番外5‐4 異世界で俺は白米を炊く 前菜編1『高山田正大の場合』
この異世界に来てから半月が経った。
前回、領主にワイバーンの肉を食わせた後、ほとぼりが冷めるまで離れる為に冒険者となって別の街を目指した。
冒険者になったおかげで美味そうなモンスターの情報が入ってくるようになったので、モンスターを食う為に西へ東へと動き回っていたのだが……
「う~ん……」
現在、俺はキャンプでメニュー画面を開きながら唸っていた。
原因はこれである。
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『豪食細胞』
食べた物の魔力を吸収して進化する超細胞。
細胞一つの生命力が強く、短時間で過酷な環境へ適応できる。
生命維持に通常の5倍以上のカロリーを消費する。
“食べる事”に貪欲な最も原始的で最小のモンスターである。
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ゲーム時代には聞いた事もない特殊スキルが、ある日気が付くと生えていたのである。
しかも最近、気が付くと食事量が増えていて一日の殆どを、モンスターを狩って調理するのに時間を費やしていたので、オッサンにドン引かれた事があった。
「明らかにコイツの所為だよな……」
全く、どこのグルメバトル漫画だ。
というか……
「俺の細胞がモンスターになっちまったのか。これって俺もモンスターになるのか?」
ためしに腕をじっと観察してみるが、特に変わった所は無いように見える。
まさか……その内、毛とか鱗が生えてくるんじゃないんだろうか。
「ゲームだと獣人族には【獣化】ってスキルがあったが……人族にそんなスキルあったか?」
「んあ? どうしたんだよマサヒロ。深刻そうな顔して、腹でも減ったか?」
何で深刻そうな顔と腹が減るのが繋がるんだよ。
まるで俺が年中腹を空かせてるみたいじゃないか。
俺はムッとしながら、火に炙って食べ頃になったグランベックの肉を齧った。
うむ、少し癖はあるが風味付けの香辛料が効いて美味いな。
さてと……次は何を焼くかな。
「タカヒロよぉ。オメェ、グランベック一頭を丸々食ってまだ食うのか?」
「仕方ねぇだろ。腹が減ってしょうがないんだから」
「腹が減るって……さっきだってワイバーンの燻製を齧ってたのにか?」
そう言えばさっき肉焼きながら食ってたな……
何? アイテムボックスにしまっていた10kgのブロック一つ分の燻製が無い……だと?
バカな、このグランベックだって優に100kgはあった筈だが……
「なあ、お前どっかおかしいんじゃねぇか? 医者にでも見て貰った方が良いんじゃあ……」
「いや、恐らく大丈夫だ」
恐らく、というよりもこのスキルに因る物でまず間違いないだろう。
多分、生命維持だけでも5倍のカロリーを消費するというのが、この空腹感の正体の筈だ。
今までの俺は高レベルの体もあって1回の食事で10kg以上は食べていた。
しかし、それが5倍となると……
「いや、生命維持だけでという事は動けばさらに消費は跳ね上がるか……」
つまり、活動する為のエネルギーも通常より多くなっているという事だ。
なるほど、それではこれっぽっちでは足りないな。
「という事はもっと栄養の高い食材か料理を作る必要があるな」
「ん、どうかしたのか?」
どうやら本格的に『アレ』の為に活動する必要がありそうだ。
冒険者協会で調べ物をした俺は一つの決意を固めた。
「という訳で、俺のゲーム時代の目標であった『フルコース』作りを開始する」
「ふ、ふるこーす?」
MMO時代に某グルメバトル漫画に感化されて各料理をフルコース8種類に分け、自分ならではのフルコースを作ろうとした事があった。
しかし、ゲーム内では味によって満足感を得られない様に味は薄らとしか再現されてない為、これでは意味が無いと断念したが、ここに来たのだから話は変わってくる。
「今の俺の身体は常に飢餓状態で食う為に狩った時に消費したエネルギーを、狩った獲物で補填している状態だ。はっきり言って割に合わない」
「じゃあ、店で食えばいいじゃねぇか」
「あんな所で食うくらいなら、生で草でも齧っていた方がマシだ。兎に角、今の悪循環を打破するべく、より栄養価の高い飯を食う必要がある。そこで『フルコース』だ」
前々から目を付けていた食材の候補はいくつかある。
