番外7‐2 極普通の女子高生の日常『白河明日香の場合』
(´・ω・`)最近、背筋がゾクゾクして体が怠いし、頭もボーっとしてPCの前にいるのが辛い……もしやこれは故意!?
――キーンコーンカーンコーン
「よーし、今日のHRはここまで。部活がある奴は遅れないように、帰る奴は寄り道せずに気を付けて帰れよ」
終業のチャイムと共に、先生が笑顔で連絡を終えると生徒たちは飛び上がる様に席から立ち上がり、一瞬全ての音が椅子を引く音で掻き消されます。
ちなみにこの先生の名前は銀谷涼。
見た目は爽やかなお兄さんって感じの方で、人当たりの良さから女子生徒に人気の高い先生です。(亜紗ちゃん情報)
この人も私の攻略キャラで、初日に職員室を尋ねたら丁度出ようとしていた彼にぶつかるというベタな遭遇をし、次の時には足を捻って動けなくなったのでティアマトで帰ろうかとしていた所に遭遇して、車で送って貰うというフラグを建ててます。
でも正直これって普通の学校生活でもある事ですし、取り立てて特別な事じゃありませんよね?
さて、そろそろ私も部活へ向かいましょう。
実は私はこの学園の文芸部に所属しているのです。
「なあ、明日香……」
おや、赤羽君が私に話しかけてきました。
でも困ったなぁ……今日は部活の後輩と約束があるから早く部室へ行きたいんだけど……
「いやいや、会話してあげようよ。何で彼を避けるのさ」
「いえ、避けてなんていませんよ? ただ彼の行動パターンと合わないだけです」
「それを避けてるっていうんだよ」
むむ……私は普通の女子高生をやっているつもりなんだけど……
あっ、そうこうしている内に部活が始まっちゃう!
「ごめんね! 私これから部活で用事あるから、話ならまた今度!」
「あ、ああ……部活、頑張れよ!」
「ありがと!」
そうして私は、微妙な笑顔を浮かべている彼と物凄く熱心に私を見つめている(間接的表現)女子生徒たちに見送られて、私の所属する部活――文芸部の部室へと急いだ。
部室の前に着いた私は、一度扉の前で立ち止まって一呼吸で整えてからドアを開けた。
「すみません遅れました!」
「おう、遅かったな」
部室で私を出迎えたのは女子の制服を着た生徒でした。
この方の名前は紫馬薫。
横柄な態度を取っていますが、学年は私の一つ下の一年生で少年の様な快活な見た目とは裏腹に私と同じ文芸部員です。
その男っぽい口調と立ち振る舞いから、女子生徒の人気者だそうです。
あと、この後輩には重大な秘密があるのですが……
「全く、オレとの約束に遅れるなんて他の奴じゃありえないぜ?」
「はぁ……それはすみません?」
「謝るなら首を傾げるなよ。ホント、先輩はオレの周りにいないタイプだよな」
私の言動の何が面白かったのかケラケラとお腹を抱えて笑うと、ポケットからこの人のコミュニケートツールであるとある箱を取り出した。
「とりあえず、一本いるか?」
まるでモクでも勧めているようにも聞こえますが、彼が勧めているのは普通のチョコレート菓子です。
この後輩は甘い物好きで、初めて会った時もぶつかった拍子にこの人が持っていたお菓子をぶち撒けたのが縁だったりします。
……この世界は異性と体当たりするゲームなんだろうか?
