23. これはデートでは?デートですよね?
遅くなりましたが投稿しました~。
その日、オスカーは何やら庭園で密会しているし(金髪に髪飾りが見えたから多分ロアンヌ嬢)、サシャはそれを笑いながら見ているし、アレックスは側から離れないし、少々苦痛ではあったが、久しぶりに何事もなく学園で過ごした。
帰宅してすぐに「今日は平和だったよ~」とリラに言うと、リラは困ったような顔をした。
「アリスお嬢様、大事な美しいお顔に傷までつけられて、このままお許しになるのですか?」
「いや、これは自分で転んだから……」
もう説明が面倒になってきた。ちなみに母だけは、傷について問われて「転んだ」と答えたらあっさり「あら、お転婆ね」と信じていた。
部屋着に着替えたタイミングでお母様に呼ばれた。
「先日のエーメ男爵夫人のお茶会の件だけど、行ってもいいわよ。ただし、護衛をつけて」
母とも仲の良い、いわゆるルテール公爵派や中立の立場をとる伯爵家の令嬢や、子爵家令嬢が招待されていたそう。
男爵夫人はまだ19歳。40歳の公爵夫人クロエより、15歳の公爵令嬢アリスと親しくなりたいのだろう、という事だった。男爵本人はともかく、夫人はおとなしくて温和で、まだ少女のような方らしい。
「デビューしてすぐの社交なわけだし、練習のつもりで行って来たら?今までは親族のお茶会しか行ったことなかったでしょう?」
確かにその通りだった。
母から護衛をつけて、と言われて、私は速攻で手紙を書いた。もちろん、エリアスに。
リラとカーラから「お嬢様……長すぎます」と言われて、また結局用件のみの内容にした。
もう夕刻だったが、カーラにすぐ届けてもらうようお願いをした。
しかし、いつになったら私は恋文を書かせてもらえるんだろう。
せっかくの文通なのに、用事があるから手紙を出しているだけのような気がする。
もっとこう、何か違う!!
夕飯の前にはカーラが戻ってきた。
「とりあえず、マルシェでお話はしてくださるそうですよ。良かったですね、お嬢様!」
それを聞いた私は、もうウキウキしてニコニコで夕飯を食べていたので、料理長のケヴィンさん(70歳)が「お嬢様は魚料理がお好きなようだ」と誤解していたそうだが、そんなことは知る由もなかった。
日曜日、先週のマルシェに行くときは質素なエプロンワンピースを着て行ったが、今日はどうしようと考えていた。
(だって、これはデートでは?デートですよね?日曜日に約束して待ち合わせて二人きり(※正しくは護衛付き)でランチってどう考えてもデートよね?!)
でもあまりにも華美な装いも引かれるだろうし、浮いてしまうのも嫌だった。
青色のシンプルなワンピースに白のエプロンを合わせてみた。
「ちょっと不思議の国のアリスっぽくない?可愛くない?千葉某テーマパークで働けそうじゃない?」
そう呟いていたら、「不思議の国?チバ?」とリラが首をかしげていた。
不思議の国のアリスは原作では7歳だから、少し子どもっぽいかもしれないが、某千葉でも大人がパレードで着てたりするし、今の私、金髪碧眼15歳ならギリ許されると信じたい。
いっそのこと髪飾りもアリスコスプレで行こうと「黒のリボンもつけたい」とリラにお願いした。もう少し濃い金髪だったら完璧だったが、まさか素でコスプレできるとは。
しかし、リラにもカーラにも誰にも、この感動はわかってもらえなかった……。
「チバはわかりませんが、こんなにうれしそうなお嬢様の様子は久しぶりです」
そう言って、リラが笑って身支度をしてくれた。黒のリボンも可愛く結んでくれる。
また歩きやすいようにと、黒の編上げブーツを履いて、私は張り切っていた。
歩きたかったがやっぱり執事のルベンが許してくれないので、城門までは馬車を使う。
この前のガルゴットでそわそわ待っていると、約束の正午の鐘が鳴る頃、エリアスが来た。
(はい、キターーーーー!今日もカッコイイ!!!)
黒髪に緑の目が美しい……。今日も帯剣しているが、自然な落ち着いた仕草でこちらへやってくる。
この前のように洗いざらしのシャツが素敵……とうっとり見ていたら、また不審者を見る目で見られた。しまった。せっかく少し前進したのに、あんまり凝視していたらストーカーに逆戻りしてしまう。
「話というのは何でしょうか、公爵令嬢」
「あの……アリスと呼んでもらえないかしら」
挨拶の後、まず私がそう言ったので、エリアスが少し表情を曇らせた。
「なぜでしょう?」
「公爵令嬢だと他人行儀すぎない?」
「他人ですが……」
(くっ、塩対応すぎる。しにたい。だが、負けない。今日の私は『アリス』なのだ)
「アリス、と呼んで頂戴」
少し強気で言ってみた。若干引いてるエリアスの顔には「貴族のわがまま娘め」と書いてあるかのようだった。諦めたような表情でエリアスが言った。
「……仕方ありません、アリス様。ただ、公務中は公爵令嬢と呼ばせて頂きます。構いませんね?」
「ありがとう!」
(百歩くらい前進した気がするーーーー!わーい!!!)
