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ベルティアから手渡された資料には驚くべき真実が書かれたものばかり。
正直、軽く読み通す程度では頭の情報整理がすぐに追いつかないレベルの量だった。
「これ、本当なのか?」
「嘘だったらわざわざこんな風にみんなにバレないような工作しないわよ。その資料は本物よ。正確には警察が残しておいた捜査資料と言った方が正しいでしょうけど」
書かれていた資料の内容。
それは殺された石山と垣見内に関する詳しい素性とそれに関連して起こった殺人事件についてだった。
事件が起きたのは今から二年前。
オレの人生の歯車を狂わせたあの事件が起きてから一年ほど経ったタイミングである。
その時のオレは九龍学園に入学し、そこから学園に生き残るための鍛錬等に励んでいた影響で当時の事件等に関する知識が父親の生きていた時に教えてくれた様々な事件の内容とは異なり、頭の外へと空っぽにしてなくなっていた。
入学前に簡単な現在の世界情勢等は一応頭に入れておいたものの直近3年の日本国内に起こった事件は正直ほとんど具体的な知識として残っていなかった。
話が逸れてしまったが事件の具体的な内容というのは株式会社セルラーンの取締役である石山昭吉郎が四月二十八日に何者かによって金属バットによって殺害された。
その時に見つかった死体の写真と石山昭吉郎の顔写真が同時に載せられていたがこの死体の写真の推察するに、無惨に何度も金属バットに殴られたとみられる凄惨なものだった。
さらに、もう石山という名前で察しがついている人がいるかもしれないが、この石山昭吉郎はついこの間殺された石山成子の実の父親だ。
そしてこの事件そのものは既に解決している。犯人の死亡によって。
その犯人というのが荒山光之助。
事件当時は二十三歳で不良グループ『龍の巣窟』のリーダーだった男。
具体的にどういう活動していたのかどうかはもう少し別の資料等で調べていかない限りはわからないが、それでもかなり警察にとってはめんどくさがられていたのは事実だったようだ。
ここまではまぁよくある話である。
問題はここからだ。
事件発生から一週間も過ぎない内に荒山が容疑者として浮上し、そこからほとんど日数が経たない間に殺人の容疑で逮捕される予定だった。
しかし、その荒山はとあるホテルで女子中学生と密会していたところ、無理やり女子中学生にわいせつ行為をしようとした結果、その女子生徒に突き飛ばされ、机の角に強く頭を撃ちその場で死亡した。
警察は女子中学生には非があったわけではなく、荒山が犯罪に手を差し伸べようとした結果で起きた事故として処理した。
これが一連の石山昭吉郎殺害事件の大まかな流れになるのだが、ここから一気に衝撃の事実が立て続けに書かれていた。
荒山の突然の死後、リーダーを失った『龍の巣窟』では跡取り争いが始まり、死人が出るほどかなりもめた結果、『龍の巣窟』のリーダーになったのがあの垣見内だった。
しかし、垣見内には死んだ荒山ほどのリーダーシップや勇敢さがあったわけではなく、その結果、垣見内がリーダーであることに不満を持つ人たちが続出したという。
その内紛の影響か『龍の巣窟』は荒山がリーダーだった時代の不良にとっては憧れの存在だった組織も力を大きく落とした。
身内の仲間の反発に垣見内は我慢を抑えきれず、仲間たちの声を黙らせるために九龍学園に入学し、生き残って再び戻ってくる自らの偉大さと凄さを反発する仲間たちに見せつけることでグループ内の統率力を上げようという狙いがあったと思われる。
その際、色々と調べていた最中に石山に関する話を知り、入学後に接触した。
であれば、垣見内が石山のことを弱者狩りという名目でしつこく狙っていたことの筋は通る。
ただ一つの疑問を除いては。
「なるほどな。確かにこの話が仮に本当だとすれば米沢やリネイクが言っていた垣見内が石山を殺す動機としての筋は通っている。動機も恐らく、自分が尊敬していた荒山を意図的でなかったとしても死なせた関係者という事実に変わりはないわけで。その石山を殺し、仲間のところへと情報を渡せば内紛状態の『龍の巣窟』に一時的にでも状態を落ち着かせることくらいは可能かもしれない。だが、オレは疑問があるよ」
オレの話を腕組みしながら静かに聞いていたベルティアがフッと笑みを浮かべると
「流石、察しがついているようね」
得意げな表情で語った。
ベルティアの察しがついているというところとオレの疑問は間違いなく一致しているということがこの時点で確信へと変わる。