伝説級のアレらなら、恐らく飢餓状態のこの身体を何とかできるかもしれない。
「それは良いけどよ……それにはどんなモンが必要なんだ? 当てはあんのか?」
「この近くだと……『世界の奈落』にいる金剛巨蟹だな」
「聞いた事ねぇモンスターだなぁ。それはどこにいるんだ?」
「『世界の奈落』という重力が歪になっている洞窟の奥地、重力が数倍にもなっているエリアに生息する甲殻に付いた炭素が金剛石へと変化した、そいつ自体はDランクの雑魚モンスターだ」
但し、場所が場所だけにフィールドの影響でステータスが変化する為、実際はAランク程度になるがな。
ついで言えば、そもそも『世界の奈落』に行くまでの道程も推奨レベル200以上の過酷なダンジョンだ。
「しかし、本物の金剛巨蟹か……くっ、腹が鳴るぜ」
「そんな腕が鳴るみたいに言うなよ……」
「そんなだから、アサシンの俺単独なら走破は可能だし、ちょっと行って狩って来ようと思う」
「え、俺は?」
「オッサンは……無理だろ」
雑魚如きに追い回されている程度であそこへ行けば、幾つ蘇生アイテムがあっても足りねぇよ。
そんな風に冒険者協会の休憩所でオッサンと話していると、数人の冒険者が近づいてきた。
「話の途中で済まないがそこの君。ちょっと話を聞かせと貰えないか?」
声を掛けて来たのは髭面の冒険者だった。
その後ろには3人の冒険者がこっちを見ていた。
「あ? アンタら誰」
「バッカ、マサヒロ!? この方たちは冒険者なら知らぬ者はいないAランク冒険者パーティの『灰鱗竜の爪』だろうが!」
ほう、そんな物がいるのか……
てか、灰鱗竜ってドラゴンモドキって言われてるリザード種じゃねぇか。
どうせ名前に入れるなら同じCランクのバジリスクとかの方がカッコいいと思うんだが……
なんて考えていると、髭のオッサンが俺の方を見た。
「先ほど、君たちは『世界の奈落』の事を話していなかったか?」
「ああ、話してたしこれから行くつもりだよ」
ゲーム時代のままなら一時期あそこには通い詰めてたから、目を瞑ってたって進める俺の庭みたいなもんだ。
だが髭のオッサンはそれが気に障ったらしく、眉を顰めて俺の肩を掴んだ。
「あそこは我々ですら入口で引き返らなければならなかった魔のダンジョン。君の様な若者が命を捨てに行く所ではない」
どうやらこの髭オッサンは俺をその辺の新人冒険者だと思っているようだ。
まあ、細部はゲームと違う所もあるだろうし、やはりリアルだと独特の空気という物はある。
だがそれを踏まえても、この程度のエリアなら余裕で攻略できる筈だ。
「悪いが俺にも切羽詰まった理由があるんだよ。見ず知らずのアンタに止められてハイそうですかって止める訳には行かねぇんだよ」
「むぅ……しかし、あそこはそう簡単な場所では……そうだ、では我々と共に行こう」
「……は?」
髭のオッサンは笑顔でとんでもない提案をしてくれやがりました。
髭のオッサンの提案に俺は猛反対した。
どういうつもりなのかは全く分からないが、初心者にもなれていない奴らに付いて来られてもハッキリ言って迷惑なだけである。
俺は彼らに付いて来られても邪魔だと言ったが、逆にそれが気に障ったようで、最初は俺と一緒に行く事に反対だったメンバーも一転して俺と一緒に行くことを賛成し出した。
その上、オッサンが土下座をする勢いでしがみ付いてきた事も所為もあって、俺は渋々『灰鱗竜の爪』と共に行く事にしたのだが……
「ゲロでも食ってろ! カスが!」
「何だと!?」
朝から『世界の奈落』へと向かうダンジョンへ入った。
オッサンが有名だと言っていただけはあるようで、『灰鱗竜の爪』のメンバーはレベルこそ百にも届いていないものの、ステータスの不利を技術やチームの連携でカバーして立ち回っていた。
だが勿論、それでは進むスピードも遅い訳で……本来の予定ならば、既に『世界の奈落』の入口までは来ている筈だったのが、半分にすら到達出来ていなかった。
そこまでは俺も我慢した。
上級者が初心者に当たり散らした所で、進行が早くなる訳ではないからな。
しかし、キャンプ地を決めて食事になった時、俺の我慢が一気にキレた。
だが、俺がキレた理由が分からないようで、リーダーである髭のオッサンは困惑した表情を浮かべている。
「一体どうしたというのかね?」
「どうもこうもあるか、何だこの見るからに吐瀉物を連想させる物体は、俺を馬鹿にしてんのか?」
