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転生業務日誌 ~転生神はつらいよ~  作者: 酔生夢死


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34話 ブッ蘇れ! 転生道場っ!!

(´・ω・`)安易なチートなど花拳繍腿!

 ――ギシン……ギシン……ギシン……


「フーッ……フーッ……フーッ……」


 静寂な儂の空間に、金属が擦れぶつかり合う音と荒い鼻息だけが響き渡る。

 熱くなった体からは汗が白い蒸気となって立ち上り、腕の血管は浮き出て筋肉が盛り上がっていた。

 さて、ウォームアップもこれくらいにしておくかのう!

 本日の転生業務を始めるぞ!



「あれ……? 確か僕はトラックに轢かれて……というかここはどこ? なんで道場?」


 うむ、もう御客人は来られているようじゃな。

 それでは早速挨拶しようではないか!


 ――バンッ!


「うお!? ビックリした」


「ようこそ参られた! ここは神の間に作りし我が道場! そしてこの儂がここの道場主にして神であるッ!!」


「……何これぇ」


 うむ、どうやら突然の事で混乱しているようじゃ。

 これは転生を司る神としてキチンと導かねば!

 まずは我が自慢の肉体で頼もしさを演出しながら、円滑に任された仕事も進めるぞい!


「フンッ! 儂は転生神、死亡した貴殿の魂を導く案内人である! 泉田(せんだ)一馬(かずま)よ、死したとはいえ落ち込む事はないぞ! 貴殿にはこの間際に選ぶチャンスが与えられたのじゃ!」


「て、転生神? あ……ああ、これは所謂異世界転生って奴なのか……でもなんでサイドチェスト?」


 うむ!

 最近の若者は話が早くて助かるのである。

 少し前までは世界の成り立ちを1から教えなければならなかったから、便利な世の中になったものじゃな!


「フンッ! それでは貴殿には2つの選択肢が存在する。一つ目はこのまま天国へと登り真っ新となって次の生を受けるのを待つ。2つ目はそのままの記憶と意識を保った状態で異世界へと向かう事である!」


「だからなんで説明するのにアブドミナル&サイを? あ、あの異世界ってどんな世界なんですか?」


「良い質問である! 一口に異世界といっても色々あるが、貴殿に行って貰うのは剣と魔法のファンタジーな世界である! 冒険者という職業がありドラゴンが空を舞い精霊が歌い魔王が世界を滅ぼさんとするそんな世界じゃ!」


「ああ、いるんですね魔王」


 最近は魔王がいない世界に送る事もあるらしいが、生憎と今はそういう世界に転生者の要求は無いので仕方ない。

 転生神は世界神が転生者を要求していなければ、その世界へは転生させられないのじゃ!

 おっと、儂がオリバーポーズをしている間に泉田一馬が挙手をしているな。


「えーっと、ただの高校生がいきなり異世界に行っても生きていけるとは思えないんですが……できれば物語にお約束なチート能力的な物が欲しいんですけど」


「ふむ、ちーと? それは一体どういう物じゃ?」


「え、どういうって……戦った事が無い僕でも強くなれます、みたいな? 簡単にレベルアップできるとかそんな感じの……です」


「うむ、それもそうであるな……あい、分かった! (おのこ)であれば一度は最強を目指したくなる生き物じゃ! 儂がお主に力を授けよう!」


「ありがとうございます! じゃあ、異世界へ転生させてください!」


 うむ、実に良い返事である。

 これは儂も力が入るとういう物じゃ!


「では、早速準備を始めようか!」


「へ? 準備?」



 あらゆる神が住まう神界……この世界には儂らのような神の他にも、幻獣と呼ばれる竜や不死鳥などの原種が生息しておる。

 そして、丁度良い修行場としてとある原種の生息する山まで来た。

 いやぁ、ここはいつでも空気がヒリヒリしておるのう。


 ――GYAAAAA!!


「デカいデカいデカい! 何なんですかアレ!? 何なんですか!?」


「あ? 最近耳が遠くてのう。そんな小声で話されてもよく聞こえんぞ」


「だから! 何でチートを貰うのに、あんな巨大生物の巣まで来てるんですか!」


 泉田一馬が顔を真っ青にして儂の耳元で騒ぐ。

 まあ、いきなり神龍の巣なんぞに連れて来ればそうもなるかのう~。


「ハッハッハッ! 生憎じゃが、儂には最近の流行は分からぬ。故にとりあえず貴殿自身を規格外と呼ばれるような存在にまで鍛え上げる事にした!」


「待って!? チート能力は欲しいって言ったけど、鍛えて欲しいなんて一言も言ってないよ!?」


「なあに、今は死んで魂だけの状態ではあるが、魂を鍛えればそれだけ外の器も強固な物となって生まれ変わることができる! ……筈じゃ」


「今、筈って! 筈ってつけた!」


「というワケで最初の試練じゃ。初陣で対峙して心が折れる事は良くある事、ならば最初にスンゴイのと会って置けば、後は粗方雑魚じゃから安心じゃぞ!」


「アホか! バカじゃないの!? バカじゃないの!? バカじゃないの!」


 ――GYAAAA!!


