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Gleam  作者: M.O.I.F.
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4/7

潜入

 レオンはあたりを確認し、次の建物まで走る。次の建物につくとまた辺りを確認して……の繰り返しだった。

 虫たちは上空をぶんぶんと飛んでいる。たとえ虫が地上にいなくても、レオンが見つかるのは時間の問題だろう。それまでに基地本部にたどり着いていなければいけない。

(ここまで、誰一人としていないとはな……)

 建物の中をすべて確認したわけではないが、時々レオンが建物の中をのぞくと決まってボロボロの廃墟同然になっている。まるで、そこで巨大な虫が暴れたようになっている廃墟は、人がいる様子は見られない。それどころか、避難した後も見受けられなかったのだ。

 しかも不思議なことに、随所にみられる破壊されたシャッターは”内側から”破壊されていた。それはまるで、突然虫が湧いたようだった。

(今は考えている時間はない……か)

 レオンは基地に向かって走る。そして、本部のドアを思い切り開いた。

「うっ!」

 酷い臭いがレオンを襲う。何かが腐ったような、何かが死んでいるような、そんなにおいだった。その臭いに耐え切れず、扉を閉めた。

(何なんだ……!? まだ救難信号が発信されて3日しか経っていないんだぞ!?)

 もしも、死体が腐敗しているのだとしたら早すぎる気もする。気温は暑いというよりも涼しい。気温により左右されるとはいえ、この気温で死体が腐るとは思えなかった。虫に襲われた際に飛び散った血は乾燥しているだろう。その傷口から腐敗が始まっているのならば腐るかもしれないが、ここまでにおいが充満するほどになるだろうか。

 レオンは拳銃を取り出すと、覚悟を決めて扉をあけ放った。そうでもしないと臭いに耐えられないと考えたからだ。案の定、その臭いはたちまちレオンに襲い掛かった。

「う゛っ!!」

 吐き気をこらえながら進んでいく。電気が遮断されてしまったのか、昼間だというのにも関わらず基地の中は薄暗かった。レオンは廊下に備えられていた非常灯を取り、前を照らす。

「……一体、どうなってるんだよ……」

 目の前に映ったのは、血だまりと……虫の卵のようなものだった。一階のロビーにあるそれは、不気味な液体を流しながら孵化の時を待っているように見える。周りにある血だまりはこの基地に勤めていた人間のものだろう。

 半透明な卵に近づいてみると、中に入っていた”何か”がレオンをみた。

「っ!」

 思わずレオンは発砲していた。銃声がやけに響く。流れている液体に混じって緑色の液体が流れ、レオンの足元に広がる。それがその虫の”血”なのだとレオンが理解するのに時間はかからなかった。

「くそっ……!」

 レオンは視界に入れないようにロビーを後にする。心臓の鼓動が早くなり、歩くスピードはだんだん速くなり、次第に走る速さに変わった。手あたり次第、部屋に入るとレオンは倒れこむように座った。

「はぁっ、はぁっ……!!」

 息を吸い込むたびに鼻を突くあの臭いがしたが、レオンはもう気になっていなかった。

(……ここは?)

 しばらくして、呼吸が整い、ようやくレオンは今いる場所を考える余裕ができた。手にした非常灯で前を照らすとそこは何かの研究室のようだった。

(研究室……か。この場所にあるってことは外部に公開してもいい研究……ってところか)

 軍の研究にはレベルが決まっていて、外部に公開しても問題がないレベル1、外部には非公開だが内部には問題がないレベル2、研究メンバー以外非公開なレベル3、研究メンバーを含むすべてが非公開のレベル4に分けられ、そのレベルに応じて場所が決まっていた。

 机に置いてある研究資料を見ると、”惑星ユートピアの気候・地層・生態系”と書かれている。どうやらここで行われていた研究はこの惑星の調査員と協力して行われていたようだ。その資料に目を通すと、まだこの星の調査が完了していないという話の通り、まだ半分といったところだった。

(ん?)

