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モノとの正しい付き合い方  作者: 千変万化
八章 託された願い
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8-14 鋼鉄の大亀

 やがて、少し開けた場所に出た。

 そこは、何もないところと言っても良かった。さっきまでは点在していた瘦せた木々は、近くには一本もない。丁度この場の木々が、大きな円の形に根こそぎ刈り取られたかのようだ。眼前には干からびた大地が遠くまで続き、大きめの円の外周まで行って、ようやく木々がぽつりぽつりと見える。

 その中央で、二首の巨大な大亀のような生き物が、天を仰ぎながら咆哮を上げていた。

「あれが、玄武……!」

 半ば呆然としながら呟いたケイトを、四つの赤い双眸がぎらりと睨んできた。

 圧倒的威圧感に、つい後ずさる。

「オオオオッ……!」

 異様に大きい声に、ケイトは思わず衝撃を防ぐような体勢を作る。

 くぐもった声は思った通り衝撃を生じさせ、こちらにまで飛ばしてきた。まるで突風が吹いたような勢いで、足を踏ん張っていないと吹き飛ばされそうになる。

 その衝撃を受けながら、ケイトはあるものから目を離せなかった。

 それは、鋼の装甲と溶け合うように混ざり合った、玄武を覆う道具の加護だ。鉄鬼特有の、禍々しいほどの青い色をした繋がりの糸が、その肉体を侵食している。最早、玄武の道具の加護は、全て鉄鬼の力に呑み込まれていると言っていい。

「間に合わなかったか。やっぱり、壊すしかないようだね」

 ケイトと同じものでも見たのか、シルクが舌打ち交じりに言った。

 顔には寂しいものが浮かんだが、一瞬で消える。顔を強張らせたシルクが、鋭い殺気を放ちながら大太刀を構えた。

「やるよ、お前たち。玄武を、ここでぶち壊す」

「待って」

 前に一歩踏み出そうとしたシルクへと、ケイトは咄嗟に立ち塞がった。

 突然のことに訝ったのか、シルクが鋭く睨んでくる。それは少し恐ろしいものだが、ケイトは負けじと睨み返すように彼女を見て、続ける。

「ここは、僕に任せてくれないかな」

「何だって……?」

 一瞬唖然としたシルクが、途端に怖い顔をした。

「冗談も場を弁えな。たった一人で、暴走した玄武をどうにかできると思っているのかい? 思い上がるのも大概にしなッ!」

 強い口調で怒鳴られるも、ケイトは一歩も退かない。

「無茶なのは、わかってる。けれど、どうしてもやりたいことがあるんだ。それができれば、きっと玄武を救える」

「救うだって? お前には見えているはずだよ。加護が侵されて完全に鉄鬼と化し、元に戻れなくなった玄武の姿が。それでも、まだ救えると思っているのかい?」

「思ってるよ。だって僕は、そのためにここへと来たんだから」

「ケイト、お前って奴は……!」

 怒りで顔を歪めたシルクが、さらに強く睨んでくる。ケイトはそれを、今度は物怖じせずに見つめ返した。

 ほんの僅かな間だけ、視線を交わし合う。

「……いいんじゃない。ケイトに任せてみても」

 それを、サラの静かな声音が途切れさせた。

 シルクが、すぐさまサラを睨む。当の彼女は、小さく笑みを浮かべていた。

「ケイトは、理由もなく大口を叩く人じゃないよ。何か、考えがあるんだと思う。だったらボクは、それを信じてみたいな」

「サラ、お前まで何を」

「同感だな。俺も、ケイトを信じるぜ」

 シルクの言葉を遮るように言ったホムラが、剣を収めて一歩下がった。シルクがすぐに睨むも、ホムラは苦笑するばかりで、剣を出そうとはしない。

 その中で、ウルだけはどうすればいいのか迷い、困惑しながらシルクとケイトを見ている。

 それらを見ていたシルクは束の間呆然としていたが、やがて折れたように深い溜息を一度吐いた。

「……そこまで言うのならば、勝算はあるんだろうね?」

「ある」

 それだけを短く言うと、シルクがまた溜息を吐いた。

「……わかった。だったら、ひとまずお前に任せようじゃないか。けれど、もしも危なくなったら、もう見ていることはしない。すぐに参戦して、全力で玄武をぶっ壊すから。いいね?」

「それでいいよ。ありがとう、シルク」

 にこりと笑みを浮かべながら言うと、シルクが面白くなさそうにそっぽを向いた。

 彼女にもう一度笑みをくれてから、ケイトは表情を引き締めて玄武を見る。さっき、道具の加護を見ていた時に、他にも何か映った気がする。

 じっと目を凝らして見る。玄武の刺々しい甲羅の真ん中辺りだ。その姿が、徐々にだが映ってきた。二つの人影である。長身の青年とあどけなさが残る少女、だろうか。

 青年の方は頭を押さえながら苦しむも、何かに憑かれたように暴れようとしていた。それを、少女が必死に止めようとしている。

 ――あれは、多分玄武の兄妹だ。

 兄の方が暴れ出し、妹を攻撃しようとする。いや、少し違うか。兄が自分を抑えながら、妹を外に押し出そうとしているように見える。妹はそれを拒み、一緒にいようとしているのかもしれない。

 何にせよ、どちらも正気は保っている。まだ、十分何とかできるはずだ。

 ――壊させてなるものか。

 必ず、二人を救い出してみせる。

 気持ちをより一層奮い立たせ、ケイトは改めて玄武の姿を見た。

 全身を鋼のような装甲で身を包んでいるのは、他の守護獣たちと変わらない。ただ、その装甲はこれまで出会ったどの守護獣よりも、分厚く硬そうに見える。

 だが、それ以上に目を引くのが、脚部を覆うキャタピラだ。大亀にあるはずの四足はなく、大型のキャタピラが足代わりに装着されている。

「気をつけな。あれが守護獣玄武の片割れ、シェンの共鳴道具、掘削機の具現化だ」

 半ば圧倒されるように見ていたケイトに、シルクがそっと近づきながら言った。

「掘削機? ええと、ショベルカーみたいなやつ?」

「そうだけど、それだけじゃない。奴が使えるユーザー能力は、掘削機全般。あのキャタピラは、その一部に過ぎないんだ。攻撃となったら、もっといろんなものを出してくるはずだよ」

 それに、とシルクが続ける。

「さっきも言ったが、あいつらは大地を司っている。何かしらの攻撃に使ってくるのは、間違いないよ」

 頷き、ケイトは玄武へと目を向けた。

 本当は、もう少し情報を聞いておきたかったが、突き刺すような玄武の殺気を感じてやめた。もう、待っていることはしない、ということだろう。

 だがそれは、こちらも同じだ。二人を、これ以上苦しんだままにするわけにはいかない。

「やるよ、ツクノ。今度はもう、離れてなんて言わないから」

「は、はい!」

 ケイトがしようとしていることを憑依で悟ったのか、ツクノが声を上擦らせながら言った。

 しまっていた刀を、ケイトは目を瞑りながら具現化した。刀身を交差させるように刀を持ち、左右に振り抜く。

 そっと目を開け、刀に目をやった。刀身が中心から縦に、黒と白の二色に染められている。

 ケイトは、自身が持てる全力を放出した。黒の力だ。以前ならば自身をも傷つけてしまう力だったが、今は違う。刀に黒い光が宿っても、力が暴発することはない。

 刀を低く構え、ケイトは玄武を睨むように見る。瞬間、赤の双眸と目が合った気がした。

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