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第八話:闇の大魔神、復活

 明日完結します。ついにここまで来ることができました。ぜひとも見届けていってください。



「こうして、大魔神ヤミヌスは、地底深くに封印されたのでした──こんな感じの話です」


「興味深イデスネ。我々ノ星ニモ似タヨウナ物語ガアリマス」


 ロウタの言葉にアルグが続ける。


「エエ。星ヤ種族ガ違エド、同ジ類イノ話ガ好マレルノデスネ」


 俺は、文化交流と銘打って、おそらくこの星で最も有名な伝説を紹介していた。

 この国の成り立ちにも関わる話である。





 ──曰く、今から800年前、ヤミヌスと名乗る魔神が存在した。ヤミヌスは途方もなく強く、圧倒的な武力でこの大陸、ひいては世界を支配しようと人類に戦争を仕掛けた。ヤミヌスとその麾下(きか)たちによる怒涛の進撃でこの大陸の殆どが制圧されたとき、一人の男が頭角を現した。


 “彼”は貴族の家に生まれたが、“彼”の家は大陸の辺境の地に位置していた。辺境ということもあり、お世辞にも豊かとは言えなかったが、そのためヤミヌスの優先攻略先にはならなかった。苦しい生活を余儀なくされていたものの、何とか暮らすことができていた。


 しかし、“彼”が16歳のとき、状況は一変した。


 大陸最大の規模を誇り、これまでヤミヌス一派に必死の抵抗を演じていた王国が遂に敗北し崩壊を迎える。勢いづいたヤミヌス一派は、他の大陸へ遠征を始めるとともにそれまで後回しにしていた大陸各地に点在する小規模勢力の掃討を開始。やがて“彼”の地域も対象になった。“彼”の父親は領民を守るために兵を率いて掃討軍に挑み、戦死を遂げた。


 生き延びた領民たちと必死の遁走劇を続ける中で、“彼”は戦う覚悟を決める。各地に潜伏していた勢力と接触を試み、“対大魔神同盟”を結成。若い身空でありながらも同盟の中心人物として奔走し、ヤミヌス討伐の機を窺っていた。そして、“彼”が18歳を迎えたとき、遂に反撃の時が訪れる。


 “彼”は“スキル”を獲得した。


 彼が得た“スキル”は──“勇者”。空前の強さを持つ“スキル”を手にした“彼”とその仲間たちは、決して少なくない犠牲を払いながらもヤミヌス一派に勝利を重ねる。抵抗を続けていた他大陸の諸国、さらにはヤミヌス一派に反旗を翻したヤミヌスの元麾下も対大魔神同盟に加わり形勢は逆転する。……元麾下が裏切った理由は、同盟と関わる中で愛と正義に目覚めたからである。


 両陣営で生き残った(つわもの)たちは、かつて大陸最大の王国が王都跡地に集う。霜柱立つ真冬の或る夜、満天の星空の下、戦端は開かれた。


 そして、死闘の末に“対大魔神同盟”はヤミヌスを打破。ヤミヌスは地底深くに封印される運びとなった。







 ──紹介に熱が入ってしまったな。

 要は、世界を救った勇者の話だ。


 ちなみに、この話は実話だぞ。800年前に起こった戦いが言い伝えられている。その当時に書かれた何百何千という文献や口伝の内容を統合してこの形にまとまったらしい。


 この伝説は本当に有名だから、幼いころから何度も聞いてきた。勇者ごっこなんて言うのも子供のころにやった。子供が一度は通る道だ。そして、俺の先祖ではないが、勇者の仲間には“剣聖”の上位互換のような“スキル”を持つ者もいた。それもあって、俺はこの伝説を痛く気に入っている。実を言うと、“剣聖”になりたかった理由の一つもこの伝説であったりする。もちろんメインは家のためだからな?


 あ、この伝説が国の成り立ちにどうかかわっているかというと、マヴェリウス陛下はなんと勇者の子孫である。この大陸には同じような国がいくつもある。800年経っても勇者は影響力を持つ存在であることが分かる。




俺の話を聞いていた2人は不安そうな顔で言った。



「トイウコトハ、大魔神ハ今モ消エタワケデハナイ」


「イツカ目覚メテシマウノデハ……」



「その通りにございます!!」



 2人の言葉に答えたのは、──マヴェリウス陛下だった。


「な!? 陛下!!

