番外7‐3 極普通の女子高生の日常『白河明日香の場合』
その日もいつもの様に自棄に絡んでくるイケメンたちを回避して、屋上へ上ってウィングドラゴンのティアマトで帰ろうとしていた時の事……
その出会いは突然やってきた。
放課後、私はいつもの様に屋上で上履きから外履きに履き換え、召喚魔法でティアマトを呼び出した。
「グルルル……」
「よーしよし、今日はどこへ行きましょうか」
「はぁ……今日も今日とてドラゴン通学「うわあああ!?」……なんだ?」
声のした方を見ると、丁度ドアの所で腰を抜かしている生徒が居ました。
確か彼は同じクラスの……
「モブ田モブ郎くんでしたっけ?」
「山田太郎だよ!」
あ~、そんな名前だったんですか。
「それでモブ太郎くんは、どうして屋上に?」
「そ、それはその……君が毎日屋上に行ってるから気になったんだよ」
なるほど、この世界はゲームを舞台にはしているけども、そこにいるのは紛れもなく生きた人間な訳で、彼らにもちゃんとした感情があるわけですね。
むむむ、面倒な事になりました。
「それにしても……これってドラゴンだよね? それって本物?」
「モブ太郎くん、ジャンケンしましょう。いきますよー」
「え? いきなり何ちょっと」
「はい、さーいしょはーグー! ジャンケン、ポン!」
私の強引な掛け声に、彼も釣られるように手を出しました。
む……私がパーで彼がチョキ、意外に冷静でしたね。
「仕方ない。ティアマトに食べさせるのは勘弁してあげましょう」
「今のジャンケンってそんな重大な物だったの!? というか消す気満々!?」
おお、モブ太郎くんは中々のツッコミ体質ですね。
第二のパックンみたいでいい感じですよ。
「ね、ねぇ、そのドラゴンって『ティアマト』ってバビロニア神話の女神の名前だよね?」
「おや、詳しいですね。まあ、最近はドラゴンの名前に良く使われてるからフィーリングで付けたんだけどね」
「へぇ~」
流石に怖いのか遠目ではあるけど、彼はティアマトを好奇心に満ちた目で見ています。
ふむ……よし。
「という訳でおめでとうございます。『ウィングドラゴンで行く、日本一周空の旅』へごしょうたーい」
「え、え? えっ?」
混乱している彼を強引にティアマトに乗せ、そのまま飛び立った。
別称、拉致ったとも言う。
飛行中は風を切る音が轟々と煩く、普通に話し声などは聞えない。
まあ、音速に近い速さで飛んでいる訳だから当然と言えば当然。
つまり何が言いたいかというと……
「モブ太郎くん、言いたい事はキチンと念話にしてくれないと、良く分からないですよ」
「(パクパクパク)!!」
何やら自分の口を指差して必死に何かを訴えようとしていますね。
でも残念です。 私、読唇術のスキルは取ってないんですよ。
読心術なら魔法で再現できるんですけどね。
「なら、それで彼の言いたい事を聞いてあげれば良いじゃん……」
おお、その発想はありませんでした。
パックン、ナイスアイディア!
という訳で早速、彼にもチャンネルを繋ぎましょう。
「あ、あの! これは一体どういう!?」
「最近、魔法の修行に行き詰まりを感じていたんですよ。そこでモブ太郎くんをアドバイザーとしてご招待です」
「アドバイザー!?」
「見てください。これがただの一般人を平然と非日常へ引きずり込むファンタジー脳です」
パックンてば酷い、私だってちょっと話が合う友人が欲しかっただけなのに。
流石の私も、起きて牛乳飲んで魔法を使って、登校して牛乳飲んで魔法を使って、下校してスキル使って牛乳飲んで、家に帰って牛乳飲んでシャワー浴びて寝る生活は飽きました。
「彼はただのモブキャラだよ? 名前すら設定されていない背景と交流してどうするのさ」
「え? でも、普通に受け答えしてましたよ?」
「そりゃ生きてるんだからするさ。でも、彼らは攻略対象と違って存在する最低限の情報しか持っていないんだよ。名前も精々、栄太、美衣、椎子、出井也くらいの差別化しかしてない文字通りモブキャラなんだよ」
じゃあ問題ないですね。
私は別に彼を攻略するとかじゃなくて、単に話し相手が欲しかっただけなので。
ああ、とかなんとか言っている間に目的地に到着しましたね。
「という訳で今回は太平洋上に浮かぶ島の砂浜に来ております。ぱふぱふ~」
「え、突然何? というかここ何所?」
「ここは日本から数百km離れた太平洋上に私が召喚した島クジラの背中の上です」
「くじら!?」
彼が思わず片足を上げて地面を覗いてます。
そんな事をしたって足元は普通の地面ですからわかりませんよ?
