28話 空想を現実的に考えても碌な事にならない
(´・ω・`)ファンタジーは奥深いですね。
どんだけぶっ飛んだ設定を考えても、それが霞んでしまうような話が大昔に幾つもあるんですよ。 だから安心しましょう。(謎)
「腹立つわ~」
「えっ、いきなりなんですか」
皆さん、どーもおっさしぶりっす。
入ろうとしたドアを目の前で閉められたら、ソイツの顔を十年は覚えているタイプの転生神でーす。
え~、今日の転生者は家の階段を踏み外してこっちへ来ちゃった鳴尾頼明君です。
「あのさ~、ちょっと聞いてくれよ~。昨日、俺ネットしてたらウチで運営しているサイトの掲示板に書き込みがあったから覗いてた訳よ。そしたら『今、流行のファンタジー物を現実的に考えたらここがおかしい!』っていうのが書いてあってさ~」
「は、はぁ……? え、神様が運営?」
「『庶民の収入を考えれば、冒険者なんて雇うくらいなら自分たちでモンスターぐらい狩るんじゃないでしょうか?』とか『そもそも労働時間を考えれば割に合わないし、軍がいればモンスターを駆逐しない訳ないでしょう?』とか色々と書いてあった訳よ~」
「まあ、冷静に考えればそうですよね。僕もそういうのを書いていた経験があるので疑問に思てました。正直、モンスターの生息地に囲まれた村なんて入植地ですし、王都の周辺にモンスターがいるってそこへの物資輸送はどうやってるんでしょうね?」
そうだけど、そうなんだけどさ!
それ言ったらモンスターが出て来なくなっちゃうじゃん! 寧ろ珍動物として動物園に飼われてるレベルになるんだよ!
それじゃあ、夢もロマンもファンタジーも無いよ!
「そういえば前からの疑問なんですけど、ドラゴンとか巨大生物ってどうやって巨体を維持してるんですか? 山とかに居を構えて住んでいれば、周辺の動物なんてすぐ食べ尽くしちゃいますよね?」
「ああ、それならアレだ。草木が魔物化するから禿山になっても2~3日でボーボーになんだよ。その上、栄養価も高いから巨体を維持出来るんです。そういう事にしてください。オナシャッス!」
「そう……なんですか」
俺の回答に鳴尾頼明君が不満そうである。
そんな事言ったら、ドラゴンが何で飛ぶのさ! どうやったら生き物が口から火を吹くのよ!
そこ気にしてたらファンタジーが成り立たないぜ!?
「じゃあ異世界モノって、金より上のミスリルとかオリハルコンの通貨がよく出てきますよね。アレってどういう信用の元に貨幣価値が決まっているんですか? 正直、工業的に使うなら延べ棒で持ってた方が良いような気がしますし、作る意味も分からないんですが?」
「それはアレだよ! 主人公が金使う時に金貨ジャラジャラ面倒臭いって話だろ! 金貨が何百枚っていうより、『庶民は見る事すらないミスリル通貨だ!』とか言った方がインパクトあるし!」
「えぇ~……それは言っちゃあダメだと思うんですけど……それにそれは物語の中の話でしょ?」
ぶっちゃけ、これって世界神製ゲームみたいなもんなんだぜ?
異世界作って観察するのが、神々の娯楽の一つだからな。
「まあそれは本音として、建前としては国境を越えて価値観を共有できる文化があんだろ? しかも向こうに比べてこっちには本物がいるんだ。対立とか起きようがない奴が」
「え、宗教が貨幣の価値を決めているんですか?」
「いや、神様がその価値を保証してんだよ。だから世界によっちゃあ、コイン一枚一枚に祝福を掛けるんだぜ? まぁ神様からしてみれば専用の分体を作るなんて大した事ないからな。コピペ並みに増やせるぜ? 後が面倒だからやんないけど」
「……なんか神様の価値がガクンと下がりましたね」
いや、そうでもしないと手が足んないんだって。
それにミスリル通貨が出来た理由なんて過去の王国が見栄を張って作ったり、商人が大量に持ち歩くのが面倒とかいう理由で作ったりなんて世界によってバラバラなんだからさぁ。
確かに、俺も分断されている国なのにどうして言語と通貨が統一されているの?とか疑問に思う時あるけどね……
そこは異世界神の裁量っつうか、そこに住んでいる人間が必要性に駆られて作ったんじゃねぇの?で納得してくれ!
「他にもさぁ、『階級社会なのに金もコネもない主人公が何で成り上がれるの?』とか『人間だけでも人種問題はあるのに、亜人もいるとかその辺はどうなってるの?』とか『そもそも鉄とか鋼の武器なんてコストの掛かる高級品を、その日暮らしの冒険者が持てる訳ないと思うんですけど?』とか重箱の隅突きやがって、アンタらはアレか! ファンタジーに恋人でも殺されたのか!?」
「いや多分、地球の中世をモデルにって言っているのに、その辺の時代背景が何も反映されていないのが気になっているんじゃないかと思うんですけど……」
「じゃあ、現代でやれってか! 現代の日本にモンスター出して、主人公は魔法学園で劣等生やっててチンカラホイって呪文唱えるのか!? 空飛ぶ絨毯には免許がいるんだぞ! 俺たちがやってんのはなぁ……ガチの大河ドラマじゃねぇんだよ、緩い『水戸黄門』とかがやりてぇんだよ!」
「落ち着いてください。意味が分からないです、それで結局、神様は何が言いたいんですか?」
「神様もネットの評判なんか見るもんじゃないな!」
神様は皆さまの暖かいメッセージのみを募集しています!
