13-2
さてと。話を現在に戻す。
リリアナを瀕死に近い重症を負わせた今、もはやまともに反逆することも最後まで抗う力も残されてはいないだろう。
ここで無慈悲にリリアナの人生を終わらせることも出来るが、オレは人を殺したいという雑な理由でこの学園に入学した訳ではない。
まずはリリアナの口から聞けること聞き出す。
「勝負はオレが勝った。早速だが色々と聞かせてもらうぞ。もちろん、黙秘を貫いたら死なない程度にさらに痛めさせてやる」
まるでヤクザのような脅し口だが相手が世界を震え上がらせた殺人鬼なのでこの程度の脅しをしても問題はないだろう。
オレの要求にリリアナは頭を中心におびただしい量の出血を出しながらも、意識をもうろうとさせながら口を開く。
「勝負を要求したのは私自身。その勝負に負けてもなお、負け惜しみするほど私は落ちぶれていない。私が言える範囲のことであれば答えよう」
さっきまでの威勢のいい声とは程遠い、所々で言葉が途切れながらもはっきりと告げた。
こういうところはある意味潔い。
だからこそ、オレにとっては無駄に手を汚す必要性がなくなるのはありがたい話なのだが。
「順番に行こう。まず、お前はどうやって垣見内と石山が対立関係であることを知った? あの情報は表向き世間では公表されるどころかネットにすらほとんどなかったはずの警察関係者しか知らない情報だ。誰がその情報をお前に渡したんだ?」
まずは死神の目からは少し離れた内容から。
リリアナが垣見内に石山を殺した犯人として吊るし上げたわけだが、そのように立ち回った裏には垣見内と石山の関係を知る何かを知っていたからこそ、計画を立てた可能性もある。
最初の質問に対し、リリアナはさっきと変わらない様子で話し始めた。
「あなたもその情報を知っていたとはね。まぁ別に隠すようなことでもないから話すけど、私の依頼主からその情報を渡された。私に殺人を依頼してきたのは垣見内ね」
なるほどな。
そう言う方法で来たか。
オレはリリアナの顔面スレスレに向かって引き金を引いた。銃弾はリリアナの血で濡れていた赤い頬に掠った。
「いくら黙るなとは言っていても、嘘をついてまで何かを話せとは言っていない。今回は情けで一発外してやったが次はないぞ」
強い警告が聞いたのかリリアナは残念そうな表情と共にため息を大きく吐く。
「流石にこの程度の嘘では騙せないか。私がその情報を手に入れたのはとある警察関係者から。垣見内が以前から不良グループにいたってことは知っていたからKPTを対価にそれに関連する事件の資料をまとめたものを渡してもらった。その資料に垣見内の尊敬していたリーダーが当時女子中学生だった石山を襲おうとした結果、頭を打って死亡したって事件を見つけた。私は垣見内が石山に強い恨みを持っていると考え、無能力者であることを事前にチェックした後、彼にこう囁いたの。
『あなたが強い恨みを持っている人間を殺すことに手を貸ししてあげる。さらに、協力してくれたらこの神の種の成分の入った注射をあなたに刺してあげる』
てね」
なるほどな。
垣見内にとっては自分を陰で笑っていた奴らに仕返しがしたい。それも神の種さえ手に入れば誰も笑わなくなるし、さらには崩壊している『龍の巣窟』を復活させることも出来る。
リリアナはその情報と現状を利用して、垣見内に神の種と復讐殺人の協力を自ら名乗り上げたわけか。
「そしたら一切の間髪も入れることなく即答でイエスだって。バカだよね。まさか自分が利用されて殺されると思わずにホイホイと知らない人間の提案を何の疑問もなく受け入れるなんて。所詮人間はその程度の誘惑に惑わされてしまう生物ということなのね」
あまりにも人間に価値など存在しないと言わんばかりの言い方。
もはや、最初に出会ったから頃の清楚で真面目そうなイメージは全くない。
むしろ、こいつに理不尽に殺された人たちの無念を考えれば怒りが沸かない理由がなかった。
それでも、この学園で感情的に行動することは死を意味していると理解していたので、ここはうまく頭に血が上らないように平常心を保ち続けた。
「そうか。じゃあ質問を変えよう。まずお前が『死神の目』の関係者であることはもう把握済みだ。それを承知で聞くがお前も含めた『死神の目』がオレの両親、そしてホワイトエンド事件を引き起こしたのか?」
いよいよ本題へと切り込んでいく。
遠回しや回りくどい言い方を捨てて、単刀直入で直接聞いた。
