47. クラスメイトの課外授業(薬学)
遅くなってすみません!投稿しました!
媚薬が入ってると言われても、私には何の変哲もない、可愛らしいケーキにしか見えない。戸惑っていると、エリアスがお菓子を包みなおして席を立った。
「アリス、ついてきて」
全然意味がわからない。とりあえず学舎から外に出たエリアスの後ろをついて歩いて行く。エリアスはアカデミー本校の方へと向かっていた。いわゆる大学にあたる部分で、初等部・高等部の生徒は本校の敷地内に入ることは出来ないはず。
「そっちは立ち入り禁止でしょ?」
「俺は入れる」
初耳だった。アカデミー本校に入れるってことは、研究員なの?
「聞いていい? どうして入れるの……?」
私は歩きながら質問した。本校の学生か、職員、研究員しか入れないはず。私も入れないから、本校敷地内の東図書館には行ったことがなかった。
「この中に、俺も管理に関わっている薬草園があるんだ」
「薬草?植物に詳しいの?」
「ああ。これもね……父が詳しかったから、その影響」
前を歩くエリアスが、振り返って言うから私は大袈裟に肩をすくめて笑ってみせた。
「……エリアスの話を聞いてると、あなたのお父様が物凄い人なんだなっていうのはわかるわ……」
私がそう言うと、エリアスは困ったような顔で笑って、何も答えてはくれなかった。
初めて入る本校は、石造りの重厚な学舎があり、とても綺麗で広かった。でも思ったより人が少ない。
「ここからが薬草園だよ」と教えてもらった敷地もなかり広くて、林もあった。日陰で育つ植物のためだそう。小川と池のある場所に黄色い小さな花が咲いていた。葉が赤みがかっていて見た目は毒々しい。
「これが、媚薬になる、と言われている」
「この花?」
「サティールと呼ばれている。香りを」
エリアスにそう促されたので、恐々かいでみると、花びらからはバニラのような芳香がした。いい匂い~。なんだかぼんやりする。そういえば、さっきのケーキからも似たような香りがしたような?でも、お菓子にバニラは当たり前かと思って気にしなかった。
当たり前じゃなかったんだ。前世の記憶があるせいで気づかなかった。香料としてのバニラはこの世界に存在しないのかもしれない。
「もしかして、エリアスは香りで気づいたの?」
私がそう質問すると、「席が近くて良かった」と呟いてから答えてくれた。
「ちょうどサティールが花咲く季節だったから、なんとなくこの香りを覚えていたんだ」
春から夏にかけて、長い期間、花が咲いているらしい。
「この花の種から媚薬が出来る、と古い文献に残されている。けれど、こうして王都で育てられているサティールは、花が咲いても実をつけない。どうしたら種子が出来るのか研究されているが、まだよくわかっていない」
「種がない?胞子もない?」
「……胞子でもない。根が生きているから、次の春にまた花は咲く。でも増えない」
「変な花」
私が思わずそう言うと、エリアスが笑った。
「そうだね、変な花だ。だから、よく研究対象になるんだけど、生育方法を変えても種が出来ないそうなんだ。効能が媚薬……という点で研究は後回しにされがち。他の疾病への研究を優先してるから。ちなみに花弁を使っても似たような薬が作れるけれど、一過性のもので効果も薄いらしい」
さっき花の香りをかいだらぽやっとしたもんな。でも確かにそれは一瞬だった。ソフィアがプレゼントしてくれたお菓子からはずっと甘い香りがしていた。以前もらったクッキーからも同じ香りがしていた。
「……ソフィアは不可能を可能にしてるってこと?」
「媚薬の精製方法は、とある一族にのみ受け継がれているという伝承がある。俺も半信半疑だったんだが……」
エリアスがそこで言葉を切って、私の顔を見つめてきた。
「ある一族って……まさか、聖女の子孫?」
「……そうだよ。おとぎ話が史実を基にしていた……なんて事例はよくあることだ。君は一体何を知っていて、何を探している?俺には教えてくれないか?」
薬草園は人がいなくて、新緑が綺麗だった。
私はどこからどう話せばいいかわからなかった。
私が黙っていたら、エリアスが「せっかく来たからちょっと土いじっていい?」と言うので、彼が作業するのを目で追った。何も植わっていない場所の土を掘り起こしてる。土壌改良してるのかな。掘り返して表面の土と下層の土を入れ替えてるみたい。時々出てくる小石を除けながらやってて、ちょっと楽しそう。私は隣に座りこんで言った。
「私は未来の出来事がわかるの。それが本当に起こる事かどうかはハッキリとはわからないのだけど」
「……千里眼みたいな力?」
エリアスが手をとめて私の方を向いた。至近距離だと恥ずかしくてまともに顔を見られない。足元の土に視線を落とした。
