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最初は垣見内が朝比奈たちにバカにされたことによって起きた偶発的な事件だと思っていた。
実際は、垣見内が石山に自分の尊敬するリーダーを殺されたことがきっかけで起こった復讐。
だが事件はここで終わらなかった。
一連の石山と垣見内殺害事件の裏で新たに『龍の巣窟』と繋がっていた可能性のある組織が浮上した。
その組織の名は『死神の目』。
今まで父親の話や現時点で見つかっている資料、それに加えて父親の日記では見つけ出さなかった情報が出始めた。
しかしまだ謎も多い。
もし仮に、垣見内や石山、そして龍の巣窟が犯罪組織『死神の目』と何らかの繋がりが本当にあったとするのならば、一体なぜどのようにして接触したのか。
これも含めてまずは死神の目に関するもう少し具体的な情報が欲しい。
「とりあえずまずは『死神の目』に関する情報収集からになるのか?」
ここに限った話じゃないが今の社会(世界)は情報が乏しければ乏しいほど常に不利な戦況に立たされることを意味している。
戦況を常に優位に進めるだけでなく、自分の命を守っていくためにも情報はどんなに小さいものでも集めつつ、その上で正確性の高い情報を吟味していく必要がある。
しかしそんなオレの思惑とは裏腹にベルティアは積極的な情報収集には消極的な様子だった。
「本当はそうしたいのだけど、今はまず仲間を作ることを優先した方がいいわ」
「そうしたい理由を聞いてもいいか?」
ここでベルティアがまずは協力するメンバーを集めさせることを優先したいと話したのは死神の目がそれだけ一筋縄ではいかないということを暗示しているのだろう。
あまりに不確定要素が強すぎる以上はベルティアといえど慎重に動かざる終えないということだろうか。
「私たちが追うべき敵は死神の目だけじゃない。私が先言った四天王財閥、他にも優秀な精鋭部隊所属している人間や私たちがまだ知らない犯罪組織。全ての存在を完全に把握しきれていない以上は、うかつに自分から情報を聞き出そうとすることは自殺行為になる。それに……」
「それに?」
今まで淡々と話していたベルティアの言葉が止まった。
オレはあまり聞いてはいけないことを聞いてはいけないことを聞いてしまったという焦りの汗が流れる。
しかし、意外にもベルティアは少しだけ間を開けた後に再び話を続ける。
「『死神の目』が私の家族を壊滅に追い込んだ組織の可能性が高い……から」
ベルティアが放った言葉にオレは自分と同じ境遇にあったんだなという不思議な感覚を覚えた。
この学園に来たということは人には絶対に言えない特殊な事情というものが隠されているのはある意味わかりきったことではある。
事実、オレもそうだったからだ。
だから、ベルティアがどこかの組織を潰すためにここにやってきたと告げられても驚きはない。ただ、それが皮肉にも今回の死神の目に関連するものだとは思わなかったが。
「一応何らかの根拠があってのことだということを承知で聞くが、なんであの事件の犯行が死神の目だと思うんだ? あの事件は世界中に報じられて捜査も入念に行われたにもかかわらずまともな糸口はつかめずじまいなんだろ?」
真っ先に感じた疑問を何も濁すことなくあえてストレートに聞いた。
最悪、言いたくない様子なら瞬時にこの話を止めるつもりだった。しかし、意外にもベルティアは特に言いづらそうにする素振りを見せることもなく話し始めた。
「鶴川君、確かにあのホワイトエンド事件は現在も犯人の手がかりはつかめていないと言ったわ。ただそれは、正確に言えば世間的、要するにマスコミやネットなどを通じた表向きにはわかっていないとされていただけに過ぎない」
「ということはさっきも言った通りお前も含めたごく一部の人間は世間じゃ知らない情報を握っているということなのか?」
ベルティアの発言を信じるのであれば、オレが探している父親の見つけられなかった謎、そして家族を奪ったあの事件の犯人と真相。
それらの情報を知っている人間をもしかするとこの学園内の生徒の中に見つかられるかもしれないと思うとほんのわずかにでも希望を持ちたくなる。
だが、その気持ちも束の間。
ベルティアの口から続けて放たれる言葉はあまりに重いものだった。
「絶対にそうだという保証は全くないけどね。この世界は全ての組織と人間が必ずしも一枚岩じゃない。それに、さっきも言ったとおり、安易に情報を聞き出そうとすることはやめておきなさい。下手な行動は自らの命を敵に捧げるようなものよ」
「それもそうか。今すぐ情報を聞き出さないといけないわけでもないしな。これ以上はオレの口からは控えておくよ。今は死神の目に向けた仲間を作ることが優先なんだろ?」
オレの出した今現時点の結論にベルティアは何度もうなずきながら話を進める。
「えぇ。話を戻すけど、その仲間を作る前提にあたって最初の段階では四天王財閥とは協力しない方向で行くわよ」
ベルティアが協力しないと現段階ではっきりと言ったのは大体察しが付く。
「わざわざ四天王財閥と協力しないと言ったのは死神の目と関係している可能性を完璧に捨てきれない以上は仲間にはできないというわけだな。四天王財閥ほどの財力と権力を持っていれば裏で死神の目と繋がっていてもおかしくはないか」
「察しが良くて助かるわ。あれ程までの財力と権力を持っていれば犯罪組織の一つや二つとは裏で繋がっていてもおかしくはない。まぁ噂の範疇に過ぎないけど既にサルクレーン家と死神の目が裏で繋がっている噂話もあるし」
サルクレーン家。
入学前に簡単にではあるがサルクレーン家を含めた四天王財閥に関する情報は調べてはいたが、そこにはサルクレーン家はフランスで代々宝石や世界最高級の衣服などを作る企業の一つで他にも様々な事業に関与している。
