8-3
「オレと勝負だと?」
「あぁ。そうだ。今の話を聞く限りでは俺にとってもそう悪くない話でもないのだろう。むしろ、危険を冒してもいいと思えるほどそれ相応のリターンもある。だが、だからといってホイホイと相手の言う通りに首を縦に振るほど俺の脳みそはバカじゃないからな」
ここに来て村上の口からまさかの勝負を持ち掛けられた。
全く予想していなかったわけではないが、それでも無能力者である村上の方から勝負を差し出してくるとは。
いや、無能力者だからこそ、相手が本当に協力するに値するのかを自分の目で知っておくためにあえて勝負を仕掛けたのか。
自分が命がけで手に入れる情報をこいつらに渡してもいいかどうか。それを見極めるための勝負。なら、選択肢は一択である。
「ベルティア、どうやらこの勝負は受ける以外の選択肢はないようだな」
「あたりまえでしょ? そもそも協力者を獲得できない限りは光明の光の字も見えてこないんだから」
オレは出来る限り誰かと特別模擬をすることはしたくなかったが、やらないとそもそも前にすら進めない以上は致し方ない。
ここは自分の能力を他人に見られないようにこちらは能力を使わずに勝ちに行こう。
「特別模擬のルールはダウン制で問題ないな? 先に相手の膝をつかせるなどのダウンさせた方の勝ち。ダメージの代償は問わずに殺し合いは禁止で」
「あぁそれでオレの方は問題ない。本音は先生アタックの方がよかったがまぁ支障はないか」
「随分と自身があるようだな。なら、始めようぜ」
村上とオレが互いに真正面を向き、スマホに互いが勝負に同意することを確認するボタンを押す。
その後、互いのスマホのカウントダウンと共に特別模擬が始まった。
「悪いが手間かけさせずに決めてやるぜ」
村上が開始直後にポケットの中から素早く拳銃を取り出し、瞬時に照準を合わせると同時にほぼ間髪なく二回引き金を引いた。
オレは引き金を引かれた照準からギリギリかつ確実にダメージが当たらないように1発目は回避し、二発目はわずかに頬に小さなかすり傷がつく程度に調整しながらかわす。オレの方も負けじと拳銃で村上の方に二,三発銃弾を放つ。
村上の方も華麗とはいかないものの必死に銃弾の弾を全てかわしきった。
「お前、なかなかやるじゃねぇか。無能力者の俺相手だからあえて能力を使っていないだけなのかもしれないが、そんな舐めた真似をし続けてたら足元を救われるぜ!」
村上が今度はKPTで買える小型爆弾を3つほど取り出し、それを一斉にふんわりとした軌道でオレの方へと投げる。その直後に再び拳銃で爆弾の方に引き金を引いた。
銃弾は爆弾に直撃すると、そのまま大規模な爆発を空中で起こした。
一見すると意味のないように見える行動だがオレには察しがついていた。
その証拠に、真正面にいたはずの村上の姿はいない。
ではどこにいったのか。
その答えは単純。オレの背後だ。息つく暇もなく村上は制服の裏ポケットに隠し持っていたナイフで勝負に決着をつけるべく、最短距離で振り下ろす。
だがこの時点で勝負はついていた。
「悪いな。この勝負、オレの勝ちだ」
村上の無能力者であることを自覚した上でかなり頭を使った立ち回りに敬意を表した上で、少しだけ能力を使おう。
村上のナイフがオレの体に刺さるよりも先に自分の能力で強化しておいた右足でナイフを持つ右手を高く蹴り上げ。そのまま瞬間移動するかのように背後に周りそのまま首の頚髄辺りを少し強めにチョップした。その瞬間、村上は完全に不意を突かれたように膝をついた。
その瞬間両者のスマホがけたたましい音と共に試合結果がアナウンスされた。
「村上慶太のダウンを確認。勝者、鶴川龍城」
試合時間はダウン制とは思えない一分もかからない超短期戦。
それでも、結果として勝ちは得た。
