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26. お茶会当日は新規絵有ります

遅くなりましたが投稿しました~


 お茶会当日は良く晴れていた。

私は早起きして簡単な朝食をとり、湯あみをしてからふわふわのピンクのドレスに着替えた。

寒い時期の早起きと湯あみ(※しかもほぼ水風呂)は好きになれないが、今日はリラに起こされるよりも先に目が覚めていた。

夜会ではなく昼間の社交なので、お洒落に帽子は必須らしいが、大きな羽根飾りがどうしても馴染めなくて、リボンにしてもらった。なんか頭に乗せとけばいいだろう。


出掛けようとしたら、両親とお兄様も玄関ホールにいた。

父と兄も出掛けるところのようだ。

そう、偶然なのか意図的なのか、ダンピエール伯爵令嬢とエーメ男爵夫人のお茶会の日程は同じだった。


「今日も可愛いね、アリス」


「お兄様も素敵です。気を付けて行ってきてくださいね」


(これから行く場所は許せないが、眼前のお兄様の格好良さは許すしかない)


 先に出かける父と兄を見送ろうと外に出ると、ちょうど迎えに行かせた馬車からエリアスが降りてきて、その姿に私は卒倒するかと思った。


この国の服装は、カラフルで派手な文様が流行っているが、エリアスは全てを黒で統一していた。


一見シンプルだが、ジュストコール(上衣)の襟には銀糸で刺繍が施され、ジレ(ベスト)のボタンも黒蝶貝を使うなど、細かな部分で豪奢になるようにデザインしてある。キュロットは動きやすいように余裕をもたせつつもシルエットは野暮ったくない。足元はあまり動き回らない貴族が履くような小さな靴ではなくて、軍靴に近い黒のブーツだった。


エリアスが、流麗な仕草で両親と兄に挨拶している。『友人』として私が今日のエリアスの服を仕立てたことは皆が知っているから、父と兄がエリアスの黒いジュストコールを褒めていた。母も「これは黒が来る予感……!」等と楽しそうに話していて、しばらく四人が談笑していた。


推し(おにいさま)最推し(エリアス)が並んでいる……。

心臓がとまりそう……。


(新規絵の破壊力が凄すぎる。ス、スクショしたい……いまこの空間をスクショさせて!!)


右手の人差し指を左右に振りつつ息をのんで見つめていたら、隣のカーラが背中をさすってきた。


「お嬢様、挙動不審ですよ!息してくださいね。はいっ、吐いて!吸ってー!」


「…………しにかけていたわ。ありがとう、カーラ」


挨拶を終えたエリアスがこちらに視線を向けた。


「アリス様」

エリアスにそう呼びかけられて私はまたしにそうになった。

私はずっと心臓がバクバクしていたので、この数分で結構寿命が縮んだと思う。


「よ、よく似合っています。とても素敵。仕立て店(メゾン)女主人(マダム)フロベールが『自信をもってお作りしました!』と言ってた理由がよくわかりました」


私がそう言うと、エリアスが少し笑った。

「自由にしていいと言ってくださって、ありがとうございます。この黒髪のせいもあって、いま流行っているような明るい色の服はあまり似合わないので」


「エリアスは何でも似合うと思うけど。それに私はあなたの黒髪がとても好き。落ち着くもの」


この世界では明るい色の髪が良しとされるようで、いまの私のようなプラチナブロンドは最上とされる。だから、エリアスのような黒髪はあまり好ましいとはされない。美の基準ってよくわからない。