 その資料に目を通していたレオンはとある一文に目が言った。それは”この星にしか存在しないウイルスを発見”という一文だった。その部分を読んでみると、この惑星の土壌や水の中に存在するウイルスのようで、人に害はないと書かれているが、そのウイルスがなぜ存在しているのか、どういう役割をしているのかは書いていなかった。

(なにかの情報になるかもしれないな)

 レオンはその研究資料をパイロットスーツの中へ適当に突っ込むと、研究室を出る。周りを見渡しても人がいる気配が全くしない。

(あの卵といい、もうすでに基地には人が残っていないのかもしれない……)

 わかっていたことだったが、その現実がレオンに突きつけられる。あの虫の卵が指し示すのは、ここがあの虫たちの巣になっているということだ。そんな状況下でいまだに生き残っている……なんていうことは考えられなかった。

 レオンは司令室がある3階を目指して階段を昇っていく。静かな基地の中ではその音でさえも響いて、自分の居場所をあの虫たちに知らせているような、そんな気分を感じていた。

 あの虫たちがこの基地の中に戻って来ないとも限らない。焦る気持ちが、レオンの歩みを速めていく。気がつけば、目的の場所の前に立っていた。その道中、いくつもの血だまりを見た。その記憶がレオンをためらわせる。

 この扉を開ければ、ひどい光景が待っているのではないか。この扉の向こうにあのむしがいるのではないか。

 恐怖が、レオンの心の中に広がっていく。

(それでも……いくしかない!)

 覚悟を決め、ドアを開けるレオン。強烈なにおいが風と共に勢いよく出てきた。

「っ゛ぉ゛!」

 変な声をあげながらレオン。何度かせき込むと、こみあげてくる吐き気を抑えながら先へと進んでいく。司令室は別の動力なのか、わずかに電気が生きていたため、非常灯がなくても周りの状況を確認することができた。

「冗談だろ……」

 司令室は死体だらけだった。それも明らかに”人の手によって殺された”死体ばかりだった。みな、それぞれの手に銃を持っている。集団的に自殺を図ったのは明らかだった。

(救難信号が発信されてまだ3日……もしかすると、発信されてから受信するまでにかなり時間がかかったんじゃないか?)

 いくら虫たちに囲まれているとはいえ、2,3日で集団自殺を図るとは到底思えない。腐敗した臭いから実際に発信されたのはもっと前だったと容易に想像ができた。

(何か残っていないか……!)

 レオンは目の前にある端末を操作する。そこにあったのは動画データだった。それを再生してみると、メインスクリーンに大きく映し出された。

『……これを見ているということは軍本部が救難信号を受信してきてくれたということだろう。我々が救難信号を発信してから既に10日が経とうとしている』

「10日だって……!?」

 その事実にレオンは驚く。衛星通信による惑星間通信はそれほど長い時間ずれたことはなかったからだ。救難信号というトップレベルの通信が10日も受信されないということは問題だった。

『基地に備えられている食料も残りわずかだ。我々もあのような姿になるのに時間はかからないだろう』

(あのような姿?)

 レオンのそんな疑問など、動画データの撮影者に伝わるわけもなく、映っている人物はただ、恐怖に顔を引きつらせていた。

『この時点で判明していることをここに記録する。どうかこの記録を見た者は、このデータを速やかに軍本部へと届けてくれ』

 その言葉が最後に、動画は次の動画に切り替わる。その動画に映し出されていたのは、どこか見たことがあるウイルスのような写真だった。

(もしかして……!)

 レオンはパイロットスーツの中に入っていた研究資料を取り出す。そして、そこに載っているウイルスの写真と動画のウイルスの写真を比較する。

(一緒……だと……!?)

 瓜二つというレベルではない。一緒の写真だった。そして、先ほどの声とは違う、だがどこか聞き覚えのある女性の声がこのウイルスについて説明をし始めた。

『このウイルスは環境の変化に強く、周りの環境に合わせて変化する性質を持っています。さらにこのウイルスは他のウイルスを吸収し、自らの一部とする力を持っています。さらに驚くべきことにこのウイルスは遺伝子情報を書き換え、物質そのものを変化させることが可能です。この性質を用いれば、中世の錬金術というものが可能となります』

