25話 『世界』とは個人の主観である
(´・ω・`)趣味などの価値観の共有は人間関係をスムーズにしますね。
人から聞いた話ですが、小児科の先生は子供と話題を合わせる為に、アンパンマンのキャラクターを覚えるのはほぼ必須だそうですね。
美形の定義は、地域や時代によって変化する物です。
細身が好まれる場合もあれば、膨よかな方が好まれる場合もあり、目が小さい方が好まれる時もあればパッチリと開いた目が好まれる時もあります。
さて、同じ世界の同じ国でも美形の定義が違う時があるのですから、世界が異なればどれ程変わるのでしょうね。
では、本日の転生業務を開始しましょう。
「ようこそ、城村巧弥さん。貴方は自分の今の状況が分かりますか?」
「はい、俺は確か急に胸が痛くなってそれで……」
「そのまま心臓麻痺で亡くなりました。そして、貴方にはこれから3つの選択肢があります」
「えーっと、天国に行くか、現世を彷徨うか、恨みを晴らして地獄に行くかですか?」
随分と懐かしい選択肢ですね。
でも、ここへ来た時点で転生は確定事項なので、死んだ直後に未練で縛られない限り、現世を彷徨うという選択肢はまずないです。
「違います。というよりも、後者2つはどんな魂も必ず転生させるのであり得ません。1つ目は貴方が言う様に天国に行く、2つ目は次の転生を待つ、そして3つ目は現在の記憶を持ったまま異世界へ転生する」
「それって異世界転生って奴ですか!?」
嗚呼……やはりそこに反応するんですね。
まあ、そう言う傾向にある方を選んでいるんですが、こうも分かり易く理解されてしまうと、折角用意している説得用のマニュアルが無駄になっている気がして複雑な気分です……
「はい、貴方の言う通り異世界転生です。元々は冒険者ですが、現在は小さな村に屋敷を建てて防衛を担っている夫婦の子供として転生させます」
「おお! 転生モノとしてはお約束ですね!」
お約束かどうかは分かりませんが、パターンとしては多い方ですね。
何せ元冒険者か貴族くらいでないと生活に余裕がないので行動に自由が無いですからね。
一度、試験的に農民の子供に転生した方が居ましたが、村社会では差し上げた能力を十全に振るう機会などなく、普通の農民と変わらない生涯を送って終わってしまいました。
やはり学習する環境が無いと能力を発揮できないようですし、発揮できなければ転生させる意味が無いですからね。
「貴方には魔法の才能や努力した分だけ成長するスキルを差し上げましょう。但し、魔力の成長は幼少期のみなので注意してくださいね」
「はい! ……あの~、それで俺がこれから転生する世界ってどんな世界なんですか?」
ああ、その説明を忘れるところでした。
と言っても、一つを除けばいつもと変わらないんですけどね。
「貴方がこれから行く世界は、ご想像通りのドラゴンや妖精が居て、魔法という秘術や冒険者と呼ばれる職業が存在するファンタジーな世界です」
「異世界転生モノじゃあお約束な世界ですね!」
まあ、そうですね。
何故かは知りませんけど、こういう場合ってファンタジー世界が良く選ばれていますよね。
魔法があれば現代でも良いような気がしますが、成り上がる為には法が緩い世界の方がやり易いからでしょうか?
