番外4 迷宮主の日常『鳴宮造の場合』
※残酷描写があります。
目を覚ますと、8畳ほどの広さの洞穴だった。
冷たい土の上で寝て居た所為か、体の節々が痛い。
「あえ……? ここは~……ああ、転生したんだけ」
寝ぼけ眼で起き上がると、背後に赤い玉がある事に気が付いた。
玉の大きさは直径1mほどで、触ってみると石っぽい感触で地上から20cmくらいの高さに固定されているかのように浮いている。
「なんだこれ?」
触りながらそんな事を呟いた途端、オレの視界にゲームの表示画面のような物が浮かび上がった。
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『ダンジョンコア』
ダンジョンの核となる魔力を持った石。
迷宮主はこれを通じて、魔力を消費する事でダンジョンを作り変える事が出来る。
ただし、ダンジョンコアにダンジョンに所属している者以外が触れると、崩壊して迷宮主も死亡する。
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……なるほど、神様が言っていたのはコレの事か。
というか夢だと思っていた内容は本当の事だったのか……
とりあえず、ダンジョンコアで何か作ろう。
このままじゃあ、熊かなんか入って来てコアに触られたら寝るどころの騒ぎじゃない。
「だけど……どうやって作るんだ?」
そう呟いたら、今度はこの洞穴をモデルにしたと思われる立体図のような物が現われた。
恐らくこれを弄る事でダンジョンを作り変える事が出来るのだろう。
「じゃあ、早速……」
ダンジョンを壁で囲ってしまえば、一先ず崩壊の心配はない。
そう思って立体図の中のコアを壁で囲ったが、実行できなかった。
「……あれ? 実行できない、何でだ?」
すると今度は、『注意事項』と書かれた画面が浮かび上がった。
そこにはダンジョンコアを操作する上での禁止事項などが書かれていた。
その中の一つに、『ダンジョンコアは常に外と繋がった空間に置かなければならない』というのがあった。
どういう意味かというと扉などで区切るのは構わないが、壁で完全に遮断してしまう事は出来ないという意味らしい。
そしてもう一つ困った事が分かった。
「む、改造しようにもオレの魔力が全然足りないのか……これじゃあ何も作れないじゃないか」
このダンジョンコアの機能を使うには、魔力を消費するらしいのだが現在の俺がこれである。
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『迷宮主』鳴宮造 Lv1
HP120/120
MP100/100
スキル
『迷宮作成』 『召喚』 『契約』
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とりあえず現状で必要な情報はレベルとMPだ。
恐らくゲームの様にレベルが上がればステータスが上昇して、使えるスキルも増えて行くのだろう。
しかし、問題は今使えるMPが百しか無い事。
これでは壁1枚を作るのが関の山だ。
他に方法は無いのか……
「お、これなんかいいじゃないか?」
コアの機能の一つにアイテムボックスというのがあった。
簡単に言えば道具をダンジョンコアが持つ異空間に収納して置ける機能らしい。
そしてアイテムボックスには、アイテムを魔力に変換するという機能があるようで、これを使えばダンジョンコアに魔力を貯蓄できるようだ。
「なるほど、では物は試しに……」
足元に落ちていた石ころをアイテムボックスに突っ込んで魔力に変換。
するとダンジョンコアのステータスのMPが1上がった。
……やっぱりその辺の物じゃその程度か。
「まあいいや、とりあえず適当に突っ込んで行こう」
幸い、外に出ると森の中だったのでコアに突っ込める物は豊富にあった。
オレは落ち葉や木の枝、石ころや虫など目に付いた物を片っ端からアイテムボックスに入れて魔力に変換していった。
無我夢中で集めたおかげで、コアには1千ほどの魔力が溜まった。
すると今度は『コアをレベルアップさせますか?』という表示が出た。
どうやら魔力を消費する事でコアをレベルアップする事ができるらしい。