 どうしてここにいらっしゃるのですか」


 来訪の予定など聞いていなかったのだがな。そう尋ねると、


「申し訳ありません。今朝、城でふと思ったのです。

 コン様が大魔神の話をされるな、と」


 王都からここまでは数日かかるはずだが……

 まあ、空間か時間が歪むのなんて、いまさらツッコんでも仕方がないか。



「封印は非常に強力なものだと聞き及んでおりますが、それでも永遠ではないようです。少なくとも向こう1000年は持つのでしょうが、それ以降となると……

対策を講じようにも、なにぶん情報不足でして。ここだけの話、ヤミヌスがどこに封印されているのかすら我々は知らないのです」


 難しい問題だな。1000年もたてば技術は進歩するだろう。しかしながら、長い年月の間に人々の記憶は風化してしまう。今でさえ、半ばエンタメ化しかけているからな。もし満足な対策をとれていないうちに復活した場合、甚大な被害がもたらされることは間違いない。


 それに、封印場所すら分からないとなると……

 そこまで考えて、ある疑問が浮かんできた。


「陛下。勇者の子孫であるあなた方にすら詳細な情報は伝えられていないのですか?」


「はい。もっとも、どこかで失伝した可能性もありますが……

いずれにせよ、現状、我々が知る情報は人口に膾炙している伝説のそれと大差ありません。

これでは対策の打ちようが。いずれ復活するから気を緩めるなといくらいったところで、肝心の場所すら分からないとなると説得力がありません」


 伝説は大魔神を倒すまでにフォーカスが置かれており、その後については「地底に封印された」程度のことしか書かれていない。



 ……一体どういうことなんだ?

 勇者は世界を救うために戦った。なのに、いまだ残り続ける世界の危機には具体的な指示をしなかった。それこそ、自分の子孫に向けてすら核心に迫るような情報は残さなかった。


 そもそも、なんで勇者はヤミヌスを殺すという手段を取らず、封印するだけにとどめたんだ?

 倒せなかったとか? 伝説には残らなかっただけで実はヤミヌスは不死身です、とかいう可能性も考えられるが。


 その場合は尚更、勇者が情報を残さなかった理由は分からなくなる。ひょっとしたら勇者は後の世界なんてどうでもいいと考えていたのか?



 なかなかそれらしい仮説が思いつかなかった俺は、逆に考えてみることにした。


 ……勇者は、情報を残す必要がないと思ったから何も伝えなかったのか?


 例えば、勇者はヤミヌスを倒しており、はなから封印などしていなかったとか。

 それが、勇者の嘘か、伝説が歪められたか(故意か否かは問わず)で封印されたことになった?


 それとも、封印は事実だが、俺たち(後世の人々)に伝えずとも解決できるという確信があったのか? だとすれば、それは何だろう。





 そこまで考えて、一つの仮説が浮かんできた。



 

 ……本当にあっているのか自信はない。

 自惚れにすぎないのではないかという自覚もある。

 普通なら、あり得ないと一周するような話だ。けれども俺の経験が、突拍子もない仮説に説得力を裏打ちしている。



 もし仮説が外れていても、試す価値はある。王都に初めて行ったときと同じだ。





 俺は、あの日のように呟く。

 父上に庭の暗さを何とかしてほしいといわれたあの日のように。


「……俺は貴方と話してみたいです。来てくれませんか。もちろん、周囲に迷惑は掛けずに」


 どこにいる(封じられている)かも分からない……に。



 心の中では封印が解けるイメージを思い浮かべながら呟いた。


 あの日と違うことは、なんとなく呟いてみたわけではないということだ。

 

 俺は初めて、確固たる意志を持って能動的に“全肯定”を使った。










-------------------------- 




 大陸中央にある山岳地帯。人里からは遠く離れ、誰も近づかないような険しい山の中腹にはぽっかりと“大穴”が開いていた。


 “穴”はどこまで続いているのか分からない。ただ、人間の肉眼では底まで見通せないほど深いというのは確かだった。


 今は吹雪も止んでいる。“穴”の周囲はかすかな物音すらしない。



 突如、“穴”の中から闇をまとった“何か”が躍り出る。それは人間のような形をしており、人2人分ほどの背丈を持っている。“何者か”は“穴”の近くの地面に着地し、おもむろにある方向をむいた。


──呼ばれている。


 会ったことは勿論無い。それでも、己を呼んでいる者は何よりも優れた存在だと確信した。


──この想いは。これが「敬意」か。


 しかし、今すぐすべきは、初めて抱いた感情の整理ではない。


──馳せ参じなければ。



 刹那、“何者か”──ヤミヌスの姿が消えた。

 後には、雪に刻まれた足跡が残るのみだった。




 次回 第九話:首を垂れる神々

 5月31日日曜日 18:30投稿予定


 最終話 第十話:神話となりて

 5月31日日曜日 22:00投稿予定

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