「いいえ。自分の周りの身近な事しかわからない。ソフィアは聖女の素質を持っている。この国を助けるその力に目覚めるきっかけは、私の死」
土の匂いがする。……ああ、いよいよ変な奴だと思われただろうな……。
「悪魔を召喚して我が身を滅ぼすらしいのよ。私が悪魔を呼ぶなんて!どうやってやるかもわからないのにね!」
私は笑いながら立ちあがった。スカートの裾に少しだけ泥がついたけど、まあいいかとそのままにしておいた。一呼吸おいてエリアスも立ちあがる。彼は本当に背が伸びた。見上げないと話せない。
「突拍子もない話だけど、信じるよ」
真剣に言ってくれるから、心臓がとまったんじゃないかと思う位に胸が苦しくなってきた。『クラスメイト』はいつも味方でいてくれる。柄にもなく泣きそうになっているとエリアスが笑った。
「アリスが死ぬのはいやだな。君がいると学園が賑やかだからね。君のいない世界はさぞ面白みがないだろう」
「私がトラブルメーカーみたいな言い方やめてよね!巻き込まれてるだけなんだから!」
私が怒ると、エリアスが面白そうに笑って「戻ろうか」と言った。そして、成分を調べたいからあのお菓子を預けて欲しいと言われた。
「食べちゃだめだからね」と念を押して、包みごと手渡した。媚薬がエリアスに効いたら困る。
週に2日位は放課後、薬草園に来て、管理や観察をしているそう。高等部入学の際にフランドル伯が手配してくれたらしいので、あのおじいちゃんは、エリアスが植物の研究が好きな事を知ってるみたい。それを聞いて、ふとあの白百合の事を思い出した。
「……以前、エリアスがお詫びにと贈ってくれたあの花は、もしかしてエリアスが育てたの?」
「花?……ああ、グレース……」
思い出したようで、エリアスが笑う。
おっと、かっこよすぎてまた鼻血が出そうだぞ。
「庭で育てている。この冬も咲くように大事にしている。また贈ろうか?」
「是非!」
そう言ったあとで、あの白百合は夫が妻に贈ったものだと思い出した。名前の由来を知ってるかどうかは恥ずかしくて聞けなかった。
毎年、夏になるとエヴルー侯爵家で『魔術師の舞踏会』が行われる。侯爵家に連なる子女はこの場で社交界デビューすることが多い。今年は、国王の庶子であるミシェル嬢がデビューするということで、注目を集めていた。
この休日は、ドレスの仕立てのため、我が家にお針子さん達が多数来ていた。
母が「次の流行はシンプルよ」と張り切っていて、自分の分だけでなく私のドレスも新調したいらしい。私の背も伸びたし、手直しは必要だとは思うけど、一から作り直すのはしんどい。
「……本当に面倒……」
採寸が終わってぐったりしている私がため息をついていると、リラが言った。
「でも、飾りの少ないデザインも、お嬢様はよくお似合いだと思いますよ。それに、新しい仕事が増えて、服飾店もよろこんでます」
もうすぐ『お菓子の舞踏会』もあるし、本格的な社交シーズンが始まって、毎日毎日お母様は忙しそうにしている。近々、我が家でミシェル嬢を招いてのお茶会も開催されることが決まったし、今年は何だか慌ただしい。
そんな中、私はまた騒動に巻き込まれることになった。
「ちょっと~アリスちゃんも来て!アレックスが全然話聞かないのよ!」
その日は雨だったので、教室でカミーユやジュリエットと一緒にのんびりランチしていたら、サシャが突然私を呼んだ。
「どうしたの?」
「……オスカーとアレックスが修羅場なのよ……」
「ええー……それ私が行かなきゃいけないの?」
「アリスちゃん一喝してやってよ。目を覚まさないと、あの二人本当に仲違いしちゃう。アタシ嫌よ?一人の女のせいで友情が壊れるの」
(ほらー同時攻略の弊害が……。ヒロインちゃん、もっとうまくやってえ!)
連れて行かれた庭園では、降りしきる雨の中で男女三人がシュラバを繰り広げていた。
ヒロインちゃんの肩を抱くオスカー……。
その前で対峙しているアレックス……。
ヒロインちゃんは戸惑い、涙を流している……。
雨に打たれてとか、どんだけ周りが見えてないんだ。それともこれは演出なのか。
ドン引きした私は、さっさと教室に帰りたくてたまらなかった……。
お読みくださり、ありがとうございました~。
次は【48. シュラバを治めるには私が悪役になるしかないのか】です。
明日、更新予定です。よろしくお願いします~。
(2020/3/7 追記です)
お待たせして申し訳ありません。
2話ずつ書いて投稿してる作品なのですが、現状で1話分しか書けておらず、次話投稿が未定です。
申し訳ないのですが、しばらくお休みさせて頂きます。期間は1週間~2週間位の予定です。詳しくは本日の活動をご覧ください。書き貯めて再開しますので、よろしくお願いします!




