番外3‐3 ハーレム王は命がけ!?急 『鬼龍院零夜の場合』
(´・ω・`)ふふふ……絞り尽くしたぜ……真っ白になぁ……
実はこの世界、番外2と世界観はほぼ同じなんです……
今回は第3話の転生後の話です
「お前さぁ、もう懲りない?」
目を覚ますと目の前にはそろそろ見慣れてきた金髪が見えた。
「……え? 何で?」
「簡単に言えば、奴隷に文字通り精根を絞り尽くされたんだよ。よりにも因って何でライフドレイン持ちの奴隷なんか買ってんだよ。バッカじゃねぇの?」
「え? でも、奴隷だよ? なんで主人を殺すんだよ!?」
「あのなぁ、奴隷ったって何の刻印もしてない普通の奴隷だから命令権なんかないし、それに向こうにしてみれば懸命の奉仕のつもりだったんだから問題ないに決まってんだろ?」
「ま、マジかよ……」
その後に詳しく聞けば、普通は買った直後に奴隷の刻印に血を垂らして細かい命令権を刻印するんだそうだ。
俺は自分の好みだった奴隷を買った事に舞い上がってその辺の説明を聞かずに出て行ってしまったのだ。
……それも彼女が張り切ってしまった理由だそうだ。
「じゃあ、彼女はどうなったんだ?」
「安心しな。あのままお前の奴隷じゃあ、送った瞬間に戻ってきそうだから、彼女は別の人間の奴隷に変更して置いた。正直、俺の権限だとギリギリなんだけどな」
理由はどうあれ、一度は仲間になった相手が別の知らない相手の仲間になったのは寂しい気がしたが、正直3度目にもなると若干トラウマ気味になってきた。
「なあ、次のスタート地点にお願いがあるんだけどさ、街から離れた所にしてくれない? ちょっと一人で考えたい事があるんだ」
「……まあいいけど、じゃあ今度は街から離れた草原からスタートで」
金髪はそう言って俺を転送した。
「ハッハッハッ……!」
突然だが俺は走っていた。
息が切れ、運動不足で脇腹が痛くなっても足を止める訳にはいかなかった。
後ろからは複数の足音が聞こえて来る。
俺は必死に逃げながら、あの金髪が最初の転生の時に言っていた事を思い出していた。
「ハァ……ハァ……ハァ……こんな所で、捕まって堪るか……!」
「ふはっはっはっ、逃げろ逃げろ人族の雄め! このベスティア様から逃げられるのならなぁ!」
少しくすんだ金髪に小麦色の肌、少し尖り気味の耳にしなやかさの中に如何にも戦士らしい筋肉質な体、野性的ながらも美しい顔をした女丈夫がニヤリと凶悪な笑みを浮かべる。
それはこの世界で恐れられている部族……原種エルフだった。
最初にこの世界に降り立った時、勇樹は取り敢えず別の街を目指そうとトボトボと歩いていた。
すると偶然、プロトエルフの狩りの現場を発見し、彼は見つからない様に静かに立ち去ろうとして、ベッタベタのお約束如く木の枝を踏んでしまう。
そこで始まったのが恐怖の鬼ごっこ、まるで獲物を追い立てる狩人が如く、誘導されていると分っていても逃げるしかなかった。
だが、それも直に終わりを迎えた……
「ふんっ、漸く観念したか。人族にしては中々骨のある奴だったな」
「ハッ! アンタなんかに捕まって堪るか!」
俺の焼け糞な反抗に、ベスティアは綺麗な顔をニヤリと歪ませた。
俺は反射的に前に買った剣を取り出して、素人丸出しに構えた
「レベルが低い癖に威勢だけは良いねぇ。気に入ったよ。アンタはあたしが直々に躾けてやろうじゃないか」
「お断りだ……!」
言葉と共に俺はベスティアに向かって飛び掛かった。
だが、ベスティアはただ笑うだけで、俺が剣を振り下すのを見ている。
取った! と思った瞬間、首にチクリと痛みが走り、次に何か柔かい物に包まれて意識を失った……
「はい、最速記録更新~。レイヤ君おかえり~」
「……俺を殺せ」
俺は金髪野郎を見た瞬間、何もかもが崩れ去った。
やっとあの地獄から解放されたのに、何でおれは壊レズにkokoにイルんだ?
「そりゃあ、レイヤ君は何度もここへ来てるんだぜ? そして君には一度経験した事に対して耐性が付くようになってる。だから何度死んでも精神は壊れないよ」
「待てやゴルァ、じゃあ何で俺は何度もここへ送られてんだあぁ?」
「あーあ、随分荒んじゃって」
当たり前じゃ、こちとらもう5回も死んでんだよ。
その上、最後なんか根こそぎプライドを引き抜かれて、心に余裕なんかある訳ないだろうが!
