31話 とあるネット小説家の異世界冒険記
(´・ω・`)この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
最近は商業でも異世界モノのライトノベルとか増えて来てますよね。
若者の現代世界離れが激しい昨今、異世界へ流れる若者が増えて元の世界では益々少子高齢化が加速してしまいますね。
転生神の仕事も一層増えてぶっちゃけ面倒……いえいえ、お仕事沢山嬉しいなぁ!
という訳で今日の業務を始めましょう!
さて今日の転生者は、物部将生さんです。
今回はメールで勧誘するタイプの異世界転移となっております。
ただ……このタイプってスパムメールと間違えられてよく消されてしまって、上手く行く事って殆どないんですよね……
その癖引っかかるのは人生に絶望気味なダメ人間か、個性が振り切っちゃってるような変人しか来ないんですよ……ああ、気が重い。
「そんな素振りも見せずに明るく行きましょう! ようこそ神の間へ!」
「ふむ……話には聞いていたが本当に唐突に招かれるのだな。しかし、念願叶った異世界転移を齎す神が、年端もいかぬ少女の姿とは些か威厳に欠けるのではないか? 普通こういう場合は老人の姿や、不定形などで姿を見せないのがセオリーという物ではないか? まあ、確かに人並み外れた“絶世”という言葉が付きそうな容姿だとは思うが、知性の欠片も見えないのでは役者不足ではないのかね? そこの所、本人はどう考えているのだ?」
なんで私、召喚した相手からいきなりダメ出しを受けてるんでしょうかねぇ?
はぁ、やっぱりこの形式でやってくる転生希望者なんて変人しかいないんですよ!(暴論)
絡むと色々面倒臭そうなので、さっさと終わらせて送っちゃいましょう。
「ええっと、貴方は英雄になれる機会を得ました。現在、異世界にて復活した魔王をどうか貴方の手で……」
「待った。俺は別に英雄なんぞには興味はないぞ?」
……はい?
じゃあ、なんで事前にお送りしたアンケートで『異世界に行ったら何をしたいですか?』って質問に『貴方は英雄になりたい』なんて答えたんですか?
「俺はな、今流行りの異世界ファンタジー小説が好きだ。ある日降って湧いた幸運を押し付けられる主人公が、コネも金も能力もなしに幸運と根拠のない自信だけで目立ちたくないとか意味不明な妄言を吐きながら、コミュ障だと自称しているのに出会う異性を片っ端から誑かし、現代の価値観を押し付けつつ妙に日本文化を信仰して成り上がる話が大好きなのだ! 特に米と刀は9割方出てくる所とかな!」
「えーっと、その大分捻くれた評価のどの部分に好きだと言える箇所があるんでしょうか?」
「捻くれる? 純粋に好きに決まっているではないか。惰弱で社会の底辺を這い蹲っているような糞ニートが異世界で傍若無人に暴れ回る様など読んでいて気分が晴れ渡る! 寧ろ大好きでなければ今こうして俺がここにいる訳がないだろう? それにこの俺には一つの夢がある!」
はぁ、どうやら「異世界に行った主人公が異世界を舞台に成長して活躍するのが好きだ」と言いたいようです。 随分と捻くれた性格のようですね。
まるでヒーローに出会った子供の様に、真っ直ぐで一点の曇りもないキラキラした目をして言ってますよこの人。
「俺は異世界に行って最強系主人公の小説が書きたいのだ」
「……はい?」
「知っての通り、俺は元の世界ではネットで小説を投稿していた。ジャンルは勿論、異世界モノだ。それもありふれたトラックに轢かれたかと思えば神なんて舞台装置が現れて、間違えて殺した侘びにゲームシステムのようなチート能力を授けて主人公を異世界へ送り出し、奴隷や貴族の令嬢などを出会いながら魔王を倒すありきたりな話だ。そこそこ長い期間を続けていたお陰で一定の支持はあったと自負しているが、ここで一つ気になった感想が目に飛び込んできた」
そこで言葉を切ると、物部将生さんがなんかチラチラとこちらを見てきました。
なんか、ものすごーく相槌を入れたくないんですけど……語りたいんですね。
「はぁ……どういうのですか?」
「うむ、それが異世界へ来たばかりの主人公が魔法をぶっ放してモンスターを殺すシーンで『ただの学生だった主人公がいきなり生物を殺せるのはおかしい』という感想があってな。それに対して俺は『突然に異世界へ連れて来られてモンスターに出くわしたら、魔法が使えたなら殺すだろう』と返信したら、やれ生理的嫌悪感だのトラウマがどうのと反論があってな」
