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米沢が話した内容に未だに実感がわかないまま次の日を迎えた。
正直、米沢やリネイクの話にはある程度の説得力も証拠もあり、垣見内を犯人として考えているのも十二分に理解はできる。
それでも、妙にその結論に納得ができないというモヤモヤが残ったままでいた。
それは一緒にいた朝比奈も同様だった。
だが、結局は米沢やリネイクの主張を覆せるほどの証拠や根拠があるわけでもなく、そのまま時だけが過ぎていった。
結局、今日もいつも通り何の異変もない学校生活を送るのだろうと思っていた。
高梨先生から衝撃の真実を告げられるまでは。
「お前ら。今日も集まっているな。と言っても正確には2人欠けてしまったと言った方がいいか」
いつものクールな立ち振る舞いとは少し違うどこかいつも以上に緊張感のある様子で教壇へと上がる。
ペットボトルの水を口に軽く含んだ後、改まった様子で告げられた言葉に激震が走る。
「朝のホームルームを始める前にお前らに伝えておきたいことがある。今朝、このクラスの一人だった垣見内が何者かによって殺害された。これで我がクラスの死亡生徒は石山を含めて二人になった。以上だ」
高梨先生から告げられた言葉に他の生徒がショックを浮かべたり、悲しむ様子が見え透いてわかるような表情は見せなかったが内心はとても穏やかな様子ではないひりついた空気。。
ついこの間までの誰も死なないどこの高校でもありそうな日常がたった二日で殺伐とした世界へと一変した。
「さて、話はこれくらいにして朝礼を始めるぞ~」
まるで石山と垣見内が死んだことはお知らせのついでかのような態度で高梨先生は朝礼をはじめていった。
その後、時は過ぎ昼休みを迎える。
授業中も石山だけでなく垣見内も死んだという事実に全くと言っていいほど親近感が湧いてこない。
そもそも、校則違反によって垣見内が処刑されたなら死んだのも理解できるが、殺されたという部分に引っかかりを覚えた。
その一方で他のクラスメイトは全く気にする素振りもなくいつも通りに談笑をしている。
「ねぇ。ちょっといいかしら?」
弁当を食べていたところに声をかけてきたのはベルティアだ。
一体何の用だろうか。オレの中に特別、何か心当たりが思い当たる節がない。
強いて言うなら、米沢と教室で会った時に話を聞かれていたことくらいか。
だがその時ベルティアはイヤホンをしていたはず。
「何の用だ?」
とりあえず話だけでも聞いてみるか。
普段は滅多に人と交流しないベルティアがわざわざ他人、それもオレに声をかけてきたのはそれ相応の理由があってのことだろう。
ベルティアの口から放たれた言葉はオレが咄嗟に想像していたものとは全く違ったものだった。
「放課後、時間に余裕はあるかしら?」
ここまではまぁ予想内。問題はその後に続いた言葉だった。
「時間? あぁ、問題はないがわざわざオレに聞いてきたってことは、それ相応の要件ってことだろ?」
「そうよ。一つ目は昨日の件、それともう一つこれとは別件で聞きたいことがあるから正確には要件は二つ何だけど」
ベルティアの口から放たれた二つの要件。
1つは最初の口ぶりを見れば、間違いなく石山と垣見内関連の話だろう。
問題はその後だ。ベルティアにはもう一つオレに用件があると言っていたがそれが何に該当しているのか全く想像がつかない。
というか、そもそもこの学園に来てからベルティアと何らかの接点を作ったというわけではないので、何について聞こうとしているのか検討もつかないのは当然と言えば当然である。
まぁそこも含めて放課後に本人に直接聞く以外の方法はないのだろうが。
「要件が何かも気になるがとりあえずは放課後、クラスメイトが一通りいなくなってからでいいか?」
「えぇ。最初から人がいる前しようと思っている話じゃないから理解が早くて助かるわ。後、この話は朝比奈さんには他言無用よ」
「朝比奈? それは別に構わないがなぜだ?」
「そんなの決まっているでしょ? 後々話す内容が彼女には聞かれてくないからよ。相変わらずあなたは基本的に察しがいい方なのに重要な部分は見落としがちのおまぬけさんね」
別にベルティアを怒らせるようなことを言ったつもりはないのになぜか強烈に罵倒された。さっきまではクールな態度ながらに褒めていたのに今度はこの変わりよう。
ツンデレなのだろうが相変わらず本当につかみどころがない。
「それじゃあ。用件だけは伝えたから」
ベルティアはサバサバとした様子でそのままオレから離れていった。
交流が深まりつつあった朝比奈には申し訳ないが今回は仕方ない。ベルティアの言う通り、放課後は先にやることがあるから今日は帰ってほしいとでも伝えておくか。
その後、朝比奈に放課後は一緒に行動できないとだけ伝え、時は進んでベルティアが待つ放課後を迎える。
幸い、朝比奈は最近入ったという女子バスケットボール部の関係で今日は元々一緒に行動できなかったようでそこは少しホッとしている。朝比奈は容姿も人柄も完璧で、それでいて運動も軽快にこなせる。まさに全ての人間が渇望している要素を持ち合わせた天の産物といったところか。
たまに彼女を見ていると、自分に対する劣等感を自然と感じてしまうのは人間の本能的には仕方のないことかもしれない。
クラスメイトが一通りいなくなるまでの間、オレは1週間前に図書館で借りた現代作家『石宮湘南』の最新作、『嘘と真実と正義の天秤』という本を読みながらその時を待った。
そして三十分程でクラスメイトのほとんどがいなくなり、1―T組の教室にはオレとベルティアの二人きりになっていた。
ベルティアは辺りに人がいないことを確認し、教室のドアをしっかりと閉めた。
同時に教室のドアを内側から閉めることができる特殊な鍵をスカートの中から取り出し、そのままほんのわずかな音すらも立てることなく鍵をかける。
ここまでの流れ、まるで人に話を聞かれることも見られることも一切許さないというベルティアの強い意志が明確に出ていることがわかる。
「さてと。これでじっくりと話せるだけの舞台は整ったわね」
「わざわざ教室内部から閉められる特殊加工の鍵を自作で用意してまで話したい内容がどんなものかますます興味深いな」
休憩時間でのやり取りの際に話の内容は聞いているがその内容が具体的にどのようなものなのかは予想ができない。
「当然よ。この一連の事件、ただの殺人事件じゃないのだから」
いの一番にベルティアの口から放たれた言葉は分かっていたものだとしても強烈に頭に深く残るものだった。
「ただの殺人事件ではない。そう言い切れるほどの根拠と理由があってのことだろ?」
「そうよ。まぁ口で説明するよりも直接実際に目で見てもらった方がいいでしょうね」
ベルティアはさっそうと自分の机の中からそこそこの分厚さのあるプリントを真っ白なファイルの中から取り出し、オレの近くにある机の上にポンと置いた。
「その資料を見れば今回の事件がただの突発的に起こった殺人じゃないってことの理由になるわ」
ベルティアから提示された資料を慎重に手に取り、その内容へと目を通していく。
その内容は、オレの想像していたものとは全く異なったものだった。
「こ、これは…………!」
その内容は、垣見内の本性、さらには石山成子の父親とみられる50代の男性が殺された写真と事件資料が書かれていた。
この資料をきっかけに、一度閉ざされた最初の殺人は新たなステージへと舞台を移していくことになる。