サシャみたいに毎日毎日髪を染めて遊んでいる人もいるし。

私にとっては、エリアスが最高に格好良い。


「ありがとうございます、アリス様」

微笑んだエリアスから、心からお礼を言われた気がした。気のせいだったかもしれないけど。





 エーメ男爵家に着いて馬車から降りるとすぐに、エリアスが言った。


「……何か、違和感が」


何のことかわからなかったから、カーラの顔を見た。


「そうですね。用心なさいませ、お嬢様」


「どうしたらいい?」

帰った方がいいかと不安になって二人に聞いたら、二人が同じことを言った。


「俺から離れるな」

「私から離れないでください」


二人ともカッコ良すぎてマジで死ぬかと思った。




 社交シーズンの春夏ではなく、今はもう冬。ガーデンではなく、室内のお茶会。

というわけで、応接室(サロン)に花のようなご令嬢方が集まっていた。


 エーメ男爵夫人は聞いていたとおり、おとなしくてちょっとポヤっとした方だった。でも、きちんとお茶会の女主人を務めていた。さりげなく気配りし、話題を提供し、相手から情報を引き出そうとする。「社交」に慣れている印象だった。


優雅なティーテーブルにはお菓子がたくさん並んでいる。


パイシュー生地にチョコレートクリームがサンドしてあるお菓子は、きっと口に入れたらサクッとして美味しいだろう。今、私が座っている場所から遠いから、届かないのが悔しい。「どっこいしょ、前を失礼」と言って中腰で取ったらきっと怒られる。

だから、男爵夫人が「こちらのお菓子もいかが?」と勧めてくれた時には、この人いいひとだー!と思った。


私が好きなフロランタンもある。キャラメリゼされたアーモンドが綺麗。ガリッガリの食感も楽しみたかったけど、お上品に食べやすいように細長く切ってあった。

オランジェットもあって、オレンジピールの鮮やかな色が目立っていた。絶対おいしいやつ。つかみ取りして食べたいのを我慢した。

クグロフは、ブランデーをたっぷり使ってあるみたいで、とてもいい香りがする。

定番のフィナンシェを一口食べて「これめっちゃ美味しい!何個でもいける!」と思ったが、二個で止めた。


お菓子につられた私は完全に「お茶会悪くないわ~」と思っていた。


出された紅茶がとても美味しかったから、男爵夫人にたずねると「帝国産の紅茶です」と言われた。

外交官を父に持つご令嬢が言った。


「アルゲントゥム帝国も内政が落ち着いたようで、最近は帝国産の物も市場に多く出回っているようですね」


そう言えば、ラファエル様も「帝国産の真珠」をお土産に買ってきてくれた。外交とか貿易とかよくわからないけど、とりあえず「帝国産」って言っとけば「凄い」って思われるんだろう。そのうち贋物も出てきそう……等とどうでもいいことを考えていた。


お茶会は和やかなのに、側にいるエリアスはずっと無表情だった。カーラもピリピリしてるような気がする。


お茶会もそろそろ終わりかな、という頃、男爵夫人が私達に言った。

「私の趣味はレース編みなのです。もしよろしければお土産にお持ち帰り頂けるとうれしいのですけど」


「まあ、素敵」「それは是非、拝見したいですわ」


ご令嬢方が微笑んでそう言うと、男爵夫人は「ではたくさんありますから、お好きな物をお選びください。さあ、こちらへ」と立ち上がった。自室へ連れて行きたいらしい。

さわさわと衣擦れの音をたてながら私達はサロンを出た。


少女趣味な可愛らしいお部屋には、本当にたくさんのレース編みがある。もう作品と言っていいくらい綺麗だった。


私が素直に褒めると、男爵夫人は笑って言った。

「では、是非ほかも御覧くださいませ」

気に入られたのか、取り入りたいのか、何故か私はこちらへこちらへ、と屋敷の中のあちこちをつれ回されていた。


「あの、お待ちください男爵夫人。エリアスがいないわ」


くるくる廻っているうちに、私はカーラとふたりだけになっていた。


「あら、どうしたのかしら。迷子かしら?まあ、よろしいですわ。女の子だけで楽しみましょう」


「でも」と言いかけたが何故か声が出なかった。体に力が入らない。


「アリスお嬢様!」と叫ぶカーラの声がした気がするけど、朦朧としてよくわからなかった。


「……ごめんなさいね。夫には逆らえないんです」

申し訳なさそうな男爵夫人の顔が、私の最後の記憶だった。


次は【27. カーラがそろそろ本気出す】です。火曜日更新予定です。のんびり更新ですが、よろしくお願いします。

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