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オレは全速力で階段を駆け下り、リネイクが姿を消した三階へとたどり着いた。
「朝比奈の話いわく三階で降りたって言っていたが、教室の外の窓を見た感じはどこにもリネイクも美神の姿は見当たらないが」
少し息を整えながら教室の一つ一つをくまなく探していくがやはりどこにも姿は見当たらない。
視点を変えて窓の外から脱出したのかという可能性を踏んで、辺りをもう一度見渡す。
すると、長い廊下の一番奥にある窓ガラスがかなり乱雑に割られているのが目に飛び込んできた。
すぐに駆け寄ると、窓ガラスの破片が外にも散らばっており、リネイク自身が個々から飛び降りて一気に下まで降りたのだろう。
時間もないのでオレの方も割られた窓ガラスから途中途中でうまく足場を利用しながら最短ルートで駆け降りる。
一番下へとたどり着いた瞬間、パリンッというガラスを踏んだ音。
視線を下へと移すと、割れたガラスの破片が辺りに散らばっているのが靴越しにわかる。
同時に少しではあるが少量の血も辺りに散らばっている。
この血は言うまでもなく美神のだろう。
しかもわざと残したものなのか、あるいは証拠隠滅をしきれなかったのか血が道しるべとなって先へと続いている。
もちろん罠であるという可能性もあるが、これ以外に目立った手掛かりもなく、聞き込みをしていても時間がかかるだけなのでここは一か八か残った血痕を辿りながら足早に走っていく。
すると、血痕は石山を殺害した際に使われた剣が置いてあった武器倉庫部屋にたどり着いた。前にたどり着いた時にも思ったがここは本当に暗い。
明かりらしい明かりもなく、夜になれば真っ暗な上に奇襲を仕掛けられれば相手の顔すらも見られることなく殺せそうだ。
血痕の方もここを最後に途切れていたが相変わらず、美神もリネイクの姿も見当たらない。
どこか隠し部屋らしきものがあるのかと血痕が途切れた辺りを散策していると、他の地面よりも不自然にきれいにされているタイル部分を見つける。
「他のタイルと違ってここだけきれいにされているな」
おそるおそると、そのタイルをゆっくりと上げようとするとそこには全く知らない隠し通路が出てきた。
「おいおい。この学園、こんなものまで用意してるのか」
まさかの推測にあたっていたことに驚きを隠せないが今はそんな感情に浸ることなく、そのまま暗い隠し階段を下っていく。
5分程階段を降り切った先には待ち受けていたのは、さっきの武器倉庫では見たことない武器がずらりと並んでいた地下部屋。
どの武器も表社会では絶対に流通しない貴重な武器ばかりが並べられており、石山殺害に使われた剣も数本並ばれている。
そしてそんな驚きを一瞬で吹き飛ばすほどの光景が目の前に広がっていた。
声すらもまともに出せなくなるほどの残虐な光景。
そこには石山と同じように剣の磔にされた美神、そして殺されたと告げられて以降死体すらも行方不明になっていた垣見内の姿だった。
ここに来るまでの道中で、連れ去られたはずの美神の悲鳴がほとんどと言っていいほど聞こえてこなかった時点で何となく心の中で覚悟はしていたが実際に殺された姿を見ると、中々に気持ちに堪えるものがある。
一応、辺りを確認してみたがリネイクの姿はどこにも見当たらない。
仕方なく、ここはリネイクに関する情報の手がかりを探るべく美神の死体付近に近づこうとしたその直後、自分以外誰もいないはずの武器地下倉庫部屋から突如としてナイフがオレの顔へと凄いスピードで飛んできた。
直前に察知し、反射神経の良さでうまくナイフによる攻撃を回避したが、少し気付くのが遅くなっていれば致命傷になりかねなかった。
すぐに視線を美神の死体からナイフの飛んできた方へと移し替える。
そこには血まみれのナイフを下で丁寧になめながらゆっくりと近づいてくるリネイクの姿。
既にわかってはいたがこのタイミングでわざわざ自分から姿を現したのは垣見内と美神を殺したのは自分だということを認めたに等しい。
その証拠に、リネイクの表情が明らかに動揺という感情からはかけ離れた喜びの表情を映していた。
「やはりお前か。リネイク。一連の事件、お前がやったんだな?」
この際、遠まわしに聞く必要もないと単刀直入に聞いた。
リネイクは初めて会った時に見せた笑顔とは違う、不気味な笑みでナイフをクルクルと回しながら答える。
「ここまでたどり着けたのは流石ね。正直、数カ月程度ではわからないように細工はしたつもりだったけどあなたたちの捜査力が想像以上に上だったね」
「人を何人もこんな残虐な殺し方をしておいてよく笑顔でいられるな。その殺し方を見るに、人を殺したのはこの学園に入ってから初めてじゃないだろ?」
