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安全国民党

国営放送局の第31スタジオの控室には、

安全国民党のタカミザワ議員が待機していた。


「タカミザワ先生、そろそろ出番です」

俺は声をかける。


「あぁ。君はトコロザワ君だったね。

すまないが水をもらえるか? 乾燥して仕方がない」


「では、ちょっと失礼します」


俺は控室のミネラルウォーターを取り出し、キャップを開く。

それを議員の前にひざまずき、差し出す。


「君はなかなか丁寧だね。大学はどこを出た」


「すみません。俺は高卒です」

頭をかいた。


「いやいや。すまない。周りは大卒ばかりだからね」


「先生となられる方は、やはり学がないと」


「うちの場合、学というより、特定の大学に入っていないと入党すらさせてもらえない」

議員は苦笑いをした。


「えぇっ……、そうなんですか。頭が良ければ採用だと思っていました」


「ふふふ。君はまだ若いな。

うちの場合は、特定の大学の卒業者というのが、最低条件だ。

表向きは審査という形になっているがね」


「文句を言ってくる連中とかはいませんか?」


「ふふふ。文句を言う連中は、他の党に入るよ。

それに大学には金と頭さえあれば、誰でも入れる。

社会人をやってから、大学に入り直し、入党する者もいるからね」


「じゃあ、俺ももしかして……」


「あぁ、大学に入って卒業すればね。道は開かれるよ」

議員は言った。


インカムに連絡が入る。

「そろそろ議員を呼んでくれ」


「はい……」


「先生、出番です」


議員はうなずき、ネクタイを締め直し、ジャケットを羽織った。

先ほどまでの安らいだ顔つきは一変し、

政治家らしい顔つきに変わった。


……


俺は収録の後、

安全国民党について調べ始めた。

特に批判めいたなにかがあったわけではない。


ただなんとなくの興味本位だ。


まずは、

図書館に向かった。


図書館はだだっ広いが、

休日ということもあり、ほとんどの席は満席だった。


皆、机に何冊も本を積んで、読んでいる。

ほとんどが小説のようだ。


こんなに図書館って人気があったか……。


俺はふと思う。


あぁそうか。

報奨金目的か。


そう気が付くと、イメージがまるで違って見えた。


物語が好きな人から、金が好きな人。

そう見えてくる。


これが色眼鏡か。

俺は初めて色眼鏡という言葉の意味を実感した。


まぁいい。

金を欲しがることは悪じゃない。

それは正常なことだ。


しかし世界から一つの物語を抹殺することで、

五万円という対価を得る。


果たして、それは正常なことなのか?


物語の中には登場人物がいる。

設定破綻を起こしているとはいえ、

その登場人物は生きている。


それを抹殺することになる。


大量殺戮ではないか。

そう思った。


ダメだ。まるで危険思想じゃないか。

物語の登場人物は生きていない。

それはフィクションであり、虚構だ。


ちょっと待てよ。


物語は虚構だと、はじめに言っているのに、設定が破綻している。

道理が通っていないんじゃないか?


話をする前に、

「私はこれからウソの話をします」

と宣言している者の話を聞いた後に、

「話のつじつまが合わない」

そう文句を言っているようなものではないか。


ダメだ。

こんな事を思うと、危険思想のレッテルを貼られる。

再教育センターなんてまっぴらごめんだ。


……


俺は政治経済のコーナーを探す。

なんの本を見るのが手っ取り早い。

高校三年の頃の担任が言っていた。

「そのテーマの概要を理解するには、分厚い学術書より、薄い入門書が良い。逆にテーマの細かい所を知りたい場合は、分厚い学術書が良い」

と、

俺はそのアドバイスに従い、

『国会入門』という本を手に取った。


本を読み進める。

そこには国会の仕組みなどが書かれてあった。


俺の知りたいことと違うかな?

そう思った時、国会で起きた事件の頁で手が止まる。


そこには時系列で、政権交代がどうなされたか、書かれてあった。


安全国民党が与党になったのが、

三十年前。

帝国銀行不正融資事件がきっかけだった。


当時、

与党だった民国自由主義党の幹事長が事件に関与していることが発覚し、

内閣は総辞職。

その後、解散総選挙の運びとなった。


安全国民党は、

この事件を機に一気に議席数を増やし、

与党に次ぐ議席を持つことになる。

その後も相次いで、民国自由主義党のスキャンダルが発覚し、

瞬く間に、

安全国民党は与党となった。


俺はネットで与党と野党の議席数を確認する。

すると与党となってから、

ほとんど議席数が変わっていないことがわかった。


他の野党間の議席数には変動がある。

しかし与党の議席は増えても減ってもいない。


独裁しているとも言われるが、

イメージとは裏腹に、議席数で言えば、均衡を保っているのだ。


俺は他の国の与党と野党の議席数を確認する。

変動があるところのほうが圧倒的に多い。


なぜ我が国はここまで議席数が安定しているのか。

俺は不思議に思った。


……

日が暮れ始めたので、

俺は図書館を出た。


電車に揺られ、家へと帰る。

駅から20分のボロアパート。

商店街でチキンカツと酎ハイと二割引きシールが貼られた食パンを買い、

アパートに戻る。


床がきしきしと音を立てる。

どこからか、

インスタントラーメンの匂いがした。


(がらがらがら)

窓を開ける音がする。


俺は部屋に戻る。

そういえば、ここのアパートで他の住人に会ったことがない。

もう五年も住んでいるのに、隣の人がどんな顔をしているかさえも知らない。


まぁいいか。

関心もないしな。


俺は部屋に戻り、

棚に置いてあるソースを取る。


食パンにチキンカツを乗せ、

ソースをかける。


辛子があったらな。

俺はふと思う。

あぁそうだ。

こないだコンビニで中華マンを買った時、もらった辛子があったはずだ。

俺は棚に置いてある、非常用のビスケットの空き缶を探る。

あぁあった。

黄色い色が微妙に変色しているような気もするが、

まぁ大丈夫だろう。


俺は辛子を乗せ、チキンカツのサンドイッチをほおばり、缶酎ハイで流し込んだ。


窓を開けると、

野良猫がニャーと鳴いた。


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