24話 商店街の街角から
(´・ω・`)最近は見かけませんが、くじ引きは好きでよくやっていました。
……まあ、殆どポケットティッシュなんですけどね。
皆さま、おはようございます。
本日はいつもとは違い、神の間ではなくとある商店街に来ております。
さて、本日の転生者の方は……
――チリン! チリン! チリン!
「おめでとうございます! 特賞大当たりです!」
態と出した金の玉を前に、ベルを大袈裟に振り回して鳴らす。
「と、特賞? 本当に?」
「本当でございます。就きましては賞品の説明がございますので、こちらへどうぞ。お時間はそう取らせませんので……」
「あ、分かりました」
そう言ってテントの奥の事務所へと彼を案内した。
彼を部屋に通し、パイプ椅子を2つと折りたたみのテーブルを広げる。
「それではこちらの書類に名前だけご記入いただけますか?」
「はぁ……えーっと、井上和樹っと。これで良いですか?」
「……はい、結構です。それでは賞品の説明に入らせて頂きます」
書類に名前を書いていただきました。
これで同意は頂けたという事ですね。
「貴方に差し上げるのはズバリ、『異世界への旅パック1組分』でございます」
「……うん? 俺の耳がおかしくなったのかな。今、異世界って……」
「はい、貴方にはこれから異世界へ行って頂きます。あ、私はこういう者です」
私は彼に名刺を差し出す。
それを受け取った井上様は疑念の篭った目で名刺を読み上げました。
「異世界転生業務担当『神』……おい、巫山戯てるのか?」
「い、いえ、滅相もございませんっ! 冗談でも悪戯でもありません!」
私は思わず声を張り上げでしまいました。
まあ、普通に考えればこんな草臥れたサラリーマン風の男が、「自分は神様です」なんて言っても信じませんよね……
「ハァ~、とりあえずアンタの言う事が本当だとして、神様が俺に何の用なんだ?」
「はい! 実は本日はキャンペーン期間中でして、あの新井式回転抽選器は対象者に様々な特典を与えるという神の権能を分かり易く視覚化した物で、当たった景品が神の名の元に施行されるのです――つまり、貴方に異世界旅行が当たったのでこれからご案内いたします」
「はぁ……は? ハァァァ!?」
普通に突然、異世界へご招待いたしますって言ったら驚きますよね。
私だって、何でこんな形式になったのか良く分からないんですよ。
突然、「これ一式あるから、この世界で商店街の福引やって来て」って言われただけですからね。
最初は私が引くのかと勘違いしちゃいましたよ。
「異世界とは所謂ファンタジーな世界です。ドラゴンや妖精が存在し、魔法という未知の技術が発達した幻想の世界ですね。あ、それとこれはあくまで観光が目的ですので、魔王とか人類の敵になるような存在はいませんのでご安心ください」
「はぁ……いやいや、異世界ってそんなのある訳が……」
「そう言われると思いまして、証拠はそこにご用意してあります」
私は脇にあるドアを指差した。
「証拠ってドア? アレが何の証拠に……」
「まあまあ、騙されたと思って開けてみてください種も仕掛けもある不思議なドアですから」
「それって物凄く怪しいんだが……いや、普通に考えればこの位置なら隣の店に繋がってるとか、そんなんだろ絶対……」
彼がブツブツと呟きながらドラノブに手を掛けました。
そして、一回深く息を吸い込んでから覚悟を決めてドアノブを回しました。
ゆっくりと恐る恐る、出来るだけドアを壁にするように慎重に開けて、そのドアの向こうに広がっていた景色は……
「……も、森!?」
ドアの向こうは深い森でした。
実はそのドアは異世界にある森の中の小屋のドアと繋がっていたのです。
これで異世界が本当だと信じて頂けたでしょう。
「本物だ……本物の森だ。しかも、こっちの方が凄く空気が澄んでる気がするし、なんか体も軽い」
「はい、詳しい説明は省きますが、この世界はドアの向こうの世界より段階が高い位置にあるのです。なので、低い階層の世界に行くと力に余剰が生まれ、その世界の住人よりも強くなれるのです」
これについては適用できる世界とできない世界があるので一概にそうだとは言えませんが、少なくともこれから行く世界ではそういうルールで賄っております。
「えーっと、うん。異世界というのはひとまず置いといて、何で俺なんだ?」
「と、申しますと?」
「いや、だからなんで俺が選ばれたんだ? 俺って普通の大学生だし……」
……ああ、この世界ではそういう娯楽作品が山とあるんでしたね。
ならば、簡単に説明しましょう。
「だって貴方、くじ引きで特賞を当てたじゃないですか」
「え? いやいや、そうじゃなくて俺が異世界へ行くのに選ばれた理由は何だって聞いてるんだよ」
「ですから、貴方があのくじ引きで特賞の玉を出したので異世界へご招待するんですよ。それ以外の理由はありません」
