番外7‐1 極普通の女子高生の日常『白河明日香の場合』
――ジリジリジリジリ!!
「うぅ……あ~さ~?」
目覚めの刻を告げるベルに起こされて、私はゆっくりと……それはもうカタツムリの歩みの如くゆっくりと意識を覚醒させる。
――ジリジリジリジリ! チン……
煩く鳴り続ける目覚まし時計を止めて、布団の温もりの誘惑を跳ね除けて、私はベットから起き上がる。
「おはよう明日香! 今日もいい天気で気持ちの良い朝だよ!」
「おはよー、【洗浄】」
私は寝ぼけ眼に生活魔法を発動させた。
魔法によって生まれた流水が、顔と髪を洗い流して寝ぼけた頭をサッパリさせる。
「ふう、さっぱりした。【熱風】」
小規模に発生させた熱風で湿った髪を乾かしてゆく。
態々洗面台まで行かなくても自分の部屋で済ませられるのがこんなに楽だとは思わなかった。
ついでにアイテムボックスからブラシを取り出して【魔力の手】で髪を梳かしながら、学校へ行く準備を始める。
「おかしい……本当ならごく普通の女子高生主人公の筈なのに、なんでこんなファンタジーな事になっているんだ……」
チェストの上に置いたタスマニアデビルのぬいぐるみが遠い目をしながら呟いた。
彼はこの世界に来る時に一緒に来た神様で、今はこの世界で私のサポートをしてくれる大事な相棒である。
「ほらパックン、ブツブツ言ってないで行くよ」
「はぁ、学園ラブコメとはなんであったか」
彼は私が魔法を使うたびにこんな風になる。
別にいいじゃない、学校の先生が魔法使いとか自称劣等生のチート使いだっているじゃない。
ちなみに『パックン』とは私が、神様で名前が無かった彼に付け上げた愛称なんだけど、折角、前世に授業で習ったインカ神話に出てくる初代国王の名前を付けてあげようと思ったのに全力で拒否されて、パックンに落ち着いたのである。
「明日香~、朝ご飯出来てるわよ~!」
「はーい!」
スカーフを結ぶのもそこそこに、私は学校鞄を掴んで部屋を飛び出した。
「ティアマト、君に決めた!」
玄関を出た私は庭に回って、召喚魔法で契約したウィングドラゴンのティアマトを呼び出す。
このティアマトはランダム召喚で異世界から呼び出して、この前の休日の2日間を潰して殴り合って契約したレベル150のモンスターなのだ。
アイテムボックスからティアマト用の鞍を取り出して、ティアマトに装備させる。
「よし、準備ができたよ。ティアマトGO!」
――グオオオ!
雄々しい遠吠えと共に力強く翼を羽ばたかせて、私を乗せたティアマトは大空へと舞い上がった。
本来なら電車通学で1時間半は掛かる通学時間が、ティアマトのお陰で家から学校まで20分程度で行けるようになったから、苦労して契約してよかった。
雲が景色を早回ししているかのように流れて行く。
ちなみにものすごいスピードで飛んでいるけど、風圧は風魔法で防風壁を作っているので結構快適なのです。
「高校へ通うのにドラゴンに乗るって……ドラゴン通学ライダーか、ハハハッ」
パックンがブツブツと疲れたように呟いている。
ストレスでも溜まってるのかな?
今度の週末には温泉にでも連れて行って上げよう。
私が日曜大工で作った神馬のスレイプニルが引く箱馬車でね!
「とか言っている間にとーちゃく!」
あまり学校に近づきすぎると大騒ぎになるので、屋上に近づくと送ってくれたティアマトにお礼を言って背中から飛び降りた。
20m位なら魔法の補助を付ければ余裕で着地できる。
屋上に着いたら、アイテムボックスから上履きを取り出して履き替えて教室に向かった。
う~ん、この通学方法は速いのは良いんだけど、肝心の私の教室が2階にあるから、4階建ての校舎なので階段の上り下りがちょっと辛い。
「おはよ~明日香。今日も早いね」
「おはよう亜紗ちゃん」
挨拶をしてくれた彼女の名前は鈴倉亜紗ちゃん、主人公の親友で学校の噂は何でも知ってる情報通な女の子です。
ちなみに彼女は「私はね、魔法使いなんだ」ってカミングアウトしても笑ってくれる凄い子なのです。
「もう明日香が転校してきて1週間になるけど、学校には慣れた?」
「うん、クラスの皆は親切だし、こうして友達も出来たしね」
言い忘れていたけど、主人公は何故か4月の第二週から転校して来る転校生としてスタートする。
パックンから詳しい説明があった様な気がしたけど、その頃の私は魔法が使えるとワクワクしていたので正直何も覚えてない。
そうそうギャルゲーで言う攻略対象にも既に遭遇している。
その中の一人が……
――ガラッ
「よし、セーフ! まだ先生来てないよな!?」
「赤羽、残念ながらアウトだ」
「げっ、先生……」
教室に飛び込んで来て背後にいた先生に怒られている彼の名前は赤羽翔太君、主人公の近所に住んでいる幼馴染で、我が学園のサッカー部のエースであり女子生徒からの人気が高いという設定である。
彼は初日に馴れ馴れしく私に話しかけて来て、一方的に朝は一緒に登校する約束をしていったらしい。