さてと……では早速、特訓を始めましょう。
「まずは着替えから、【換装】!」
「え、何? わっ!?」
【換装】とは、予め設定して置いた服を今着ている服に上書きするという魔法です。
暇な時間にチクチクと裁縫スキルで作った冒険者チックの装備を登録してアイテムボックスに入ってあるので、制服が装備へと書き変わって行きます。
ちなみに、この魔法は服自身を書き換えているので元に戻した時に破損していたりすると、そのまま元の服にも反映されてしまいます。
「どうですか? 昨日漸く完成したレザーアーマー一式と鉄鋼の剣ですよ。拠点作りからコツコツ始めて、何とかここまで形になったんですけど」
「工房も手作りだもんね。一体何が君をここまで動かしたんだ……」
アトリエ物も憧れの一つだったんです!
伝説のレシピを探し出して、秘薬を作るっっていうのもロマンだと思います。
それにしてもモブ太郎くんが背中を向けたまま、こっちを見てくれないのは何故でしょう?
「どうしたんですか? ほら、特訓を始めますよ?」
「……多分、彼は君の顔を見られないんじゃないかな? いきなり目の前で往年の魔法少女的変身を見せられちゃねぇ?」
「あ~、光で誤魔化してもシルエットは見えちゃうもんね。流石に私も最初は恥ずかしかったよ。もう慣れたけど」
正確に言えばアレって裸じゃないんですよね。
だから、正直アレで恥ずかしがられると、こっちも微妙な気分なんですけど……
「まあいいや、とりあえず見て貰えるかな? 一応、魔法剣士を目指してるから無詠唱と魔力ブーストは何とかスキルを使わないで出来る様になったんだけど、なんかそこからが行き詰ってるんだよね」
「へ、へぇ……」
そこから彼に、簡単に仮想敵を見立てて試合を見せる。
威力よりも早さ重視で、動きながらも簡単に発動できる魔法を攻撃に織り交ぜながら剣を振るう。
3分ほど試合を見せた後、軽く掻いた汗を拭きながら彼に意見を求めてみた。
「どうですか?」
「う~ん……そうだね」
彼は一時思案した後、私の方を向いて感想を言い始めました。
「まず気になったのは魔法を発動させる度に一瞬だけど動きが止まる事かな。それに速度重視の所為なのかも知れないけど、魔法を使う為に一々移動していたのも気になった」
「なるほど……」
確かに、魔法を発動させる為に一瞬意識を集中させる必要があるので、それはどうしようもないです。
それにしても、位置取りの事まで気付かれるとは思いませんでした。
攻撃する方に意識が集中してしまって、魔法の攻撃範囲に入っているのに気付いて慌てて離脱しているんですよね。
「比較できないから分からないけど、使っている魔法も剣の攻撃と同じくらいの威力なんじゃない? だったら無理に攻撃に混ぜるより、接近戦で詠唱しつつ離れたら強力なのを当てるか、魔法を攻撃に乗せる方法を考えた方が良いかもね。今のままじゃあ、両方に気を取られてて両方とも疎かになってるんだよ」
「なるほど……」
「おいこのモブ、なんかめっちゃ語り出してんぞ。なんでそんなに詳しいんだ!」
もう、パックン煩いですよ。
それにしても彼をアドバイザーにして正解でした。
なるほど……確かに言われてみると放った魔法に巻き込まれない様に不自然に飛びのいたり、逆に無理に近づいたりしていましたし、どうしても狙いを定める為に足を止めなければならないという場面も多々ありました。
「そう考えると課題は山積みね……まず自分は巻き込まない中威力の魔法を調査と、連携に繋ぎ易い魔法を選別か……」
前者はまず威力の派手な炎や、条件が限られる土は駄目ですね。
後者は範囲が長過ぎず短過ぎない、相手を吹き飛ばしたりしてリズムを崩さない魔法じゃないとダメですね。
「まずは水や雷とかの属性から試せばいいんじゃないかな?」
「わかった。じゃあ、試してみよう!」
その後、彼と日が暮れるまで有意義な時間を過ごした。
今までの行き詰まり感が一気に解消されて、やはりアドバイザーを頼んで正解だった。
その後も放課後にモブ太郎を拉致っては、冒険したり魔法をぶちかましたり特訓したりと、この世界を存分に遊び尽くした。
学園祭で魔法を駆使した舞台をやってみたり、体育祭では高いステータスに物を言わせてぶっちぎってみたり、修学旅行では行き先が京都・奈良だったので巨竜に乗って現地集合してみたり、並み居るイケメンを躱して、モブ太郎くんを引きずり回して高校生活を満喫した。
他にもギアナ高原やエアーズロックへ行ってみたり、北極やエベレストで修行してみたり、流石に海外のカジノに潜入したのはヤバかったですね。
「あの時はなんでポスターを頻りに調べてたの?」
「カジノに張られてあるポスターの裏には、地下への階段のスイッチが隠されているのがお約束じゃないですか!」
「どこのお約束だよそれは……」
むう、モブ太郎くんとパックンの溜め息が重なりました。
何故2人は私が何か言う度に溜息を吐くんでしょうか?
