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リネイク、いやリリアナの明かされた事実に本人がいなくなった現場を残してもなお謎として残っていた。
その後も美神と垣見内の死体に見守られる中、色々と辺りを捜索してみたものの目立った手掛かりはなく、時刻は既に夜を過ぎていたこともあり、今日のところは美神の死と犯人がリネイクで、その本当の名はリリアナという名であったことをベルティアたちに伝えることを決めると美神たちの死体を背に現場を去って行った。
武器倉庫部屋から出た直後、自分の部屋に戻ってメールで簡単な報告をした後、後日、改めて具体的な話をしようと決めていた時だった。
自分の寮の部屋へと重い足を動かしていると、どれだけ待っても来なかったオレのことを心配しに来てくれたのかベルティアと村上が寮の門前に待ち構えていた。
「遅かったわね。随分と時間がかかっていたみたいだけど大丈夫だったの?」
どことなく冷たい言い方だったもののこれは彼女なりの心配の仕方なのだろう。
とりあえず、武器倉庫で起こったことも含め、具体的な一連の出来事を話すことにした。
「簡単に結論を言えば、犯人は予想通りリネイクだった。そして美神は石山と同じように殺されてた。その近くには行方が分からなくなっていた垣見内の死体もあった。詳しい内容は後日また伝えるつもりだから、今日のところは少し休ませてくれ」
少し投げやりの言い方だが、今のオレには頭をフル回転させながらベルティアたちと今後について話す気力が残っていなかった。あんな惨殺死体を立て続けに見せられると精神的に多少の異常をきたすのは仕方のないことではあった。
それを察してくれたベルティアは何か文句を言うわけでもなく、淡々とした様子で言葉を流す。
「そう。ならそれ以上は後日話するとして、今日のところは帰りましょ。コードネームミケさん」
「いきなりその名前で呼ぶのかよ。まぁいいけどよ。お前、明日にはちゃんと話せよ」
ベルティアと村上はリネイクに関する具体的な話に何も質問をすることなく去って行った。
その後、自分の寮の部屋に戻ったオレは簡単に夕食を済ませた後、お風呂の湯船に浸ることにした。
そのシャワーを浴びていた最中、自分らしくもなく拳を小さなお風呂の壁に強く打ち付けた。
「また一人……。救えなかった」
その言葉と同時に流れ続けるシャワーのお湯が温かさ冷たさを保ったまま静かに流れていった。
そして次の日。
美神の死の衝撃が残ったまま、いつも通りに身支度と朝食を済ませ、教室へと向かう。
教室に着くと、そこには既に朝比奈やベルティアの姿。
とはいえこの日は祝日ということもあり、教室には朝比奈とベルティア以外に姿は誰もいない静寂に近い状態だった。
先に来ていた朝比奈はオレの姿を見た瞬間、一目散に自分の方へと駆けつける。
「鶴川君! 昨日は色々と大丈夫だった? 後、そ、その、美神さんの件は残念だったね……。ごめんね。私が油断したばかりに」
朝比奈は自分のミスで美神を助けられなかったという後悔を口にしながら頭を下げる。
朝比奈の珍しく落ち込んだ姿に、オレは軽く朝比奈の頭を優しくポンポンと叩きながら励ましの言葉を投げかける。
「お前が責任を感じる必要はない。むしろ朝比奈が足の負傷だけで済んで美神のように凄惨に殺されなかっただけでもマシだったと前向きにとらえよう。その足のケガの具合はどうだ?」
励ましの言葉をかけられた朝比奈は頬を赤く染め、照れながら右手で髪をクルクルと回し始めた。
「あ、ありがとう……。あ、私のケガは大丈夫だよ。あの後、ちゃんと治療したから」
いつもの元気な声とは一味違う、小さな照れ声は本当に言葉で表せられないほどの可愛さ。
この表情を見せつけられると、自クラスだけでなく他クラスからも人気が集まっているのも納得がいく。
朝比奈は時折、心配されたくないという理由表面上気丈に振舞うことによって自分の本音や体の状態を隠そうとする癖があるので、念のため朝比奈の両足を確認して見てみるが彼女の言う通り、傷はきれいさっぱりなくなっている。
