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そして時は同時刻。
殺意の眼差しで睨みつける美神とは対照的にリネイクの方はどこか喜びであふれているかのような表情で姿を現す。
「こんな短期間で私を犯人と特定できるなんてさすがだね。誰が特定したの? 鶴川君? 朝比奈さん? それともはたまた別の誰かさん?」
リネイクの質問に美神は今もなお走ってくる激痛にこらえながらも、はっきりと歯ぎしりに答える。
「い、言いません! あなたみたいなサイコパス殺人鬼に!」
美神の強い言葉とほとんど時間を置くことなく、美神の両腕にリネイクの持っていたナイフが驚異的なスピードで突き刺さった。
「うぐっ! あぁぁぁぁぁぁ!」
さすがの美神も耐え続けきた激痛に追い打ちをかけるようなナイフの追撃は悲鳴を上げらせるには十分だった。
涙目になりつつある美神とは対照的にリネイクは悲鳴を上げる美神の顔をどこかうれしそうに眺めていた。
「いいね~その悲鳴。やっぱり人間は絶望の悲鳴を上げてこそだね。まぁ誰が私を犯人として突き止めたことはこの際どうでもいいし」
リネイクは武器倉庫部屋のナイフなどをいろいろと払しょくしながら、自らの能力でまるで操り人形のように刃物を自分の周りに次々と空中浮遊させていく。
その様子を見ていた美神の目が自分の追っていた犯人だという確信にかわる。
「そ、その能力……。や、やっぱりあなただったんですね! 当時国民的俳優だった私の兄、雄輔を殺したのは!」
美神の脳裏には幼き自分と恐ろしいまでに残酷な殺され方をした兄の死体。
今から7年前。
美神が当時まだ小学生だった時の出来事だった。
当時、美神には七歳年上とかなり年の離れた兄雄輔と両親の4人家族で過ごしていた。この時、兄雄輔は若干十六歳でありながら秘められた俳優としての才能をいかんなく発揮し、デビューからわずか三か月ほどで数々の有名作品に出演し一躍テレビやネットでは見かけない日々はないほどだった。
そのおかげもあってか美神家はほとんど不自由のない幸せな日々を送っていた。
しかし、そんな裕福で最高に幸せな日々も決して長く続くことはなかった。
雄輔が俳優としてデビューして半年が経とうとしたある日、彼は突如として表舞台から姿を消した。
そして日をほとんど開けることなく、雄輔は十本の剣が体中に突き刺さった十字架にかけられた姿で死体となって発見された。
この衝撃的な出来事を境に、美神家は裕福から一転して家庭環境が崩壊していくことになる。
雄輔の突然の死亡にショックを隠し切れなかった両親はそのまま私を残して二人共ども首つりで自殺した。
その日以来、美神は自分の家族を奪った犯人を見つけるべく、この学園に入学してきた。
その間に雄輔殺害の犯人に関する情報を集めていたとともに、両親と雄輔が俳優として稼いで残していたお金を利用して自らの腕に神の種を含んだ注射器を刺した。
そして今日、美神にとっては念願の家族を奪った元凶ともいえる人物が目の前にいる。
「国民的俳優? あー、そういえばいたね。そんなの。ごめんね~。私、あまりに人を殺しすぎて殺した人間のことなんてあんまり覚えてないの」
「私は、私はずっとあなたをこの手で殺すと心に誓ってこの学園に入学してきた。あ、あなただけは絶対に私が死んででも地獄に送って見せる!」
これまでの人見知りで誰とも話したがらなかった美神から別人へと移り変わったかと目を疑ってしまうような豹変ぶり。
彼女の本性は特定の敵を殺すために生み出された憎しみのロボットとそう変わらなかった。
感情的な怒りが収まらない美神とは対照的にリネイクは恨みの言葉を聞いてもなんとも思っていない様子であたりをうろうろしながら語り始める。
「まぁ大切な人間を殺されたって気持ちはわからなくもないけど。でもさ。別にいいじゃん。むしろ、私があの当時あなたの家族をまとめて殺してあげなかっただけ感謝して欲しいね」
「な、何言ってるんですか……? 人を平気で殺しておいてよ、よくそんな自分は他人の気持ちを理解してますよみたいな雰囲気を出すなんて……」
リネイクの思考に怒りを通り越して呆れが出始める美神。
攻撃系統の能力を持たない美神にとってはこのままではジリ貧で力尽いてしまう。
それでも、美神にとっては自分の家族と人生を狂わせた犯人が今ここにいる。
復讐するためにここに来た以上は自らの命がここで力尽きようとも構わない覚悟だった。
「さてと。このまま大声で喚かれるとこっちも迷惑だからそろそろ大人しくなってほしいな。それに何かあなたは勘違いしているけど私は自分の使命を果たすために動くだけ。だから私は犯人であって犯人じゃないのよ?」
リネイクの言葉は美神の奥に突き刺さる。
リネイク自身が自ら明かしているように仮にここでリネイクを殺せたとしても、それは実行犯を殺しただけのトカゲのしっぽ切りでしかない。美神からすれば殺人を計画した真犯人を殺さない限りは美神の家族たちの無念を完璧に晴らせたとはいえない。
それでも、美神には問題なかった。
なぜなら、自分の力では実行犯も真犯人も両方をここで殺すことが難しいとわかっていたから。
「なら、せ、せめて実行犯のあなただけでも………ここで殺します!」
美神は最初で最後の大勝負に出る。
自分の体に突き刺さったナイフを強引に引きちぎりながら磔状態から自分の身を解放した。
身体が自由になった直後、美神の身体全てに未だかつて感じたことのない痛みや激痛という言葉では言い表すことができないほどの痛み。
それでもなお、美神はもがき苦しむことなく自分の体に隠し持っていたナイフを取り出し、リネイクの方へ走り出していく。
せめて、この刃があいつの身体に届いてくれれば………。しかし、その美神のかすかな希望はリネイクの剣によって理不尽にも貫かれてしまう。
「え?」
美神が自分の死を実感するよりも先にリネイクが錬成した無数の剣が美神の全身に剣で埋め尽くされるように突き刺さっていた。
最後は自分の兄が死体で見つかった時のように、何か最後に言葉を言い残すことなく、おぞましい量の血だけをただお風呂の湯船のように垂れ流しながらその場で力尽きた。
美神の身体が動かなくなったのを確認したリネイクは血だらけの彼女の死体を持ち上げ、再び祐輔を殺した時と同じように美神を倉庫にあった剣で十字架の磔にさせた。
「最後のただ人を殺すためだけの執念は流石だったね。その刃が私に届くことはなかったけどそれこそが人間の中に存在する本来の姿。誇っていいよ。あなたは最後の最期で人間を卒業する一歩を踏み出せたのだから」
リネイクはじっと体をピクリとも動かさない美神の顔を眺めながらまるで自分の作った人形を並べて遊んでいる時のような表情で語りかける。
その死体から少し離れた美神からの視線ではギリギリ見えない位置にある大砲などが並んでいるスペースには垣見内の死体が同じように無数の突き刺さった剣と共に剣の十字架によって磔にされていた。
その後、リネイクは最後の後始末へと取り掛かりながら、独り言のように何かを呟く。
「そろそろ私の本性も明かすときが来たかな。私の名前はリネイク・エード・ラライナではない。本当の名前はラニエク・ソード・リリアナ。その名を聞いて震え上がらない人間はいないしがない暗殺者」
彼女の独り言と同時に浮かべた笑みは人を殺した後とは思えない、最高の幸せを手にしているような猟奇的な笑顔だった。




