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人類を否定し、神に成り代わる  作者: 雨結 廻


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9-3

「犯人はリネイク・エード・ラライナよ」

ベルティアの犯人の名前が告げられると一瞬の静寂の後、目を丸くして驚いていた村上とは対照的にオレと朝比奈も納得の表情で頷いていた。

「オレもそれで間違いないだろうな。裏で操っている人間が別にいる可能性が捨てきれないのはともかく、実行犯はリネイクで間違いないと見ていい」

「うん。私もついさっき襲われるまでは何となくぼんやりとした感じだったけど、襲われた時に見せた髪の色で確信した。でも、初めて見た時はそこまでやばそうな雰囲気は感じなかったけどな~」

朝比奈は犯人がリネイクであるという事実に未だにちょっと信じられない様子だった。

まぁそう思う気持ちもわからなくはない。

確かにリネイクの見た目だけを重視すれば、石山を殺したサイコパス殺人鬼には見えないだろう。

だが、人は見かけずによらずとはよく言ったもの。

人の本性は普通に過ごしているだけでは絶対に見抜けないのが現実である。

リネイクが米沢の紹介で出てきたのと、現時点で関連があるかどうかは不明だがヴィサラ自身が特定のクラスに何度も行き来していたのも、もしかするとリネイクと何らかの接触を図るためのものかもしれない。

いずれにせよ、リネイクがこのタイミングで美神をさらったのはオレたちに自分を倒すことができるのかという挑戦状を間接的に送り付けるものでもあった。

美神は最初の内は殺さずに生かしておくかもしれないが、そう遠くないうちに美神も殺してしまう可能性が高い。

「朝比奈さん、リネイクが美神さんをさらった後にどこに消えていったのか方角は分かる?」

「え、え~と。確か、下の階へ逃げて行ったことだけしか目で確認できなかったかな。かすかに聞こえた足音だと多分、一つ下で降りたと思う」

3階か。

リネイクがあえて一番下まで逃げなかったのは1階にA組、B組、C組、D組、そしてE組の5クラス。二階にはF組、G組、H組、I組、J組の5クラスが配置されており、万が一他の生徒に自分の犯行を見られた時の後処理の手間が増えるのを避けたかった可能性がある。

「朝比奈、ベルティア、オレは美神とリネイクを探しに行ってくる。二人はそこの村上と一緒に待機しておいてくれるか?」

オレが万応じして、リネイクとの戦いにベルティアが待ったをかける。

「待って。今相手のところに行っても相手のフィールド内である以上、どんな攻撃をしてくるのかわからないのに単独で乗り込もうとするなんて無茶よ。ここはせめてもう一人一緒に連れて行かないと」

確かに彼女の言う通り、リネイクの能力が剣などの刃物を操る能力ということと1―E組所属であること以外は全くと言っていいほどの未知数であり、この程度の情報で敵地に乗り込むのは情報戦で圧倒的不利に経たされる上に、敵の行動を理解する前に自分が殺されてしまう可能性だって十二分に存在する。

それでも、オレの心の中は多少のリスクを賭けてでも美神を放置しておくことはできなかった。

「ベルティア、悪いがこのまま一人でいかせてくれ。例え助けることが出来ようが出来まいがここで行かない選択肢を選んだ方が自分の中で深く後悔しそうなんだ」

この言葉に明確な根拠も理由もない。

ただ、それでも自分の中には父親のある言葉が常に脳裏に刻まれていた。

「いいか龍城。この先の人生、お前はたくさんの挫折や幸せとともに運命の分かれ道が数多く待ち受けているだろう。その時に立ち止まったら、お前はこの先絶対に自分が後悔をしないと断言できる道に進め。それが例え、赤の他人から無謀だと嘲笑われるレベルの険しく、頂上の見えない高い山だとしてもだ。どうしても、世間や自分が覚悟を決めた道を馬鹿にするやつがいたら、こう言ってやれ。『先の見えない険しい山だとわかっていて山に登らずに地上から罵声するお前らよりはよっぽど自分のほうが命と覚悟を決めて山登りに来ている』とな。そして、運命の分かれ道でどちらも難しい選択を迫られることになったら、その時は行動する後悔をする方を選べ。行動する後悔は時として割り切ることもできるが、行動しない後悔はその瞬間から一生引きずることになるからな」

警察官だった父親が日常生活からモットーにしていた考え方だ。

今思えばこの考え方こそが、父親のあそこまでの捜査力を湧き立てる一つの要因だったことは言うまでもない。

そして、あの家族を奪われたあの事件当日、犯人の奇襲によって自分の家がすさまじい業火で燃え広がっていると同時に目の前で自分の家族が次々と殺されていたあの日。

この事件の内容はこの先一生忘れることはないだろし、夢の中で何度も悪夢として蘇ってくることもある。

ただ、あの時に自分がただ茫然と眺めて消防隊員の助けを待たずに些細なことでも自分が何らかの行動を起こしていれば被害はマシになったのではないかという行動しなかった後悔が一生消えることはない。どれもこれも結果論ではあるが、行動を起こして後悔するか行動を起こさずに後悔するかによって同じ後悔でも内容と気持ちの考え方が全くと言っていいほど違うことだけは確かだった。

ベルティアはオレの揺るがない覚悟を察したのかため息交じりだが、それでもはっきりとした口調でこう話した。

「はぁ~。どうやら私が何度言っても変える気はないようね。いいわ。ここはあなたに託す。その代わり、絶対に無茶な真似をして命を落とすなんてことになったら許さないんだからね?」

途中途中でこぼれるベルティアの苦笑いは彼女にとってオレがここで死んでほしくないというほんのわずかな親心も含まれていたのかもしれない。

そしてこれは、さっき協力者になってくれた村上も朝比奈も同様だった。

「お前、せっかく俺を倒して実力で仲間にしたのにその直後に死ぬなんてへまは許さねえぞ」

「鶴川君! お願い! 美神さんのことを頼むよ」

それぞれの祈りやエールをしっかりと耳に聞き入れたオレは入学して一番の全速力で屋上から駆け下りていった。




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