第九話:首を垂れる神々
ついにここまで来ました。次が最終話です。
思えばずっと、“全肯定”を受動的にしか使ってこなかった。
父上に言われて庭を照らしたのは、なんとなく口にした結果だった。初めて王都に向かったとき──杞憂だったが、俺の命を狙う者を退けようとしたとき──も“全肯定”自体を能動的に使おうとはしていなかった。あくまでも、敵に近づけば勝手に発動するだろうと思っていただけだ。
“全肯定”が発動しっぱなしの“スキル”であるという特性も、理由の一つだろう。なまじ受け身のままでも困難の方から屈してくれるおかげで、能動的に使う必要に駆られることがない。すると、能動的に使おうという気にもなかなかならない。以前“全肯定”の強化に気づかなかったことと同様、これも特性故の盲点である。
──けれども今回状況が特殊だ。
というのも、ヤミヌスは向こう1000年程度は封印されたままだ。俺が普通に天寿を全うする限り、俺への直接的な脅威にはなりづらい。それ故か、“全肯定”はヤミヌスを自動発動の対象には含まない(含めない?)のだろう。
だから、今回は“全肯定”を能動的に発動した。後世の憂いを絶つために。そして、おそらく俺に託したであろう勇者の思いに応えるために。──やっぱり自惚れかな?
とにかく、今考えるべきはヤミヌスだ。
ヤミヌスはたった今目覚めた。何か証拠があるわけではないが、確信をもってわかる。
そして、俺の呼びかけに応じてここに向かってきている。
俺は一人で外に出た。ヤミヌスとは一対一で話すつもりだ。
かつて世界を滅ぼそうとした大魔神。やはり緊張するな。
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突如、俺の目の前に大柄な男が現れた。尋常ならざるオーラを纏っている。
間違いない、彼が──
「コン様。只今馳せ参じました。ヤミヌスにございます」
“全肯定”にもしっかりかかっているようだ。でなければ、大魔神が俺に敬語なんて使わないだろう。にしても、巨大な体躯だな。俺の倍はある。
「貴方がヤミヌスか。話は聞いている。身も蓋もない言い方をすれば、世界を滅ぼそうとしていたとか」
「左様にございます。私めは、かつて人間をこの世から消し去り世界を支配せんと戦いました」
「……俺が求めることは一つ。これ以上人間に牙を向けないで欲しい。それが守られるならば、貴方を殺したりはしない。他の人々も、俺が許したといえば、貴方に悪感情は抱かないだろう」
恨みを絶つ。俺が目指すのはそこだ。
「言われずとも。コン様に呼ばれて目覚めたときに理解いたしました。かつての私めの愚かさを。どうして、あのときは気づけなかったのでしょうか」
ヤミヌスを殺す必要はもうない。彼が人間に牙をむく心配はなくなったから。これからは彼とも協力していこう。
なんて思いながら、握手のために手を差し出す。
しかし──
「なっ!! ヤミヌス、どうしたんだ!?
体が消えて……」
ヤミヌスの身体が発光していた。それだけではない。身体のあちこちから光の欠片のようなものが立ち上っていく。欠片が飛び出したところは欠けたまま。ヤミヌスは消滅しようとしていた。
「心配してくださってありがとうございます。と同時に申し訳なくも思います。
コン様の言う通り、私めはこの世から消えようと思います」
「……何故だ?」
「けじめです。私は大勢殺してきましたから。今更悔いても遅いことです。それに、私のために戦ってくれた麾下たちにもけじめをつけたいです。このまま生き残れば、彼らに合わせる顔がない。特にアイツには……」
ヤミヌスを止めようと思った。けれど、ヤミヌスの言葉を聞いてやめた。彼が彼なりにけじめをつけようとしているならば、俺が止めるべきではない。そう、思った。
「そうか。確かに俺は、800年前に何があったのかこの目で見たわけじゃない。だから、ヤミヌス自身が決めたことなら、俺は“肯定”するよ」
今度はヤミヌスが手を差し出す。俺は迷わずヤミヌスの手を取った。
「最後に──コン様、貴方様のお目にかかれたことは、わが生涯において、最後にして最大の僥倖です。どうかコン様に栄光あらんことを祈っております」
言い終わるや否や、光が一層激しくなった。ヤミヌスの身体からは止め処なく光の欠片が飛び出していく。
ほどなくして、かつて世界を震撼させた大魔神ヤミヌスは、完全に消滅した。
俺の視界には、彼の足跡が残るのみだった。
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それからはお祭り騒ぎだった。陛下たちは、一部始終をばっちり見ていたようで、ヤミヌスが消滅すると一斉に飛び出してきた。
「コン様!! やはり貴方こそが希望の光です!!」
「大魔神ニスラ理ヲ諭ス。アア、コン様ハ曠古ニシテ絶世ノ英雄デス」
「コノヨウナ歴史的瞬間ニ立チ会エルトハ。コン様万歳!!」
家族や町の人たちもやってきた。多分、ヤミヌスのオーラが凄まじかったからだろう。
どう説明するか考えあぐねていたところ、
「とうとう勇者すらも超えた英雄になったのですね」
「ヤミヌスも満足して消えていったようで何より。こんな解決方法、コン様にしか取れません」
既に知っているようだった。
何でか聞いてみたところ、「コン様の身に起きたことなら分かります!!」と言われた。これも“全肯定”の作用なのだろう。
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ん、ここはどこだ?