らしいというのは、その時の私は魔法で召喚できるモンスターの一覧に夢中で話半分だったので、後でパックンから聞いたからだ。
多分、遅刻の理由も私をギリギリまで待っていたんだと思うけど、返事もしていないのにそこまでするのはどうかと思う。
「はぁ……攻略対象からの誘いをガン無視とか、何の為のゲームなんですかねぇこれは……」
「恋愛シミュレーションゲームだよ?」
「どこが!? そもそも魔法スキル鍛えてどうするつもり!? 会社の面接で『特技は古代級魔法が使えます』とか言うつもりなの!?」
そんなネットのコピペみたいな。
何故かパックンは危機迫った様な顔をしながら声を上げた。
ちなみにサポーターであるパックンの声は、彼が許可しない限り主人公以外には聞えない設定になっているそうだ。
……逆に言えば、傍から見れば私は教室にお人形を持ち込んで、話しかけているメルヘンな子になってしまう。
が、そんな心配はいらない。
私が覚えている魔法の中には、【念話】という所謂口に出さなくても言いたい事が相手に伝わる魔法があるので、不思議ちゃん扱いはされてない。
「攻略にノルマがある訳でも、しなきゃ死ぬわけでもあるまいし、折角の第二の人生なんだから満喫したっていいじゃない」
「満喫した結果がこれ!?」
そもそもファンタジーな異世界に連れて行ってくれなかったのが悪い。
ぷんぷん。
「じゃあ、これでHRを終了する。皆、次の授業の準備をするように」
などと意識がそれている間にHRが終わったようだ。
先生が出て行くと同時に、似非幼馴染(赤羽翔太)が近くまでやってきた。
「おいおい、置いてくなんて酷いじゃないか。俺、お前が来るのずっと待ってたんだぜ?」
おや、我が校のイケメンランキング(亜紗ちゃん談)のビッグ5の誘いを断った人がいるんですか。
そんな人が居たら学校中の女子を敵に回しますよね。
「ねぇ、赤羽君は明日香に言ってるんだと思うけど……」
「ええ!?」
亜紗ちゃんの台詞に驚いて振り向くと、確かに彼は私の方を見ていました。
……ついでに、こっちを凄い顔をして見ている(オブラート)同じクラスの女子が視界の端に見えました。 怖い。
「なぁ……俺、もしかして明日香を怒らせるような事でもしたかな? こっちに帰って来てから全然話してくれないし、俺はただ昔みたいに明日香と仲良くしたいだけなんだよ」
そうですね、次はグリフォンと海竜と契約しましょう。
海竜に乗って海とかへ泳ぎに行くって良くありませんか?
名前はグリグリとリヴァイアさんって言うのはどうでしょう。
「……ねぇ、彼の言葉に耳を傾けてあげようよ。一応、彼は君の攻略対象なんだからさぁ」
「もう、パックンはワガママですね」
パックンの言葉に、私は仕方なくメニュー画面を閉じ、カモフラージュに開いていた教科書を置きました。
そして彼に話し掛けようとした所で。
――キーンコーンカーンコーン
一時限目の授業開始のチャイムが鳴ってしまいました。
担当の先生も入ってきて皆もおしゃべりを止め始めています。
「赤羽君、早く席に戻らないと先生に怒られちゃいますよ?」
席に戻る様子のない彼に注意してあげると、周囲の視線が強くなりました。
彼も何かを言い掛けようとして渋々席に戻って行きました。
あれ? 亜紗ちゃん、何でそんなに顔が引き攣ってるんですか?
そんなこんなでお昼休みになった頃、一人の生徒が登校して来た事でクラスがシーンと静まり返りました。
彼の名前は青柳景虎君。
着崩した制服に逆立った金髪、傷だらけの無愛想な顔をした校内でも有名な不良なのです。
ちなみに情報源はパックンである。
「……チッ」
好奇の目を向けるクラスメイトを見て、小さく舌打ちをして彼は自分の席に着いた。
うわっ、何というテンプレ不良なんでしょう。
きっと雨の日には子犬とか拾っちゃうんでしょうね!
「そういう君はテンプレ主人公から外れてるよね」
「どこがですか? 立派にどこにでもいるチート系主人公じゃないですか」
「現代を舞台にした乙女ゲーでチートも何もねぇよ!?」
「ヤですね~、チートがあるからキャラメイクなんてあったんでしょう? パックンは忘れっぽいんですねぇ」
「ムカつく……ファンタジー脳女子高生にバカにされた。この湧き上がる感情が屈辱か……」
なんかパックンが小さい手を震えるほど握り締めてるんですけど。
私何か気に障るような事でも言ったんでしょうか?
鞄から上半身だけ出して何かを堪えるように震えているパックンを眺め、私は朝ちゃんと楽しくお弁当を食べていた。
さて、午後の授業は何だったでしょう?
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
これから暫く番外を投稿した後、不定期更新にしたいと思います。
毎回読んで頂き、またブクマ登録して下さった方、ありがとうございます。
_(¦3 」∠)_