 ハッハッハッ、よくは聞こえんが初めて見るモンスターにはしゃいでおるようじゃ。

 神龍を指差しながら凄い顔で叫んでおるわい。


「じゃあ、ここで神龍の威圧に晒されながら、慣れるまで軽く4千年ほどサバイバルしようか」


「死ぬ! 確実に羽虫のように潰されて死ぬ!」


 心配せんでも、今のお主は魂だけの存在じゃから心が砕けん限りは死なんから心配は無用じゃ。

 これより、転生神式鍛錬をここに開始する!



 神界には神すらも立ち入らない雄大な森が存在する。

 神樹が空を覆うように生える森には、様々な幻獣が生息しておるので修行にも持って来いじゃ!


「あ、あの~、さっきから物凄く息が苦しんですが……」


「この神樹の森は高濃度のマナで満ちておるから、適応できないと溺れて死ぬぞ? レッツ適応じゃ!」


 まあ、ぶっちゃけ高濃度のマナに晒され続けるなんぞ、周りの空気が水に置き換えられたようなもんじゃからな。

 お~お、顔が真っ青になって来たぞ。


「無理!」


「はっはっはっ、必死に足掻いておれば泳ぎ方の一つも覚えよう。覚えるまで何度でも挑戦じゃ!」


「あばばば」


 存分に己が魂を砕くが良い。

 さすれば、再生する際にこの世界に満ちる神気が入り込んで、己の魂をより強固な物へと昇華させてくれるじゃろう。

 というか、そうならなければ消滅するだけなんじゃがな!



「ゼェ……ゼェ……死ぬ、死ぬかと思った……」


「うむ、もっと掛かるかと思ったが2千年程度で適応しきったか。じゃが、ここからがスタートじゃよ? チートの道は下り坂。登って行くのではない、転げ落ちて行くものである! 野を駆け、山を駆けよ! 自然と一体となりマナを感じ取るのじゃ!」


「はい! 何か師匠が指差した方角から遠吠えとか聞えるんですが!」


 チッ、勘のいい奴め。

 ちなみに“師匠”とは儂の事である。

 この修行中での儂は転生神ではない……一指導者なのじゃ!!


「それはここには魔獣が放たれておるからじゃな。心配せんでも無条件で襲って来るぞ」


「それって全然安心できないですよ!!」


「つべこべ言わずに行ってこんか!」


 ウジウジ煩いので首根っこを掴んで投げ飛ばしてやった。

 うむ、放り投げた方から何やら悲鳴のような物が聞こえるが気のせいじゃな。



 頭だけ鍛えるのでは最強とは言えん。

 最強を目指すならば知識も鍛えねばな!


「師匠。こう、一目見ただけで名前と用途が判るって方法はないんですか!」


「儂は知らん! 頼りになるのは己が知識のみ! という訳でこの試験の問題を1つ間違える度にブッ飛ばすからそのつもりでいるんじゃ」


「ちょっと!? そんな見た事も聞いた事も無い物を聞かれたってわかる訳がぶべろ!?」


「知らなければ知れ! あらゆる感覚を尖らせてその物の本質を見極めるのじゃ!」


 そもそも見ただけで物が判るなんぞ、情報が偽装されていたらどうするんじゃ!

 己の目で見て確かめた物こそが真実、甘えはドンドン圧し折るのである!


「よし! こっちが毒草だ!」


「バッカモン! それはただの虫下しじゃ!」


「げろっぱ!?」



「さあ、基礎が終われば次は戦闘訓練じゃ。儂に掛かって来い!」


「む、無理です! この前の修行で自分には戦う才能とかない事がハッキリわかりました!」


「才能? そんな物は必要ありゃせん。ちょっとリミッターをぶっ壊して、死ぬほど死に掛ければあっという間に終わっておるよ」


 そう言えば、この前の修行で雑魚モンスターにボロクソに嬲られておったのう。

 だが勘違いしているようだが、強くなるのに才能なんかいらん。

 獅子が我が仔を千尋の谷に付き落とし、登ってきた仔を更に突き落す様に死なない程度にぶっ壊せば強くなって再生するのじゃ!


「それって死んでますよね!?」


「安心せい。ここではお主は魂だけの存在なので死にたくとも死にはせんよ」


「鬼! 悪魔! 筋肉達磨!」


「ハッハッハッ! まだまだ元気ではないか!」


 元気よく悲鳴が出せる内はまだまだ、それを絞り切ってからが本番じゃ!