「それで、今日はどこへ行くの? この前に言ってた中国の奥地にでも行くの?」
「おお、すっかり染まりましたねモブ太郎くん。しかし今日は行きませんよ」
「え?」
そう、この1年間をモブ太郎くんと過ごして気付いた事があった。
それはモブ太郎くんと初めてであった頃から、ずっと胸に燻っていてモヤモヤした気分だった。
けど、それに気付いた瞬間にずっと私の中にあったモヤモヤは一気に晴れた。
そう、この気持ちは間違いなく……
「ちょっと……モブ太郎くんに付いて来て欲しい所があるんだ」
「え……い、良いけど、どこへ行くの?」
「それは、今はナイショ」
流石に今からそれを話すのは恥ずかしい。
私は彼の手を引いて目的の場所まで歩いた。
私の胸の高鳴りが彼に聞こえないか、手に汗を掻いていないか不安だったが、今は彼の方を見る事が出来なくて真っ直ぐ前を向いてひたすら歩いた。
彼もまた私の雰囲気に何かを感じ取ったのか黙って付いて来てくれた。
そうして、私はある場所で足を止めた。
それは……
「ね、ねぇ……ここってホテルだよね?」
「そうよ……さぁ、入りましょう」
「入るの!?」
彼が真っ赤な顔をして慌てるのを見て、私も胸の高鳴りが抑えきれずに思わず顔が赤くなる。
「でも、僕たちまだ学生だし! そう言うのはまだ早いと思うな!」
「大丈夫だよ。結構、学生でもヤッてる人はいるし、私もずっとしたくて我慢できなかったんだ」
「我慢って!?」
それ以降、彼は無言になってしまった。
私は再び彼の手を引いて、ホテルのロビーを突っ切りエレベーターに向かう。
ホールでエレベーターを待つ時間がもどかしく、じっと表示板を見つめてしまう。
数分間、お互い無言のまま待っていると漸くエレベーターがやってきた。
私は他のお客が乗って来ない事を確認して、素早く彼とエレベーターに乗り込んで扉を閉める。
これで準備完了。
まずは階数ボタンを順番通りに押す。
すると階数ボタンの下にタッチパネルが出現する。
「ねぇ……そう言えばカウンターを素通りしちゃったけどいいの?」
そして、そこにパスワードを打ち込むとエレベーターが下へ動き出した。
「あ、やっと動き出した……ってあれ? このホテルに地下なんてあったっけ?」
ホテルの地下20階。
そこが私の目的地、そうここは……
『ようこそ地下格闘場へ! ここはルール無用、何でもアリのデスマッチコロシアムだ! 金を掛けるよし! 実際にリングで殺し合うもよし! ここは金と欲望と殺意が渦巻く坩堝!! さぁさぁ、どんどん参加してください!』
「な、なんだここ!?」
ハァ、このピリピリとした空気、血が沸き肉躍る戦場、やっぱり実戦の空気は違うわね!
ここは金持ちやアンダーグラウンドな腕自慢が集まる地下格闘場。
下は10代、上はよぼよぼのお年寄りまで毎日のように殺し合いの勝負が行われ、試合毎に掛けまで行われている。
中には真剣を持ち出す人もいるので、私も魔法抜きでなら参加できるはずだ。
ここを知ったのは数日前の事、それまで実戦ができない事にモヤモヤしていた私はこの場所の事を聞いて、その悩みが一気に晴れた。
興奮して眠れないほどに気分が高鳴っていた私だったけど、流石に一人でここへ来るのは恥ずかしかったのでモブ太郎くんを連れて来たのだ。
ハッキリ言って、楽しみ過ぎてここへ来るまでの道程は、ホテルから視線をはずせなかった。
「さぁ、早く登録しましょう。モブ太郎くんにはセコンドに付いて貰うから」
「え? ホテルって……我慢がってそういう事? ああ、ちょっと待ってよ!」
「ふふふ、早く~」
さて、修行の成果を試すんだったら、まずは手始めにここでチャンピオンを目指さないとね!
私の冒険はまだまだこれからだ!!
パックン「ハハハッ、乙女ゲー(死んだ目)」
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