試合後、村上は悔しさこそ滲ませながらも拍手で健闘をたたえていた。
「いい攻撃だと思っていたが完璧に読まれたか。流石だな。完敗だぜ」
「お前も無能力者であることを分かった上で長期戦になれば勝ち目はないとわかりきった上での立ち回りは流石にここに入学してきたの事だけはあると感じさせたな」
互いに両者の戦いぶりを褒めつつ、握手を交わした。
その様子を少し離れた場所から見ていたベルティアが少しホッとした様子で近づいてきた。
「勝負は決したようね。村上君、勝負に負けたってことは私たちの協力者になってくれるのよね?」
「勝負を仕掛けたのは俺自身だからな。今更言い訳する気もないし協力してやるよ。まぁなんであのF組の中から俺が選ばれたのかは疑問だが」
そうか。
そういえばまだ、村上にはなぜ自分が選ばれたのかという理由を言っていなかったか。
まぁそこはベルティアがちゃんと話してくれるだろう。
「あなたを協力者に選んだのは無能力者だからこそということもあるけど、1番はヴィサラに対する態度ね。私が色々と話を聞いたり、偵察をして率直に感じたのはF組の生徒はみんなヴィサラの恐怖支配に怯えながら言うことを聞いていた事。それも当然よね。逆らえば殺されるとわかった上で反抗してくる人間なんてまずいないいでしょうから。それは過去の独裁に対する歴史が証明している。ただし、あなたを除いて」
ベルティアは腕組みをしたまま顔色一つ変えずにいつも通りの様子で話しているのとは対照的に村上の表情は意外にも穏やかになった。
どうやらベルティアがなぜ自分を選んだのかという理由に察しがついたようだ。
「なるほどな。お前、短期間で情報をかき集めた割には恐ろしいくらいの推察力だな」
「別に大したことじゃないわ。集めた情報を考えられる可能性の一つ一つに当てはめていっただけ。話を戻すけど、あなたは他の生徒がヴィサラに怯えている一方で唯一と言っていい彼女に対する殺意に持っていた。黙って従っていたのは、今はまだ暗殺を実行するタイミングではなかったから。違うなら反論してくれてもいいのよ?」
「いや、お前の推理どうりだ。俺は今のクラスのような誰か一人による独裁による支配は嫌いだからな。まるで小さい頃に受けていた親の虐待支配を思い出すぜ」
オレ自身こうして村上と直接顔をまみえるのは今回が初めてだがベルティアの推察と村上の反応を見れば、無能力者だったという理由以外で協力者にしたかったのも納得がいく。
むしろ、この短期間でここまで調べ上げてきたベルティアに軽い恐怖を覚えるくらいだ。
とはいえ、これでようやく真実に向けた第一歩を踏み出せる。
「雑談はこれくらいにして、本題に入りましょう。まず、あなたはいつも通りにF組の生徒として生活して欲しい。変に動こうとするとヴィサラ側に勘づかれるリスクもある。情報はさっきも言った通りヴィサラたちが言ってた内容をとりあえずはそのまま横流ししてくれるだけで大丈夫。そして、情報を渡す方法だけど、メールだと情報を筒抜けされるリスクがあるから期間を開けて1週間に一回、時間は日によってバラバラに分けること。古典的な方法になっちゃうけど直接メモに書いて私かそこにいる鶴川君、それ以外だと今はいないけど朝比奈さんにでもこっそりと渡してくれれば……」
その時だった。
鍵の掛かった屋上の扉を強引に突き破り、激しく息を荒らし、両足から血を流した状態で朝比奈が駆け付けてきた。
「あ、朝比奈さん? ど、どうしたの?」
まさかの乱入者にベルティアを含めたこの場全員が困惑させていた。
そしてその混乱は次の言葉によって更なる衝撃と共に激震が走る。
「た、大変だよ……! れ、玲奈ちゃんさんが何者かにさ、さらわれた!」
その瞬間、この場にいる全員が一瞬の静寂に包まれた。