まあ、気になる人は気にしますよね。
ぶっちゃけ私も、何で一度も剣を振るった事のない素人ほど初期装備で剣を要望する人が多いので、面倒だなーって思った事ありますよ。
ビールじゃないんですから、「とりあえず武器は剣で」は止めましょうよ、そう言う人に限って異世界に降り立った瞬間に死ぬパターンが多いんですよ。
「それを読んだ瞬間は荒れるのを覚悟で罵倒の限りを尽くして反論しようとしたんだが、そこで俺は疑問に思った。ならば『実際に武器を持った学生は生き物を殺せるのか?』と、そこで家畜の屠殺を体験する事にしたのだ」
えぇ……そこでそう言う思考へ飛ぶんですか。
普通、たかが趣味のネット小説程度でそこまでしませんよね。
「そこで俺は手頃な所で母方の祖父の家で鶏を絞めると言うので、手伝いを買って出たのだが、いやはや殺生という物を甘く見ていたな。血抜きの為に逆さ吊りにして首筋にナイフを当てた時の緊張感、暴れる鶏の体温と脈動に否が応でも生きている事を自覚させられ、円らな目を見てしまうとナイフを持てなくなってな。その後も3回ほどチャレンジを試みたが恥ずかしながら結局自分では一回も鶏を殺す事は出来なかった。それどころか解体される鶏を見て吐いてしまったよ……ああ、だがその後の鳥鍋は美味かったぞ」
ああ、食べるのは食べたんですね……でも、そうでしょうね。
今まで魚すら捌いた事がない方が、いきなり生物を殺すのはハードルが高いですよねぇ。
というか、何でそこまでするんですか。
「その後もナイフとロープだけで山に篭ってみたり、とりあえず目に付いた物の味を確かめた事もあったな。流石にその辺に生えたキノコを試す勇気はなかったがアリは中々食えたものだったぞ? あと、植物を食うなら枝先の柔かい部分か花を毟って蜜を啜るのがお勧めだ。そして、その体験を通じて俺は悟ったのだ。知らぬ物を知らぬまま書くのと、知っている物をあえて書かないとでは表現に差があると! だから俺は、異世界に渡ってそこで見て聞いて感じた体験を基にネット小説を書きたいのだ! あ、ちなみに取材を基に主人公の生き物を殺す葛藤を鮮明に描写したら『悩み過ぎてウザ過ぎだ!』という沢山の暖かいコメントを貰ったぞ」
それは本末転倒過ぎではないでしょうか……
読者は葛藤からの解放が見たい訳ですし……
「というか、そこまでしてどういうのが書きたいんですか?」
「所謂、『異世界チート』とか『俺TUEEE系』小説が書きたい。赤ん坊の頃にちょっと努力したぐらいで莫大な魔力を持ったり、RPGのようなシステムを操作する能力を得たり、生産系チートでも構わない。降って湧いただけの力で主人公が理不尽なまでに異世界を蹂躙して、ついでに自分のハーレムを作りつつ「やれやれ」とか言いながら世界を救う、俺はそう言う話が書きたいのだよ」
「はぁ……つまり、貴方に主人公になれるようなチート能力を差し上げればいいんですね?」
私がそう言った瞬間、彼は思いっきり呆れたよう肩を竦めて首を振りました。
何ですかその「うわぁコイツ空気読めねぇ~」みたいな目は。
「はぁ……神だという癖に何もわかっていないのだな。無知蒙昧とはこの事か、その言葉には呆れを通り越して感嘆すら覚える。神とは万能な物だと聞いていたが、存外にその辺の人間と変わらないのか。ああ、しかしその程度ならば寧ろ『人間味溢れる』と表現するのか。人間味溢れる(笑)神ならば俺の考えを理解できなくても仕方ない。寧ろ分からない方が必定か。何とも神も不便な物なのだなぁ」
なんか物凄く同情の篭った笑みを浮かべて見てきやがりましたよ。
こん畜生が!
……おっと、私はあくまで神様なので偏見の篭った目では見ませんよ、ええ。
ここは女神の私が菩薩の心で彼を導こうじゃありませんか。
「いいか? 俺は主人公が異世界でチートの限りを尽くした『俺TUEEE』系の主人公最強モノが書きたいのだ。書き手の俺が大冒険した物を書いてもそれは創作にならんし、そもそも誰得だ。俺が書いた俺が活躍する物語などただの黒歴史日記に過ぎん。第三者の視点で、チート能力を持った最強系主人公が異世界を蹂躙するような話を俺は書きたいのだよ!」
つまりこの人はアレですか、勇者の仲間的なポジに収まりつつ当事者にならない程度に絡みながら自分の小説が書きたい訳ですか……面倒臭ぇぇぇ!
