正体
「まさか、そこまでの情報が残っているとは思っていなかったわ。これは本当に予想外」
いつもの砕けた様子で、ヘレナは答える。まるで、すこしいたずらをしただけのように、悪びれもせず頭を抱える仕草をした。
『なに!?』
「さて、レオン君。ここには私とシャーリーちゃん、そしてあの虫になったこの艦のクルーがいるわ。……わかるわよね?」
『どうしてお前は攻撃されない……!?』
「何故って、レオン君がどこまで知っているのかわからないけど、この研究の第一人者は私よ? このウイルスを掌握することくらいどうということはないわ。私は……蟻で言えば女王蟻ということ」
『つまり、お前が親玉……ということか』
「そうそう。さて、レオン君。シャーリーちゃんを殺されたくなかったら、おとなしく従ってもらえるわよね?」
『くっ……! 要求はなんだ?』
怒りをこらえたレオンの声が通信機から聞こえる。こぶしを握り締めているのだろうということはヘレナもシャーリーも容易に想像ができた。
「レオン!!」
シャーリーは叫ぶ。虫がシャーリーに当てている鎌の部分に力を籠めるのがわかったが、シャーリーはそれでも叫んだ。
「戦って! こんなの、許しちゃだめだよ!!」
「シャーリーちゃんはだまっててね」
「ぐぅっ!」
ヘレナはシャーリーの首を絞め、持ち上げる。シャーリーの顔が苦痛に歪み、酸素を求めて「っぁ……!」というような声を上げていた。
(人間の力じゃ……ない……!)
苦しく、意識がだんだんと遠ざかっていく中、シャーリーはそんなことを思った。
『シャーリー!!』
「えるををこ! ちそそおあつきぞこ!!」
「貴方もうるさいわね。少し黙ってて」
ヘレナはすこし苛立った口調で虫に命令する。その言葉に従うように虫は黙った。
「レオン君、従うわよね?」
『……わかった』
「っはっ!」
手を離されたシャーリーは床に落ちるように倒れ、せき込む。見えない幼馴染が、苦しそうな顔をしているのが見えたような気がした。
「さてと……」
ヘレナは怪しい笑みを浮かべながらシャーリーに近づく。
「な、何をするつもりなの……?」
「おとなしくしておいてね」
「いや、いやあああああああああ!!」
シャーリーの叫び声が、グローリー号にこだました。




