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予想外。
この学園に入ってから既に何度も経験してきたがこれは頭の中で描いていた予測からは外れたパターンだった。
本来、村上が屋上に来ると仮定した場合の時間は夕方の十七時三十分。終礼から一時間以上時間を空けたのはこの校舎内に出来る限り自分たち以外の生徒を減らしたかったためである。
オレたちは十五分前には屋上に着いておく算段で、実際に予定通りの時間には到着した。
だが予想外だったのは、村上がそれよりも早くにこの屋上に到着していた事。正直、五分から十分前に到着するものだと推測していた予想からは大きく外れたことになる。
「お前らか。こんなふざけた手紙で俺を屋上に呼び寄せたのは」
ベルティアたちが事前に用意しておいた手紙を見せつけるように明らかな苛立ちが含まれている目つきで口を開く村上。
「えぇ、そうよ。私があなたを呼び出したの。それにしても本当に来るのはもちろん、ここまで早く待ち合わせ場所に着くのはさすがに予想ができなかったけど」
ベルティアが素直に村上の行動を褒めた後、村上の目つきがより怒りに満ち溢れたものへと変わっていく。
「正直なところ、こんなふざけた匿名の手紙なんか十中八九罠だと察して行くかどうか迷っていたんだけどな。でも、うまく利用すれば情報を引き出せると思って予定よりも三十分早く到着して待ってみればお前たちだったとは。幸運だと見るべきか不幸だと見るべきか」
村上が腕組みを崩さない状態で落ち着きのない様子で行ったり来たりしながら話す。
その一方でベルティアは冷静で面持ちを変えない様子で話を進めていく。
「なるほどね。まぁいいわ。せっかくこうしてちゃんと来たんだしもったいぶらずに単刀直入に聞くけど、村上君、私たちの協力者になってくれないかしら?」
ベルティアの要求に村上の顔つきは怒りから今度は馬鹿にしているのかいわんばかりのあきれた表情へと移り変わっていく。
「お前、ふざけてるのか? わざわざ呼び出してまで何を言うかと思えば呆れた。もし俺のクラスがヴィサラたちによって完全に支配されていることを知っていて言っているのであれば馬鹿を通り越して呆れるしかないな」
やはりわかっていたとはいえ、そう簡単に物事がうまくいくわけでもないか。
村上の口ぶりから見てもF組は既にかなりサルクレーン家による支配の手が及んでいて、一人があらがったところでもうどうにもできないレベルにまで傀儡化が進んでいることだけははっきりとわかる。
ここまでは最初の部分を除けばオレもベルティアも想定内。
本題はここからだ。
明らかに協力者になる気がない村上をどう説得してF組のスパイ兼協力者に仕立て上げるのか。
「私たちが欲しいのはあくまでサルクレーン家に関する情報。それ以外の情報も流してくれるに越したことはないけど今はそこまで求めないわ。あなたのクラスがヴィサラたちによって相当深刻な傀儡化が進んでいることも当然把握済みよ」
「よくそれを知った上で交渉しようと思ったな。それにそんな貴重な情報、そう易々とヴィサラの奴がペラペラと外に向けて話すとは思えないぞ。対価となる報酬もなしにそんなバカげた話乗るわけがないだろ」
相変わらず村上は拒否姿勢の一点張り。
ここまでわかりやすく拒絶されると普通なら諦めがついてもおかしくはないのだが今回はそうもいっていられない。
死神の目の情報を得るためにはつながっている可能性のあるヴィサラ率いるサルクレーン家のF組の情報は間違いなく必須だからだ。
「逆に言えば、あなたはそれなりのリターンがあれば協力者を引くけてもいいってこと?」
「リターンというかやれるだけの価値があるかどうか次第だな。自分が危険を冒してまで賭けるだけの価値があるか。今のままだと一ミリも魅力的だとは感じないがな」