私は名前を呼ばれてキュンキュンしていたので、その場で小躍りしたかったが、理性を総動員して抑えた。褒めて頂きたい。
いわゆるワンプレートのランチを前に、私はルイに調べてもらった内容について話をした。
先週、城門付近で起きた轢き逃げ事故は、無かったことにされていた。公式的には調書そのものが無くなっていたのだ。
ルイが調べてくれた範囲では、少なくとも現場の憲兵はいつも通り、報告書を上にあげたらしい。ただ、憲兵隊から司法省へ届くはずの書類がどこかで消えていた。
幸い、轢かれた子供は昏倒したが無事。奇跡的に傷はなかったが、エーメ男爵家から治療費等として、一定額の解決金は渡っていたとのことだった。そこから、あのベッドを貸してくれた町人への謝礼も支払われている。ルイの報告には、ガブリエルの存在は一切出てこなかった。ガブリエルの言葉を信じるなら町人全員で彼の存在は隠されたんだろう。
「憲兵隊の上層部か、司法省で握りつぶしたわけですね」
「特に気にするほどではないかもしれない。貴族が汚名を金でもみ消すのはよくあることだし、まして新興貴族なら」
「ただ……」
エリアスは、私が先ほど渡したお茶会の招待状を手にしている。
「そう。ただ、なぜか私にエーメ男爵夫人からお茶会の招待状が届いた。偶然ではなく、何かあるかと勘繰るのは当然でしょ」
「それで公爵夫人は護衛をつけるようにとおっしゃったのですね。でもそれは私でなくてもよいのでは?もっと熟練の騎士もたくさんおります」
勿論そんなことはわかっている。でも、こんな公式に側にいてもらえるチャンスなんかないでしょ!?逃すわけないじゃない!!!というのが本音だったが、私は建前を口にした。
「経緯についても知っているし、エリアスと私は歳も同じだから、近侍として傍にいても仰々しくないでしょう?表向きは和やかなお茶会なのですもの」
私がそう言うと、エリアスは少し考えこんでいた。
(もっともらしい答えでしょう。ふっふっふ。断れないようにリラとカーラと一緒に散々言い訳を考えたんだから!)
会話が途切れたので、私はランチをぱくぱく口に放り込んで片付けていた。安レストランは常に混みあっている。客の回転が早いから、少々私たちが話し込んでいても目立ちはしないが、そんなに長居するような店ではない。
今日もサラダは新鮮で美味しいし、今日の日替わり、りんごと玉ねぎのソースがかかった豚のローストは絶品だった。今度、料理長のケヴィンさんに頼んで再現してもらおう。馬番のモハメド爺さん(※事情通)によると、ケヴィンさんは「こんなのが食べたい」というと、すぐチャレンジしてくれるらしい。禿げた頭を叩きながらきっと考えてくれるに違いない。
すっかり目の前のご飯に夢中になっていると、向かいのエリアスが少しだけ笑っていた。
……しまった。またやらかした。
もう少しおしとやかにしようと、持参しておいたナプキンをカーラに出してもらう。
そのタイミングで、カーラが「申し上げてよろしいですか」と言ってから発言した。
「エーメ男爵に関する件ついては、私からルテール公爵様には報告しております。ただ、下町へ連れて行ったのが私自身なので……」
カーラがそこで言葉を切った。とても申し訳なさそうにしている。
「身分をわかっていなかったとはいえ、お嬢様に向かって鞭をふるったことを公に弾劾するとなると、そもそも下町へ連れて行った私の責任にもなります。なので公爵様は、結果的には特に怪我もなかったし、問題にしないとおっしゃっていました」
「そうなの。だから、もうひとつの事についても話したくて」
私はなるべくおしとやかに口元にナプキンを当てて話した。
「もうひとつの事?」
エリアスが首を傾げた。
「まだお返事をいただいていない、先日のお手紙の件よ」
私はにっこり笑って言った。
次は【24. まさかの冬の花】です。体調不良で水曜日に更新できませんでした。申し訳ないです。いつもお読みくださってありがとうございます。家族も体調不良で、看病等でなかなか清書が出来ないので、ちょっと間が空きますが、再来週に更新予定です。
皆様もご自愛くださいませ。