批評が来ると俺が酒に溺れて管巻いて吐きます。 露骨な売り込みですよ!
「というか神様もネットなんか見るんですね」
「おう、†反逆の堕天使デスカイザー†とはオレの事だぜ!」
「ネトゲ!?」
――閑話休題
「という訳で君には、こってこてのファンタジー世界へ行って貰います。当然冒険者もいるし、巨大なドラゴンが空飛んでオリハルコン通貨とか出回っちゃってるぜ!」
「止めてくださいよ、そのノーガード戦法に見せ掛けた各方面へ喧嘩売るスタイル。後で謝る事になっても知りませんよ?」
「へへへっ、γ‐GTPの数値が100を超える俺に怖い物はないぜ?」
「酒を止めろ!」
それは無理な話だぜ。
酒は友達……不安定な心を鎮めてくれる万能の薬……俺に平穏を与えてくれる……
ふっ、思わず手が震えてきやがるぜ。
「いや、それアルコール依存症の症状ですから!」
「それでも俺は負けねぇ! 最後までこの業務をやり遂げ……ああ、やっぱ無~理~」
「しっかりしてくださいよ!」
だらけたっていいじゃない、神様だもの。
ああ、もう面倒臭くなってきたなぁ。
「なあ、このままアンタを異世界に送っていい?」
「ダメですよ! せめてどんな世界へ行くかとか、現代社会に浸かり切った学生でも生き残れるようなチート下さいよ!」
「大丈夫だ……人類に残された最後の武器、その名も『コミュニケーション能力』! それさえあれば、どこへでもやって……いけ……る……がく」
「それがあったら引き篭もりになんかなってないよ!?」
そうだったな。
鳴尾頼明君はボッチの引きこもりだったんだっけ。
生意気にも頼明君が3人に分身して見える……俺、この業務が終わったら休肝するんだ。
「はぁ……えー、この度はこちらの手違いにより君を死亡させてしまった。めんごめんご。で、本当ならばすぐに蘇生するべきなんだが、君の魂が既にここに来てしまっているという事は死亡確定、つまり神である俺でも蘇生は不可能になってしまったので君に2つの道を用意する。1つはセーブデータをリセットして『ぼうけんをはじめる』まで天国待機。2つ目は現在の君のままに『つづけてニューゲーム』。どっちがいい?」
「話は分かりました。でも、その前にソファーに横になったまま喋るのは止めてくれませんか?」
チッ、態々言わなきゃ画面の向こうには伝わらなかったものを……
でもまだ俺、頭がグワングワンして平衡感覚すら掴めないんですけど、これ身体起こしたら吐くよ? 神汁を吐いちゃうよ? キラキラエフェクト掛けちゃうよ?
「……やっぱいいです。なんか顔が真っ青なので無理しないでください」
「おお、分かってくれたかマイブラザー。それで、君はどうする?」
「うーん、そうですね……」
「ちなみに天国はどっかの宗教みたいに72人の乙女を侍らせるとか、酒の池や肉の林があるような場所じゃない。見渡す限りだだっ広い草原、そこにボケた爺さんみたいな奴らがボーっと転生する順番を待つ所なんだぜ。下手すりゃ数百年は待たされるかもな」
「……暗に僕の選択肢を狭めようとしてません?」
「フーフー」
「吹けてないですよ、口笛……」
何の事やら。
ぶっちゃけね? この仕事ってノルマ制で、転生者が何をしたかが俺たちの評価になるのよ。
だからこっちとしては出来れば向こうへ行って貰って、いざこざを解決してポイント稼いで貰いたいのよ。
そうすりゃ異世界神の覚えも良くなるし、仕事も増え……やべ、やっぱ止めようかなぁ。
「決めました。異世界へ行かせ「異世界行くの、やっぱ止めね?」……ええ!?」
「だってさ~。異世界行っても良い事ないよ? 汚いし臭いし物価高いし治安悪いしメシだって満足に食べられる物があるか分からないんだぞ?」
「……何で突然そんな事を?」
「べ、別に何でもねぇし! 仕事が増えて面倒そうだなぁとか思ってねぇし! ただちょっと手を抜けばいいかなぁって考えただけだし!」
「お仕事しましょうよ……」
神の俺に仕事しろだと!? 鬼! 悪魔! ブラ企!
お前には人に血が流れてないのか!
俺は働きたくない! 働きたくないでござる!
「なんか謂れのない中傷を受けた気がするんですけど」
「気のせいだ! で、結局異世界へ行くの?」
「行きますよ! どうせ異世界へ行くか行かないかの違いでしょう? 次に死ねば結局天国行きな訳ですし」
「ふっ、もしかしたら地獄へ行くかもしれないぜ?」
「そうなったらそうなった時です」
やだ……この子、覚悟決まり過ぎっ!?
「じゃあ、チートをやるよ。内容は『異世界言語』と『鑑定』と『アイテムボックス』な。説明は向こうで鑑定でもして調べて」
「なんか投げやりですね」
そろそろ時間的に締めに行かないといけないからな。
鳴尾頼明君の足元に転送の魔法陣を展開する。
「えっ、そう言えば魔王がいるとかそう言うのを聞いてないんですけど、僕は向こうで何をすればいいんですか?」
「高度な柔軟性を維持しつつ現場の判断で好きに頑張ればいいんじゃね?」
「つまり何もないんですか!?」
彼はそれだけ言い残して、異世界へと旅立った……
さて、切り替えて次の転生者を迎えねば、全く神様は辛いぜ!
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
次回は3月28日を予定しています。