俺はベッドで横になっていたはずなんだが。
その日の夜、ベッドに横たわってまどろんでいた俺は、気づけば謎の場所に来ていた。
まず目に入ったのは、豪華絢爛という言葉がよく似合う噴水だった。ロウタたちの宇宙船がすっぽり入ってしまいそうな大きさである。縁石には種々の宝石が散りばめられ、さらに周りには噴水を囲うように黄金の像が配置されている。
噴水の周囲に目をやれば、通路沿いには色とりどりの花が咲いている。そして、きれいな模様の蝶たちが戯れるかのように飛んでいる。
どうやら気合の入った庭園にいるらしい。
そう結論付けるのと、前から4人組が歩いてきていることに気が付いたのは同時だった。丁度いい。ここがどこか聞けるな。
「初めまして。勝手に入ってしまって申し訳ありません。その、気が付いたらここにいて」
すると、先頭を歩いていた、キトンを着こなしている女性が口を開いた。
「ご安心くださいませ。コン様をお招きしたのは我々です。
そして、ようこそ天上界へ」
「……天上?」
思わず聞き返してしまった。
「はい。天国とか呼ばれたりする場所ですね」
今度は立派な甲冑を身に着けた男性が答える。
「えっと、つまりあなた方は、神様ということでしょうか」
「そうですね……。地上の方々の言葉では、それが一番しっくりきます」
「はい。神官様をはじめとする地上の人たちが崇めている“万能の神”というのは、我々のことと考えるのが自然です」
「ああ、誤解されないように申し上げておきますが、私は神ではありません」
残りの二人も答えてくれた。あと、甲冑の男性は神様ではないらしい。
ふむ、神様と来たか。宇宙人、大魔神の次は神様。さもありなん。
そして、神様かと聞いたときの答えが曖昧だったことに違和感を持った俺はそれを聞いてみた。
──曰く、3人は確かに俺たちがいう「神様」的な存在らしい。なんでも、人間に“スキル”を授けたのは彼らなんだとか。ではなぜ断言しなかったかというと、地上で信仰されている神様のイメージと実際の彼らでは異なる点もあるからである、と答えてくれた。彼ら自身が地上に降りることはできず、お告げ的なものもそう頻繁にできるわけではないらしいので、地上の人々の信仰像には独自の解釈があり、彼らとはやや乖離がある。そういう点から、「“スキル”を授けた存在」として神様という呼び方はあっているが、完全に一致はしないとの見解だそうだ。
「さて、本題に入りましょう」
一通り状況を呑み込んだところで、神様の一人が言った。
「コン様。此度、ヤミヌスに引導を渡していただきありがとうございました。
本当なら800年前に私が果たすべきことでした。貴方に託さざるを得ず、本当に申し訳ございません」
甲冑の男性が言い終わると、4人が俺に頭を下げてきた。
いつぞやの甲冑君を彷彿とさせる、45度の最敬礼。
……本来なら俺が神様にすべき礼だよな?
4人に頭をあげてもらった俺は、あることに気が付いた。
「800年前に果たすべき? あれ、貴方って……」
彼は神様ではないといっていた。まさか。
「はい、申し遅れましたね。私は、かつてヤミヌスと戦い、勇者として語り継がれている者です」
マジか!? あの伝説の勇者様が目の前にいる!!
後でサインを貰おうと誓った俺に、勇者様は続ける。
「確かに、私たちはヤミヌスに勝ちました。けれどもヤミヌスは不死身になっていた。殺すのが不可能だと悟った私は、このお三方をはじめとした神々の力を借りて、何とかヤミヌスを封印しました」
ヤミヌスって不死身だったんだ。今日消えていったのは、あくまで自発的にということか。
「封印する瞬間までは不安な気持ちでした。このままヤミヌスを残せば、いつか復活したときに甚大な被害が及ぶと。後世の人々にもあのようなつらい経験をさせてしまうのかと。ヤミヌスの説得も試みました。けれども私の言葉はヤミヌスには届かず……」
勇者様は暗い顔で話す。別に俺の言葉が届いたのは“全肯定”のせいだろうから、そんな気にすることはないと思う。
「封印する間際になっても私は考え続けていました。けれども、封印が完了したとき気づいたんです。800年の後、偉大な方がお生まれになると。それがコン様です!!」
予想が当たっていてよかったよ。ちなみに、それ以前にも俺の名前は聞いていたらしい。なんでも、石像に名前が刻まれていたんだとか。世界を救うなんていう文言も見ていたらしい。どこかで聞いたような話だな……
「貴方の存在を確信したから、私はその後も穏やかに過ごせました。ヤミヌスのことを恨んでいない、とは言い切れませんが、ヤミヌスが反省し穏やかに消えていったのなら、それが一番だと思います。本当にありがとうございました!!」
「我々も天上界を代表し、改めてお礼申し上げます。我々は“万能”ではありません。先に述べた通り、地上に降り立つこともできない我々には800年前の惨状を防ぐことができませんでした。地上の者に力を貸すことも自由にはできません。」
神様にもできないことはあるらしい。
「人類に“スキル”を授けたのは我々ですが、それでも誰がどのような“スキル”を得るのかはこちらでは決められません。全くの偶然です。ですから、勇者様やコン様が今の“スキル”を得なければどうしようもありませんでした」
「お礼を言われることではありませんよ。勇者様はともかく、私の“全肯定”ならだれが貰っても同じことができますから……
まあ、一旦お堅い話はやめましょう!! 危機は去ったのですから。せっかく神様や勇者様とお会いできたんです、楽しい話もしたいです。」
それからは、5人でいろいろなことを話した。
なかなか興味深い話をたくさん聞けた。なかでも、勇者がじきじきに語ったエピソードは、当たり前ながら伝説以上のリアリティで、俺はすっかり興奮してしまった。
ちゃんとサインも貰えたぞ。
あれ、どう持ち帰ればいいんだろう?
今日(5月31日日曜日)の22:00に最終話を投稿します。ぜひ22:00にもう一度来てください。




