リークにはまる国語教師
文学を愛したから国語教師になったのか。
国語教師だから文学を愛するのか。
私は朝ご飯を食べながら、
そんな自問自答を繰り返していた。
私はノートを取り出す。
このノートは私が設定破綻をリークしたリストだ。
リークした作品数は合計で百八本。
一本あたり五万円の報奨金が貰えるので、計五百四十万円。
しかもこの報奨金は無税だし、教職員の副業規定に抵触しない。
休みになれば、私は図書館に入り浸る。
そして設定破綻の作品を探し、見つかったら即通報する。
ありがたいのは、著作権切れや、もう流通していない本でも、報奨金が出ることだ。
そして、
通報し認められると、
その本は全国の図書館から姿を消す。
つまり図書館にあるのは、
設定破綻を起こしていないか。
もしくは設定破綻に気が付かれていない本だけ。
設定破綻罪が施行される前は、
図書館は休日でも人がまばらだった。
それが今はどうだ。
休日は席が満席。
平日でも半分くらいの席が埋まっている。
多くの人の目的は、設定破綻箇所の捜索だ。
それで本が読まれるのだから、ちょっと本来の趣旨とは違うとも思うが、
まぁそれでも良いのだろう。
こういうと図書館の本はずいぶんと減ったんじゃないかと思われる方も多いだろうが、
実はそうでもない。
図書館には、表に出していない古い本などもある。
理由は古さとか、人気のなさなどであろうが、
それが意外と悪くはない。
設定が破綻していない隠れた名作にあうチャンスがあるからだ。
そういえば、この件で先日数学の教師のカルイザワと少々揉めたんだった。
……
「トドロキ先生。
あなた国語教師なのに、発禁本の捜索にハマっているらしいじゃありませんか。
それは文学好きのやることですか」
数学の教師カルイザワは挑発してきた。
「設定破綻した作品を……、私は文学だとは認識しておりません」
私は返す。
「ほうなるほど。たしかにそうですね。
しかし本当にそうなのですか?
報奨金に目がくらんだ。文学への裏切りだと、そう思われるのでは?」
挑発を繰り返す。
「設定破綻した作品を告発するのが、文学への裏切り?」
「はい。そう思う方もいるのではという事ですよ。私はもちろん設定破綻した作品など読みませんがね。あんなものは数学的に醜悪すぎますから」
「私は設定破綻は、読者への裏切り行為だと思っております」
「読者への裏切り?」
カルイザワは眉をひそめる。
「えぇ。たとえば一つのキャラクターが亡くなる。それは物語的必然です。
そして多くの読者はそれを受け入れる。
これは喪失の受容といえる。そしてこれは読者にとっての成長でもあるのです」
「それでなぜ裏切りなのですか?」
「一度喪失を受け入れた相手に対して、その努力をあとから、無駄だったと言うに等しいと私は思うのです」
「なるほど。せっかく受け入れたのに、なんだそれってなりますよね。それは理解できる」
「あとは、こんなムリでも受け入れるだろうと、作家側が読者を舐めているようにも私は感じます」
「しかし設定破綻が起きている作品など、たくさんありましたよね。それこそ昔話の時代からそうです」
「はい。
そうです。
しかし……、だからといって良い行為だとは言えません。
創作の世界でもあれは常にグレーゾーンだったと私は思います」
「そうだったのですか」
「はい。設定考察という文化が現にありましたからね」
話はここで終わった。
それっきり、カルイザワがこの件で絡んでくることはなかった。
……
私は文学を愛している。
純文学だけではない。
ライトノベルも愛している。
中学生のころから、一日一冊のペースで読み始めた。
ジャンルも様々だ。
推理小説を読むこともあれば、ファンタジーも読む。
とにかく好き嫌いなく、小説であれば読んだ。
昔から設定破綻はあったが、
年々設定破綻はひどくなっていった。
とくに法律の施行前はひどかった。
タイムリープの蔓延。
ゾンビの蔓延。
げんなりするほど多かった。
施行直後に書店に行ったが、棚はスカスカになっていた。
その歯抜け具合は設定破綻した作品の多さを如実に物語っていた。
……
設定破綻の告発で得た収入は全て善意の投資に回した。
半年後には私は大富豪になっているはずだ。
私のやっている投資は、
偶然の間違いメールから始まった。
某国の大富豪の娘からメールが届く。
内容は相続した遺産を受け取るために、お金が必要になった。
そういう内容だった。
袖振り合うもなにかの縁というが、
急ぎそうだったので、お金を出してあげた。
まぁ預かった金額を10倍にして返すと言われたので、
それに心をひかれたということもあるのだけども。
そして彼女は自分の写真を送ってきてくれた。
誠実そうで美人。
私はもしかして、逆玉の輿もあるかもしれない。
そう思っている。
……
授業が始まる。
「今日は矛盾という言葉についてだ。だれかこの言葉の意味を知ってる者はいるか?」
手が上がる。
珍しいな。サカガミが手をあげてる。
「じゃあ、サカガミ答えてみろ」
「矛と盾という意味です。戦争の準備だと思います」
失笑が起こる。
私は失笑していた生徒を呼んだ。
「じゃあ、タケシタお前が答えてみろ」
「戦争の準備じゃないです。装備品のことです。つまりこのキャラクターは剣を使わないキャラです」
また失笑が起こる。
こいつら、わざとやっているのか?
「まぁいい。これはな。
どんなものをも貫く矛と、どんな攻撃も防ぐ盾があった場合、その矛はその盾を貫けるか?
そういう問いだ」
「先生」
手を上げた生徒がいた。
「なんだ? 言ってみろ」
「そんなの。物語の世界では普通です」
「そうだな。だから設定破綻罪というのが施行されたんだ」
私は答えた。
外からメロンパンの匂いと共に、
生暖かい風が入ってきた。