村上の言葉を耳に聞き取ったベルティアはわかっていたかのような笑みを浮かべると、そこからうまい話術で一気に攻め込んでいく。
「もし村上君が協力者になってくれればまず、私の所持しているKPTを半分差し上げるわ。それも一回じゃなくて協力者として働いてくれた月に一度ね」
まずは無能力者である村上にとってある意味命に匹敵するレベルで重要となってくるKPTの大幅譲渡。
これは実際に公安でも協力者を作る際に定期的にお金を渡している方法を真似たものだが、ベルティアの狙いはそれだけではない。
「もちろんあなたが無能力者であるからKPTを積めば仲間に出来るという理由だけじゃないわ。あなたのクラス、ヴィサラから税金の代わりとしてKPTを週に1万KPT取られているそうね」
「な、なぜそれを!?」
流石の村上もこの情報には驚きは隠せなかったか。
それもそのはず、ベルティアはこの一週間でヴィサラを含めたF組の現状はかなり的確に情報収集してきたのだ。
KPTを獲得するために一週間という短い時間の中で他の生徒に特別模擬で挑みつつ、負けた生徒からKPTを奪う量を減らす代わりに同時並行でF組以外の生徒から地道に情報を集めることも行ったからこその強気の姿勢。
さらに勢いを止めまいと更なる攻勢に出る。
「もちろんそれだけじゃないわ。それにプラスしてあなたが密かに抱えているヴィサラ討伐にも全面協力すると約束するわ」
この発言は村上の脳裏に抱えていた葛藤をクリティカルヒットするが如く強く揺さぶった。
最初の方に見せていた威勢は完全に失い、今はむしろ動揺の方が勝っていた。
「ま、待て。いくら情報を知っているととはいえ、なぜお前がここまでの情報を持っている? 一体俺を利用して何をしようって言うんだ!」
村上は自分のクラスの内情を知られていることに明らかに頭の整理がついていない様子。
それもそうか。ヴィサラ率いるF組は完全にサルクレーン家の独裁政権化になっており、下手に動くことはもちろんのこと、情報管理もヴィサラに報告することが必須になっているほど情報統制が徹底されていることくらいの想像はつく。
だからこそ、ベルティアはそこに可能性を見出した。
情報統制や独裁でF組の実権を握っているヴィサラに少なからず同じクラスで不満を持つ生徒はいる。その生徒に照準を絞って打倒ヴィサラとKPTの譲渡を吹き込めば、かなり心を揺さぶられるのは間違いのない事実であった。
「利用するも何も私たちの目的と同時にあなたのやりたい事にも手を貸してあげるって言っているのよ。もちろん、協力者になってくれれば可能な限りは私たちなりに能力を持たないあなたの身の安全は約束するし、KPTだって特別模擬で圧倒的に不利なあなたのために取って来てあげる。さぁどうする?」
正直、ヴィサラに不満を持つ数少ないF組の生徒である村上にとってこれはまさに絶好のチャンスだ。その一方で実行する側にとっては常にクラス内でヴィサラたちの監視を掻い潜りながら情報をこちらに流す必要があり、一歩間違えればそこに待っているのは間違いなく死。後はその覚悟が村上自身にあるかどうか。
こればっかりはオレ達が強要することは出来ない。本人の意思を尊重するまでだ。
まぁ断ったら断ったでベルティアが別の手を打つまでのことだろうが。
「俺はこの学園に入学してから1日たりとも自由な学園生活だと思ったことがなかった。だがこれは、流れを変える分岐点なのかもしれない。いいだろう。その話、乗ってやってもいい」
「なら…………」
オレの方から仲間になる握手をする右手を拒絶される。
その直後、村上はオレの方を指さしてこう宣言した。
「ただし、その前にお前が俺との勝負に勝ったらの話だけどな」
ここに来ての村上からまさかのオレに対する宣戦布告。
協力者獲得の命運は特別模擬へと委ねられた。