「なんでってそりゃ、毎回前回を上回る経験だったからじゃないかなぁ」
「なんだよそれ……! たったそんな事で俺は死んだのかよ!」
ふざけんな!
人の命を何だと思ってるんだよ!
「いやいや、そもそも何でそう簡単に捕まってるのさ。君には能力をあげたよね?」
「だからそれが突破されて……!」
「そうじゃなくって、元々君をあの世界に送り込んだ理由。魔力の循環不足を解消する為に、君には万能に近い能力をあげた筈だよ?」
「……あ」
異世界ハーレムを作るんだとか張り切っててすっかり忘れてた。
……そうか、俺にはこの力があったのか!
これでもうベスティア様に命令されたり、枯れるまで絞られずに済む!
「いやいや、だったら彼女と接触しない様な所へ送ってあげるよ。どこがいい?」
「……魔王ってあの世界に居るのか?」
「魔王? いるよ。と言っても今の所は世界を滅ぼすとかは無さそうだから放置してるよ」
「魔王を倒そう!」
そうだ、魔王を倒して俺は勇者になるんだ。
そうすればもうあんな奴らに怯える心配はないんだ。
魔王を倒そう、世界は平和になるし、俺も平和になる。
「良い具合に混乱してるねぇ、まあいいけどさ。じゃあ、魔王城の近くスタートって事でOK?」
「おう! やってくれ!」
目的が定まった俺の行動は速かった。
まずは魔王城への侵入、俺一人では城に住む沢山のモンスターを相手にしていては物量に潰される。
なので、誰にも気付かれないように能力を使って忍び込んだ。
……城の中が静かなのが気になったが、俺は目標の為に疑問を振り払った。
次に魔王の居場所を知る為に、城の誰かと接触する事にした。
そこで決めたのが調理場である。
そこならほぼ確実に誰かがいる上、いるのは非戦闘員と相場が決まっている。
俺はナイフを能力で作り出して、調理場を探した。
調理場はすぐに見つかった。
誰かが料理をしている最中だったようで、ご飯の匂いが廊下に漂っていて、それを辿ればすぐだった。
ゆっくりと扉を開けると、広い調理場にメイドらしき少女が鼻歌を歌いながら料理をしていた。
丁度いい、彼女を脅して魔王の居場所を聞き出そう。
俺は息を殺してゆっくりと彼女の背後へ近づき、彼女の首筋にナイフを近づけた。
「動くなジッとして居ろ。このナイフは聖剣だから刺されば一溜りもないぞ」
少女が息を飲むのが分かる。
改めて少女を観察する。
どうやら彼女は下っ端らしく、俺のナイフを見てビッシリ汗を掻きながら怯えるように両手を上にあげて固まっている。
「あ、あのぅ、強盗さんが私に何の御用ですかぁ? わ、私、食べてもおいしくないですよ?」
本人は大真面目なのだろうが、何処か気の抜けた声色に張りつめていた緊張が緩みそうになる。
だがこんな所で立ち止まっている訳にはいかない。
俺は魔王を倒して、俺の平穏を取り戻すのだ!