ならば、今度からは負けない様にバフを掛けて挑もう。
「違う違う……そうじゃ、そうじゃないんだよ……」
「パックン、どうかした?」
「……ハァ」
貰ったチョコレート菓子を食べていると、何故か顔を見られながら思いっきり溜息を吐かれてしまった。
それから暫く文芸部らしく本を読み耽っていると、部室のドアが開いた。
「むっ、また君たちだけか」
「おう、なんか用か? 風紀委員サマ」
入って来たのは風紀委員で先輩の黒崎隼人さんだった。
彼は文芸部ではないが顧問の銀谷先生とは知り合いらしく、図書室よりの静かだという事で良くここへは勉強しに来るのだ。
加えて言えば、紫馬薫とはキャラクターの所為か反りが合わないらしい。
「白河さんだけだったら良かったが、お前もいるとなるとやかましそうだな」
「おいおい、風紀委員サマが密室で女子生徒と二人っきりで何を考えてたんですかねぇ?」
「お、俺は別に普通に集中して勉強をしたいだけだ!」
「慌てる所があやしー」
「怪しくなどない!」
そこで真面に反論するから、からかわれるんだと思います。
まあ、このやり取りはいつもの事なので、2人のじゃれ合いに割って入るつもりは毛頭ありません。
絡まれても面倒ですから。
「攻略対象との会話から逃げないで絡もうよ。これじゃあ、何のゲームか分からないよ」
「良いじゃないですか、正しくは『ゲームを題材にした異世界』な訳なんですから、私がどんな人間と付き合おうと勝手ですよ」
「でも普通は! 普通は女の子ってイケメンにチヤホヤされたら多少でも嬉しい物じゃないの!?」
「決めつけは良くないですよ。私は程々で結構です」
「いや、君の何処が程々なのさ」
失礼な、私ほど謙虚な人間はいませんよ。
なんて謀るつもりはありませんが、自分の身の程は弁えているつもりです。
イケメンにチヤホヤされるなんて柄じゃないですし、だったら魔法の一つでも習熟していきたいですね。
「君は努力の方向が間違ってるよ……」
「そうですよね……やっぱり実践では火力より正確さやスピードの方が重視されますよね。でも高火力ってロマンがあるから……」
「君は何の話をしているんだ」
たまに練習に砂漠へ出かけたりするんですけど、あんまり高火力だと見つかってビックリされちゃうんですよね。
一回、伝説級の魔法を試してみたら次の日にニュースになってしまって反省しました。
今の時代は空に目があるから、すぐにそう言うのも分かっちゃうんですね。
まあ、あの時はちょっと大きめのクレーターも作っちゃいましたし……
「君はもっと普通の学生生活を送ろうよ。何で魔法使い生活の方を充実させてるのさ」
「違いますよパックン、剣士の方も順調に伸ばしてます。魔法使いは近接戦闘が苦手なんて偏見です」
「そんなのどうでも良いよ!? モンスターもいないこの世界で何をするつもりなのさ!」
「やっぱりほら……将来の為に手に職は付けたいじゃないですか」
「ジョブは付いても職は付かないよ。傭兵にでもなるつもり?」
うーん、トレジャーハンターにでもなりましょうか?
あ、でもアレって殆どが引き上げた国の物になってしまうから、夢はあってもお金が無いなんて人がザラだそうですね。
資金は殆どスポンサーを募ってやるそうですし、そう考えると個人でやる旨味はないですよね、きっと。
「占星術系でも覚えて占い師の方が儲かるでしょうか? 手品師でも良いですけど、けど私あんまりそう言うのを見せ物にしたくないんですよね」
「君の目指す方向性が本気で分からないよ」
そう言えば、結婚したらサマンサって呼ばれた方が良いでしょうか?
でも私あの鼻を動かすのって出来ませんよ。
そんな事を考えていたら、黒崎先輩が呆れたように溜息を吐いた。
「はぁ……お前がいると集中できん。仕方ない、今日は図書室で勉強するとしよう……全く、お前が来るまでは静かで勉強にはいい部屋だったんだがな」
「おいおい、ここは仮にも文芸部なんだぜ? 部員は部活に出なくちゃダメだろ?」
「ふん、殆どが幽霊部員で貴様とてこの前まではここへ顔すら出していなかったじゃないか。それとも、何か心変わりでもあるのか?」
「そ、そんなのお前に関係ないだろ! お前こそ、毎回ここに来る必要がどこにあんだよ!」
「お、俺は純粋にここへは勉強をしに来ているだけだ! 決して他意はない!」
なんか、2人ともこっちをチラチラ見てますね。
あ、私が邪魔ですか、そうですね。
「あの~」
「な、なんだ!? お菓子が食べたいか? いいぜ、まだここにストックが……」
「済みません。私これから用事があるので帰ります」
「え、あ……そうか。用事なら仕方ないよな」
「では、これで失礼します。さようならー」
喧嘩している所を赤の他人に見られるのって気まずいですもんね!
白河明日香はクールに去ります。
「全く、あの2人は顔を合わせれば毎回喧嘩で、もう少し仲良くできないんでしょうか?」
「それを君が言う!?」
私の何気ない呟きにパックンが目を見開いて声を上げました。
はて? 私何か驚くような事を言いましたか?