ベルティアの言い方をそのまま捉えるならば、サルクレーン家は石山と垣見内の殺人には関与していないが裏では死神の目と繋がっている可能性があるということになる。
だからこそ四天王財閥の中でもサルクレーン家とは特に警戒しておくべきと言いたいのだろう。
「その言い分だと、サルクレーン家は石山殺しには関与していないがホワイトエンド事件には関与しているという認識でいいんだな? だからこそ、死神の目の情報を探るにはサルクレーン家に接触を図りつつ、そのついでに石山と垣見内殺害の犯人を探す。言うなれば、今回の殺人事件を利用してそれぞれの目的を果たすための情報を探る……ってわけだ」
オレの考えにベルティアは見事正解を引き当てたような拍手をしながら、ほんの少しばかりの笑みを浮かべる。
「流石ね。私があまり具体的な内容を話していなくてもそこまでちゃんと結論を導けるなんて。そうよ。他人から見ればあまり良いやり方じゃないかもしれないけどこの学園で生き残っていくには仕方のないこと。私たちは1―F組にいるサルクレーン家に接触を図りつつ、いわばスパイ的な形で内部から情報を引き出す。それがきっかけで情報を手に入っても良し、ついでに石山垣見内殺しの真犯人の手がかりを得るもよし。唯一懸念点があるとするなら協力者に仕立て上げた人間が裏切り、サルクレーン家の関係者が裏切りに感づいて吊るし上げの形で消されるかってところだけど、そこはしっかりと対策はしておくつもりよ」
ベルティアのいつもよりも長めに説明された内容はまさにオレがある程度推測を立てたものと一致している。
違う点があるとすれば、自らスパイとしてF組に侵入するのではなく、F組の生徒の中の誰かを協力者という形でスパイとして動かせるという点だが、これも頭の片隅には考えてあったものなのでそこまで問題はない。
というのも、外から内部の人間に向けて何らかの対価を用意した上で協力者という形で敵組織に侵入させるというやり口は実際の公安警察に使われている常套手段で、オレも警察官だった父親からそれらに関する話は色々と聞いてきていたからだ。
「ってことはまずはそのサルクレーン家関係者が多数いる可能性が高いF組の中から誰を協力者にするってところからだな。既に誰にするのかという目星はつけてあるのか?」
「もちろん。そうじゃなきゃ、こんな思い付きだけの作戦うまくいくはずもないもの」
ベルティアはそう言いながら制服のポケットの中から何重かに折りたためられた紙を取り出し、それをオレの右手へと渡す。
ベルティアに渡されるがまま、降りた畳まれた紙を開いていくと、そこには馴染みのない男子生徒の顔と簡単なプロフィールが書かれていた。
名前は村上慶悟。東北のド田舎の家出身で、どういう理由でこの学園に入学してきたかは不明。ただ、注目すべきは村上にはこれといった能力を持ち合わせていないという点である。言い忘れていたがこの学園は神の種によって力を手に入れていない人間でも入学すること自体は問題ではない。しかし、この学園に入学する上で神の種を使った遺伝子操作を行った人間でなければ生き残っていく難易度は上昇していく。事実、無能力者で暴力にものを言わせていた垣見内も能力者によって利用された後に殺されている。
だがそれは、逆に言えばこういう風にも捉えられる。
「なるほどな。わざわざ能力持ちじゃない生徒を選んだのはスパイだとバレってしまってもすぐに始末されないようにするためか」
「そうよ。この協力者を作る上で一度たりとも失敗は許されない。だからこそ、万が一にも殺されないように無能力者を選んだ。能力者の裏切り者が身内にいるとわかれば真っ先に粛清するでしょうけど、無能力者なら殺さなくても能力を利用した報復はない。それに、その男が私たちを裏切るような真似をしてもサルクレーン家側から介入する素振りを見せない限りはこちらで脅したりして始末することも出来る」
ベルティアが物騒なことを言い続けているが方法としては決して間違っていない。
事実、無能力者であれば協力者を作る上で必須となる対価を用意しやすく、それでいて説得しやすくもなり、情報だけをこちらに横流しするのであれば非常にいい人選ともいえる。
ただ、無能力者だからこそ、能力で反撃してくることがないサルクレーン家側からスパイをしていた事を脅されたりして、こちら側を裏切らざる終えない状況になるリスクもあるが、それもベルティアにとってはある程度割り切れる計算の内なのだろう。
それにしても、九龍学園は神の種を持つ人間でなくても入学できることは知っていたが、この学園に神の種を持っていない無能力者の生徒が本当にいるものなんだと少し驚きもある。
一通りの説明を終えたベルティアは残っていたペットボトルのお茶をゴクリと飲み干すと今度はさっきとは違った話を始める。
「あ、そういえば言い忘れていたけどあなた、いや、鶴川君は神の種に関する謎を追っているそうね?」
「ん? あ、あぁ。オレの父親が見つけられなかった謎の一つだからな。にしてもなんでお前がそれを知っているんだ?」
予想外の問いかけに思わず理由を聞かずにはいられなかった。
一瞬の動揺を隠せなかったオレとは対照的にベルティアは対照的に表情をほとんど崩すことなく話を進める。
「やっぱりそうなのね。なぜというかこれを理由というべきか迷うところだけど鶴川君のお父さんが私と出会った時に少し話してくれてたからそうなのかなって思ったまでよ。まぁその話は一旦おいといて、鶴川君は神の種の本質について理解してるの?」
神の種に関する情報は今まで父親がわずかに残していたメモ等を頼りに遺伝子を操作することで新たな力を得るという程度の知識しかない。
その程度の知識しかあり合わせていなかったオレにベルティアから話される神の種に関する情報とはどういったものなのだろうか。