「じゃあじゃあ、一夫多妻みたいな制度はあるんですか!?」
「ありますね。但し、それなりの収入のある方でないと難しいですけど」
「それはそうです。甲斐性の無い奴にハーレムを作る資格無し!」
何やら自信満々に呟いて頷いていますね。
異世界へ転生すると言われて気にする事がそれですか……まあ、目標はあった方が良いので構わないのですが……これも伝えておいた方が良いのでしょうね。
「しかし、注意事項が一点だけあります」
「注意事項?」
「人体の構造や倫理観などは、貴方の居た地球と変わらないのですがただ一点だけ、とある価値観が貴方の居た世界と大きく違っているのです」
「はぁ……価値観ですか」
まあ、突然価値観が違うと言われてもピンとこないですよね。
人間は自分が認識できない物は信じようとしませんから。
「そうですね……貴方は、事故に遭った影響で有機物が無機物に見えてしまう青年の物語を知っていますか?」
「えーっと……ごめんなさい」
どうやら彼は知らないようですね。
まあ、彼の世代ですと積極的に探さなければ触れる機会はなかったのでしょう。
「謝る事ではないので気にしないでください。さて、その物語の中で青年は人や動物がガラクタに見えてしまう代りに、ロボットが人間に見えるようになるのです。そして青年は、とあるロボットに恋をして駆け落ちをするというお話です」
「はぁ……えーっと、つまりこれから僕が行く世界も無機物が有機物に見える世界って事ですか?」
「いえそう言う事ではなく、人の価値観とはたった一つ掛け違うだけで大きく変わってしまうという話です。そして、これから貴方が行く世界は、貴方の居た世界と人間の美醜の価値観が全く違います。特に女性への美に関しては、ほぼ正反対と考えて貰って構いません」
「せ、正反対ですか……」
予想外だったのでしょう。
彼が引き攣った顔をしていますね。
まあ、転生する世界が美醜が逆転した世界だと言われて戸惑わない方がおかしいですけどね。
そして彼には言いませんが、転生先のご両親は中々の美男美女なんですよね。
一応、彼の転生後の姿は、本人の価値観も考慮して可もなく不可もない程度の容姿にする予定です。
「ちなみに、正反対ってどんな感じなんでしょうか?」
「そうですね……良くゲームに『オーク』や『ゴブリン』というモンスターが出てきますよね?」
「はい」
「それに髪の毛を付け、肌色にした感じがその世界では絶世の美人と称される容姿となります」
おや、彼が膝から崩れ落ちました。
皆がそれになる為に化粧などを施す訳ですから、外へ出ればオークだらけって事になりますね。
想像するだけでも恐ろしいです。
「一応、美醜の認識の違い以外は、殆ど貴方の予想通りの世界ですのでご安心ください」
「安心って……既にそこがアウトな気がするんですけど」
「おや、他にも『人間の代わりに別の人類が支配している世界』や『極端に食べ物に乏しい世界』なんていう物がありますけど、そちらの方が良かったでしょうか?」
「……いえ、最初のでいいです」
まあ、変えてくれと言われても、送る世界は既に決まっているので今更変更は出来ないんですけどね。
ああ、言い忘れていました。
「それとこれは忠告ですが獣人には気を付けてください」
「獣人? それって所謂獣の耳と尻尾が生えてる感じのアレ?」
「はい、あの世界では最も醜い種族と言われ恐れられています。接触する際には細心の注意を払ってくださいね」
「は、はい……き、気を付けます」
さて、大方の説明は終わりましたね。
では彼を異世界へと送るとしましょう。
「それでは、これより貴方を異世界へと送ります。次に目覚めた時、貴方は赤子になっていていますが、ここでの会話を思い出すのは……そうですね3歳くらいになるでしょう」
「え、何でですか?」
「赤ん坊が大人と同じ思考をする訳には行かないですよね? 誕生してから徐々に記憶が解放されて行き、全盛の事を完全に思い出せるようになるのは恐らくそれ位になるからです。」
それに中身はもういい歳なのに、母親にオムツを取り替えられたり授乳されるのは辛いでしょう。
見ている方も楽しくないので、スキップできるようにしているという訳です。
準備が整った所で彼の足もとに転生用の魔法陣が展開される。
「それではこれより貴方を異世界にて転生させます。第二の人生を存分に楽しんでくださいね」
「上手くやっていけるかは自信ないですけど、頑張ります!」
彼はそう言って消えて行きました。
後日、彼が記憶を取り戻した時の第一声は、私の予想通りの悲鳴と嘔吐でした。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




