番外5‐3 異世界で俺は白米を炊く『高山田正大の場合』
(´・ω・`)おかしい……最初この話は元高レベルゲーマーがキャラ性能に物を言わせて、ドラゴンとかをバッサバッサと切り倒して文字通り料理して食べるだけの話だったのに……
前回、まるで少年マンガの「俺たちの戦いはこれからだ」という打ち切りが如く終わった訳だが、残念ながら俺の話はアレで終わりではない。
俺はアレから日銭を稼ぐ為に3日ほど屋台で歩きながらも食える物という事で、サンドウィッチと芋や魚のフライを用意した。
「しっかし、マサヒロの屋台は繁盛してるなぁ。朝から昼過ぎまで行列が切れねぇじゃねぇか」
「まあ、周りの屋台の殆どが廃棄寸前の塩漬け肉か塩気の強いパンだけだしな。物珍しさもあるんだろう」
「いやいや、このマヨネーズだったか? コイツのお陰で大盛況だぜ!」
「まあ、マヨネーズは異世界モノの定番は欠かせないからな」
単にパンに肉や野菜を挿むという料理は、数は少ないがある事にはあったが、それは殆どが文字通りパンに具を挿んだだけの味気ない物で、食えればいいだろう程度の物でしかなかった。
そこで俺は香辛料を料理に使用して受け入れられるのかというテストも兼ねて、屋台で干し肉をマヨネーズで和えたサンドイッチ的な物を出す事にした。
この世界では香辛料は薬、それも大半は防虫や動物避けなどに使われていて、調味料とは認識されていない。
しかも、単に香辛料を使っただけではインパクトが足りない。
そこで異世界モノの食べ物ネタのお約束、マヨネーズを使う事にしたのだが……酢が無い事に気付き一時期は諦めかけたが意外な所でそれを見つける事が出来た。
「なんで酢が薬屋で売ってんだよ。そりゃあ、殺菌効果はあるし酸性だから薬を作るにも使えるけどさ……色々発展の仕方を間違えてるだろ。この世界」
食う事に無頓着すぎるこの世界の住人には呆れざるを得ない。
その癖、こうやって美味い物を作れば食いに群がるので、最初は不思議で仕方がなかったが、次第にある事に気が付いた。
それは道往く者全員が必ず同じ小物を持っているという事だ。
「なあオッサン。みんなが持ってる十字の彫り物をしているメダルみたいな物はなんなんだ?」
それを聞いたオッサンは手に持っていた芋と包丁を落とし、まるで信じられない物を見たかのような顔をした。
「おいおい、アレは天命教の印じゃないか。本気で言ってるのか?」
「天命教?」
「はぁ……変わってるとは思ったが、その様子じゃあ洗礼は受けてないのか? 良く生きて来れたな……」
詳しく聞くと、この世界にはどんな小さな村にも必ず教会があり、子供たちはそこに通って文字や簡単な計算と道徳を学び、10歳になると天命教の信仰する証として印を貰うのだという。
そして、この宗教こそが『死体を弄ぶ者は最も卑しい』と言い出した諸悪の根源である。
「つまり俺の敵か」
「いやいやいや! なんでそうなるんだよ。別に天命教は料理人を否定していないし、別に肉を食う事自体は悪い事じゃないぞ?」
「そんな風な言い回しをするって事は、俺が言いたい事も分かってるよな?」
俺の問いにオッサンは黙ってしまった。
そう、確かに肉を食う事自体は否定していない。
だが現実として天命教の教えが食文化を阻害しているのは明らかである。
勿論、保存食として干し肉や塩漬け肉がある以上、食肉用の家畜を育てて解体する者はいるが、それは国が保有する奴隷の仕事である。
最も卑しい仕事は身分が最も低い者にという理屈は分かるが、じゃあお前らは何様だと小一時間問い詰めたい。
しかも、その所為で料理人が育たず、こんな有様になっているこの世界をその天命教とやらはどう考えているのだろうか?
「で、でも仕方ねぇんだよ。天命教は色々な支援をしてくれるし、パンを作って安定的に安価で供給しているのだって教会なんだよ。だから悪い事を言う奴なんかいやしないのさ」
……それはつまり、パンの生産を殆どそこに独占されてるって事じゃないか!