「魔王の居場所を教えろ、そうすれば開放する」
そう言いつつ、俺はスタンガンを能力で用意しておく。
解放した後に彼女に騒がれては厄介なので、これで気絶させるのだ。
「ま、魔王ですか? 魔王は私ですけど……」
「……はい?」
予想外の台詞に思わず緊張が一気に切れてナイフを落としてしまう。
彼女の言葉に呆然としていた俺は反応が遅れ、彼女に先にナイフを拾い上げられてしまった。
不味いと思った次の瞬間、彼女は俺の予想外の行動を取った。
「はいどうぞ、ナイフを落としましたよ?」
「え……あ、どうも……」
差し出されたナイフを受け取ると、彼女はニッコリと笑った。
その笑顔を見た瞬間、俺の身体に電撃が走った。
魔王というには若すぎる彼女は、見た目の年齢は俺と同じくらい。
顔立ちは地味目で決して目立つタイプではないが、例えるなら道端に咲くタンポポのような毒の無い穏やかな笑顔は見る者をホッとさせた。
そんな風に俺が彼女に見惚れていると、彼女がパンと手を叩いた。
「そうだ、お腹空いていませんか? 今、お昼を作っていると事だったんですよ!」
「え、でも、急に来ちゃったし、足りないんじゃあ……」
「大丈夫です。ちょっと待っててくださいね」
彼女は俺を椅子に座らせると、そのまま料理を始めてしまった。
彼女の鼻歌を聞きながら待っていると、盛り付けが終わったようでカートに皿を乗せてやってきた。
「それでは食堂に移動しましょう。ここで食べるのも味気ないですし」
「ああ、うん、構わないよ」
彼女に案内されるままに廊下を歩き、食堂へ向かう。
案内された食堂は、お城で王様とかが食事をしていそうな豪華な部屋だった。
無駄に長いテーブルの手前に座ると、彼女は俺の前に作った料理を置いて俺と並んで座った。
「どうぞ、召し上がれ」
「い、いただきます」
彼女が作っていたのはビーフシチューだった。
彼女に勧められるままにスプーンで掬って口に運ぶと……涙が止まらなくなった。
「うめぇ……美味いよこれ! 美味過ぎるよ!」
口に入れた瞬間、まろやかな味が口に広がり、シチューの香りが鼻から抜けた。
肉は何時間も煮込まれていたのか、口に入れた途端に解れて肉の旨味が広がっていく。
味が濃すぎず薄すぎず、野菜の甘みや肉の旨味が上手く混ざり合って、ドンドン入っていく。
「パンもありますよ。召し上がって見てください」
「ありがとう!」
パンは焼きたてなのかまだ温かく、表面はパリッと中はしっとりしていて、これだけでも甘みがあって幾つでも食べられそうだ。
そのパンをシチューに付けて食べるのもまた美味かった。
俺は、ここへ来た目的も忘れて食べまくったのだった。
「ふぅ……食った食った」
「うふふ、沢山食べましたね」
「ああ、久々に沢山食べたよ……ハッ!?」
そうだ、いつもならここで変な薬を盛られて体が熱く……ならない?
それとも遅効性なのか?
「それにしても、誰かと一緒の食事なんて久しぶりです」
魔王が何かを思い出して、無邪気に笑いながら懐かしそうに呟いた。
しかし、俺には笑顔の中に悲しげな陰りが見えた気がした。
「そうなのか?」
「はい、部下が多かった父に比べて、私には付いて来てくれる人がいなかったのでこの有様で……皆さん、父が亡くなると同時に出て行ってしまいました」
彼女は伽藍とした食堂を眺めて溜息を吐いた。
そして、彼女は俺の方を振り向き、俺の手を取って笑い掛ける。
「ですから、こうして貴方が訪ねて来てとっても嬉しいです。いつもこの広いお城に私独りぼっちで寂しかったんです」
「あ、ああ、そうだったんだ……」
「あれ? でもどうして貴方はここにいらっしゃったんですか?」
彼女にそう問われた瞬間、忘れかけていた心の傷が一気に開いた。
泣き崩れる俺を彼女は、初めは驚いた様子で見ていたが微笑むと優しく抱きしめ背中を撫でていた。
泣きながら叫ぶ俺の言葉を、彼女は抱きしめながら最後まで聞いてくれた。
「辛い思いをしたんですね……可哀想に」
「俺……辛くて苦しくて……だから訳わかんなくって……」
「よしよし、どうぞ心の内を全て吐き出しちゃってください。私は幾らでも聞きますから」
彼女の言葉に俺の心を塞き止めていた物が完全に破壊された。
彼女は俺が泣き疲れるまで、そっと手を握って寄り添っていた。
目を覚ますと朝になっていた。
昨日はあの後、泣き付かれた俺は魔王城に泊まる事となり、他の部屋は封印処理をしているという事で唯一使用している彼女の部屋に泊まらせて貰ったのだ。
2人で彼女のベッドに入り、暫く彼女と色々な話をした。
俺は体を起こして隣を見ると、穏やかな笑顔を浮かべている彼女が寝ていた。
初めて味わう充実感に俺は感動すら覚え、そしてそれは俺に一つの決意をさせる。
それからの俺は彼女を説得して、魔王城を離れて2人で冒険者として活動を始めた。
元々魔族の冒険者なども珍しくない為、彼女の登録はスムーズに出来た。
そして、俺の万能魔法と彼女の魔王としての能力で上位冒険者に上り詰め、王都の外れに屋敷を買い幸せに暮らしたのだった。
夜になると控え目ながらも毎回ヘトヘトになるまで彼女におねだりされた後、やはり彼女もこの世界の住人なんだなぁと、幸せそうな彼女の寝顔を見ながら微睡む。
そういえば、俺のステータス画面にある『女難』ってどういう意味なんだろう……。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