昨日見た時は一日で治るほどのケガではなかったはずだが、恐らく自分の力で怪我を治療したのだろうがどうやって治したのか想像もつかない。
そんなやり取りに割って入るようにベルティアが中へと割って入った。
「イチャイチャ遊びごっこはその辺にして、早く始めるわよ」
「イチャイチャしてないもん!」
ベルティアの厳しい一言に朝比奈は頬を膨らませて言い返す。
別にこっちはイチャイチャしてた自覚はないのだがベルティアにはそう見えていたのだろう。
そんなことをしていると、教室のドアが開き、遅れて村上が姿を見せた。
「ちょっと! いつまで待たせてるのよ、ミケ」
「だーかーら。毎回毎回F組の目を掻い潜りながら怪しまれないようにここまで来るのに苦労してるって言ってるだろ。ちょっとは察してくれよな」
まぁ村上の言う通り、今のF組の現状を考えればかなり神経を使いながら動かなければならないのは仕方がない。
「ねぇベルティアさん。ミケって村上君の事を言っているんだろうけどどういう意味なの?」
「ミケの意味? 名前に対する意味なんてほとんどないわ。わざわざ本名ではなく違う名前にしているのは敵に誰のことかすぐに気づかれないようにするためよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
ベルティアはミケという名前に意味はないと言っていたが、おそらくは村上の苗字と名前の頭文字を取ってそのままミケと付けたのだろう。少し安直な気もするがミケが村上であるとすぐに気づく人は流石にいないだろう。
「そっか。教えてくれてありがとう」
朝比奈はベルティアに小さく会釈する。
こういう教えてもらったらすぐに相手に感謝の気持ちを示すところは朝比奈の人柄の良さを表している。
「そんな話はおいておいて、そろそろ始めましょうか。まず、犯人がE組のリネイクで確定。そして美神さんはそのリネイクによって殺された。ここまでが昨日鶴川君が証言してくれたところね」
そうだ。
今回の話の本題は犯人がリネイクであると確定し、美神が殺された上で今後どう動いていくかという話だ。
「まずは昨日の話の具体的な内容を詳しく聞かせてもらえないかしら? 話の展開はそこからよ」
ベルティアが話を振って来たタイミングでオレの方も一息ついた後に言葉を話し始める。
「まず、美神は最初の石山と同じように剣の磔で殺されていた。さらに、その近くには垣見内の死体も同じように設置されていた。殺された方も美神と一緒だったから多分、口封じで始末されたんだろう」
美神の死と同時に告げられる垣見内の死体発見もまた朝比奈たちに衝撃を与える。
だがこれは正直、あまり重要ではない。
「いいわ。話を続けて」
ベルティアに促されるようにオレは続けて話を進めていく。
「本題はここからだ。犯人がリネイクだって言うのは昨日も言ったが実は去り際にリネイクの方からあることを告げられてな。自分がリネイク・エード・ラライナではなく、本当の名前はラニエク・ソード・リリアナであることを明かした。これ以外の情報は死神の目に関する情報も含めて皆無だった」
今度は美神の死を告げた直後とは違った衝撃がオレ以外の3人に走る。
とはいえ、肝心の死神の目に関する情報はほとんど得られなかったのは残念な気持ちの方が大きい。
ここで村上、いやここではミケと言った方がいいか。
ミケの方から率直な疑問を呟く。
「率直に思ったんだがよ、今の話を本当だとすると学校側はなんでリリアナではなくリネイクの方の名前で正式公開しているんだ? 名前の偽装なんてしたら学園は入学なんて許さないと思うが」
「た、確かに。リリアナさんはなんでわざわざ偽名を使ったのかな」
村上の素直な疑問に朝比奈も頷きながら同じ考えを口にする。
その疑問はベルティアによって予想外の可能性へと傾いていくことになる。
「それなら問題ないわ。先生のうちの誰かがリリアナ側と裏で繋がった上でなら、名前を偽っての入学も可能よ。まぁ、本名まで完璧に隠しきるのは不可能でしょうから先生に直接聞けば本名が聞けるようにしているのかもしれないけど」
ベルティアの考えは、根拠もない憶測だ。