だから、街で見かけるパンの9割がガチガチに硬い黒パンしかなかったのか!
「おいおい神様……アンタの依頼、簡単には終わりそうにないぞ……」
思っていた以上の異世界の食糧事情の根深さに凹みながら芋を揚げていると、兵士の一団がこちらへやってくるのが見えた。
「オッチャン、アレってこっちに来てるよな?」
「そうだな。俺にもそう見える」
兵士たちは真っ直ぐこっちへ向かってきて、並んでいた客を蹴散らして屋台を取り囲んだ。
「おい、その人たちはウチの客だぞ! 食いたかったらちゃんと並べ!」
「この屋台の店主だな。ヴィール卿が貴様をお呼びだ」
「断る。目の前に俺の飯を待っている人がいるんだ。先にその人たちが食ってからにしろ」
「お、おいマサヒロ! 無茶言うな!」
俺がそう言うと兵士が並んでいた客を睨み付けた。
すると並んでいた客はそそくさと散らばってしまった。
「どうやら今日は客がいないようだな。さあ、付いて来い!」
「チッ」
俺とオッサンは兵士たちに縛られ、どこかへ連れて行かれる事になった。
まるで罪人の如く街の中を歩いていると、一軒の屋敷に連れて来られた。
屋敷の中に入り、エントランスの真ん中まで連れて来られると、槍で足を叩かれ無理矢理座らされる。
「クウイーラ様! 例の者を連れて参りました!」
兵士が声高らかに叫ぶと正面2階の扉が開き、悪趣味なほどに着飾ったオバさんが現われた。
「なんか、ダルメシアンをコートにする為に連れ去りそうなオバさんだな」
「シッ、口を慎め。クウイーラ様と言えばこの町の領主様で、貴族でもかなりの食通で通っているお方だ!」
この世界で食通?
泥棒をしない泥棒並みに胡散臭いんだが。
そんな俺を余所に、白と黒の毛皮を着こんだオバさんはゆっくりと階段を下りてきて俺たちの前に立った。
「うむ……この者たちが最近巷で噂の者たち?」
「はっ、何でも見た事もない料理を作ると平民の間で有名です!」
「食通の私すら見た事もない料理ねぇ? 面白い……そこのお前たち、私の為に何か一品を作りなさい」
「冗談じゃない。こっちは仕事を邪魔されて連れて来られて何か作れ? 食いたいんだったらアンタから……!?」
「分かりました! 喜んで作らさせて頂きやす!」
俺がオバさんの話を断ろうとした瞬間、オッサンが俺の頭を床に押し付け、自分も土下座して勝手に話を進めやがった。
「おい、俺は受けるつもりは」
「マサヒロ! この街でこの人に逆らったら生きていけねぇんだよ! アンタがそこそこできるのは知っているが冒険者でもない以上、大人しく従ってるのが吉だ!」
オッサンの言葉に、漸く俺は冒険者に登録していない事を思い出した。
ゲームじゃあ、スタート時点でなっている物だから忘れていた。
暢気にそんな事を考えていた俺を見て、オバさんは扇子で口元を隠しながら鼻で笑った。
「まあ、噂など往々にして誇張される物。私が見た事もない料理など余程のゲテモノなのでしょうね」
その言葉に頭の何かがブチ切れた。
良いだろう……そこまで言うなら食わせてやろうじゃねぇか、アンタが見た事もない料理をな!
