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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
八章 託された願い
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8-15 二つの能力

「行くよ」

 小さく言い、一気に間合いを詰める。

 狙いは、右のキャタピラ。近づき様に、左の刀を振り被った。

 瞬間、地面から殺気のようなものを感じ、ケイトは咄嗟に攻撃を中断し、左へと跳んだ。それとほぼ同時に、地面から太く尖ったものが勢いよく突き出す。そのものから、茶色の粉が辺りに散っていく。あれは、土が固まったものだろうか。

 瞬間的に考えようとしたが、その暇も与えられなかった。ケイトが着地したのと同時に、再び同じような攻撃が迫る。二度三度と跳び、近づこうとするが、攻撃も繰り返されるから、なかなか近づけない。

「厄介だな」

 避けながら、思わず口から言葉が漏れた。足元から迫る攻撃というのもそうだが、何よりも厄介なのは攻撃動作がないことだ。玄武は殺気を放ちながらこちらを見ているだけなのに、攻撃は放たれる。ノーモーションほど、対応しにくいものはない。

「ケイトさま、だったら」

「わかってる」

 ツクノが言わんとしていることをすぐに理解して、被せるように言葉を継いだ。それからすぐに、ケイトは左の刀を玄武の頭上目掛けて投げ飛ばした。

 勢いよく飛んでいく刀が、空間の光を捉える。刀は針の槍の特性を得ているため、同じようなことができるようになっていた。自身の体が、糸を引くように宙へと引っ張られる。

 さすがに地上にいなければ、地面からの攻撃をされようもない。瞬く間に玄武の頭上へと移動し、ケイトはすぐさま両の刀を振り上げては、一気に振り下ろした。狙うは、右の首だ。

 だが、玄武もそう簡単に攻撃をもらう気はないらしい。

「オオオオッ!」

 一度天を仰いで玄武が吼えると、次の瞬間には地面から勢いよく土の塊が飛び出てきた。その塊は玄武を守るように周りを回りながら浮き、徐々に徐々にとその大きさを増していっている。

 あれは一体何なのか。正直、考えてもわかることではない。何よりも、既に刀は振り下ろしているのだ。盾のように守っているならば、斬り倒すまでだ。

「ケイトさま、待って!」

 共有した思考を読み取ったのか、ツクノが咄嗟に叫んだが、遅かった。刀は、土塊の一つを切り裂こうとしている。

 刃が、土塊に届く。瞬間、その塊が大きな破裂音を立てて、勢いよく土が辺りに飛び散っていった。空中にいるケイトは、身動きが満足に取れない。散弾のように迫る土を避けられず、顔や体にまともに食らって後ろに吹き飛ばされた。

「くっ!」

 地面に叩きつけられる寸前に何とか受け身を取り、すぐに体勢を立て直す。土の直撃したところがひどく痛むが、ケイトは何とか堪えた。

 頬から、どろりとしたものが流れているのに気づき、ケイトは右手の甲で拭った。土というより、岩のつぶてを食らったような気分だ。腕や腹を強かに打った部分も、やや熱を持ちつつある。

「あの攻撃は、一体……?」

 疑問を口にすると、ツクノがすぐに答えてくれた。

「あれは、ウリナのユーザー能力です。ウリナは、風船の道具使いなんですよ」

「風船……。そういうことか」

 すぐさま風船に関わる事象が思い浮かび、納得した。

 浮く、膨れる、破裂する。真っ先に頭に浮かんだのがそれだ。そのいずれも、今の攻撃に使われた力である。

 一見すれば大したことのなさそうな力も、規模が変われば十分脅威的だ。現に、破裂した土塊による攻撃は、ケイトにしっかりと傷を残した。

 土が岩のように感じたのは、多分玄武そのものの力だろう。大地を司るということは、土も岩も、大地に属する何もかもが玄武の味方ということになる。自在に操ることなど、息をするように容易なはずだ。