「じゃあ、こうしましょう。とりあえず貴方には強力な能力を3つほど差し上げますから……」
「ヴァカめ! 俺に強い能力を付けて主人公よりも身に付けて、影の実力者になったらキャラが立ってしまうではないか。俺はあくまで主人公たちの活躍を邪魔しない程度の慎ましい程度のチートが欲しいのだ」
「ははは、大丈夫ですよ。貴方のキャラはちょっとやそっとのチートじゃどうにもなりませんよ」
「む? ふん、そうだな。俺の様に謙虚な人間ならチート程度で増長などせんがな。だがいくら俺が慎ましい人間だからと言っても、強力な力は必ず明るみに出るし、そんな力を持っていたら使いたくなるのが人情という物だ。俺は精々八の字ポジションで狂言回し的なキャラが出来れば満足だ」
随分と自己主張の強いうっかり者ですね。
クライマックスの殺陣のシーンで、逃げ惑う体であっちこっちに移動しながら敵味方にちょっかいを出して結果的に親玉をピンチに追い込みそうなうっかり者ですけどね。
「というか、なんだかんだ言っても結局チートあったら使うんじゃないですか」
「ヴァカなのか? お前の頭には脳味噌ではなく糠味噌でも詰まっているのか? 胡瓜でも漬ければ、使えんその頭も少しは役に立ちのではないか?」
「失礼な! 私の頭にはキチンと脳味噌が詰まってます! 糠味噌が詰まってる訳ないじゃないですか!」
「当たり前だろう。どこの世界に糠味噌を頭に詰めた人間がいるのだ。ああ、そうか。お前は神(笑)だったな。ひょっとすれば、その頭には人類には想像もつかない様な奇天烈物質が詰まってるやもしれんな」
うぎぎぎ……好き勝手な事言いやがりまして、亀にでも転生させちゃいましょうか。こんちくせうは……
そうだ! それで行きましょう!
「ふふ~ん、そんな事言っちゃっていいんですか? 貴方がどのように転生するかは私の胸三寸でどうとでもなる事をお忘れですか? 最悪の状況で転生させてもいいんですよ?」
「おお、最近流行っている無チートという奴か! やはり死ぬにしても俺は劇的な方が良いな。スライムに嬲られるよりはドラゴンにみっともなく逃げ回りつつ最後は惨めに食い殺されるなど、なんと物語的なのだろうか!? 盗賊に捕まり奴隷スタートも中々成り上がり者の始まりっぽくて良いではないか。ああ、心配しなくとも俺のコミュ力はそこそこ高い方だぞ。人付き合いが多い作家がコミュ障な訳が無かろう?」
ダメだ……逆境に置いたらそれをネタとして楽しむつもりだこの人。
もういいや、当初の予定通りさっさとチート渡して転生されてしまいましょう。
「おや? まさかとは思うが神ともあろうお方が、私的な感情を理由に職務怠慢をなさるおつもりではなかろうな? 俺はまだこれから何をすればよいのか何も聞かされていないぞ? 一体、俺は異世界で何をどのようにすればいいんだ?」
ぐぬぬ、人を嬉々としておちょくってくれやがりますね!
「行き先は『剣と魔法のファンタジーな世界』! 目的は『世界の脅威を倒す事』! 方法は問いませんし、世界の理を逸脱しない限りは魔王になっても構いません!」
「ほうほう、随分と手垢の付いたシナリオだな。つまりは人類を滅亡させるような事のなっても構わないと? 最近では逆境モノも人気が高いからな」
「ええ、神にとってはその辺はどうでもいいんで。最悪、生物がいれば世界の運用には問題ないんで好きにしてください」
「おやおや、そこまでそちらの裏事情を開けっ広げに言ってしまって良いのかね? 神は人間などどうでもよいように聞こえてしまうが」
今更、そんな事を気にする玉ですか。
そもそもあなたの所為でしょうが!
「どうでもいい訳ないじゃないですか。ですが、貴方だって遠くの国の知らない人が事故に巻き込まれても嘆き悲しんだりはしないでしょう?」
「見も蓋もないが同意しよう。私の腕は広げた範囲にしか届かないからね」
「そう言う訳です。では説明も終わりましたし、さっさと行ってください。もう二度と顔も見たくありません」
「おいおい、そんな事を言ってもいいのかな? そう言うのは我々の間では“フラグ”というのだぞ?」
ハッ、神の間は貴方の良く世界とは別の次元にあるので早々ここへは来れませんよ!
私がそっちへ行く理由もありませんしね!
「それでは貴方に艱難辛苦が多い事を。神をバカにする輩は豆腐に頭をぶつけて死ねばいいんですよ」
「それは良い! 小説のネタに幅がでるからな! しかし神に困難を願われるとは中々レアな……」
鬱陶しいので途中で送ってやりました。ザマー見ろ!
ふぅ、でもこれで二度と顔を見なくて済むので清々しました。
……あれ?
なんか上から新しい命令が……?
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