 とりあえず6千年ぐらいブッ飛ばすかのう!



 心技体――なんて物ほど上等の物でもないが、折れぬ精神と壊れぬ体と神の技を叩き込んだ。

 と成れば仕上げは……


「才能なんぞ下駄履きよ。人間、血反吐が枯れ尽くすまで絞りに絞り、その身に焼き付ければ才能なんぞなくとも体は動く!」


「だからって生身でドラゴン退治は無理だろうが!!」


 む、もう此奴を鍛えて10万年以上になるが最近、儂への敬意が無い気がするのう。

 最初のサバイバルでちょっとやり過ぎて“死の恐怖”を叩き込んでしまった時は、暫く死んだ魚のような目で壊れたラジオみたいにブツブツと呟くか悲鳴を上げて暴れ回るかを繰り返しておったのに、いつのまにやら図太くなっておるのう。


「せめて武器ぐらい寄越せ!」


「残念ながら儂には武器を与える力はないのじゃ」


「じゃあどうしろっていうんだよ!」


「だから、生身でドラゴンに勝って来い。心配せんでもここなら食われても死にはせん」


「それってつまり生きたまま出されっ!?」


 これ以上は煩いからさっさと神竜に向かってブン投げた。

 さて、あと幾つか修行させて終わりにするかのう。



 そうして泉田一馬を鍛え始めてから数億年ほど経った。

 まるで鋼のように叩いては伸ばし叩いては伸ばしを繰り返した結果、奴は戦神にも迫る力を手に入れたのだ!!


「死ね! 糞ジジぐべらっ!?」


「ハッ! 幾ら神に迫るとはいえ、まだまだ儂に勝とうとは数百億年早いのう」


 とは言え、儂も本気にならねば殴られるかもしれないくらいには成長しておるから、油断は出来んがな。

 こういう所は人間の学習能力の恐ろしさか。


「チッ、まだ駄目か……で? 次は何の修行をするんだ?」


「うむ……そろそろ頃合いかもしれんな」


「は? 何がだ」


 今、此奴の体から漲る力は恐らくあの世界の魔王を遥かに超えている。

 それにこれ以上ここで過ごせばその内に儂も殴られそうじゃから……一方的に殴れる今の内に異世界へ飛ばしてしまおう!


「泉田一馬、今日を持ってお主は免許皆伝じゃ。その力を持って存分に異世界を救うが良い」


「異……世界……? ああ、そう言えばそんな話もあったな……ここんところはジジイをブッ飛ばすだけが目標で忘れてた」


 はぁ、全く誰がこんな狂犬みたいな奴に育ててしまったんじゃ……

 キチンと知識や教養も教えたというのに、まるで脳筋のようではないか。


「弟子は師に似るんだよ」


「口の減らん奴め。まあそれは良い……お主はこれより異世界へと行き新たな人生を始める。時にはここで身に着けた力では解決できない事もあるだろう……しかし、ここで得た経験は決して無駄では」


「あ~長い長い。さっさと送ってくれよ。これだから年寄りは話が長い……」


「儂、一応神なんじゃが?」


「知ってるよ? ほら、さっさとしてくれよ。転生させてくれるんだろ?」


 こやつめ……いや、この減らず口もこれまでかと思うと感慨深く……ないな全然。

 煩いし、さっさと送ってしまおう。


「まあ、これでクソジジイと顔を突き合わせなくて清々する……あれ? なし崩しに修行してたけど、俺が今から行く世界って魔王の侵略を受けてたんだよな? 随分と長い時間経ってるけど大丈夫なのか?」


「それについては心配いらんよ。そもそも神界(ここ)とそれ以外の世界と文字通り、時の流れ方が違うのじゃ。詳しくは説明せんが、ここから送り出す時は定められた地点から送りだされるようになっておる。さあ、無駄話はこれで終わりじゃ。それでは転生させよう。ほれ、そこに立つのじゃ」


「ああ、じゃあな糞ジジイ……いや待て、何故拳を振り上げている」


「何、コレ(こぶし)で異世界までぶっとばしてやろうかと」


「あ! まさかこの前の事を根にもってやがるな!」


 ハッハッハ! ドラゴンの肛門から出てきたその体で抱き着いてきた事は一生忘れんぞ!

 という訳で万感の思いを込めて拳を振り上げる。


「それではさらばじゃ!」


「待て! もっと穏便なぶらびっ!?」


 おー、よく飛んで行ったわい。

 さて、一仕事も終えたし、次の転生者が来るまで筋トレでもしておるかの~。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。


2016/010/15 内容を一部、変更いたしました。

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