「……へ? じゃあ、俺の前世に何かアッターとか、異世界に異変ガーとか世界のバランスガーって言う理由は無いの!?」
「はい、全くありません。それどころか私、この書類で見るまでは貴方の名前すら知りませんでした。今回はくじ引きに頼った完全なランダム制でしたので、私もどんな方が来るのか冷や冷やしてましたよ」
「おい!? 普通こういうのって、もっとなんかあるもんなんじゃねぇの!?」
普段はあるんですけどねぇ。
残念ながら今回は完全な“運”のみで決めさせてもらっただけですので、特別な何かはありません。
「それではこれより旅行の内容についてお話させて頂きますね。目的地はそのドアの向こうの異世界、期限は貴方が飽きたと思えばいつでも帰って貰って構いませんが、帰ってきた時点で旅行は終了とさせて頂きますのでご注意ください。向こうへ行く際には『安心異世界スキルセット』を付けさせて頂きます。内容は“異世界言語”“鑑定”“アイテムボックス”の3つです。ここまでで何かご質問はありますか?」
「えーっと、とりあえずいつからスタートなんだ?」
「それは今からこのドアを潜って頂いてからがスタートです。つまり今からですね」
「今から!? ちょ、ちょっと待ってくれ。今からそんな所へ行けって無理があるぞ! 荷物もないし、明日は平日だから予定だってあるし……」
勿論、そんな事は想定済みである。
寧ろ、いきなり異世界へ行けと言われて準備が整っている方がおかしいですよ。
「それについてはご安心ください。帰る時は時間を遡りまして、出発直後に帰って来られるようになっておりますし、身体の方も向こうへ行っている間は“不老”スキルをお付け致しますのでご安心ください」
「うーむ、それなら大丈夫……か」
一応、納得して頂けたようなので先へ進めましょう。
「次に『安心異世界スキルセット』の説明ですが、“異世界言語”とは異世界に存在する言葉を自分の知っている言語にオートで訳してくれるスキルです。向こうで使われている言語がこちらと同じとは限りませんので」
「な、なるほど……」
「特に向こうはこちらよりも人種が豊富ですからね。中には獣人や亜人と呼ばれる種族もいるので、遭遇した際には十分お気を付け下さい」
「おお、獣人とかいるのか!」
ふふふ、どうやら分かり易いファンタジー要素に興味を引いたようですね。
「次に“鑑定”ですが、これは注視して知りたいと思った物の情報が目の前に現れるというスキルです。ちなみに最上級スキルなので神未満の物なら何でも分かりますよ」
「お~、それは便利だな」
「最後の“アイテムボックス”は簡単に言えばゲームの『持ち物・道具』機能ですね。別空間にアイテムを収納できます」
「なんか、普通に考えるととんでもない能力だなそれ。物の重量を考えずに持ち運べるなんて、こっちの輸送技術も真っ青だよ」
まあ、この能力が無制限なのは転生者くらいで普通は重量や数量に制限があるので、そこまで酷い事にはなりませんけどね。
ついでに言うと転生者は出し入れには何の制限もないですけど、普通は出し入れする度に魔力を消費するので余り便利な物じゃないですよ。
「な、なあ、ちなみに向こうで結婚とかになったらどうなるんだ?」
「旅行先で結婚相手を見つけるのは別に珍しい事でもないですし、そこは要相談ですね。向こうに残りたい場合はそれも可能ですよ」
「そうか……」
まあ、こういう話では奴隷購入から結婚とか良くありますもんね。
でも彼は旅行者ですからお金を稼ぐ手段が限られてるんですけど、どうやって結婚なんてするつもりなんでしょうね。
「では、大方の説明は終わりましたのでそろそろ出発の方をお願いします」
「おう、このままでいいんだよな?」
「はい、それで……今回は『異世界への旅パック1組分』ですので、もう一人をお誘いできますが、どなたかいらっしゃいますか?」
「こういう時に気軽に誘える友達はいないし、彼女もいないし、俺一人で良いよ」
「そ、それは困ります! 一応、これは規則ですので必ず一組で送らないと、私も困ります!」
元々2人で容量を取っているので、今更1人だけというのはバランスが合わなくなってしまいます。
どうにかならないでしょうか……
「じゃあ、こうしよう。アンタで」
「はい? 私ですか?」
「どうせ俺には心当たりないし、アンタも道ずれって事で」
彼がそう宣言した瞬間、足元に魔方陣が展開されました。
ちょっと、そんなのアリですか!?
「待ってください! 私は神で、ガイドする側なんですけど!?」
「でも、こうなってるって事はそれでもいいんだろ? 旅は道ずれ世は情けって事でよろしく!」
「そ、そんな!?」
そうして、私は彼と異世界旅行をする事になってしまった……
これって業務って事で無断欠勤には……なりますよね。
はぁ、まだローンが350万年も残ってるのになぁ。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