「それより今日はどこへ行きましょうか。秘境のジャングルもいいですけど、ちょっと足を延ばしてエベレストでも上りに行きましょうか?」
「そんな『近くのファミレスもいいけど駅前まで行く?』みたいな気軽さでヒョイヒョイ行かないでよ……お陰で放課後に攻略対象と出会える確率が0%じゃないか」
「そんな事ありませんよ。この地球上に同時期に存在している限り、出会える確率は決して零じゃありませんよ」
「そんな迂遠な話じゃないよ! 何でだ……本来なら僕は若くして死んでしまった君に、第二の生としてこの世界に転生させて、サポートしながら君に新たな人生を歩んで欲しかっただけなのに……」
「今、人生でメッチャ楽しいですよ!」
「でしょうね!」
一体パックンは何が不満なんでしょう。
何か私の事で思い悩んでいるようだったから、正直な気持ちを言って上げたのに……って、ゲッ。
屋上へ向かおうと階段を上っていると、上の階から女子生徒を引き連れた3年生が下りてきた。
「お、君は2年の白河明日香じゃないか。これから帰りかな?」
声を掛けて来たのは3年で生徒会長の翠川慧先輩です。
『在籍している生徒の顔と名前を憶えている』なんてとんでも特技の持ち主で、カリスマ生徒会長なんて呼ばれて女子生徒からの人気も高いです。
……この学校って人気者が多いですね。
「翠川先輩……でしたっけ? 凄いですねソレ」
私は彼の後ろでこちらを見ている女子生徒に視線を向ける。
すると彼は前髪を掻き上げて笑みを浮かべる。
「オレはこの学園の頂点に立つ生徒会長様だからな。求められれば、生徒の期待に答えるのが生徒会長としての俺の仕事なのさ」
字面だけ見れば出来る生徒会長の素晴らしい意気込みだったんですけど、女生徒の顎に手を添えて目を見つめていると別に意味に聞こえますよプレイボーイ。
まあ、私には何の関係もないですけど。
「では、私は用事があるので失礼します」
「待った、この上は生徒会室か倉庫として使っている空き教室しかないぜ? こんな時間に一体どんな用事があるのかな?」
あ~、なんか変なのに絡まれちゃいました。
しかも、取り巻きさんが物凄い目でこっちを見てます。
止めてください、とばっちりです。
「乙女の秘密です。先輩には関係ないですよ」
「いーや、生徒会長として生徒の行動には目を光らせて置く義務があるんだよ。それにこの階段を上って行けば誰もいない屋上だ。万が一、転落事故なんてなったらすれ違っていた時に止められなかった事を俺は絶対に後悔する」
見た目はチャラいのに真面目なんですね。
生徒会長が制服の胸元開けてていいんですか?
「という訳で、これからみんなでお茶しに行くんだけど、君も一緒にどう?」
「遠慮しておきます」
そんな事したら魔法が使えないじゃないですか。
流石にもうニュースや新聞記事を飾るつもりはありませんよ。
「……へぇ、オレの誘いが断られるなんて初めてだ。ちょっと燃えてきたぜ」
勝手に燃え尽きててくださいよ。
あ、そうだ。
「あ! アレは何でしょう!?」
大声で窓の外を指差すと、みんなの目線が一瞬そっちへ向きました。
今です!
「【透化】!」
私は素早く潜伏系スキルを発動して、周囲と同化します。
生徒会長たちが私を見失っている内に屋上へ向かいましょう。
「なんで女子高生が潜伏系スキルなんて覚えてるんだろうねぇ……」
ふふふ、今なら怪盗の三代目も顔負けの潜入もやってみせますよ。
犯罪ですからやりませんけどね。
「ふぅ、気付かれずに辿り着きましたね」
「はぁ……屋上から帰るのは止めにしない?」
「でも、ここ以外で人目に付かずに召喚できる場所なんてないですよ?」
一応、裏に山もあるけど生徒は入っちゃいけない決まりになっているので、見つかると結構面倒なんです。
「普通に歩いて帰るって選択肢は?」
「え~、屋根の上を走るのって結構大変なんですよ? それに結構目立つし……未だに女子高生忍者現るなんて噂が飛び交ってるから、やるにしてももう少し期間を置いて……」
「普通に! 道路を! 歩け!」
そんな酷い! 使えるのに使わないなんてヘビの生殺しですよ!?
それに私からこれを取ったら、私のアイデンティティーが無くなっちゃうじゃないですか!
「良いから、普通に帰って。その後は好きにしていいから」
「は~い……」
はぁ、なんかテンションが落ちちゃいました。
今日は大人しく、家で薬の調合でもしていましょう……
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