「そんなバカげたウイルスが存在するのか……!?」

『この説明で、我々は研究の価値ありとして評価した。だが、それが間違いだった』

 先ほどの動画の声が再び流れる。その声から後悔の念がありありと伝わってきた。

『彼女が嘘を言ったとは今でも思っていない。むしろ本当のことを述べたのだろう。そして、彼女はこのウイルスを使用して反乱を起こした。いや、実験といった方が近いのかもしれない』

「実験だと?」

『そして、瞬く間にウイルスは広がった。彼女がこの星を去ってからすぐに事態は進行し、今ではもう手に負えなくなってしまった』

「その実験とはいったい、何なんだ! 彼女って一体、誰なんだ! この星で何が起こったんだ! もったいぶらずに言えよ!!」

 レオンは叫ぶ。だが、すでに記録されている動画は変わらず、記録されたとおりの声を流し続ける。

『我々が発進させたシャトルもあの虫たちの手によって落とされてしまった。この基地の生き残りは、ここにいる我々のみだ。この記録をみた者、次のデータがこの記録のすべてだ』

 そして動画データが切り替わる。

「そんな、嘘だろ……」

 画面に映し出されたものをレオンは受け入れられずにいた。それが本当だったら……と考えるだけで手が震える。そこでレオンはいつの間にか握り、くしゃくしゃになりかけている研究資料を思い出した。

 いそいでページをめくり、確認する。”彼女”の正体を。

「くっ……!」

 レオンは椅子を思い切り蹴り飛ばす。これまでの行動、一つ一つが鮮明に思い出されていく。救助には向かない戦闘機、単機での任務、単艦での救助。これらすべてが布石だった。

「俺は……! この手で……!!」

 こらえきれない強烈な吐き気が込み上げ、レオンはその場で嘔吐した。ろくに食べていなかったせいか、液体ばかりが出てくるだけで吐き気は一向に収まらない。

「くそっ……! シャーリー……!」

 幼馴染の名前を呼ぶレオン。わずかに生きていた電力もすでに死んでしまったらしく、通信機もすでに使えなくなっていた。

 レオンは急いで隠していたSoar Wingの元へと行くため、階段を駆け下りていく。そして、一回のロビーに差し掛かったところで異変に気がついた。

(卵が……孵化してる……!!)

 それが意味することは、単純だった。

「……!」

 レオンは飛来した虫を間一髪のところで避ける。そして手にした非常灯を向けると、あの虫に小さくしたような、そんな虫が大量に飛んでいた。

「くそっ!」

レオンは非常灯を遠くに投げる。虫は光に集まる習性があるため、レオンの予想通り非常灯の方へ飛んでいく。その隙を狙ってレオンは走った。

 非常灯が壊されるまでのわずかな時間。だが、ロビーを走り抜けるには十分な時間だった。開け放たれたドアが見えてくる。それでも走るスピードを緩めず、一直線に走っていく。

 長い時間、暗い場所にいたせいか、外に出ると日の光で一瞬くらっとしたが、レオンは何とかこらえる。上を見上げると虫たちがいなくなっていた。

(今のうちに……!)

 Soar Wingを隠した倉庫まで走る。幸い、Soar Wingは無事だった。

(これは……)

 倉庫にあるもの。それはSoar Wing用の装備だった。

(いただいていくぞ)

 レオンはその装備を一人でつけていく。Soar Wingは単機でも大丈夫なように装備の取り付けは単純で特殊な機械などは必要ない作りになっている。万能な機体だが、それだけコストも高く、生産されている数は少ない。よって武器も同じだけ少なかった。

 ミサイルポッドを4機とクローを装備させると、レオンはSoar Wingのスイッチを入れた。SWが自動で追加された装備を解析し、登録していく。つけた装備はぎりぎり過積載手前だった。

「こちらレオン! シャーリー! 応答してくれ!!」

『レオン! 無事!?』

「今すぐ安全なところに隠れるんだ!」

『え? どうして……』

「その艦は危険なんだ! 今すぐ隠れるんだ!!」

『残念だけど、レオン君。もう遅いわよ』

「なっ!?」

 黒幕が、通信に出る。幼馴染の命を彼女に握られたとレオンはすぐに理解した。

「こんなことをして何が目的だ! ヘレナ・マッカーサー!!」


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