25. いつの世も女子はトークする
「ついうっかり、好きって告白したの」
私がそう言うと、リラがあきれていた。
「うっかりすぎませんか、お嬢様。やっと、他人から友人に昇格した所なんですよね?」
「そうですよ。もう少し段階を踏まないと」
リラとカーラにダメ出しされる。
確かにその通りだ。手紙を散々添削されるのも仕方ない。
カーラがエリアスのセリフを再現していた。
「お嬢様が好きって呟いたら、こうおっしゃんたんです。『アリス様……今後一切そのような戯れを口にするのはおやめください。……でないと、俺は二度とアリスには会えない』って」
「キャー!」
リラが両手を口元を押さえて、キャピキャピ叫んでいる。夜だからあんまり騒いでいたらマーゴに叱られるので、私達はベッドサイドに集まっていた。
「それって、立場上好きとか言われたら困るけど、口に出さなければ会えるってこと?」
リラがはしゃいで言うと、カーラが答えた。
「私はそういう意味だと思いました。俺はこれからも会いたいんだから他人に聞かれて困るような事は言うなよって意味かと」
「キャー!」
リラが赤い顔をしているが、聞いてる私が一番恥ずかしい。
「でもあれ、意識してない口調でした」
「無意識に言ったって事?キャー!」
「「お嬢様、脈アリですよ!がんばって!」」
「あっ、はい。頑張ります」
何故か、うちの侍女二人が結束していた。
ちなみに、お父様に頼まれて、カーラはエリアスの調査も行っていたらしい。いま初めて知った。
フランドル伯爵領から、両親と供に7歳で王都に移り住み、父親は騎士団へ。隣国への諜報活動で功績をあげた父親が騎士爵に叙せられるが、一家は質素な生活を続けている。
「ご両親から高等教育を受けていたようです」
カーラがそう説明してくれた。僻地で育ったとはいえ、両親ともに教養がある様子。王都に来る前の事はわからなかったそうだが、教育熱心だったのだろう。14歳で騎士団の入団試験にも合格して仕事をしているわけだし、将来は父親のようになりたいのかもしれない。
「不思議な方ですよねえ。ふとした時に大人びて見えたり、平民とは思えないほどの気品があったりしますよね」
「え、やめてカーラ……。私、カーラがライバルになったらかなわない気がする」
私は目の前の、可愛らしいくせに戦闘能力の高い侍女を見て言った。
「お嬢様、誤解しないでくださいね」
「でもお手紙届けるのカーラの役目だし、私より会ってるじゃなーい!」
「私はもっと年上の方が好みですからー!」
カーラが赤い顔で言う。具体的に誰かを意識してる顔だ。
「何?カーラ好きな人いるの?」
「えっ?わ、私の話はいいですよ。やめてください」
「うっそ、いるんだ。教えてよ」
「あ、あの……」
カーラがモジモジしていると、リラが口を開いた。
「あの噂、本当?馬番の……」
「え?モハメド爺さん?!年上過ぎない?!?!」
私がびっくりして大きな声で叫んだので、リラが「しーっ」と人差し指を立てた。
「なわけないでしょ、お嬢様。モハメド爺さんの弟子のアランですよ」
「ああー!あのイケメン!たしか18歳。4歳年上!いいじゃん、ひゅーひゅー」
冷やかすとカーラが真っ赤になっている。
アランは宮城の厩舎で下働きをしていたのを、お母様がスカウトしてきたらしい。モハメド爺さん(※事情通)によると、当時13歳で宮仕えに出されていたアランは、馬の扱いに慣れていたが、陰で他の厩舎職員から酷い扱いを受けていて、それを知ったお母様が札束叩きつけて連れ帰ってきたそう。
お母様の嗅覚ってどうなってるんだろうか。
慈善事業にも多く関わってるし、ノブレス・オブリージュとやらは、お母様をお手本にしたらいいとつくづく思う。
「一緒に買い物したりしていたので……」
「なるほどー!マルシェは独りで楽しんでたんじゃないのね。アランとカーラのデートコースだったわけかぁ」
「デートとか、そんなんじゃ、ない、です」
照れてるカーラは可愛いなぁ。でもお陰でマルシェでエリアスやガブリエルと接点が出来たから、二人には感謝しなくては。そして、末永く爆発するといい!