 厄介な能力だが、それでもケイトに焦りはなかった。敵の力がわかれば、対処のしようもある。

 ケイトは、もう一度玄武の頭上に刀を投げた。すぐさま体を引き寄せ、また頭上を取る。

「オオオオッ!」

 再び吼えた玄武が、土塊を宙に浮かせてきた。それらが、玄武を守るように勢いよく回る。

 宙を跳びながら、ケイトは右の刀を引き、狙いをすました。回る土塊の半分が、ほぼ一直線上に集まる時。その時が来るのを刹那の間、待ち受ける。

 土塊が、いくらか重なった。

「そこだ!」

 右の刀を突き出し、手を放して一気に飛ばす。紫電を思わせるような速さで飛んだ刀が、次々と土塊を貫いていく。だが、破裂はしない。刺し貫いたと同時に、紡ぐ力でその傷を縫い縛っている。土塊の風船は団子のように連なったまま、刀に導かれて地面に突き立った。

「ッ……!?」

 微かな驚きの声を上げた玄武の意識が、一瞬ケイトから逸れた。

 そこを、逃しはしない。

「はああッ!」

 裂帛の気合と共に、残った刀を振り下ろす。背中の、分厚い甲羅。異様に硬そうな装甲を持つ甲羅だが、そんなことは大した問題ではない。そこに走る繋がりの糸目掛けて、刃を振るった。確かな手応えと共に、糸が多く切れる。

「ガアアアッ……!」

 確かなダメージを負って、玄武が怯む。しかし、ほんの一瞬だ。次の瞬間には、真っ赤に光る双眸に憤怒を漲らせた玄武が、背中からクレーンのようなものを射出し、ケイトを打ち落とそうとしてきていた。

 攻撃の直後だが、ケイトはすぐに、地面に突き立っている右の刀へと自身を引き寄せた。

 最中、クレーンの一撃が腕を掠る。掠っただけなのに、腕には強い衝撃と削られたような痛みが走った。

「ケイトさま、足元!」

「わかってる!」

 ツクノの言葉にすぐさま反応し、地面に降り立つと同時にすぐさま右へと跳ぶ。刹那、足元から土の棘が伸びてきた。それは、何度も何度も襲い掛かってくる。

 襲い掛かってくるのは、それだけではない。土塊の風船もまた現れ、さらにはクレーンも叩きつけるように落ちてくる。特にクレーンの先端は、大きなショベルの形になっていて、直撃すればまず間違いなく体は削り取られてしまうだろう。

 それでも、やはりケイトに焦りはなかった。確かに玄武の攻撃は強力なものばかりで、破壊力に富んでいるが、その分動きはいくらか単調だ。まったく対応できないわけではない。

 地面を絶えず駆け抜け、その最中に待ち針を放っては土塊の風船の影を刺し貫いて動きを止め、遮るように突き出した棘は地面から顔を出した瞬間に断ち切った。クレーンによる攻撃は振り回し、突っ込んでくるばかりだから、軌道さえ見切れれば何とか避けられた。

 戦闘に関しては、今のところは何とかなっている。もしも焦るとしたら、それはシェンとウリナの状態の方だろう。

 今、目に見える彼らは暴れるのをやめ、何かを受け入れたかのようにぼんやりと立ち尽くしている。その後ろで、鬼のような姿をした二つの黒い影が、ゆっくりと二人に歩み寄っていた。影は凄まじい殺気を放っていて、禍々しいまでの悪意を感じる。

 あの影に呑まれてしまったら、完全な鉄鬼になる。ケイトにはその確信があった。だとしたら猶予は、もうあまりないのかもしれない。

「斬るしかない。あの、黒い影を。装甲ごと、完全に」

「でもでも、影を斬ってしまったら、二人も道連れになるんじゃ……?」

 駆けながら呟いたケイトに、すかさずツクノが反応してきた。

 その可能性は、大いにある。あれが彼ら自身の影であるとしたら、斬ることで二人が一緒に消えてしまうかもしれない。

 だが、そうさせるつもりは毛頭ない。

「道連れになんかさせない。僕が、必ず二人を繋いでみせる。そのために、僕はここへ来たんだ」

「それでもし、できなかったら……?」

「考えない。できなかった時のことなんか、僕は考えないよ。やると言ったらやる。それだけだ」

 ツクノは少しの間黙って考えていたようだが、やがて諦めたのか、開き直ったように声を上げた。

「あーもう、わかりましたよぅ! こうなったら、とことんケイトさまを信じますからね!」

 頭の中で響く声に頷き、ケイトは駆けながら集中力を高める。

 ――行くぞ、太刀鋏。

 口の中で呟いた言葉に、刀が一度、強い鼓動を伝えてきた。

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