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この学園に入学した時点で誰かが目の前で殺されることはある程度覚悟はしていた。
いや、むしろその覚悟を含んでいなければこんなところに足を踏み入れるなんてことはなかっただろう。
だが、いざ実際に目の前の死体を見て、受け入れきれない葛藤と現実が襲い掛かってくる。
「う、嘘だろ」
ほんの短く呟いた言葉は恐ろしいほどに弱く、絶望に浸食された犯罪者のようにその後に続く言葉が全くと言っていいほど出てこなかった。
「とりあえず学校側に伝えておくか」
未だに状況が飲み込めてはいないもののとりあえずは学校側、先生たちにこのことを伝えなければならないことだけは理解していた。。
何とか頭を冷静にし状況を整理する。
依然としてこの石山殺害は残された謎も多い。
今にして思えばわずかながらにも異変は感じていた。
事件前日、石山は珍しく体調不良で休んでいた。
さらに、オレはこの学園の秘密などを探るために毎日ではないが定期的にこの図書館に来ていたのだが、その際石山は必ずと言っていいほど図書館に来ては小説を読み漁っていた。しかし、それが二日前を最後に突如として来なくなった。
もしかすると、あのオレに助けてもらったお礼を言った後に何かあったのか。
それだけじゃない。石山に刺さった5本の剣が一体どこから持ってきたものなのか、そしてどうやって石山を殺し、そしてどのようにしてイエスキリストのように磔にしたのか。
ここら辺は警察なりが捜査をすれば問題ない話なのだが知っての通り、この学園には警察組織は政府によって基本的に直接干渉することは出来ないことになっている。
となれば、この事件の犯人を突き止めるのはこの学園にいる生徒のみ。
事件を解決したい場合はオレ自身が自分の手で解決する他ない。
そして、この学園のルールでは先生たちは万が一校内で生徒同士の殺し合いが発生したとしても一切の干渉は行わず、残った生徒達による証言や状況証拠によって最終的に誰を死刑にするかなどの判断を行うところのみ先生を含めた学校の判断に委ねることになっている。
その期限は三日。つまりはこの石山殺しの犯人を突き止めつつ、ある程度証拠を集めた上で先生たちの判断に身を任せるということになる。
まさに超有能弁護士が有罪率100%の裁判で被告人の無罪を勝ち取れるかどうかのレベルの高さだ。
だが極端な話、生徒同士で殺し合いが起きたとしても、必ずしも事件を解決しなければならないという強制もなかった。だからなのか、アナウンスがあった後、今後ろの出口付近を振り返っても誰も野次馬や見物人がほとんどいない……と思っていたのだがどうやらそうでもないらしい。
出口付近にある大きな図書館を支える柱に背をもたれかかっている男子生徒が一人。
「あ、バレた?」
わざとらしくこっそりと監視してました感を出しているがどう考えてもだいぶ前からここでオレの様子を監視していたに違いない。
「お前、いつからここに?」
「少なくとも、君が彼女の死体を発見した直後辺りかな。僕も普段、ここの図書館を色々と利用させてもらっているからね。それにしても、今日の朝は目覚まし代わりに図書館で一冊でも読むつもりだったけどさっきのアナウンスとこの様子じゃとてもそう言うわけにはいかないようだね」
ほんの目と鼻の先に残酷までに殺された石山の死体を目にしてもなお、全く視線がずれることなくまっすぐなまま大した動揺もない状態で話している。
まるで、自分はこの程度の死体を山のように散々見てきたから自然と目が慣れてしまっているかのような風格すらも感じさせる。
「お前、一体何者だ?」
「おっとこれは失礼。初めての人間には自らの名を名乗るのが儀礼だったね。僕の名前は米沢魁真。クラスは1―H組だよ」
「オレは鶴川龍城。で、早速名乗ってもらって悪いがお前はこいつを殺したのか?」
米沢に単刀直入のあまりに強すぎる火の玉ストレートな質問をぶつけた。
もし、米沢が石山殺しの犯人だったとしたらまず間違いなく自分の口から石山を殺しましたと言うことは100%ないと断言できる。
だが、そこは別に問題ではない。
むしろ、この質問をぶつけた上で米沢の顔、細かい仕草などを瞬時に見極めるために間違っていることは百も承知でこの質問をぶつけたのだ。
そしてその予想通り、米沢はフッと鼻で笑った後、若干オレを馬鹿にしたような目線ではっきりと告げた。
「そんなまさか。僕がこんな早々に女子高校生を殺すなんてゴミみたいな真似するわけじゃないですか。それに、もし僕が本当に人を殺すのなら、こんな雑な殺し方はしないよ。もっと丁寧でまるでこの世界からその人物がひっそりと姿を消したかのように殺すからね」
米沢の言葉に嘘はない。
それは顔と身体の細かい動きを見ればすぐにわかった。
米沢の言葉に突っ込みたいことは盛り沢山だが、ここはもう少し情報を集めてからの方がいいだろう。
それに、そうこうしている間に学校の始まりを告げるチャイムが学校中に鳴り響いていた。
米沢はチャイムの音が鳴り終わると同時にあっさりと後ろへと振り返り、そのままオレに背を向けたまま伝言を残すかのように口を開いた。
「おや。どうやら呑気にここで時間をかけるわけにもいかないようだね。だから君に端的に一つ提案を用意しておいた」
「提案?」
ほぼ初対面で出会っていきなりオレに交渉事か。
なんで自分なのか、全く情報もまともにないはずなのに交渉をしようとする理由もわからなかった。
そんな率直な疑問を全く無視した米沢の交渉とは予想を反するものだった。
「そう。今回の事件は君たち1―T組関連の殺人事件だろう? その事件の犯人探しを僕たちと一緒に協力しないか? そっちが欲しいと感じた情報はすぐに提供するからさ」
米沢の提案とはまさかの石山殺害の事件解決を一緒に協力しないかというもの。
正直、これがブラフで実はオレを嵌めようという罠の可能性だってゼロではない。しかも、こっちからではなく、向こうから提案してきたものなのだから警戒しない方がおかしい。
この学園では殺されていた石山のように余ほどの実力を持っていない限り、騙され、実力なき者が食われる世界なのだから。
それでも、オレの父親が明かしきれなかったこの学園を含めた巨大な黒き謎を明かすには多少のリスクは覚悟の上で今は少しでも小さな情報でもいいから地道に集める他はない。
交渉に乗ることによるリスクを米沢の動きや状況の変化に応じてケアしつつ、隙があればうまく相手の情報も引き出す。
最初からいきなりの難関ミッションだが、オレならできる。
そのための努力は家族を殺された時からずっと続けていたのだから。
「お前の素性はわからないが今回の一件、オレにもそれ相応のメリットがありそうだから特別に乗ってやる。ただし、嘘の情報を流せばその瞬間に協力関係は断絶だからな」
「出会って早々僕のことを疑いすぎだな~。僕はそんな自分から信用を下げることはしないって。それに、僕はちゃんとリターンがあると思ったことにはちゃんと仕事はする性格でね」
米沢の態度、本当にしっかり見ても全く真の思惑が見えない。
これは敵としては戦いたくないタイプだ。
「リターンだと?」
「そう。でも、これ以上のことは今話せなね。それじゃあ、僕はそろそろ行くから今日の授業の放課後からよろしくね。僕はいつも1―H組にいるから」
米沢はそのまま手を振りながら余裕の笑い声と共にその場から去って行った。
こうして、学園に入って最初の調査が始まっていくことになる。