翌週は、公務から戻られたラファエル様に久しぶりにお会いして、私はもう達観した気分で「相変わらずキラキラしてるな~」と呟いていた。
コルベール伯爵領がかなり面白かったらしく、リュカも交えてサシャと楽しそうに談議している。興味があったので、私も聞かせてもらった。
「王都グラヨールから、港町ベルドゥジューまでの道も、とても綺麗に整備されていたよ。難所と呼ばれるようなところは特に。領主が管理している宿場町も治安が良くて、馬の数も多いし、それを狙って商売人も多いから活気があった。王都周辺の主要都市までの整備の参考になる」
「そうね~とにかく道は力入れてるわね」
サシャが相槌を打つ。
「馬車がガッタンガッタンなるの嫌なのよね。乗り心地悪くなるし、荷物も壊れちゃうし。そもそも馬車が壊れると進めないしね」
アスファルトで舗装された道路に慣れていた私には、確かにこの国の道は酷いものだった。それでも王都内の主な大通りは石畳などで整備されている。ちょっと埃っぽいけど。
「王都に着くころ商品が壊れてたら台無しでしょ?新鮮なものは早く届けないと価値が無くなるし」
リュカが口をはさむ。
「損失の割合は?」
「聞いて驚いてよ、リュカ。一割下回ってるのよ~。積み込みと荷下ろしでどうしても損失がでるけど、輸送中の損失が減ったのよね~」
いずれコルベール伯爵領を継ぐのだから当たり前だが、サシャが領地について話しているのを聞いて、意外としっかりしてるんだなと思っていた。
「俺は海軍の様子が知りたい!」
オスカーもアレックスも加わって皆で話したかったが、予鈴が鳴った。自分の教室に戻ろうとしたら、ラファエル様が私の前に立って何かを差し出す。
「アリスにお土産だよ。気に入ってくれるといいのだけど」
豪華な箱をひらくと、大粒の一粒真珠のネックレスが入っていた。
(見るからに高価そう。やば~~~)
「帝国産の真珠だそうで、君に似合いそうだから買ってしまったよ」
(帝国って海を挟んだ隣国の?授業で習った大国?やば~~~)
帝国産の真珠は、質が良くかなりの高値で取引されていると勉強した記憶がある。そういうのをあっさり買わないで欲しいけど、そういえばラファエル様は「君に振り向いてもらえるよう、頑張るよ」って言ってたんだった……。こんな人前で、王太子殿下からの贈り物を断るなんて出来ない。それに一粒だから過剰でもないし、断るのは不自然。絶妙な贈り物。さすが王子様オブ王子様、隙がない。
「ありがとうございます。ラファエル様」
私がお礼を言うと、ラファエル様が自らネックレスを私につけてくれた。
(やば~~~周囲の視線が痛い~~~しんどい~~~)
私と王太子殿下についてよく思ってない貴族の子女たちが、忌々しそうに見ている。先週のロアンヌ嬢による嫌がらせ行為で、私の周りの反ルテール派の貴族がだいたいあぶり出されていたのは、結構な収穫だった。
(お前とお前は顔覚えたからな!名前までは一致しないけど!)
私の頭は少々ポンコツだが、自分にあからさまに敵意を向けてくる人間についてはさすがに覚えた。避けるために。
「もう、鐘が鳴るよ。アリスは早く戻ったら」
リュカが冷静な声でそう言うから、私は助かったと思ってラファエル様から逃げ出した。
次は【26. お茶会当日は新規絵有ります】です。金曜日更新になると思います。のんびり更新ですが、よろしくお願いします~。