コアがレベルアップすれば、ダンジョンの階数が増え、作成できる施設も増える……と説明書には書いてあった。
「……よし、ダラダラ過ごす為に頑張りますか」
面倒だが、オレの勘では3日が限度だろう。
それまでにダンジョンを改造しなければ、恐らく誰か又は何かに見つかってゲームオーバーだ。
ここにオレのダンジョン改造計画が始まった。
最初に魔力の元となる木の枝や虫などを集めながら、ダンジョンコアの仕様を隅から隅まで読み漁った。
それによるとダンジョン内では死体をモンスターに回収させて、それを魔力へと変換する機能があるらしい。
これで魔物が蔓延っていて、それを冒険者的な輩が倒しても、ダンジョン内は常に綺麗になっているという寸法だ。
これは勿論、人間にも適用されるが持ち物は宝箱を設置してその中に入れる事も可能らしい。
加えてダンジョン内の壁や床は一部を除いて破壊不可となっている。
「宝箱については後回しにしても、この仕様は使える」
この瞬間、作るダンジョンが決まった。
何せ余計な物に回せるほど魔力に余裕が無いので、出来るだけローコストで魔力を回収できるシステムが必要だった。
次に俺は溜めた魔力の半分以上を使ってダンジョンコアのレベルを一気に3まで上げる。
これで階数が3階まで増やす事が出来るようになったので、地下に向かって2フロアを増やした。
入り口は横幅1m、長さは3m程度の小路で奥には扉があり、開けると20畳ほどの大部屋を作成。
奥には入り口と同じような小路へと続く扉があり、そこから地下への階段と小部屋に繋がる。
小部屋にはモンスターを発生させる魔力渦を設置、地下へと向かう侵入者を妨害させる。
地下1階は何も置かない。
踊り場の様な狭いフロアだ。
地下2階、ここは俺の生活圏になる。
6畳ほどの部屋の中心にダンジョンコアを設置して、その奥が寝床になる。
当然だがここにも罠などは設置しない、俺が生活する上で邪魔になるからだ。
さて、当たり前だがこれだけでは簡単にダンジョンが攻略されコアが取られるだろう。
だからこのダンジョンには大きな仕掛けがある。
それは1階の不自然な大部屋だ。
そこには状態異常攻撃を持つ飛行系のモンスターを設置、地下へと続く小道にもモンスターを設置して侵入者をそこに足止めする。
出入り口を扉で区切り、扉には片方の扉を締めないともう片方が開かない条件を付ける。
そうして侵入者を大部屋に集めて、一人でも奥の扉に近づいた瞬間、その大部屋の床が抜けて地下2階まで落ちる仕掛けだ。
勿論そこからが本番、上からは飛行モンスターが襲い掛かり、壁の隙間からはスライムがジワジワと流れ出る。
どんな手練れであっても、四方を壁に囲まれ休む事無く攻撃を受ければ次第に弱るのは自明の理である。
そしてその部屋を掃除するのは何でも消化するスライムである。
これで外部にダンジョンの情報が漏れる事は無く、確実に侵入者を全滅させる事が出来る。
全部が作り終わるまでに3日3晩木の枝を集め、途中に大部屋の仕掛けと魔力渦だけ作って、モンスターを自滅させて魔力を集めまくった。
そうして3日目の深夜に漸く、俺が楽をする為のダンジョンが完成した。
「つ、疲れた……今日はもう何でもいいから寝よう。後は明日からでいいや」
俺は突貫的に作ったダンジョンコアの設置部屋の冷たい床に寝転んで眠った。
次に目覚めた時、俺の予想だにしなかった事態が起こっていた。
――視点変更:冒険者SIDE
「本当にこんな所にダンジョンがあるのか?」
「ああ、冒険者協会で確認したから間違いねぇよ」
相棒が手に持った剣で木の枝を払いながら自信満々に答えた。
正直、こんな町の近くで初心者向けの場所にダンジョンなんかできるのかね?
「協会にはダンジョンの発生を感知できる魔法道具があんだよ。まあ、精度はあまり良くないから検証に時間が掛かるみたいだけどな」
なるほどねぇ。
だから、こんな初心者向けの森もこんな奥まった所のダンジョンが発見された訳だ。
「協会の話じゃこの辺に……お、あったあった」
そう言って見つけたのは人一人が通るのがやっとそうな小さな洞穴だった。
本当にここがダンジョンなのか?