最初に垣見内の事件のことを聞いたのはリリアナが自供した時にどれくらい本当のことを言うのかを事前に確認するために聞いただけに過ぎない。
オレが聞きたい事を自分の耳ではっきりと聞き取ったリリアナは初めてと言っていい苦笑いを浮かべた。
「なるほどね~。どうやら評判は本当、いやそれ以上だったわけか」
「評判? 何の話だ」
「あぁ~。ごめんごめん。こっちの話だから気にしないで。えーと、君の言っていた二つの事件についてだよね? 残念だけど私がいくら『死神の目』のメンバーの一人だったとしても自分が関与していない事件に関してはあまり詳しくないんだよね。ただ、君の両親の方はともかく、もう一つのホワイトエンド事件は確か『死神の目』の誰かが実行犯だって小耳に挟んだことがある程度かな」
さすがにオレの家族に関する情報はなかったが、ひとまずはホワイトエンド事件に関する情報からか。
ホワイトエンド事件はベルティア自身が犯行は『死神の目』によるものと言っていたがやはり間違いじゃなかったのか。
問題は誰が実行したかということだが。
「それで? 誰がホワイトエンド事件を実行したんだ?」
「だ~か~ら。私がその事件に関与してないから誰がやったのかなんて知ってるわけないじゃん。多分、上位幹部の誰かなんじゃない? 知らないけど。まぁでも、私たちが動くときは決まってどこかの組織なり個人なりが依頼してきた時とだけとは言っておくね」
「上位幹部か。で、要するに、自分の意思で殺しに向かうことはないってことか?」
オレの返答にリリアナはしばらく無言になる。
もし仮にリリアナの言うことが本当だとすれば、ホワイトエンド事件はベルティアの言う通り犯行を実行したのは『死神の目』で確定だろう。
しかしこれは、実行犯が死神の目関係者であるということだけであって、ホワイトエンド事件を計画した人物は別にいるということになる。
リリアナ自身も垣見内殺害はとある人物の依頼だと言っていた通り、『死神の目』のメンバーは雇われの殺し屋という自覚があるのかもしれない。
そんな推測を頭の中で構想していると、今度はリリアナの方からいつ意識を失ってもおかしくない状態で話しかけてきた。
「そろそろ潮時かな」
「ん? 何を言っている?」
リリアナの突然の呟きにオレは何を言っているのか瞬時に理解できなかった。
しかし、リリアナはさっきまでの死にそうな話し方から一変して、残された最後の力を振り絞って声を上げた。
「君が、どういう目的で私たちに干渉してきたのかはわからないけどいくつか言っておきたいことがあるの。それは、『死神の目』をどこまで追っても私たちは所詮、殺しを請け負う道具。どれだけ真相を迫ろうとも私たちはトカゲのしっぽ切りにしかならない。この世界は、あなたが思っている以上に黒く、嘘で汚れ尽くされている。この学園もそう。特別模擬も所詮は学生同士の殺し合いの事実を世間から批判されることを隠すために作られたものでしかないし、その裏の真実を追うことを決めた人間は紛れもなく消されてきた。しかも表向きの校則は建前でしかなく、裏校則が実質、この学園のルールの全てであるという事実に世界中の人々はほとんど知らない。そしてその人間たちが作り上げた黒い負の遺産を今、新しくできる神によって全ては無となり、世界に人類が残した足跡は何も残らなくなる」
何か頭のねじが外れたのかと疑うほどの気が狂ったいい口。
やはり死神の目はただ依頼主から殺しを依頼されるために作られた組織だけではない。
「何が言いたい?」
オレの口調がさらに一段階強くなる。
同時にひたたり落ちる小さな汗は焦りが混じっていたものだった。
オレとは対照的にリリアナの方は不敵な笑みを抑えきれない心の憶測で嘲笑っているような表情で最後の言葉を投げかける。
「いずれ人類は否定され、この世界から存在されないものとなる。そして、その人類に変わり、新たな神が人類の代わりを担って新たな時代を創るのよ。その瞬間、人類は前時代の生物となり、新たな人類に成り代わった神によって世界は人類の歴史を一掃し、新たな時代を創り上げるの!」
その直後、リリアナは頭を何者かによってスナイパーライフルで撃ち抜かれた。
リリアナは最後に意味あり気な言葉を残して、息絶えた。
最後に残した彼女の言葉をオレは全く理解できなかった。
こうして新たな謎を残したまま、学園で起きた一連の事件は幕を閉じた。




