24. まさかの冬の花
「先日の手紙……」
エリアスが呟いて困った顔をした。
御礼のためのお茶会を断られたから、かわりに服を仕立てたいと申し出た二通目の手紙。
「お仕立ての件についてなんだけど、お父様が『自分が御礼をしたい』と申しております」
エリアスがまた『絶望』みたいな顔をした。貴族とは距離を置きたいのに、どんどん関わっていくのがいやなんだろうな。
私は父に、マルシェでのエリアスの働きについて、どれだけ素晴らしかったのかを滔々と語っていた。(※娘溺愛のお父様は、やきもちをやいたのか途中から若干不機嫌になったので切り上げた)
危機を救ってくれた友人に御礼を申し出ている、と言うと、父が「公爵家として正式に御礼した方がいいのでは」と私に告げたのだった。
「どうする?ド派手好みのお父様に任せる?それとも私の申し出通り、街で仕立てる?」
王都には、高級仕立て店がいくつかあり、王侯貴族や豪商がこぞって流行の先端を追う。お父様とお母様はこの国の社交界の華。いわば二人の着るものを皆が真似して流行りが生まれる。いまは、全体的にデコラティブ、つまりゴテゴテして、デコデコしてる派手な服が流行っている。先日のエーメ男爵も襟がひらひらしていた。
今日の恰好を見ても、エリアスは多分それは好まないんじゃないかな。
エリアスが、息をのんで、それから大きなため息をついた。
「そもそも、仕立ての件をお断りしようと思っておりました。押し付けられても困ります」
「正式な御礼です。お茶会の護衛に来てくださるならなおのこと」
我ながら、押し付け、囲い込み、脅迫だな~とは思うが押し通した。
「護衛については引き受けてもいいのですが、そこは騎士服でもよいのでは?」
「さっきも言いましたが、表向きは和やかなお茶会。出来ればあなたも貴族の略礼装で来てほしいの」
エリアスが諦めたようだった。
「では、アリス様のお申し出をお受けします。ルテール公にはアリス様から『友人』として御礼を頂く旨をお伝えください」
「受けてくださって、ありがとう!『友人』として!」
(やったー!!!!!不審者・ストーカー・他人から、ついに友人に昇格した!!!そして新規絵!!!!!)
『クラスメイト』というモブキャラでしかなかったエリアスは、高等部の制服姿しか見たことがない。舞踏会で見た騎士服も素敵だし、今日のような平服も素敵だけど、正装と略礼装も絶対カッコイイ!
ちなみに、言ったら断られるだろうから言わなかったが、私は略礼装と一緒に正装も仕立てるつもりだった。
「どうして」
エリアスが急に呟いた。
「え?」
「……どうして私にこんなに構うのですか?」
素朴な疑問だったんだろう。私は思わず素直に答えた。
「え?だってエリアスが好きだから」
言ってから後悔した。恥ずかしーーーーー!!!!!
エリアスはびっくりした顔をしてるし、横のカーラが何故か赤面していた。
言っちゃえ!!
「好き」
エリアスは喜ぶでもなく、どちらかと言えば悲しそうな顔をして言った。
「アリス様……今後一切そのような戯れを口にするのはおやめください。……でないと、俺は二度とアリスには会えない」
エリアスの目が真剣だったから、私は胸が痛くなった。
調子に乗って口にしたけど、フランドル伯爵にも釘を刺されていたんだった。
今の私の立場は、王家の血も引くルテール公爵家の令嬢。王太子妃の第一候補。エリアスから見たら、好きだのなんだの言われても、ただ困るだけ。鬱陶しかったかな。
「ごめんなさい!大丈夫!!友達としてだから!!!」
泣きたい。動揺してる、私。
「……そう、ですよね。ところで……アリス様、顔に傷が?」
多分、泣くのを我慢して顔が赤いから、治りかけの頬の擦り傷も赤くなって目立ったんだろう。エリアスに問われて、ますます恥ずかしくなった。
「なんでもないのよ、転んだの!仕立て店に行くのはエリアスの次の公休日でもいいかしら?私は学校があるから遣いの者を出します。お茶会に間に合わせるなら早い方がいいから!じゃあ、私はそろそろ行こうかな!ありがとう、またね!」
早口でそう言って席を立った。少し遅れてカーラが追いかけてくる。
私は安レストランの裏にあるあまり綺麗とは言えない洗面所で一人で泣きながら決意していた。
(拒絶されて辛い。好き。私はエリアスが好き!この気持ちはもうどうしようもない。なんとかしてやる!なんとかして、この世界で生きる!)
カーラと一緒に表通りに戻ってくると、店の外でエリアスが待っていた。
てっきりさっさと帰ったと思っていたからびっくりしていると、さらにびっくりなことが待っていた。
「アリス様」
真っすぐ見つめてくるから、私は心臓がドキドキしていた。エリアスが小さな箱を開ける。中には白い花が入っていた。
「先日はお茶会を断って申し訳ありませんでした。これはそのお詫びです」
「お詫びなんていいのに……」
そう言いつつ、私は花に釘付けになっていた。茎はまっすぐで葉も細長いし、花の形も日本の百合によく似ている。でも花びらが八重で真っ白。こんな綺麗な花、見たこと無い。
「妹もネックレスのお礼がしたいと言ってたので、潰れないように手伝ってもらいました」
(わざわざ御礼とお詫びに、花をくれるなんて……カッコ良すぎて惚れ直すしかない!)
「とても綺麗な花!ありがとう、エリアス!」
笑ってお礼を言うと、エリアスが少しだけ笑ってくれた。
そこらじゅうの人に自慢して歩きたいくらいうれしかった。
私はいま、好きな人から花をもらったよー!と。
その日の夕食時に、エリアスに貰った花を一輪だけ髪に飾っていると、兄が言った。
「珍しい花をつけてるね、アリス。綺麗だよ。どうしたの?それは冬にしか咲かない白百合で、王都では滅多に見かけないのに。マルシェにはそんなのも売ってるのかい?」
そんなに珍しい品種のものだとは知らなかった。そんな貴重なものを贈ってくれたのかと思うと、私はまた脳内でワッショイワッショイお祭りが始まっていた。
「友達に、もらったの」
「そう。いい友達だね」
(妹の髪飾りの変化に気づくお兄様も素敵ですよ……。珍しい品種だと知ってる博識さも素敵です。さすが乙女ゲー、いい男だらけだな……)
眠る前に私はカーラを呼んだ。どうしても確かめたい事があったからだ。
「あのさあ……」
「なんでしょう、お嬢様」
カーラは特に表情を変えずにベッドサイドにたたずんでいる。
「今日さあ……」
「はい」
「エリアスが『でないと、俺は二度とアリスに会えない』って言わなかった?」
「おっしゃってましたね」
「あれヤバくない?」
「ヤバイ……とはどういう意味でしょうか?」
「いやーその、よく考えたらすごいセリフじゃない?しゃべり方が素になってたよね、敬称なくなってたよね」
私がそう言うと、カーラが一歩近づいて目を見開いて言った。
「実はあれにはびっくりしました!キャー!って言いたいの我慢してました!」
カーラが年相応の女子の顔で、ちょっと頬を染めて勢いよく言ったので、隣室を片付けていたリラが「私もまぜてください!」と飛んできた。
女子トークが始まった。
来週更新予定でしたが、体調も落ち着いたので投稿しました~。
次は【25. いつの世も女子はトークする】です。火曜日更新予定です。のんびりですが、よろしくお願いします~。