「なあ、こんな狭いんじゃ武器も満足に振れないぞ?」
「安心しろ、これは入り口だけだ。ダンジョンには色々なタイプがあるが中は大体2mほど幅がある」
そういう物なのか。
でもこれじゃあ、モンスターの素材や拾ったアイテムを持ち帰るのも一苦労しそうだな。
「じゃあ、早速中に入ろうぜ。どうせこんな所に出来るダンジョンだ。そんなに深くないだろうけどな」
洞穴の中に入ると石の扉が現われた。
どうやらこれがダンジョンへの入口らしい。
相棒が少し扉を開けて、中の様子を覗くと俺にも見るように言ってきた。
「どうしたんだ? ……おいおい、これは……」
中には洞窟内の雑魚の代名詞、イルネスバットが天井に見えた。
相棒が俺の肩を叩き、奥を見るように指を指す。
薄暗くて良くは見えないが、奥に扉のような物が見える。
「あそこが奥へ続く扉みたいだな。一気に雑魚に構わず走り抜けるぞ」
「了解」
相棒は手早く煙幕玉を部屋の中に投げ入れ、数秒待った後に突入した。
相棒特製の視覚と嗅覚を潰す煙幕玉のお陰で、イルネスバットは混乱していて俺たちが入ってきた事には気付いていないようだ。
俺たちは体勢を低くしたまま、一気に部屋を横切って奥の扉を目指す。
そして、相棒の手が扉に掛かろうとした次の瞬間、急に浮遊感に襲われた。
「……き……! お……! ……きろ!」
相棒の声がする……
どうやら俺は気絶していたようだ。
「う……体中が痛い……どうなってやがるんだ?」
「やられた……あの部屋自体がトラップルームだったんだ。軽く調べたがこの部屋に入口のような物は無い……」
相棒が上を見上げるのにつられて、動かない体を押して天井を見上げると、俺たちの居た部屋の床が真ん中から左右に開いているのが見えた。
どうやらあの高さから落ちて、俺は運悪く全身を打ち付けて動けなくなっちまったらしい。
「か、完全に……閉じ込められたか……」
「まあ、安心しろ。この程度の高さなら道具があれば登れる」
そう言って相棒は道具袋からロープを取り出す。
まあ、ダンジョンじゃこの程度の罠なんか日常茶飯事……?
ありゃなんだ?
「どうした相棒、上に何が……」
開いた天井から現れたのは、沢山のイルネスバットだった……っ!
イルネスバットは歯肉に集る蠅のように、俺たちに襲い掛かる!
「不味い! コイツらが邪魔で壁を登れねぇ!」
「くっ、あまり時間は掛けていられないぞ! こいつらは……」
イルネスバットの爪や牙には毒があり、すぐに致命傷になる物ではないが放って置けばじわりじわりと動けなくなり、奴らに集られ血を啜られる事になる……!
「それにしても、やけに足元がネト付くな……一体何が……」
動けなくなっている俺に襲い掛かるイルネスバットを、相棒が剣で振り払いながら妙な感触がする足元を見て青ざめた。
そこで漸く、俺たちはこの罠の真意に気が付いた。
「こ、コイツはスライムだ! ヤベェ、こいつらがここにいるって事は……!」
とうとう相棒がパニックを起こす。
そうか、だからさっきから体が熱かったのか……
スライムは子供でも棒っきれで倒せる雑魚の代名詞で、何でも溶かして食べる雑食性から洞窟に住むスライムは冒険者が倒したモンスターの死骸を餌にする為、『ダンジョンの掃除人』なんて呼ばれている。
……そう、本来なら簡単に倒せて、洞窟内を綺麗にするだけのモンスターが狙っている物、それは間違いなく。
「まさかこんな雑魚モンスターどもが脅威になるなんて聞いてねぇよ!!」
相棒は毒消しやポーションを口に咥えながら、イルネスバットとスライムを何とか追い払おうとする。
しかし、彼らにとって俺たちは罠に掛かって勝手に弱っていくだけの餌。
上からは毒を持つ飛行モンスターが絶えず襲い掛かり、下からはスライムが張り付いて道具ごと溶かしてゆく。
そして何故俺がこんなにも冷静に話していられるかというと、既に全身をイルネスバットに噛み付かれた為に毒が回っていて、体を動かす事すら満足に出来そうにないからだ。
おまけにスライムが至る所に張り付いて俺を溶かしているのがボンヤリと感じられ、やけに今の冷静に状況を見ている……いや、死が近づいて感覚が鈍くなっているだけか。
初心者向けの森に何でこんなダンジョンがあるんだよ……チクショウ……
薄れゆく意識の中、俺が最後に目にしたのは剣を落とし、膝を付いた相棒の姿だった。
『業務報告:
冒険者協会□□□町支部の魔法道具にダンジョンが出現した反応有。
協会はダンジョン調査の依頼を発行、数名の冒険者を派遣するも誰一人帰還を確認できず。
死亡、またはダンジョン内で得たアイテムの持ち逃げか事実は定かではないが、このダンジョンが何らかの関係があると見て調査を続ける。
――冒険者協会報告記録』
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