「面白れぇ、ゲテモノかどうか食って貰おうじゃないか」
「ふん、威勢だけは一人前ね。ああ、そうだ。余りにも不味ければお前の首を刎ねるのでそのつもりで」
「そ、そんな!?」
「くっくっくっ、面白れぇ。真っ向から捻じ伏せてやんよ」
オバさんはつまらなそうに一瞥すると2階に戻って行った。
面白れぇ、飯の事で俺に勝負を吹っ掛けるなんざ向こうの世界じゃあ一人しかいなかったから、久々過ぎて笑いがこみあげてくる。
料理狂の名が伊達じゃない事を、あのオバさんに思い知らせてやろう。
「……【大津波】」
「ちょ!? こんな所でそんなぐぶぶぶ……!?」
調理場を見た途端に俺は威力を絞った上級水魔法をぶっ放した。
何せここの調理場は街の店屋よりも汚れ放題で、清潔という言葉に唾を吐いていた。
汚れを水で押し流した所へ、魔法で熱風を起こして乾かす。
何故この世界の住人は、調理場が汚いままで平気なのか理解に苦しむ。
「……ちっとも綺麗になった気がしないが、幾らかマシか」
「ぜぇぜぇぜぇ、マサヒロってホント何もんだよ……」
さて俺は最初、モドキ料理で豆腐ハンバーグでも作って肉を使っていない肉料理でも出してやろうかと考えていた。
しかし、あのオバさんの「ゲテモノ料理」という言葉を思い出して、あのオバさんの度肝を抜かせる料理を思い付いたのだ。
「ケッケッケッ、ファンタジーの王道。しかと食らうがいいわ」
「な、なんかマサヒロの性格変わってねぇか?」
この俺が3日間もあって街角で屋台をやってただけだと思うなよ?
ドラゴンこそ見つからなかったが、ワイバーンなら比較的楽に見つかったぜ?
「それで、一体何を作るんだ? 下手な料理を作ったら首を刎ねるって言ってたぜ?」
「今回はこの肉を使う。毒性は強いが度数の高い酒に付け込んでおいたから、そろそろ毒も抜けきってる頃だ」
「ど、毒って……マジかよ」
コイツで当初の予定のハンバーグを作ってもいいが、それインパクトに欠ける気がする……いや、地味なら仕込めばいいのか。
アレは確か解体の時に分けておいた筈……
「よし、オッサン。オッサンはスープに使う野菜を洗っておいてくれ」
「よしきた!」
まずは肉を何枚も薄く切って塩胡椒、それに香辛料を塗してミルフィーユ状に重ねて、また一塊の肉の様に固めて行く。
しかしこれだけでは、焼いた時に崩れそうなので網脂という内臓周りについている網状の脂肪で包んで形を整える。
だがこれだけでは油っ気が多いので、箸休めに野菜のスープも作る。
ケッケッケッ、自分の吐いた言葉に存分に後悔するがいい!
オバさんが待っているという食堂の扉を蹴り飛ばして、広い部屋に響くように高らかに声を張り上げた。
「オバさん、ご所望の料理が出来上がったぜ!」
「ふん、随分かかったのね」
オバさんの皮肉を聞き流し、料理を前に並べて行く。
表面上では気にしていないようだが、扇子に隠しながらチラチラと見ているのが丸わかりだ。
何せクロシュで蓋をしているとは言え、匂いが漏れて漂ってくるのだ。
腹が減っていればなおさら耐えられまい。
「という訳で、ステーキと野菜のスープだ」
「……何これ、いつもの料理と変わらないじゃない」
クロシュを取り料理を見た瞬間、肩を透かされたような顔をするオバさん。
そんな顔をしていられるのも、これを食うまでだぜ?
