平成じゃいられない
「100数えるまで、待ってやろう。
私を納得させる弁明ができたなら、これをくれてやろう」
なんだと!
ちくしょう。今日、俺がアレを忘れてさえいなければ……
「では、いくぞ。1、10……」
おいおい、なんだそれは……
「ちょっと待てぇ~」
「もう弁明が整理できたのか、早いな。聞こうじゃないか」
「いや、それは数えてるんじゃなくて、桁が上がってるだけだろう!
1、10、100と数えてるのか!」
「最後に100になるなら、いいじゃないか」
どんな論理だ。
「それだけ短かったら、考える余裕なんてないわ」
「わかった。それじゃ、やりなおそう」
「あぁ、頼む」
「1、2……」
今度は大丈夫そうだ。
「……4、8、16、32……」
「ちょっと待てぇ~」
「100は、まだ先だぞ。まぁいい、聞こうじゃないか」
「今度は2進数か!」
「ダメなのか。わかった。それじゃ、やりなおそう」
あれ?
この数え方だと、100にはならないな。
……言わなければ、いつまでも弁明を考えることができたのでは?
「2、3、5、7、11、13、17……」
ん? 何だこれ?
どんな法則だ?
あ、これは……。
「素数か! ってゆうか、それでカウントできるってすごいな」
「ふふん。私は優秀だ」
「いや、それも100にはならんだろ」
確か、100は素数ではなかったはずだ。
「100超えた時点で時間切れにするからいいじゃないか」
「よくないわ。ちゃんと100が入るもので数えてくれ」
「わかった。それじゃ、やりなおそう」
「いゃく、きゃく、しゃく、ちゃく……」
なんだ、そりゃ……
「ちょっと待てぇ~」
「もう考えついたのか、早いな。聞こうじゃないか」
「いや、それ数えてないから」
「だんだん、ひゃくに近づいてると思うんだが?」
どういう論理だ。
「うるさいヤツだな。じゃ、おまえが代わりに数えろ」
「1、2、3、4……違うだろ!
俺が数えていたら、考える余裕がないわ」
ヤツは俺をジロリと睨にらむ。
ポッポ、ポッポ……
店の鳩時計が24時をお知らせした。
令和8年8月9日になったことを知らせていた。
「「あっ!」」
ヤツの手元の「タダ券」が、ただの紙クズになった。
こうして、ヤツ自身が今回のラーメン代に使うハズだった「タダ券」も、俺がアテにしていた「タダ券」も、なくなってしまったのだ。
「タダ券」に刻印されていた有効期限(8.8.8)は、昨日になってしまったのだったのだから。
そもそも、束で持ってるんだから、気前よく使ってくれても良かったじゃないか?
「おい、どうしてくれるんだ。
私は今日、財布など持ってきてないぞ」
「奇遇だな。俺もないんだが」
「「すいませんでしたぁ」」
「いいよ、いいよ。今度、また来ておくれ」
店主は、ヤツの持っていたタダ券の束を手に取り、懐かしそうに一枚を裏返した。
「それにしても、平成のころのタダ券を持ってる人がまだいたとはね」
「え?」
俺はタダ券を覗き込んだ。
「この『8年』って年号、令和じゃないの?」
「平成だよ」
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