「何だと!? テメェ、こっちが出してやった飯に文句でもあるのか!」
そう言って突っかかってきたのはメンバーで最年少の槍使いの男だ。
コイツさえ俺が同行を断った時に突っかかって来なければこんな事にはならなかったのに……
「ああ、大アリだね。俺はこんな物を口にも入れたくないし、こんな物を平然と食っているお前たちの正気を疑う」
「ななな! 何だと!」
「さっきからそれしか言えないのか? 全く、だからこの世界の人間は嫌なんだよ……」
「て、テメェ!!」
逆上した槍使いが思わず脇に差していた槍を掴む。
併せて俺も腰のナイフに手を掛けた瞬間、髭のオッサンが一喝した。
「止めんか! 確かに君の言う通りコレは見た目こそ悪いが、これは野菜や肉を細切れにして煮込んだ物だ。飲むだけで腹は膨らむし、調理の為に火を起こす必要もない『灰鱗竜の爪』特製のスープなんだよ」
「努力は認める。だけどな……これはゴミだ。クタクタにあるまで煮込んだ野菜をまた煮込む? 入ってる肉だってボソボソで栄養素の欠片も無い。こんな物を食うぐらいなら土でも食った方がまだ体にいいわ」
「ほう、ではどうするんだ? 見た所、君は殆ど荷物を持っていないし、食べなければ明日からが辛いぞ?」
「はぁ? 食う物ならあるだろ。そこらへんに」
俺はそう言って、神鉄包丁を取り出すと昼間に狩り倒して置いたモンスターに近づく。
トロールやビートル系はちゃんとした処理をしないと臭くて食えた物じゃないから、今回は一匹だけいたシルバーウルフを食うとしよう。
俺が包丁を刺し入れた所で、槍使いが困惑した声を上げた。
「おい、まさかそれを食うつもりなのか?」
「ああ、それがどうした?」
「やめろ!! モンスターの肉には毒があるんだぞ!」
「ねぇよ。素人は黙って見てろよ」
俺は手早くシルバーウルフを解体し始める。
倒してすぐに血抜きをしなかったから、臭いが少々不安だが倒してまだ時間が経っていないから多分大丈夫だろう。
魔法で血抜きと熟成を終わらせ、トラック大の狼型モンスターを肉片に解体する。
「よし、解体終了。後は火だな」
「待て、まさか火を起こす気か? 悪いが火はモンスターを呼び寄せるので止めて貰いたい」
……はぁ、だからコイツらと一緒に来るのは嫌だったんだよ。
雑魚に群がられても【威圧】で追い払えない事もないが、あれはパーティでのレベル合計数で計算される上、コイツら軒並み俺のレベルの半分もないし、10以上離れていないと成功しないからまず成功しないんだよなぁ。
本当に何で俺、此奴らと来てるんだろう……
「だからって生で食う訳にも行かねぇし……いや、もういいや食おう」
「おい!?」
考えてみれば火を使わずに調理すればいいんだ。
それにこれ以上、何も食わないと恐らく自分の細胞に食い殺される。
そう考えた俺は、まず【食品判定】で毒の有無を確認、そして骨を全て取りナイフで叩いて挽肉を作る。
そしてタマネギ(のようなもの)や野菜の酢漬けを微塵切りにして、挽肉には油と塩とスパイスを混ぜて馴染ませてから、タマネギモドキや酢漬けを均一になる様に混ぜて捏ねる。
その後は形を丸く成形して薬味を添えれば完成だ。
「シルバーウルフのタルタルステーキ風の完成、付け合せは……パンでいいか」
「お、おい、本気で食うつもりか!?」
「当たり前だ。その為に調理したんだからな」
パリジャン風の堅焼きパンを斜めに切って、肉を乗せるように付けて食べる。
うむ、血抜きが遅かった所為か若干生臭いが、食感的にはネギトロに近い獣肉で不味くない。
夢中になって食っていると、『灰鱗竜の爪』の面子がまるで信じられない物でも見たような表情でこちらを見ていた。
「んだよ。肉ならやらねぇぞ。コレでも足りるか分からねぇんだからな」
「いや、いらねぇよ……ってか、そんな物を食って大丈夫なのか!?」
「わ、ワシぁ長年冒険者やってきたけども、モンスター食う奴ぁ初めて見た……」
「……お腹壊さない?」
好奇心や嫌悪の眼差しを一切無視して、俺はひたすら肉を食った。
俺はゲロ飯を食う『灰鱗竜の爪』を、『灰鱗竜の爪』はモンスターを食う俺を奇異な目で見ながら、奇妙な空気の中で食事を進めるのであった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
10/22前回との矛盾があったので若干設定を変更しました。