「今の話が本当ならば、ベルティアが話すよりも先に米沢とリネイクがオレや朝比奈に話しておかないとおかしい。ましてや、垣見内が石山を殺す明確な動機になっているのにそれを一緒に協力して犯人を探していたオレたちに一切話さなかったのは明らかに不自然だ」
「そう。今の話をもし先生たちにそのまま話した上で証拠等を出せばほとんど問題なく垣見内を犯人として吊るし上げることは出来たでしょうね。実際に処刑されていたかどうかはともかくとして。でもそうしなかった。それはこの情報をあなたに教えなかったのは米沢とリネイクにとって、この情報が他人に知られることに何らかの不都合があったからよ」
この事件の本当の裏の真実が見えてきた。
最初はただの垣見内が血迷った結果に起こった事故的に起こった殺人だと思っていたものが、実は垣見内が石山に強い恨みを持っていたことによって起こった殺人。
ここまでは少し頭がいい人間がこの資料を見た上で推察すれば到達できるかもしれない。
問題はここからだ。
垣見内がなぜ石山を磔にするようにして殺害したのかという疑問や『龍の巣窟』問題で垣見内が石山を殺そうとする動機がある情報を米沢とリネイクがオレたちに話してこなかったのか。
その推測をしていると、ベルティアの口から驚くべき話を知ることになる。
「私も知ったのはついさっき高梨先生からなのだけど、垣見内は試験外に無許可で生徒を殺害したことによる校則違反によって処刑される予定だったけど処刑される直前に死体となって発見されたそうよ。最初は殺人として生徒達に3日間の調査権利を告示するべきだという声があったそうだけど、垣見内が石山さん殺害の無罪である根拠もほとんどなく、さらには特別模擬ではない殺人という校則違反した生徒に同情する必要もないという声が勝って見送られたそうよ」
「見送られた? 学校側がその結論を出したのか?」
垣見内が殺されたことは今朝の朝礼で知っていたがそういう経緯があったとは。
となれば、学校側としては日常生活で殺人を犯した生徒には同情も救済もする気はないという意思表示ということなのだろう。
普段の学校生活では殺人等の殺し合いを起こしてはいかないというある意味で力のない弱者に対する試験以外での多少の救済はあるものの、結局行き着くところは実力主義社会であることには変わりはない。同時に、学校の規則を違反してまで生き残ろうとする生徒には躊躇なく切り捨てられ、一切の同情もされないまま命を散らす事実にこの学園に生き残ることの厳しさをより一層突き付けられた。
さらに、ベルティアの口から新たに予想だにしだい事実が続けざまに告げられる。
「学校側の結論自体に異論があるわけじゃないわ。問題はその議論の場に米沢とリネイクがいたことよ」
「何だと? 米沢とリネイクが? 一体なぜ」
「詳しい理由は推測でしか語れないけど、恐らくは垣見内の処刑を決めた証拠を出してくれた米沢たちに簡単な事情聴取に近い最終確認的な意味合いでその場にいたんでしょうね。で、その結果が垣見内を殺した犯人探しは行う必要はないという結論に至った。私の勘が正しければこの結論を出させたのは米沢たちだと思ってるわ」
垣見内を石山殺しの犯人へと吊るし上げ、その上でオレ達が事の真相にたどり着くよりも先に垣見内を始末。その事実を学校側に伝わらせた上で垣見内殺しの犯人は行わないという意思表示をさせる。あえて向こうから接触してきたのも少しでもオレたちが真相にたどり着くことを妨害したかったという意図があってのこと。
これなら自分たちの計画通りに事を進めつつ、学校側に校則違反を犯した生徒には一切の同情も与えないという明確かつ強い意志を学校中に見せつけることもできる。
「ということは垣見内を殺したのは米沢かリネイクのどちらかということになるな」
「直接手を下したのかどうかまでは定かじゃないけど今回の一件に関与しているのは間違いないでしょうね。さてと。ここから先は直接本人の口から直接聞くしか方法は……」
ベルティアが突然何かを言いかけるのを止めたかと思えばいきなりオレの方へと素早く近づくと、そのままオレを押し倒した。
「お、おい…。いきなりなにするんだ!?」
「いいから伏せて!」
オレがベルティアの体を強引に離そうとした矢先、どこからともなく窓の外からものすごいスピードで剣が窓ガラスを豪快に割りながら、ベルティアのわずか上を通過し、そのまま教室の端へと突き刺さった。
直後、ベルティアは飛んできた剣の方へと視線を移すと視線の先に小さくではあるが白いローブをまとった謎の人物の姿。
謎の人物はそのまま何事もなかったかのようにその場から姿を消した。
「やっぱりね。これで確定したわ」
ベルティアの小さく呟いた言葉にはどこか殺気めいた雰囲気があった。