「まあ、食ってみてくれ。全てはそれからだ」
「はっ、どうせ平民には物珍しいから話題になっただけでしょう。こんな物なら私は毎日……」
そう言って肉を口に入れた瞬間……無言になる。
「な、何なのこれは!? やわらかくて歯ごたえがあるのに、いつもの肉なら噛めば噛むほど硬くなっていく筈が、この肉は噛む毎にどんどん解れて行く……それにこのピリッとした刺激は何!? 肉の甘みと相まって食べる手が止まらない!」
「そちらのスープも併せてお召し上がりください」
「これは?」
「野菜のみを煮込んだスープです。ステーキの脂で濃くなった口の中を洗い流せます」
「と、トロトロになるまで煮込んだ野菜の甘みが、口の中がサッパリしていく!?」
俺のゲーム内の知り合いには魔道具狂と呼ばれたプレイヤーがいた。
俺は奴に時々、調理器具のアイデアを渡しては作って貰っていた。
その中の一つに、口の中に入れるだけで解けるほど柔らかく煮込んだ野菜が食いたいという理由だけで作成を依頼した、たった十数分煮込むだけで何日も煮込んだように具がトロトロになる圧力鍋があった。
俺はそれを使って僅かな時間で、本来なら何時間も掛かるような作業を短縮したのだ。
しかもこの鍋の利点は『十数分で何日も煮込んだ結果を得られる』点にある。
ただの時間圧縮や結果抽出ではなく、普通に煮込むという過程がある為、野菜の出汁がスープへと溶け出してそれだけで十分に濃い味のスープが出来上がるのである。
「つまり数種類の野菜を長時間煮込む事で単調な塩味ではなく、甘みや辛味や苦み……それぞれの味を持つ野菜の出汁が複雑に絡み合って舌を蹂躙するって訳さ!」
「ば、バカな……野菜など肉料理の付け合せ程度の存在……こんなに濃い味が出る筈が……っ!?」
「そう思うなら一緒に出したパンを浸して食ってみな。パンの甘みと野菜の旨味が調和して2度とそんな事は言えなくなるぜ」
「そんな事……」
オバさんが震える手で丸パンを千切って、パンをスープに付けて口に運ぶ。
数回口を動かしたかと思うと、目をカッと開いた。
「何、この柔かくて甘いパンは!? パンなんてスープに浸して柔らかくしない食べられない物だと思っていたのに、手で千切れる上に口の中で融ける様だわ! しかもスープとの相性もいい!」
そこからはもう取り付かれたかのように、目の前の料理を次々と口へ運んでゆく。
それを見た俺は完全勝利を確信してニヤリと笑う。
最後の一切れを食べ終え、ナイフとフォークを置いて上品に口元を拭くオバさんの前の器には、肉の欠片もスープ一滴すら残っていなかった。
「ふう……これだけの物とは思わなかったわ。大人しく負けを認めましょう……でも一つだけ答えなさい。この肉の刺激的な味は一体なんなの?」
「そいつか? そいつは薄くスライスした肉にアンタらがよく薬で使っている香辛料を振り掛けたのさ。後は型崩れしない様に脂で巻いてじっくりと火を通せば完成だ」
俺の答えに、オバさんは意外そうな顔でステーキ皿を見つめた。
「香辛料……? アレにこんな使い方があったなんて……でも、それだけじゃないわね? この肉自体にも秘密があるんでしょう?」
「ああ、その肉だが……」
ここで一旦言葉を切った。
若干身を乗り出してきたオバさんを見て、俺はバレない様に口元を隠してニヤリと笑う。
ここで意趣返し発動である。
「ワイバーンの肉だ。より正確に言えば一頭から数キロしか取れない希少な部位の肉だがな」
「……は?」
俺の言葉に呆然となっている隙にアサシンスキルを発動する!
様々な監視の目を掻い潜ってオッサンを回収、そして屋敷を飛び出した。
「ハーハッハッハッ! 意趣返し大成功!」
「頼むぜマサヒロ……まさか領主様にあんなゲテモノ料理を出すとは……」
失礼な、アレの何処がゲテモノか。
俺はただ美味い物を作れと言われたから本気を出しただけだ。
「それにしてもワイバーンを狩って肉にするか? 普通」
「ハッ、俺の目標はドラゴンだ。そして俺はこの世界を周り、俺だけの至高のフルコースを作ってみせる!」
それこそが、俺がゲームの中ですら叶えられなかった究極の目的!
料理狂の名に懸けて、この世界全てを食い尽くす!
「しかし、それにはまず情報が足りない。よし、冒険者に登録するか」
「へへへ、しょうがねぇな。俺も付いてってやるよ」
「いや、オッサンは別にいい」
「ヒデェな!?」
担いでいるオッサンの文句を聞き流しながら、俺は冒険者になるべく冒険者協会へと走り出した。
こうして、元高レベルゲーマーで料理狂と呼ばれた男と、ただの獣人のオッサンの異世界での冒険が始まった。
一先ず番外は今回で終わりで、次週からは通常の形式に戻します……
ただこの話は気が向けばまたやりたいと思います……まだドラゴンを食ってないので。(未定)
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