だとしても、本当に偽名だった以上はその可能性は捨てきれないのも事実。
これはいずれ学園に関する謎を探っていく上で重要な手掛かりになりそうだ。
「それを分かった上で言う。オレはラニエク・ソード・リリアナが行ってきた殺害方法を見て思い出したことがある。それはあいつが『剣に囚われた死神』と犯行の手口が一致していることだ」
リネイクは偽名で本当の名前はリリアナ。そしてリリアナは世界を揺るがしている殺人鬼である『剣に囚われた死神』だったということ。
しかし、この事実を知らせてもなお、意外にも村上も朝比奈もキョトンとしている。
もしかして二人はそもそも『剣に囚われた死神』に関する事件を知らないのか。
「なるほどね。今思い返してみれば確かに殺害方法は似ていた気がするわね。だとすれば彼女が誰かの命令で動いていてもおかしくはないわね」
あまり話を理解していない二人とは対照的にベルティアは何かを察した様子。
「ベルティアはラニエクがどうしてあそこまでの殺人鬼に変貌したのかまでは知っているのか?」
ラニエクという苗字を語り、最後に意味ありげな言葉を残していったのも、何かをこちらに察しさせたい狙いでもあるのか。
「残念だけど詳しい内容までは分からないわ」
「そうか。まぁラニエクに関しては後で調べればいいだろう。この際、聞いている様子を見るに理解していなかった朝比奈もミケも一緒に協力して調べてほしい」
朝比奈とミケはオレの要求に首を縦に振りながらも理由を尋ねる。
「一応聞いておきたいんだけど私たちがラニエク? に関して調べている間、鶴川君は何するの? 一緒に調べずに違うことするの?」
「オレは明日、ラニエク・ソード・リリアナとの決着をオレ一人で付けに行く」
これは既に相手の方から挑戦状を突き付けられた時点で自分の心の中で決めていたこと。
美神たちの敵討ちという理由ではなく、一方でベルティアから犯人探しはあなたが倒してほしいという約束を守るという理由もあるが実際は少し違う。
ただ単純に父親のような正義の警察官としての背中を背負って悪を撃つという目的のために戦う。
謎解明のためにリリアナの口から色々と情報を聞き出すことももちろん重要だが、それ以上に理不尽にラニエクによって殺された人たちの悲劇はここで終わらせなければならない。
「やっぱり。そう言うと思ったわ。どうせ私からあれこれ口を出しても変わらないでしょうし、明日は一人で行きなさい。私は今日明日とで朝比奈さんたちと一緒に図書館でラニエクに関する情報を探っておくわ。万が一、ある程度情報の整理がつけばそっちに合流するから」
ベルティアは自分から犯人を捕まえることを命令したこともあって強く反対をする様子もなく、いつもと変わらずにクールに話す。
「ま、まぁお前ならあんなイカレ女に勝てるだけの実力はあるだろう。負けたらお前の顔面ぶん殴ってやるからな」
「私も本当は協力したいけど、今はまだ足のこともあるし、鶴川君のことを信じるよ! だから、絶対に死なないでね!」
ミケはともかく、朝比奈の励ましは人のモチベーションを何倍にも高めてくれる。
意外だったのは誰もオレが一人で戦おうとすることに反論してこなかったことだ。
単純にオレの覚悟を見ては空気読み的な形で配慮してくれたのか、それとも単純に一緒に行きたくてもいけない事情があるのか。
本心は自分のみぞ知る状態だが、今はこれでいい。
「それじゃあ今日のところはここで解散にしましょう。明日からは私たちだけで各自情報を集めるなりして行動してほしい。後、鶴川君。大丈夫でしょうけどあまり無茶はしないでよね」
「わかってるよ。今はオレを信じてくれればそれでいい」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、ベルティアさん! 鶴川君ならきっと大丈夫!」
「そう。なら安心しておくわ」
朝比奈の言葉を信頼しているのからなのか、ベルティアの表情が少し和らいだ。
ミケもまだまだ日は浅くても、反発する様子もなくある程度このグループに馴染みつつあった。
そしてベルティアが解散を告げ、オレたちはそれぞれ行くべきところへと散って行った。




