては、ブルドーザーのものによく似ているだろうか。多分、あれで接近を防ぐと同時に、ケイトのことを弾き飛ばすつもりなのだろう。
だが、そうはいかない。この戦いに、もう猶予はないのだ。二人に迫る影は、もうほんの僅かな距離しかない。
――二人の、正しい繋がりを紡ぎ直すために。
今ここで、悪しき繋がりを断ち切る。
その思いに応えるように、刀が一度強い鼓動を伝えてきた。以前のように警告してくることは、もうない。少しだけ離れていた互いの思いは、ようやく一つに戻った。
だからだろうか。刀が、不思議な光に包まれたのは。
黒と白がないまぜになったそれは、まず糸のようなものを作り出しては柄頭を通り、さらには刀身のような形を作ると、元々の刀から二倍三倍もの長さの刃を形成した。
これならば、玄武の巨体にも刃が届く。
「行くよ!」
地面を思いっ切り蹴り、ケイトは高く跳躍した。玄武の攻撃をかわし、そのまま頭上を取る。
両手の刀を合わせるようにしてから、ケイトは降下しながら一気に振り下ろした。狙いは、玄武の真中に走る繋がりの糸と、二人に迫る黒い影。
玄武が咄嗟に土塊の風船を出し、さらには異様に硬そうな岩を盾にしてきたが、構わず刀を振り下ろす。
勢いよく、それでいて静かに、刃が地上へと降りていく。土の風船も岩の盾も、玄武さえも切り裂きながら、まっすぐに落ちる。
光の刃が、影を捉えた。斬撃を受けた影は真っ二つになることもなく、刃に触れた途端に跡形もなく吹き飛ばされていく。
「はあああっ!」
裂帛の気合を上げ、ケイトは刀を一気に振り抜いた。
その間、全てのものが動きを止めた。斬られたはずの物たちは、束の間左右に断ち割れることもなく、ただその場にいた。まるで斬られたことに気づかないように、ただそこにあり続けた。
だがそれも、唐突に終わりを告げる。
ケイトが地上に降り立ったのを契機としたのか、風船は左右に分かれて霧散し、岩の壁は音を立てて地面に落ちていった。そして玄武は、動きを止めたまま唐突にその姿を消した。
ただ、消えたのは、巨大な大亀の姿だ。ケイトの目の前には、力なく横たわる二人の男女の姿がある。
ケイトは、その二人にそっと近づいた。どちらも青白い顔をしているが、弱々しいながらもちゃんと息をしている。二人は、無事だ。
「や、やった……! ケイトさま、やりましたよ!」
嬉しさのあまりか、憑依を解いて外に出てきたツクノが、喜びと驚きがないまぜになった顔をしながらはしゃぎ回る。
ケイトも同じように喜びたかったが、不意に足音が聞こえ、そちらに目を向けた。
そこには、表情を驚愕に満たした仲間たちがいた。特に、シルクの顔は、誰よりも驚きに満ちている。
「ケイト、その力は」
驚きで声を詰まらせ、それ以上続けられないシルクに、ケイトは口元に笑みを浮かべながら答える。
「これが、僕の見つけた可能性だよ。断ち切れてしまった繋がりを、紡ぎ直す力だ」
「紡ぎ直す……?」
「そう。間違った繋がりは、断ち切って終わりにするだけが、全てじゃないと思うんだ。ううん、繋がりに良いも間違いもない。どんな繋がりだって、また繋ぎ直せるはずなんだ。途切れた糸をまた撚って紡ぐように、繋げられるはずなんだ」
「そうか。だから、玄武は」
シルクの言葉に、ケイトは力強く頷いた。
玄武を、黒い影を断ち切った時に、それとほぼ同時に紡ぐ力が発動していた。悪しき繋がりを断ち切った瞬間に、玄武の繋がりの糸を修繕する。自身の力をひどく使うものだったが、どうやらうまく繋げたようだ。
驚いているシルクが、目をそっと閉じて小さな笑みを浮かべる。それは嬉しそうに見える半面、少しだけ寂しそうにも見えた。
そのシルクが、ゆっくりと目を開いて、何かを口にしようとする。
しかしそれは。
「また撚って紡ぐだって? 馬鹿馬鹿しいな。そんなこと、できはしないよ」
唐突に割って入ってきた少年の声によって、押し止められた。