最初の石山、そして残りの二人の殺人。
最初の一件のみで手口が似ているというだけで断定したくなかったのであえて言及はしてこなかったが被害者が剣の磔のようにして残虐に殺害されるという事件が起こったのは実はこの学園に入ってから初めて起こったわけじゃない。
最初に起こったのは今から十年前。
アメリカのワシントン州で当時、世界的ハリウッドスターだったクラッド・デビットソン(当時三十九歳)が自宅で体中に何十本もの剣が突き刺さった剣の磔の状態で死体となって発見された。最初は不倫関係にあった女性とのトラブルが原因と見られていたが、女性のアリバイが立証されると事件はたちまち迷宮入りした。
そして犯人が見つからないまま三年が経ったある日。
今度は若手ながら当時俳優として絶大な人気を誇っていた美神祐輔(当時十六歳)が同じような殺され方で死体となって発見された。
オレも当時はまだ父親に色々と事件に関する話を聞いていなかったので、それぞれの詳しい事件の内容を把握しているわけじゃない。
それでもその事件があまりにも鮮烈だったことは確かだった。
その後、日本とアメリカの警察による共同捜査が行われても犯人が捕まるどころかまともな手掛かりもつかめなかった。
そしてまるでその苦戦する様子をあざ笑うかのように次々と有名俳優、女優たちが同じように剣の磔にされて殺されていった。
そのあまりの残虐な殺し方から一部のファンの中ではこう呼ばれるようになった。
『剣に囚われた死神』と。
「まさか世界中に恐れられた『剣に囚われた死神』の正体がお前だったとはな。だから人を殺しても肝が据わっているわけだ」
「全くひどいあだ名よね。私のやっていることは人が殺されることで生み出される作品を表現している芸術家の一人なのに。まぁでも、死神として世間から恐れられているのは私にとってはとても名誉なことだよ」
リネイクの自分の理想のために人を殺すことは仕方のないことだと言わんばかりの思考には怒りが増幅させない方がおかしかった。
だが、ここで相手の口に乗ったところで美神やこいつによって殺された人たちが生き返るわけでもない。ここは我慢し、相手の情報を探る事が先決である。
「その芸術の答えが、剣の磔というわけか」
「いいえ。まだあれは私にとっての完成という名の回答じゃない。だからまだまだ私の殺人は止まらないし、辞める気もない。けど、あなたは今まで殺してきた他の作品たちとは違いそうね」
リネイクの言葉の一つ一つを真剣に聞き入れるだけで思わず吐き気が出そうになるとんでもない思考。
人は真っ当に見た目だけで判断してはいけないというわかりやすい例だ。
その穏やかで真面目そうな見た目からは想像もつかないほどの殺人鬼的思考にはオレの身体が思わず本能的に恐怖を察知するほどだった。
対照的にリネイクの方は全くと言っていいほどそのような感情や雰囲気もなく、むしろオレに対する興味津々な様子がひしひしと伝わってくる。
「それにね。あなたは私のまだ本当の全てを知らない。それを理解もせずに殺人鬼というレッテルを張るのは殺されたバカたちがすること。今回は特別に一つだけ真実を教えてあげるね。私の名前はリネイク・エード・ラライナじゃないの。本当の名前はラニエク・ソード・リリアナ。それこそが私の本当の名前だよ」
リネイクから告げられた真実は衝撃そのものだった。
正直、死神の目関連でずっと情報を追い続けてきたのでリネイクに関する情報は表面上のものしか知らなかった。
だが、ここに来て明かされる彼女の話はにわかには信じがたい話である。
「それじゃあ、私の今日の仕事は果たしたからこれで。あ、そうそう。私の本名を知った上でそれでもなお、私たちのやったことを許容できないって言うなら……明後日の夕方、ちょうどゴールデンウイーク真っ只中の祝日にこの学校で一番デカい武器倉庫部屋が第1体育館近くにあるからそこで勝負しようよ。もちろん、特別模擬とか学校側が仕方なく作ったものじゃない本当の殺し合いをね。まぁ勝負を受けるかどうかはあなた次第だけどね」
リリアナはそれだけを言い残し、その場から姿を消すように去って行った。
一人残されたオレはリリアナの言葉を頭の中で巡らせていた。
「ラニエク……どこかで聞いた名前だが一体どこで聞いたことがあるような」
独り言のように呟いた謎は結局、今日のところ晴れることはなかった。
それでも、少しずつではあるが事件の糸口は見つかりつつあった。
美神の死、そしてリリアナの口から死神の目に関する話が聞けなかったのは残念だが全てが完璧にうまくいくほどこの学園は甘くないことくらいは重々承知である。
例え、本当に探している真実からかけ離れたものだとしてもオレはただ前に進み続けるしかないのだ。




